アナログ回路でアンプのモデリングをしているペダルはかなり珍しい
- 並木さんが Dumblifier に興味を持ったきっかけは?
もともと DSM & Humboldt というメーカーの製品はよく知っていて、以前から Simplifier DLX を所有して使っていました。非常に弾き心地や感触が良かったんです。ましてや今回はダンブル系に特化したモデルが出たということで、これはちょっと面白いかもしれないなと期待していました。ダンブル系のペダルはすでに各社から色々なものが出ていて、僕自身もいくつか持っています。ただ、中には名前やルックスばかりが本家に似ていて、サウンドは全然良くないというものもあったりして、玉石混交の世界ですよね。その中でも、この Dumblifier のようにアナログ回路でアンプのモデリングをしているものって、実はすごく珍しいと思うんです。結局のところ、デジタルのアンプシミュレーターにはどうしてもA/D・D/A変換によるレイテンシーが存在してしまって、ピッキングのニュアンスを大切にする僕としては、そこがどうしても気になってダメなんですよ。
- デジタルのシミュレーターは使わず、アンプを鳴らすのが基本なんですね。
実際にアンプを鳴らしてマイクで録る以外の方法だと、真空管プリアンプから Palmer などのスピーカーシミュレーターを噛ませてラインで録るというやり方をしていました。でも、最近は機材がどんどんコンパクトになりつつ、質の高いものが出来てきている。以前、同じ DSM & Humboldt の2チャンネル仕様の Simplifier X が出た時も気になっていたんですが、今回のダンブル系モデルはさらに完成度が進化していますね。まず、ペダルサイズの一体型であることの良さが際立っています。ギターをインプットする側、ミキサーなどにキャノンアウトする側、そして空間系エフェクトなどを繋ぐセンド/リターン端子など、ルーティングの組み分けが非常に理にかなっていて使いやすい。リバーブやヘッドホン端子、さらには AUX 入力まで備わっているので、海外のプレイヤーがスマホから音源を流してジャムセッションしている動画なんかを見かけますが、そういった現代的な宅録や練習環境にもしっかり対応しています。
- 本物のダンブルアンプと比べると、サウンドの印象はどうですか?
僕はこれまでに、本物のダンブルの代表的モデルである Overdrive Special を5台ぐらい弾いています。日本国内に存在する実機の数を考えたら、5台弾いたというのは結構な経験値だと思います。それから Overdrive Reverb というモデルも弾きました。ヘッドがとても大きくて、リバーブが内蔵されているタイプですね。100Wのモデルは、やはりドライブさせて使うとパワー感や音の押し出し感がすごいです。ただ、ダンブルの魅力はそこまで激しく歪ませなくても味わえます。何よりクリーントーンが、同じく名機とされるフェンダーのアンプとは全く違うんです。フェンダーのクリーントーンはいわゆるドンシャリっぽくて、高域と低域がパキッとしっかり出ている印象ですが、ダンブルはそうじゃありません。かといって、ただのオーディオライクでフラットな音というわけでもなく、ミッドレンジに独特の艶と生々しい感じがある。Dumblifier は、そのダンブル特有の自然なクリーンのフィーリングを非常によく捉えていますね。

各セクションが連動して音が作られていく流れは、ダンブルらしさそのもの
- コントロール類の使い勝手や、チャンネルの挙動についてはいかがですか。
ツマミやコントロールの挙動も、実機のアンプらしさがしっかり出ています。例えば、クリーンボリュームを上げた後にオーバードライブのチャンネルを入れた時、ちゃんとクリーン側のボリューム設定がドライブ側に影響を与えて、音が太く噛み合ってくるのがわかります。この、各セクションが連動して音が作られていく流れは、まさにダンブルらしさそのものです。だから、あまり歪ませたくない時はクリーン側のボリュームを下げて、ドライブ側を上げる。逆にクリーン側を最初からしっかり上げておいて、アンプ全体が飽和したような突っ込んだ感じのドライブを作る。そういう本物のアンプと全く同じアプローチで音作りができます。ゲインを最大にしても、極端に音が潰れすぎず、音楽的な歪みの範囲に収まっているのも素晴らしいですね。Ratio というツマミは、ドライブチャンネルのボリュームにあたります。クリーンに対してドライブをどれくらいの比率で混ぜていくか、バランスを取るためのものです。内部で直列に音が作られていて、それぞれのチャンネルで適切なバランスが取れる。そして最終的なアウトプットのトータル音量はマスターで決めるという、非常にスマートな構造です。

