Maton Guitars と Da Capo 75 はライブにおける優れたコンビネーション
Udo:西山さんは Maton Guitars を愛用していて、Tommy Emmanuel(※フィンガーピッキングの達人として知られるオーストラリアのギタリスト)のことを高く評価しているギタリストの1人ですよね。Tommy のライブは他のプロミュージシャンと比べても、信じられないほどパワフルです。アンプと一緒に旅をする数少ないミュージシャンの1人で、アメリカでもヨーロッパでもアジアでも常に Da Capo 75 と共にステージに立っています。相当な労力がかかることだし、飛行機や費用の面で不便もあると思いますが、それは Da Capo 75 のエネルギーを必要としているからなんですよ。
西山:僕も Da Capo 75 の性能にはとても満足しています。僕たち日本人の場合は電車移動や新幹線での移動が多く、ツアーにもこれを持ち運ぶことが多いんです。そうするともう少しコンパクトで軽量なサイズのものが欲しくもなります。より小さなアンプの開発は考えていますか?
Udo:この世には物理的、音響的な制約があり、Da Capo 75 をさらに小さくするには、周波数特性だけでなくダイナミックレンジや他にも色々な点で妥協せねばなりません。得るものより失うものが大きいのです。デジタル技術を利用して足りない周波数をエミュレーションすることもできますが、リラックスして聴けるサウンドを生み出すにはアナログである必要があります。だから今の Da Capo 75 が、実現可能な一番小さいアンプだと言えます。
西山:実現可能な最小サイズで、かつ最大の音量が出せるのが Da Capo 75 なんですね。以前、Tommy から「Udo さんが小型のプリアンプを開発しているらしい」と聞いたことがあり、その完成を心待ちにしています。発売される可能性はありますか?
Udo:何かしらの形にはなると思います。詳細は秘密ですが、Tommy はどのステージでも Da Capo 75 を使っているので、その音をもっと大きくする方法について考えているところです。ところで今アコースティック・ミュージックの世界で起きていることが気になっています。若くて新しいプレイヤーの多くが、ギターとは無関係なアンビエンスやエフェクト系のペダルに意識を向け過ぎていますよね。何か別のものが生み出されるような、とても華やかでシネマティックなサウンドではありますが、人の心を動かすという音楽の意味を忘れてしまっているようです。人生を経験し、ピュアな形で自分自身を表現する方法を見つけることに、もっと時間を費やすべきだと私は思います。西山さんのようにギターとプリアンプとアンプだけを使い、奏でる音楽の内容で世界を動かすことができるのはとても重要なことです。人々にもっと自信を与えられるよう、音を大きく速くするだけでなく、素晴らしいハーモニックなフィーリングを与えられるようにしたいです。
西山:僕もその考えが大好きです。
Udo:これこそ我々の哲学なのです。

西山:Tommy はライブで Da Capo 75 を使う時、スピーカーの背中を客席に向け、床に置いてモニタースピーカーのようにセットしています。僕もその形だとすごくいい音で演奏できるのですが、Udo さんはこのセッティングについてどう思いますか?
Udo:彼のセットアップを見ると、Da Capo 75 を少し後ろに向けていますが、すごく大きなエネルギーが出ていることがわかりますよね。PAのモニターは別にある上で、Da Capo 75 は彼にとってギターのモニターの一部なんです。つまり重要なのは信頼性と安全性です。例えば Maton Guitars はライブ用の優れたギターですが、最高のアコースティックギターかと言えば...もっといい音を出せるものはあると思います。ただステージでの信頼性と安全性において、Maton Guitars のコンセプトに勝るものはなかなかないでしょう。飛行機で零下30度のアイスランドに飛んでも、40度以上のサハラ砂漠に飛んでも同じ音が出せる。こんなことが容易くできるギターは世界中を探しても見つかりません。厚みがあり、安全で、弾きやすく、ネックが頑丈で、全てが良い。本当に最高のアコースティックサウンドを求めたら、Collings Guitar やハンドメイドのものを選びますが、より多くの周波数帯域、より多くのダイナミクス、より多くの倍音などをもたらす一方、フィードバックが大きくなるかもしれないし、ライブがしづらくなる可能性もあります。だから Maton Guitars と Da Capo 75 の組み合わせはライブステージにおいて優れたコンビネーションだと言えます。
西山:僕もツアーに Da Capo 75 を持っていきますし、時折プリアンプも使いますが、Udo さんの言う通り、どこでも同じ音が出せます。だからサウンドチェックは5分で済みます。
Udo:素晴らしい。弊社の代理店やパートナーがいる国にツアーで行く時は知らせてください。セッティングのお手伝いができると思います。
ダイナミックレンジを最大にするにはクリッピングが必要
西山:僕はいつも Da Capo 75 のゲインを11時くらいに合わせています。この音がすごく好きなのですが、Udo さんのオススメの位置は?
Udo:西山さんが使っている Maton Guitars のPUは、音量がそれほど大きくないので、インプットでクリップすることはないと思います。僕が使っているPUシステムは11時あたりでクリップしてしまうので、ゲインもマスターも9時あたりにしていますが、もっと上げていいと思います。
西山:Udo さんは Maton Guitars の古いシステムを使っているんですね。
Udo:ではゲインをどの位置にしたら良いのかというと、まずはゲインを9時方向に下げて、マスターを上げてみます。次に、同じようにマスターを下げてゲインを上げてみましょう。音が少し違いますよね? どちらがおすすめというのはなく、好みで選ぶと良いでしょう。インプットはサチュレーションする直前のギリギリで使うのがベストでしょう。ダイナミックレンジを最大にするにはクリッピングが必要ですから、倍音を得るためにあえてクリッピングさせることもあります。デジタルだと酷い音になりますが、アナログの世界では多少のクリッピングは問題ありません。エンハンサーみたいなものです。
西山:ゲインを上げるとサチュレーションが増えて、音が太くなっていくんですね。Tommy のパーカッションギターは音量がすごく大きいですが、それでもクリッピングし過ぎることはありませんか?
Udo:ランプが常時点灯しているようなら問題ですが、通常はクリップさせず、パーカッションギターの信号でクリップさせるようにすれば問題ありません。
西山:なるほど。ゲインをうまく使うことによって、より自分の好みの音にできるんですね。僕が知りたいことは大体わかってきました。

