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感覚ピエロ・横山直弘がイケシブで明かした UAD × Ableton Live 楽曲制作術

2022年1月22日、東京・渋谷の池部楽器店イケシブにて、感覚ピエロの横山直弘(vo, g)によるセミナーが開催された。この日のテーマは、2月16日に発売される彼らの最新アルバム『ピリオドは踊る』の収録曲、「嘲笑」の制作過程を解説するというもの。Universal Audio のUADプラグインや Volt 276、Ableton Live を活用した曲作りの裏側を明かしてくれた。

曲を聴いてもらうのは一発勝負。わかりやすい音であることが重要


冒頭、Ableton のブランド・マネージャー鶴田さくら氏と、Universal Audio のアジア担当ビジネス・ディベロップメント・マネージャー永井 ICHI 雄一郎氏が登壇。続いて横山が登場し、3者の対話形式でイベントは進行された。ステージ奥の巨大スクリーンには、横山が制作した「嘲笑」のデモプロジェクトが映し出され、まずは、この日初公開となるデモ音源をじっくりと試聴。この曲の始まりについて、横山は次のように明かす。

「去年、コロナでライブができなくて時間が空いていた時に、家のソファでアコギを弾いていたら短いフレーズが浮かんだんです。これは使えるかもと思って iPhone のボイスメモで録って、Live に取り込んで、クオンタイズでテンポにキッチリ合わせて。そのフレーズを並べて、サビも作っていったら、なんか面白い感じになりそうだなと。ドラムやベース、ギターをレイヤーして、鼻歌を入れていく感じで曲作りがスタートしました」。

曲を構成するパーツについては、デモプロジェクトの画面(下図)を見ながらトラック順に解説してくれた。まずはリズムのメインのシーケンス(ピンクのトラック)から。「ドラムは Live の内蔵音源を使い、サチュレーターとコーラスをかけました。さらにUADプラグインの Massenburg® MDWEQ5Pultec Passive EQ で音像を整えて、Precision De-Esser で処理しています。シェイカーも入れていて、これがあるとビートと合わせた時に印象がかなり変わりますね」。横山が特に気に入っているのは Little Labs® Voice Of God。これをかけると「低音がマッチョになる」という。

続いてエレキギターのトラック(黄色のトラック)。これは自身が弾いたフレーズを Live の Simpler に取り込み、1音1音に分解して鍵盤で弾き直したというトリッキーなサウンド。イントロなどでリードとして使われている。

水色のトラックはピアノ。質感にこだわり、EQでローカットすることで音色に可愛さを出している。単体で聴くとローカットしない方がリッチだが、曲中で聴くとカットした方がキラキラ感が出て楽曲にマッチする。このような質感の調整を1つずつやっていくのだという。「これだけで印象がだいぶ違うんです。曲を聴いてもらうのは一発勝負なので、わかりやすい音になっていることがすごく重要だと思います」

▲Liveで制作された「嘲笑」のデモプロジェクト

茶色のトラックはエレキベース。デモでは横山が弾いているが、ベースソロ(赤茶色のトラック)だけメンバーの滝口大樹(bs)に弾いてもらったそうで、滝口が自宅で録音したデータを素の状態でもらい、横山がUADプラグインで処理している。使用したベースアンプ・プラグインは Ampeg SVT-VR。これを挿すことで、ベースアンプで鳴らしたような質感が得られる。

使いやすくてリッチに仕上がるという意味で、UADプラグインばかりだった


ボーカルトラックは今回のセミナーのために録り直したという。Universal Audio の新しいオーディオインターフェイス Volt 276 を試すためだ。「Volt 276 にはビンテージ・プリアンプ・モードと76コンプレッサーが内蔵されていて、この2つを組み合わせると、「ビンテージ・オフ」、「ビンテージ・オン」、「ビンテージ・オフ+コンプ」、「ビンテージ・オン+コンプ」という4パターンの音作りができます。実はこの曲のボーカルトラックでは、その4パターンを途中で切り替えているんですけど、聴いただけでは気づかなかったと思います。そこがミソで、変な脚色もないし、オーバーじゃないし、どの設定も使える。音が前に出るし、かといって悪目立ちもしない。音楽の中に溶け込むことを考えて設計された、本当によく出来たハードウェアだなと」。