- トーン・コントロールの効き具合はどう感じましたか?
Presence の効き方が独特で良いですね。一般的にプレゼンスというと、アンプの超高音域を調整する EQ だと思われがちですが、本来はプリアンプではなくパワーアンプのセクションで、スピーカーのダンピングファクターなどを調整してサウンドのニュアンスをコントロールするものです。だからこの Dumblifier でも、EQセクションではなくマスターボリュームの横に配置されているのだと思います。Treble のツマミとは効く帯域が明確に違っていて、Presence を上げると、より高いところの空気感やエッジが強調されます。ボリュームを絞った時なんかは、少し Presence を上げてやると、音が埋もれずに全体のバランスが取りやすくなりますね。それから、Mid のコントロールや Rock と Jazz のチャンネルスイッチの挙動も見事です。Jazz チャンネルに切り替えると、全体的に少し音量が下がって、高域の角が取れた落ち着いたトーンになります。そこで Mid を少し足してあげると、太くて甘い極上のジャズトーンが作れる。逆に Bright スイッチは、フェンダーのアンプについているような効果で、小さい音量でもシャキシャキしたカッティングの音が欲しい時などに重宝しますね。
- アナログ回路によるキャビネットシミュレーターの機能も充実しています。
Simplifier シリーズよりも、直感的にさらに使いやすくなっていると感じます。キャビネットのサイズを1発(1x12)、2発(2x12)、4発(4x12)とスイッチで切り替えられるんですが、例えば4発にすると低音の音圧はしっかり出るけれど、音の直進感は少し減って壁のような鳴りになります。逆に1発に設定すると、音がキュッとまとまって前に飛んでくる感覚がある。この辺りの物理的なスピーカーの箱鳴りの挙動が、アナログで見事にシミュレートされています。スピーカーの種類も選べますね。Celestion の 12M や 12H といったタイプをモデリングしているのだと思いますが、M は Greenback 系、H は Heritage や Creamback speaker 系のニュアンスを持たせているのでしょう。その特徴的なミッドレンジの粘りがよくわかります。

- ダンブルアンプ特有の回路的特徴も再現されているようですが。
そうですね。この Preamp Boost のスイッチがまさにそれです。世間では「トーンブースト」とも呼ばれる機能ですが、これをオンにすると、クリーンチャンネルであっても Treble、Mid、Bass という3つのトーンコントロール回路がオミット(バイパス)されて、信号がEQを通らずダイレクトに出力されるようになります。これは本物のダンブルと全く一緒の挙動です。ダンブル系のアンプであれば必ずと言っていいほど搭載されている機能ですし、昔フェンダーのアンプを改造してトーンブーストを付けてもらった時も、同じようにトーンノブが効かなくなりました。トーン回路を通らないことで、ゲインと中音域がグッと持ち上がって、太く抜けの良いリードトーンになるんです。普段はクリーン〜クランチで弾いておいて、ソロの時だけこのブーストを踏んで前に出す、という使い方ができます。
- Input Boost という機能もありますね。
これは普通のアンプやオリジナルのダンブルには付いていない機能です。ダンブルにあるのはインプットと FET ジャックという2つの入力で、FET ジャックは普通のジャックにFET 回路が加わったものなのですが、Dumblifier の Input Boost はそれとは少し違って、前段にクリーンブースターやプリアンプを置いているようなイメージですね。使うピックアップの種類や、ピッキングのニュアンスに合わせて、Low / Off / High を切り替えることができます。オンにすることでピッキングの食いつきやニュアンスが明らかに変わるので、Low か Off か High を弾き比べて、その楽器に合う、または作りたいサウンドに合う Input Boost を探してみてください。どちらかに設定しておいた方が弾きやすいと思います。僕はハムバッカーを使うことが多いので、常時 Off にしておくのが好みですね。

- 内蔵されているリバーブの印象はいかがですか?
ルーム、プレート、エシリアル(Ethereal)という3種類のリバーブが入っていますが、真ん中のエシリアルは非常にディケイが長くて、少し多めにかけると幻想的でアンビエントなサウンドになります。スプリングリバーブのモデリングはないようですが、僕は普段からプレートリバーブを好んで使うので、このプレートの質感はすごく気に入りました。他のストンプボックスで稀に凄く良いスプリングリバーブがあるんですが、そうでない限りはプレートの方が自然に馴染みますからね。でも、本当にいいアンプっていうのは、そもそもリバーブを通さなくても音が良いんです。昔のツイード期のフェンダー・デラックスなんかがそうですよね。Dumblifier も、リバーブを完全に切った素の音が十分に素晴らしい。むしろ「これならもう重たいアンプをスタジオやライブハウスに持ち運ぶのやめようかな」と本気で思ってしまうレベルです。ダンブルというと Overdrive Special という名前の通り、サスティーン豊かな歪んだ音ばかりが注目されがちですが、実はクリーントーンが最高なんです。その極上のクリーンが、このペダルボードに収まるサイズで手に入るのは驚きです。

