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Udo Roesner Amps : 西山隆行が愛用するアコースティックアンプ Da Capo 75

フラットピックと指を併用したハイブリッド・ピッキングや、ギャロッピング奏法を得意とするギタリストの西山隆行さん。彼はアコースティックギター用のモニターアンプとして、Udo Roesner Amps の Da Capo 75 を使用しています。自身の音を作るうえで必須アイテムだという同アンプの魅力について聞きました。

迫力のあるアコギの音を出したいならDa Capo 75しかない


- 西山さんは雑誌で試奏したのがきっかけで、Da Capo 75 を購入したそうですね。

僕は1人でツアーに行くことが多いので、持ち運びがラクで、リバーブを内蔵していて、自分の音がよく聴こえるモニターアンプを探していたんです。昔からいろんなメーカーのアンプを使ってきましたが、小型を求めると、音圧が足りなかったり低音が足りなくて結局使えない。会場によっては音が吸われて響かないこともあるので、そんな時はモニターアンプの音量を上げるんですけど、音が割れてしまうと意味がない。結局、譲れないのは音質とパワー感なんです。なので、持ち運びがラクかどうかはいったん忘れて、本当にステージで使えるものを求めた結果、Da Capo 75 が一番パワーがあるなと。僕が大好きなトミー・エマニュエルが一番信頼しているのも Da Capo 75 なんですが、その意味がわかりました。トミーはいい会場で演奏しているから、ステージモニターも充実していると思いますけど、自分の欲しい音を Da Capo 75 で足しているみたいなんです。

- どんなサウンドなのでしょうか?

Da Capo 75 は、ゲインを上げていくとリミッターがガッツリかかるんですよ。それをトミーは自分の音として使っているんです。アコギってリミッターやコンプをかけるとハウリやすくなるんですけど、Da Capo 75 はハウリングが抑えられているので使いやすい。リミッター内蔵の小型アンプをフルパワーで鳴らせるというのは、すごく気持ちいいですね。

- タッチやニュアンスにも影響しそうですね。

影響しますね。ピッキングのニュアンスを活かせるギタリストが使うと最高の武器になるけど、演奏が荒いと音が飽和してしまいます。ゲインが9時を超えるあたりからリミッティングがどんどん強くなるので、あまりリミッターをかけたくなければ9時までにして、マスターボリュームで音量を上げるといいと思います。あるいは、DIアウトからコンソールにつないでPAスピーカーで出すとナチュラルな音になります。これを間違えるとピッキングが思うようにいかないかもしれません。逆に言うと、ゲインを9時以上にすれば、アンプをフルテンにしたエレキギターのようなジャジャ馬なサウンドにできるし、コンパクトエフェクターではとても追い付かないダイナミクスを出せるんです。

Da Capo 75
Da Capo 75

- パワフルなサウンドが魅力なのですね。

アコギを弾く人には2種類のタイプがいると思うんです。ナチュラルで透明感があって奥行きを大切にしたい人と、「ドン!」っていうパンチがある音を出したい人。僕は元々バンドマンなので、アコギでもエレキでも、輪郭がハッキリしたダイナミクスを出したいんです。アコギを弾いているけど、気持ちはエレキ寄り。そういう人には Da Capo 75 がベストマッチだと思います。癒し系のオープンチューニングでリバーブをすごく深めにかけて、ワ〜ンって感じのディレイをかけるような人が求める部分ではないと思うんですけど、バンドサウンドみたいに迫力のあるアコギの音を出したい人には Da Capo 75 しかないと思います。想像しているより出音の迫力がスゴイので、他の小型アンプとは全然違いますね。すごい性能を持っているんですよ。

- 日常的に使っていく中で、何か気づいたことは?

楽器店で試奏した時は音量をあまり上げられなかったのでわからなかったんですけど、雑誌の取材の時に音量を上げてみたら、“使えるアンプ”だということがわかりました。普通、音量を上げていくとモワモワしちゃうのに、Da Capo 75 は輪郭がハッキリしていてタイトなので、ライブ用として最強だと思います。ただ、足元に置いて、部屋全体を鳴らすようにしないとニュアンスが伝わりづらいですね。ダイレクトに音を聴こうとすると、サウンドホールに耳を突っ込むようなものなので、出音がキツくなり過ぎると思うんです。アコギは空気の音を聴いてサウンドを判断する楽器なので、アンプで鳴らす場合も、空気を通じて部屋中に響かせる方が気持ちいいですね。

- なるほど。他に、使用時に注意した方がいいことはありますか?