ラウドではなくビッグであることを強調したい
西山:Da Capo 75 には4つのエフェクトチャンネルが付いていて、僕がよく使うのはリバーブ、ショートリバーブ、ロングリバーブです。コーラスとディレイはほぼ使わないので、できればリバーブを4chに増やしたり、リバーブのトーンやキャラクターをコントロールできるツマミが増えたら嬉しいのですが。
Udo:製品としてはコーラスやディレイもニーズがあります。ただ専用のフットスイッチを近々発売する計画があります。電源なしで動作するシンプルなパッシブ・フットスイッチです。これを使えばCH1とCH2をそれぞれ単独、あるいは同時に演奏することができます。CH1とCH2はキャラクターこそ似ていますが、まったく違うサウンドフロアを持っています。それに加えて内蔵エフェクトのオン/オフスイッチもあるし、内蔵タップディレイも利用可能。巨大なペダルを使わなくてもアンビエンスがたくさんかけられるから、すべてがとてもダイナミックでオープンです。2つのチャンネルで音作りができるので、より幅広く、リアルタイムでサウンドが切り替えられるようになります。シンプルですが、トーンを大きくするという意味で大きな効果があります。アコースティックギターの音はとても壊れやすく、それほど強いものではありません。だから私はそういう取り組みをしています。
西山:2つのチャンネルが使えるようになったら、片方にリバーブをかけて、片方はリバーブなしにしたり、その2つの音をキャラクター違いで利用できるようにもなりますね。
Udo:そうですね。ただ音量が大きいだけではなく、内容が充実しているという意味です。より多くの音楽的内容、音色の内容を持つという意味です。ラウドではなくビッグであることを強調したいですね。
- ちなみに西山さんが Da Capo 75 のセッティングで意識していることは?
西山:EQはフラットで、ゲインだけを変えるようにしています。Da Capo 75 は本当にナチュラルな音なので、あとは音量とサチュレーションをどれだけ加えるか。そしてハウリングしないように調整するくらいです。
- 素直な音を出してくれるのが Da Capo 75 の良さなんですね。
西山:そうですね。僕は変わった音を作るようなことはしないので、アコースティックギターの音がそのまま出てくれるのが大好きなんです。これがベストアンプですね。
- 大体いつもCH1を使うことが多いですか?
西山:はい、CH2にはローパス/ハイパスが搭載されていますが僕は使いません。ちなみにDIアウトからエフェクトがバイパスされた音が出力されますが、将来的に、スイッチでエフェクトをオン/オフできるようになりませんか?
Udo:それを実現するにはエフェクトユニットを2つ搭載させる必要があります。通常、プロはDIアウトにエフェクトを求めませんが、多くの人が色々な方法で使っていて、確かにプロのプレーヤーからも「エフェクトがオン/オフできたらいい」いう声はあります。基本はエフェクトなしですが、今後CH1だけ、あるいはCH2だけにかかるようにすることは考えられます。
西山:片チャンネルだけでもいいので欲しいですね。ニーズは多いと思います。
- Da Capo 75 のEQにはどんな設計思想があるのでしょうか?
Udo:通常EQには2つの機能があります。ひとつは信号の問題を取り除くこと。例えばパラメトリックEQやノッチフィルターを使うと、フリーケンシーの問題を解決でき、50Hzのハムを消すこともできます。フィルター技術が進化すると、消したい周波数だけを消して、他の帯域には影響を与えないようにもできます。そして、もうひとつは音作りのためのEQです。Da Capo 75 のEQはどのポジションでも破綻しない音楽的なEQなので、問題を解決するためというより、音楽的なフィーリングを足すために調整されています。
- 確かに上げても下げても音が破綻しないですね。すごくいいEQだと思います。

写真:桧川泰治
Udo Roesner

Udo Roesner Amps の創業者でありクリエイター。30年に渡って音響の分野に携わり、「自然な音」と現実のサウンドの間のギャップを縮めるべく努めている。
西山隆行(にしやまたかゆき)

24才からギター(アコギ・エレキ)&ウクレレ講師のキャリアをスタート。07&09年 Tommy Emmanuel Japan Tour でオープニング・アクトを務める。Tommyより、アメリカ・ナッシュビルで開催される CAAS 2010(Chet Atkins Appreciate Society)のオファーを受け出演。開催26年目にして日本人初参加を果たし、オーディエンスからも高い評価を受け2010より10年連続出場。ニューヨーク・マンハッタンの老舗ライブハウス The Bitter End や TOMI JAZZ などでソロ・ライブを開催。"ゆず"「花言霊」「SUBWAY」「ゴールテープ」「マボロシ」「マスカット」「終わらない歌」「通りゃんせ」「いっぱい」等でアコースティックギターのアレンジ&レコーディングを担当。ハイブリッド・ピッキング&フラット・ピックでのギャロッピング奏法を得意としたアコギインストの活動を主に、Maton Guitarsのデモンストレーター、イケベ楽器店や島村楽器主催のアコースティックギター・セミナー、アーティストのサポート&レコーディング等で活躍中。