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Universal Audio : スタジオからステージまで - Tycho のプロデュース術

Tycho とプロデューサーの Count Eldridge が UADプラグインを使い、アルバム『Weather』の濃密かつまばゆいサウンドスケープの中で、いかにしてボーカルのためのスペースを見出していったかについてご紹介します。

煌めくEDMシンセ、洗練されたギター、しなやかなバックビーツ、そしてプログレ感あふれるエレクトリック・ベースが息づく音楽言語のクリエイター Tycho こと Scott Hansen は、2006年のデビュー作『Past is Prologue』以来、せわしなく、しかし着実に進化を続けてきました。生楽器とエレクトロニック/DJの手法が交錯するライブバンドの形態であらゆる可能性に挑み、グラミー賞にもノミネートされたアルバム『Epoch』で最高潮に達した Tycho は、シンガーソングライター Hannah Cottrell(Saint Sinner)をフィーチャーした歌モノ主導のアルバム『Weather』で新たな局面を迎えています。

彼の創造的な活動に欠かせないのが、2011年の『Dive』からタッグを組むプロデューサー Count Eldridge の存在です。DJ Shadow、Radiohead、New Order、Blackalicious などの先駆的な作品を聴けば、Eldridge のアレンジとミキシングの才能に圧倒されることでしょう。本記事では、彼ら2人が UAD プラグインと Apollo オーディオインターフェイスを駆使し、いかにしてDSPを駆使したサウンドスケープを生み出しているのかについてが語られています。

Count Eldridge(左)と Scott Hansen(右)は、2011年からコラボレートしている。

- Count、Tycho との出会いについて教えていただけますか?

Eldridge : 純粋に、音楽への愛情から Tycho と仕事をするに至りました。彼がまだ無名だった頃に演奏を見に行ったんですが、とても感銘を受け、彼のビジョンを現実のものにする手助けをしたいと思ったんです。

Hansen : Count と出会った頃、たくさん曲を書いたり録音したりもしていたんだけど、技術的な限界で頭の中のサウンドをしっかり具現化するためのスキルや視点を持ち得ていなかったんです。Count はライヴに来てくれ、それがとても励みになった。自分がミックスエンジニアだと教えてくれて、とても良い関係を築けています。

- 意気投合できた理由は何でしょう?

Hansen : Count と私は仕事のスタイルが似ていて、ともにプラグインとコンピューターが好きなんです。もう家から出なくてもいいようなワークフローになっていますし(笑)。彼は、私のスタジオの音響デザインもしてくれたので、ここでミックスを行うこともできます。かつては彼の家にコンピューター一式を持って行ったりもしたんですけどね!

- コンポーザーとミキサー/プロデューサーとの間でクールなやり取りをされている印象を受けます - おそらくその境界線を曖昧なものにしているからかもしれませんね?

Eldridge : そうですね。私たちの仕事のやり方は、すべてを録音してからミキシングに移るという伝統的な流れではありません。Scott がレコーディングや作曲をしているのと同時に、常にミキシングを行っている状態でもあるんです。数週間ごとに私がここに来て、彼が作曲/録音したものを数日かけてミックスし、十分に仕上げていきます。それから Scott が何か足し引きするものを検討し、作品をどのように進化させていくかを決めていっています。

- おっしゃられるようなワークフローがなぜお二人に合っていると思いますか?

Eldridge : このタイプの音楽では、ミックスに非常に重点が置かれますからね。多くのテクスチャーやサウンドスケープを扱うため、それらをいかにバランスよく仕上げていくかが勝負の半分を占めます。『Weather』では、ボーカルのために、アレンジだけでなくミックスにおいても、より多くのスペースを取るようにしました。一筋縄ではいきませんでしたが、これまでのアルバムほどではなかったかな。

Sonnox Oxford Dynamic EQ は驚くほど便利。ミックスの仕方を根本的に変えてくれました。- Count Eldridge

- 他のアルバムとは対照的に、『Weather』ではボーカルを中心のテクスチャーとして据えていらっしゃいますね?