▲Universal Audio Volt 276。本機にはAbleton Live Liteが付属する。なお、Ableton Liveの詳細はこちら

実際にビンテージ・プリアンプのオン/オフで録った音を聴き比べてみると、オンにした音は「ちょっとギラッとする」という。「単体で聴くとちょっと耳に痛いかもしれないけど、曲の中に入った時にどう聴こえるかが大事だと思います。曲をどう演出したいかで、オン/オフを切り替えたらいいんじゃないかな」。

内蔵の76コンプレッサーについては、「印象としてはちょっとジューシーというか、低音がマッチョになります。録るソースやキャラクターによって切り替えますが、この曲の場合はコンプを入れない方がマッチしました」。

▲横山が所有するUniversal Audio Apollo x4(オーディオインターフェイス)とUAD-2 Satellite(DSPアクセラレーター)

話題はボーカルトラックのエディットへ。「まず使うのは C-Suite C-Vox。これは部屋のノイズを消してくれるUADプラグインです。僕は1.5畳の防音室で歌っているんですけど、壁に音が跳ね返ってマイクが拾ってしまうんです。なのでイヤホンで聴くと、音量を上げた時に、歌声の後ろに部屋のガサガサした音が現れるんですけど、C-Suite C-Vox でそれを消すことができます。ノイズを残しておくと、後でコンプを使って音量を上げた時に持ち上がってしまって耳障りになるので、ここで一旦クリーンにします。浄水器みたいな感じですね」。

続いて Precision De-Esser、1176 Classic Limiter の順でかけていく。「1176 には歴代のエンジニアさん達が生み出した“いい音になる設定値”があって、僕はいつも一度はこの設定にします。それに対して、前段の機材のアウトプットでメーターの振り具合を調整すると、1176 が持っている一番おいしい音が出せます」。

▲横山がよく使う1176の設定

永井氏によれば、この 1176 こそ、Volt 276 に入っている76コンプレッサーの回路だという。その話を受けて横山は、「使っていて思ったのは、1176 の“いい音になる設定は、Volt 276 のコンプのボーカル設定(VOC)に近いなと。Volt 276 にはインプットとアウトプットのメーターが付いていて、逐一レベルをチェックできるんです。メーターを見ながらコンプの効き具合をコントロールできるのが大事で、その時の質感が 1176 に似ているなと」。

▲左からUniversal Audioの永井氏、Abletonの鶴田氏

この後、Pultec Passive EQ でローカットを行い、Teletronix® LA-2A でレベルを整え、さらにコンプレッサーやディエッサーをかけていく。「物を作るって、こういうことだったりするんです。細々した調整を地味に繰り返していく。大袈裟に調整するんじゃなくて、ちょっとずつ調整していって、音を自分が思っているところにパスッとはめてあげる。その時に、使いやすくてリッチに仕上がるという意味で、こういう風にUADプラグインばかりだったんです」。

最後にマスタートラックについて。「曲を届けるというのは一発勝負なので、その時にどういう印象を与えたいか、どういう物を届けたいかに合わせてマスターを調整します。ここに辿り着くまで悩み続けるんですが、皆さんがこの曲を聴いて体を動かしているのを見て、やっぱりこういう細々したことを続けてきて良かったなと思いました」

写真:桧川泰治

感覚ピエロ

2013年大阪にて「感覚ピエロ」結成。これまで「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」や「SUMMER SONIC」など数々の大型フェスに出演し、2019年には幕張メッセにて単独公演を開催。またドラマ「ゆとりですがなにか」や映画「22年目の告白―私が殺人犯です―」、アニメ「ブラッククローバー」など数々のタイアップを担当しながらも、その反面ライブでは自由奔放な楽曲を展開する為 ''ギャップの振り幅が大きい'' で定評のあるロックバンドである。

ニューアルバム『ピリオドは踊る』

2022.02.16 release

品番:JICD-00014
POS:4580529537615
価格:¥3,500 (tax out) / ¥3,850 (tax in)
レーベル:JIJI INC.

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