ピッキングニュアンスを大切にするギタリストなら絶対に武器になるはず
- アナログならではの弾き心地やレスポンスについて教えてください。
弾き心地は本当に素晴らしいです。本物のダンブルはパワーアンプがあって、キャビネットの大きなスピーカーを揺らして音を出しているので、それと全く同じかと言われれば物理的な風の違いは当然あります。ですが、ライン出力のアンプシミュレーターとして、ここまでプレイヤーの感性を刺激するものは今まで無かったんじゃないでしょうか。メーカーもコンプレッション感を強調していますが、実際に歪ませた時の音の伸び方、サスティーンの粘りがとてもアナログらしくて自然です。デジタル特有の冷たさや、弾いてから発音するまでの僅かな遅れが全くありません。手元のボリューム操作に対する追従性も抜群で、ギターのボリュームを絞ればスッと綺麗なクリーンに戻ってくれます。そして何より、弾いていると自然とフレーズが湧き出てくるんです。ダンブルを弾いた時に、ラリー・カールトンやロベン・フォードがよくやるような、オクターブをスライド(グリスダウン)させるフレーズとか、特有のニュアンスを含んだチョーキングとかを無意識に弾きたくなる。「あぁ、このアンプのレスポンスだから、彼らはああいうプレイをしたくなるんだな」というのが、これを弾くとよくわかります。機材がギタリストからフレーズを引き出してくれる感覚、それこそが名機の証だと思います。
- 実際のライブやレコーディングでは、どのようなセッティングで使えそうですか?
基本的にはデジタルリバーブやデジタルディレイなどの空間系以外は、楽器を含めてすべてアナログの機材で音を作りたいと僕は思っています。Dumblifier なら、そのアナログの豊かなニュアンスを損なわずにライン出力ができるので、ステージで大きなアンプを鳴らせない環境でも大活躍します。最近、僕はこれ専用のコンパクトなペダルボードを組んでみたんです(下写真)。これだけで、どんな会場でも極上のダンブルサウンドがステレオで完結してしまう。実は、ダンブルを使っているプロの多くは、アンプ本体の歪みチャンネルを使わず、クリーンアンプとして極上のトーンに設定して、前段のペダルボードで歪みを作っている人が多いんです。ロベン・フォードも最近はそういう使い方をしています。というのも、本物のダンブルのセンド/リターンにエフェクトを繋ぐためには Dumbleator という専用の真空管バッファー回路を挟まないと、インピーダンスの問題で音が破綻してしまうんです。だから、荷物を減らしたいツアーミュージシャンなどは、前段のボードで音作りを完結させて、極上のクリーンアンプとしてダンブルを使う。この Dumblifier も、キャビネットシミュレーター付きの最高級クリーンアンプとして使い、歪みはお気に入りのペダルで作るというアプローチが非常に理にかなっています。どんなジャンルであれ、ピッキングニュアンスを大切にするギタリストなら絶対に武器になるはずです。

- 最後に、ダンブルというアンプの魅力と、Dumblifier の存在意義についてどう思われますか。
ダンブルアンプはカルロス・サンタナも使っていますし、あのエリック・クラプトンまで使い始めたことで、価格はさらに高騰してしまいました。製作者のハワード・アレクサンダー・ダンブル氏も亡くなってしまったので、もはや新しいものは作られません。デヴィッド・リンドレーやジャクソン・ブラウン、スティーヴィー・レイ・ヴォーンが歴史的な名盤を残し、若い世代でもジョン・メイヤーやジョー・ボナマッサが愛用している。ラリー・カールトンは手放してしまったようですが、昔からずっと使い続けているのはロベン・フォードくらいでしょうか。彼が来日した時、目の前でダンブルの強烈な音圧を体感したことがありますが、本当に圧倒的でした。あちこちで長時間ダンブルを弾かせてもらう機会がありましたが、「本当に凄いアンプだな」と思うと同時に、「とてもじゃないけど買えないな」と痛感します。冗談抜きで、マンションを売るくらいの値段ですからね。ヴィンテージのレスポールとダンブルのセットなんて、まさに天文学的な数字です。僕が持っている58年製の ES-335 や54年製のストラトキャスターも今やとんでもない価格になっていて、おいそれと買い替えられるものではありません。妻には「僕が死んだら売っていいよ」と言ってありますけどね(笑)。そんな、一生に一度弾けるかどうかの幻のサウンドと極上の弾き心地を、完全アナログ回路によってここまでリアルに、しかもペダルボードにポンと収まるサイズで実現してくれた Dumblifier は、現代のギタリストにとって本当に価値のある1台だと思います。ルックスも非常に雰囲気があって、高級アンプを操作しているような所有感も満たしてくれます。ヴィンテージ機材の持ち出しがリスクになってきたプロの現場から、自宅でのこだわりの宅録、そして深夜のヘッドホン練習まで、あらゆるシチュエーションで「あの音」を響かせてくれる。デジタル全盛の時代にあえてアナログの底力を証明した、マスターピースと呼べる仕上がりです。

写真:桧川泰治
並木健司
東京生まれのギタリスト、アレンジャー。ジャズやブルースからポップス、クラシックまでジャンルを超えた音楽を追求。国内外のアーティストのサポートやレコーディング、作・編曲で幅広く活躍。デュオアルバム『現音』のほか、教則本『ジャズギタースタンダード』などロングセラーの著書も多数持つ。
