ディジ・メロッティ - Product Manager of IK Multimedia インタビュー
「TONEX ONE は気軽に携帯できるサイズで多彩な機能を手頃な価格で提供できるよう設計しました」
YG:最初にあなたの役職、経歴など簡単なプロフィールを教えてください。
ディジ・メロッティ(以下DM):私は IK Multimedia で AmpliTube、TONEX など、ギター関連製品ラインの監督と管理を担当しています。この職に就く前は、イタリアの音楽業界でプロデューサーとして作曲、スタジオ・レコーディング、ミキシングなど全体的なプロダクション・マネージメントの仕事をしていました。IK Multimedia での仕事を始めたのは2011年のことです。オーディオ製品の分野で技術革新をリードする IK Multimedia の姿勢に魅了され、それ以来製品の開発に次ぐ開発で、今日に至るという次第です(笑)。
YG:TONEX ONE は、ミニ・ペダルでありながら非常に高機能であるということに正直驚いていますが、通常のストンプ・ボックスよりも小型のサイズを選んだ理由はなんでしょうか?
DM:TONEX ONE を超小型なサイズにしたのは、外出が多いミュージシャンやセットアップのスペースが限られているミュージシャンのために、携帯性と利便性を優先させたかったからです。場所を取らず、どんなシチュエーションにも簡単にフィットする、コンパクトな製品にしたかったというのが理由ですね。それからこのサイズの利点はたくさんあります。ギター・ケースに入れてレッスンやリハーサルに持っていけるし、重い真空管アンプの音を取り込める機能を持ちながら、ペダルボードに簡単に加えることができる。複数の TONEX ONE を並べてもスペースを取りすぎず、複雑なルーティング構成を作ることもできます。それに、小さくて可愛いですよね(笑)。
YG:TONEX ONE は、先に発売されて好評を博している TONEX Pedal の機能縮小版の商品として開発されたのでしょうか? それとも、機能こそ似ているものの全く新しいコンセプトの商品として開発されたのでしょうか?
DM:TONEX ONE は、私の頭の中に最初から存在していたコンセプトでした。だから、リリース順は逆となりましたが、TONEX Pedal が TONEX ONE の拡張版である、とも言えます。この2機種は共に同じ AI Machine Modeling 技術に基づく製品で、同じ音質を提供しているんです。異なるのは製品の大きさと、それに伴う機能の違いだけなんですよ。TONEX Pedal が本体に保存した大量のプリセットを、ディスプレイを見ながら切り替えたり、MIDIフットスイッチを接続して他のMIDI対応ペダルとの統合システムを構築できるよう設計されている一方、TONEX ONE は気軽に携帯できるサイズで、多彩な機能を手頃な価格で提供できるように設計しました。
YG:本体に内蔵可能な TONEX プリセットは20種類で、TONEX Pedal の150種類と比較すると数こそ少なくなっていますが、その他のEQ、コンプレッサー、リヴァーブ、ノイズゲート、チューナーなど、ギタリストが欲しがる機能はしっかりと受け継がれています。このサイズにそれだけの機能を盛り込むための労力はかなり大変だったのでは? 一番苦労された点は?
DM:最も苦労したのは、ユーザー・インターフェイスの設計です。高度な機能を提供しながらも、「アナログの味わい」を感じてもらうために、コントロールの数をできるだけ少なくしたかったんですよ。ですのでファームウェアの開発と改良には長い時間を要しましたが、最終的には使いやすさと高度な機能のバランスが取れたと思いますね。
YG:チューナー・モードやセーフ・モードなど、ライヴで使用する時にとても便利な機能だと感じました。サイズ感も含めて、やはりペダルボードに格納して使用することをかなり意識されたんでしょうか?
DM:それがコンパクトな形状をコンセプトにした主な動機の1つです。私たちの狙いはペダルボードに無理なく追加できるサイズにすることによって、皆さんが現在愛用なさっているペダルとの置き換えを最小限に抑えるということでした。
YG:このサイズ感であれば、ペダルボードに TONEX ONE を2台格納して歪みペダル+アンプのような使い方も可能です。そのような使い方も想定されていましたか? あと、他にオススメの使い方などはありますか?
DM:それもコンパクトなサイズで価格を抑えた理由の1つです。例えば複数の TONEX ONE を直列につないで、ディストーション、オーヴァードライヴ、ファズなどの配列を作ることができます。そして仰る通り、1つめの TONEX ONE をディストーション・ペダルとして使用した後に、アンプの Tone Model を選択した TONEX ONE に接続することもできます。あるいは、左右のチャンネルに異なるアンプの Tone Model をロードした2台の TONEX ONE を使うなど、パラレル構成を構築するのも1つの案ですね。これらはほんの一例で、可能性は無数にあるのでユーザーの皆さんにいろいろ試していただきたいです。TONEX ONE のフットスイッチは、踏むたびにオン/バイパスが切り替わるストンプ・モードと、プリセットのA/Bが切り替わるデュアル・モードという2つのモードが用意されているので、エフェクター的に使う TONEX ONE はストンプ・モード、アンプの代わりに使う TONEX ONE はクリーンなプリセットA、クランチなプリセットBなどをアサインしたデュアル・モードにすると良いと思いますね。
YG:マイクロ・ノブのLED色をカスタマイズ可能な点も、少ないパーツから最大限の情報を提供しようという素晴らしい機能だと思いました。このようなアイデアはどこから?