Eldridge : ボーカル・アルバムを制作するのに相応しいタイミングだったんです。3部作として捉えられるほぼインストのアルバムを生み出し、そこでサイクルが完了したため、私たちは "今こそ新しいことをする時だ" と感じたんですよね。『Epoch』がグラミーにノミネートされたことは光栄でした。それが、今回のようなアプローチに至る契機となったんですよ。

Hansen : 今回の作品の目標は、1人のボーカリストと1人の声をフィーチャーし、それをストーリーにすることでした。さまざまなゲストボーカリストが参加するという一般的なエレクトロニック・アルバムの路線で行くのではなく、ね。統一されたサウンドが欲しかったし、他の Tycho の作品とはまったく異なる、大胆なステートメントが欲しかったんです。

Scott は、「ステージにおける私たちの Apollo / UAD-2 Live Rack システムは、単なる "ツール" ではなく "楽器" のように感じられるんです。」と語る。

- ボーカルについて、そしてそれらを Tycho の濃密な楽曲に取り入れるにあたり挑戦されたことについて教えてください。

Hansen : ボーカルが "ポップ" になるよう、Count が多くのスペースを作ってくれたんです。当初、私はボーカルを楽器のように扱い、ミックスしていたんですが、彼は「これが本当のボーカル・ミュージックであるなら、ボーカルは前に出さないと!」と強く主張してくれたんです。

Hannah の声とハーモニーのレイヤーが、とても独特に聴こえる大きな要因となっています。ボーカル・パフォーマンスについては6層から12層を重ね合わせ、それぞれのトラックを異なるボリュームでパンニングし、異なるエフェクトを使っています。

Eldridge : さらに、プロデューサーとして彼にアドバイスしたのは、音響やミキシングの側面からだけでなく、アレンジの観点からも、リードボーカルのスペースを確保すべきということでした。とくにシンセのメロディーは意図的に控え、ボーカリストがそのスペースを占有し、うまく活きるようにしよう、とね。

Scott にとって、このアルバムを書くことは自制と言えるものでした。インストゥルメンタル・ミュージックを書いていると、自然と余白を埋めたくなるものです。しかし、トラックにスペースを残すことによって、彼は自分の楽曲に本当に合った、その余白に溶け込むことのできるボーカリストに出会うことができたのです。

- ミキサーとして、ボーカルのスペースを確保するのは大変でしたか?

Eldridge : ええ。Tycho の楽曲は密度が高く、共鳴するようなトーンと雰囲気に満ちています。そのため、サウンドはすぐに消えることなく残り、かなりピーキーな響きも含まれるために、プリアンプでドライブされ、歪んだりすることがよくあります。言い換えれば、これらはほとんど全周波数帯に及ぶので、ミックスの中で他のサウンドとぶつかってしまうことが多いんです。つまり、7本のシンセが同じような周波数で同時に演奏されている場合もあるため、きちんとスペースを切り分けていく必要があるんですよね。

- 精密なトーンシェーピングのために、どんなものをお使いですか?

Eldridge : UAD Sonnox Oxford Dynamic EQ を多用しています。シンセサイザーがスペースを奪い合うことでオーバーラップやマスキングが発生するため、あらゆるミックスで使っていますよ。不可欠な存在です。シンセはたいていフリケンシーがいじられ、またアルペジオのフレーズも多いため、周波数の幅が広く、常に変化している状態で - つまり、従来の静的なEQを単純に使うことはできないということですね。

部分的に少し明るすぎるシンセがあっても、全体的には明るくしておきたいという場合もあるかもしれません。しかしフィルターを全開にした時、不快なサウンドになってしまうのは避けたいですよね。そこで私は Sonnox Oxford Dynamic EQ を使います。シンセが開き、とても明るくなったところで作動させ、ちょっぴりハイエンドにディップを与えて抑えるんです。"この手に負えないシンセサウンドをモノにしなきゃ!" と、よく言うようになりましたよ。

- トーンシェーピングのツールを色付けに使ったりもされますか?