ゲインの位置を毎回適当にしていると、音がかなり変わってしまう可能性があります。好みのゲインの位置を決めて、そこからEQやリバーブを考えるのが、うまい使い方です。マスターを上げてからゲインを上げると、リミッターが作動しないので、僕が言っている感じが伝わらないと思うんですよ。まずゲインの位置を研究して、日によってマスターを調整するスタイルがいいんじゃないでしょうか。限られたツマミでいろんな感じを表現できるアンプなので面白いですよ。中に簡単なエフェクターボードが入っているような感じですね。

Da Capo 75 Setting
好みのゲインの位置を決めてから他のツマミを調整する

床に直置きすると低音の広がりが良くなる


- モニターとして使う時は、どれくらいの距離に置いていますか?

ライブだと大体2m以内ですね。僕はステージモニターをあまり聴いていなくて(笑)、どちらかと言うと外音を聴きながら弾くことが多いんです。Da Capo 75 も1〜2m離したところに置いて、ステージの後ろから鳴っているような感じにすると聴きやすい。最近の大きな会場では、ラインアレイ式のスピーカーで遠くに音を飛ばしますけど、あれだと音はたくさん聴こえるのに、Bluetoothスピーカーで聴いているような感じで耳に入ってこない。中域をなるべくスッキリさせているんだと思うんですけど、僕達は中域がないと意味のない楽器を弾いているので、そういう意味では自分用のモニターアンプを1個持っておくべきなんです。やっぱり音の塊を聴ける方が、気持ちの入り方が全然違いますね。

Da Capo 75 setting
モニターアンプとして使う場合の距離

- Da Capo 75 はバンドでのモニターにも良さそうですね。

バンドではまだ使っていませんけど、経験上、音がこんなにクッキリ出るアンプは初めてなので、モニターしやすいと思います。とにかくパワー感がすごいですね。床に直置きにすることで低音の広がり方が良くなってボワッとしない。よくローを上げ過ぎるとボワンボワン飽和してしまうアンプがあるけど、Da Capo 75 はうまいベーシストが弾いたようなタイトなサウンドが出ます。これがソロギターで欲しい音域なんですね。それより下のローが出ると、PA側でカットされてしまうことがあるのでショボくなるんですけど、Da Capo 75 は80Hz以下がほとんど出ないので邪魔にもならないし、ローを上げ過ぎてもベースの音程が聴き取りやすい。直置きにするのは、すごく意味がありますね。

- 色々な置き場所を試してみたのですか?

トミーのセッティングを参考にしました。彼は Da Capo 75 をお客さん側には向けずに、サイドか、自分に向けるか、自分の後ろに向けて逃すんです。ステージモニターの方がクリアに聴こえる場合は、多分 Da Capo 75 を後ろに向けて逃すと思うんですけど、ステージモニターがあまり信用できない時は、Da Capo 75 を自分に向けてメインモニターとして使うと思います。あと、トミーは Da Capo 75 のDIアウトもすごく気に入っていて、プリアンプ部やリミッター部を通過した音を、自分のギターサウンドにしているそうです。

Da Capo 75 Setting
Da Capo 75をプレイヤーの後ろ側に向けて逃したセッティング

- DIアウトにも Da Capo 75 のキャラクターが反映されているのですね。

僕は普段 AER の Dual Mix というDIを使っているんですけど、Da Capo 75 のDIアウトはもう少し硬めの、輪郭がハッキリしたクリアなサウンドですね。ウォームな感じではなく、コンプ/リミッターがかかっている感じだけど音ヌケは半端ない。だから、スピーカーから出る音とDIアウトから出る音に相違はないと思います。もちろん微妙な差はあると思うんですけど、Da Capo 75 から出ている音が整っていれば、PAからも同じ音が出ていると思っていいと思います。トミーは荷物を減らすためにDIアウトをずっと使っていて、その音を熟知してサウンドを作っているんです。

- 西山さんはDIアウトからレコーディングしたことはありますか?

試してみましたけど、音が少し硬めなのでライブ向きかな。エンジニアさんによっては、アンプを通さずにラインで欲しいと言う人がいるかもしれませんね。ただ、Da Capo 75 のキャラクターが好きなら、それを自分の音としてレコーディングするのはありだと思います。

Da Capo 75 DI
DIアウトはch1とch2それぞれに用意されている

ベーシストが弾いているようなベース音が出る


- 2つのチャンネルは、どう使い分けていますか?

今のところch 1しか使っていません。ch 2にはHPF(ハイパスフィルター)が付いているので、よほどローをカットしたい時は使うかもしれませんけど、今のところHPFは使っていないですね。トーンスイッチも使っていません。トーンスイッチは、どちらかというとマグネチックピックアップ向けなのかな。僕が使っているギターには必要なかったです。

- では、HPFを使った方がいいのはどんな時ですか?