Eldridge : 私たちのお気に入りの1つは、Neve 1073 Preamp&EQ プラグインですね。ローエンドのレスポンスと、キックやドラム全般に加わるサチュレーションが大好き。1073 プラグインはシンセサイザーをドライブさせるのにも最適ですよ - 入力を上げ、出力を下げ、EQを調整するだけ。シンセやベースのミッドをブーストさせるなんてことはよくやっていて、Neve はその素晴らしいスタートポイントになるんです。

また、ボーカル、ギター、シンセなど、他のほとんどのプラグインでは痛くなってしまうような高域をプッシュしたいソースには、Chandler Limited Curve Bender Mastering EQ を使います。微妙に使っても素晴らしいサウンドが得られますが、プッシュしてみると、高域が気持ちよくサチュレートされるんですよね。

1176 Classic Limiter Collection プラグインはいろんなソースに使っていますよ - 付加されるキャラクターが魅力的だからね。- Scott Hansen

- Scott、『Weather』で Hannah のリードボーカルをトラッキングした際のシグナルチェーンについて教えていただけますか?

Hansen : ほとんどのバッキングパートにハードウェアの Neve 1076 プリアンプと AEA R44C リボン・マイクを、リードボーカルには Neumann U87 Ai を使いました。

リードボーカルのすべては Neve のプリアンプから UA 6176 Vintage Channel Strip の 1176 コンプレッサーセクションへと向かいます。さらに、ミックスダウンの段階ではボーカル周りのスペースを整えるために、AMS RMX16 Expanded Digital Reverb を使いました。

Scott は、「Weather では、ボーカルを6層から12層重ね、深みを持たせています。」と語る。

- Tycho のサウンドに欠かせない UAD プラグインについて教えてください。

Hansen : 1176 Classic Limiter Collection プラグインはいろんなソースに使っていますよ - 付加されるキャラクターが魅力的だからね。同じく、Studer A800 Multichannel Tape Recorder は個々のインストゥルメント・トラックに使っているし、Ampex ATR-102 Mastering Tape Recorder はドラム、シンセ、マスター・バスによく使っています。

- ライブではギターもかなり演奏されていらっしゃいますね。どんなものをお使いですか?

Hansen : Kemper Profiler を使っていましたが、Apollo Twin と UAD Marshall Silver Jubilee 2555 プラグインを使うようになりました。Kemper は常にレコードっぽく聴こえるサウンドでしたが、Marshall Silver Jubilee プラグインの方が生々しく、まさに Marshall から飛び出してきたような未加工のサウンドに忠実と言えますね。

- スタジオでもライブでも Apollo をお使いですよね?

Hansen : はい。スタジオでは UAD-2 Satellite Thunderbolt と Apollo Twin を使っています。ライブでも同じ Apollo Twin をフロントエンドに使い、ギターを処理しています。また、ライブでは3台の Apollo x8pUAD-2 Live Rack をFOHで使っていますよ。長い間、ライブでは Apollo 16 を使っていましたが、ライン入力のみで Unison プリアンプを搭載していないモデルだったため、今回は3台の Apollo x8p を手に入れ、それらのプリアンプすべてを活用することにしたんです。

- Apollo と UAD-2 Live Rack の使い方について教えてください。

Hansen : ステージでは基本的に2つのシステムを用意しています - 1つは私のすぐ隣にセットされた新しい概念と新しいテクノロジーのテストゾーンである開発環境と呼ばれるようなコンピューターで、もう一方がFOH用のものとなります。基本的には Apollo 16 でやっていたことを主に私のシステムへ移植しました - コンソールアプリ内で UAD プラグインを使ってギターとベースを100%処理し、その後 Ableton Live でギターとベースのインサート処理を行っています。

ドラムに関しても、FOHに行く前に、ステージ上の Apollo x8p と Live Rack を使って処理を行っています。FOHでは、ボーカル、マスター・バス、ドラム・バス、その他すべてのバスの処理を Live Rack で行います。複雑に聞こえるかもしれませんが、時間をかけて発展させてきたこの Apollo / UAD-2 Live Rack システムは、私たちにとって単なる "ツール" というよりも、"楽器" のように感じられるんです。

- James Rotondi

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