エレアコを鳴らす分には必要ないかもしれないけど、後付けピックアップの場合は有効ですね。アコギに後からピックアップを仕込むと、ローが異様に出てしまうことがあるんですよ。低い方から上げていって、9時あたりまではあまり効いた感じがしないけど、10時あたりまで上げると80〜100Hzあたりから下がカットされると思います。12時まで上げるとおそらく120Hzあたりまでカットされるので、9〜12時の間でどう調整するかだと思います。このアンプはゲインもマスターも基本9時がいいと説明書にあるので、9時より上げると効果が増えるということだと思います。

- EQのセッティングはどうしていますか?

すべてフラットです。そのままで全然問題ありません。

- 奏法との相性はいかがでしょうか?

僕は「ギャロッピング奏法」という、チェット・アトキンスがやっていた、1人でベースとメロディを同時に奏でるスタイルなんです。ベース音はベースらしい音、メロディはアコギらしい音で弾きたいので、ベース音がベースらしい音で出てくれるアンプが必要なんですよ。ギタリストが弾くベース音ではなくて、本当にベーシストが弾いているかのように聴こえることが重要なんです。小型アンプって持ち運びはラクなんですけど、大抵はベースらしいベース音が出ないので、ギャロッピング奏法の魅力が伝わりきらない。Da Capo 75 はそれがかなりいい感じに出ています。

- リバーブの印象はいかがですか?

内蔵リバーブはいい感じですね。今の流行の音ではないけど、付いているのはありがたい。トミーとか大物ミュージシャンなら、専属の音響さんがコンソール上でリバーブをかけてくれると思いますけど、僕はリバーブの設定も自分でやることが多いので重宝しています。ちょっとだけリバーブを追加したい時も、内蔵リバーブがあればすぐにできますから。

- アコギ以外には、どんな楽器に向いていますか?

まだ、それほどたくさんの楽器では試せていないんですけど、ウクレレとの相性がすごくいいと思います。マンドリンやバンジョーといったハイが強めの楽器は出過てしまうかもしれません。Da Capo 75 はアコギにフォーカスを合わせていて、大きなステージから小さなステージまで使えるのがコンセプトだと思いますけど、ベースを鳴らしても意外と面白いかもしれない。ウッドベースやアコベはもちろん、エレベでもいいかも。ベーシストの皆さんはドデカいベースアンプを使っていますけど、Da Capo 75 の音を背中で受けたら結構満足できる気はしますね。音の輪郭がハッキリしているので、モニタリングしやすいんですよ。タイトで音圧があって、ローも欲しいところだけが出てくれます。

- Da Capo 75 にマイクを接続したことはありますか?

僕のギターはコンデンサーマイクを内蔵しているので、別途マイクを立てることはないですけど、ボサノバのシンガーさんとかはボーカル用とギター用のマイクの両方で声を拾ったりするので、2chあるのは便利だと思います。出力が高めなのでナチュラルに響くと思いますね。ただ、コンデンサーマイクを使うならハウリングには気をつけた方がいいです。出力が高過ぎるコンデンサーマイクだとライブでは使えないので、ペンシル型でゲインが低めのモデルにするのがオススメです。

- 様々な用途に活用できそうですね。

小さい会場から大きい会場まで使えると思います。ジャズバンドなら Da Capo 75 ひとつでメインスピーカーにもなるんじゃないかな。僕のサウンドメイクには、もう Da Capo 75 が必須ですね。今までコンパクトエフェクターでいろんなリミッターを試してきましたけど、やはり限界があって、ケーブルも増えるしアダプターも増えてしまう。重ささえ我慢できれば、Da Capo 75 を持っていった方がサウンドチェックも早い。いつでもどこでも同じ音が出せるっていうのは一番いいですね。できれば、もうちょっと小さい方がありがたいけど、あの音域や気持ちいいローを出すには、この小ささが限界なんでしょうね。スピーカーの口径がこれくらいはないとダメだと思うので、頑張って持ち運びます(笑)。

西山隆行

西山隆行

24才からギター(アコギ•エレキ)&ウクレレ講師のキャリアをスタート。07&09年 Tommy Emmanuel Japan Tourでオープニング・アクトを務める。Tommyより、アメリカ・ナッシュビルで開催されるCAAS 2010(Chet Atkins Appreciate Society)のオファーを受け出演。開催26年目にして日本人初参加を果たし、オーディエンスからも高い評価を受け2010より10年連続出場。ニューヨーク・マンハッタンの老舗ライブハウスThe Bitter EndやTOMI JAZZなどでソロ・ライブを開催。"ゆず"「マボロシ」「マスカット」「通りゃんせ」「TOWA」「かける」「いっぱい」「みそら」「終わらない歌」でアコースティックギターのアレンジ&アコースティックギターレコーディングを担当。ハイブリッドピッキング&フラット・ピックでのギャロッピング奏法を得意としたアコギインストの活動、YAMAHA、Maton Guitarsのデモンストレーター、島村楽器主催のアコースティックギター・セミナー、アーティストのサポート&レコーディング等で活躍中。

写真:桧川泰治

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