DM:ここだけの話、最初のプロトタイプではノブは暗闇での視認性を高めた蓄光材で作られる予定でした(笑)。その後LED付きノブを試してみて、これが暗いステージ上での視認性を高める理想的なソリューションであることに気づいたんです。LEDの色は、TONEX ソフトウェアにて各プリセットに割り当てられるので楽しいですよ。
YG:ライヴでの使用を意識しつつも、オーディオ・インターフェイス機能などDAW環境での使用も視野に入れている点は、現代ギタリストにとってとても嬉しいことです。
DM:単体でアンプの代わりになる小型ペダルを提供する、という本来の目的とは異なるかもしれませんが、複数の機能の実装は製品の価値と実用性を高めますよね。オーディオ・インターフェイスとしても超小型な部類に入るので、気軽に持ち運んで、外出先でのレコーディングや練習を楽しんでいただきたいです。アウトプット端子はヘッドフォンにも対応しているので、すごく便利ですよ。
YG:最後に、TONEX ONE に興味を持っている日本のギタリストたちにメッセージをいただけますか。
DM:即 TONEX ONE を買いましょう!(笑) そして、これからも美しい音楽を作り続けてください!
TONEX ONE の特徴的な機能を解説
20種類の内蔵プリセット
TONEX ONE は、AI Machine Modeling 技術によってリアルにキャプチャーされたアンプ、エフェクター、キャビネットを含む20種類の TONEX プリセットを本体に保存することができ、その中から3つのプリセットをセットしてフットスイッチで切り替えて使用することが可能だ。そして20種類のプリセットも、付属の TONEX SE ソフトウェアを使ってネットにアクセスすることによって、多数の Tone Model の中から選んで入れ替えることができる。
デュアル・モード/ストンプ・モード
フットスイッチでのプリセット切り替えはデュアル/ストンプという2つのモードがあり、デュアル・モードではA/Bという2つのプリセットを切り替え、ストンプ・モードでは1つのプリセットのオン/バイパスを切り替える。つまり3種類の音色をセットしておき、モードの切り替えを活用することによって本体だけでそれらを使い分けることが可能となっている。
グローバル・セットアップ
このモードでBASSノブを回すことにより、本体でデュアル・モードとストンプ・モードの切り替えが可能。また、MIDノブを回すとキャビネットのオン/バイパス切り替えができ、TREBLEノブを回すと入力レベルの調節ができる。
ブラウジング・モード
このモードでは、3つのプリセットを本体に保存された他のプリセットと入れ替えることができる。BASSノブを回すとデュアル・モードのプリセットA、MIDノブでデュアル・モードのプリセットB、TREBLEノブでストンプ・モードのプリセットをそれぞれ入れ替え可能となっている。
オーディオ・インターフェイス/バスパワー
ボディー下部のUSB-C端子からケーブルでPCに接続することによってプリセット管理ができ、オーディオ・インターフェイスとしても使用することができる。この時バスパワーで動作するため、本体に外部電源は必要ない。
本体での直感的な音作り
3つのプリセットの音色をイジって音作りするには、中央のメイン・コントロール・ノブと上部に3つ付いているマイクロ・ノブを使う。パラメーター入力ではなく、ノブを回して直感的に操作できる点が便利だ。基本的にはメイン・コントロール・ノブでヴォリュームを、マイクロ・ノブでBASS/MID/TREBLEのEQを調節するのだが、ALTスイッチで機能を切り替えることによってノブの下部に記載されているゲイン/ノイズ・ゲート/コンプレッサー/リヴァーブをコントロールすることが可能。これによってライヴ会場などに合わせての微調整が簡単にでき、本体で行なった変更はオート・セーブされるので安心して音を作り込んでいける。
セーフ・モード
せっかく作り込んだ音色も、ライヴ中に足などが触れて変わってしまったりしたら台無しになってしまうが、そんな事態が起こらないようにセーフ・モードを搭載。この機能をオンにすれば、間違ってノブに触れて動いてしまっても音色は変化しないようになっているため、余計な心配をせずにプレイに専念できる。
チューナー・モード
フットスイッチを長押しすると、チューナー・モードとなり、マイクロ・ノブのLEDでチューニングが可能となる。音名などは表示されないが、どの程度ズレているか分かるので微調整に便利だ。上の写真は少し音程が低くて左側のLEDがオレンジ色に光っている状態で、ピッタリ合うと消えて真ん中の緑色のLEDだけが点灯する。
ミニ・ペダル・サイズでの多機能コントロールの鍵となるALTスイッチ
ミニ・ペダルという極小サイズで多彩な機能をコントロールするには、ツマミやスイッチを配置するスペースが圧倒的に足りない。それを補っているのが、ALTスイッチである。このスイッチを押すことによってノブのパラメーターを切り替えたり、長押しやフットスイッチとの組み合わせでモードを変えたりして、本機の様々な機能を使い分けることが可能となっているのだ。ALTスイッチで切り替えられる機能は以下の通り。①ノブの設定パラメーター変更(プリセット選択時にALTスイッチを押す)。②セーフ・モード(ALTスイッチ3秒長押し)。③グローバル・セットアップ(ALTスイッチ6秒長押し)。④ブラウジング・モード(ALT+フットスイッチ同時押し)。
本体を購入すると付いてくるソフトウェア TONEX SE
TONEX SE は、TONEX ONE の全機能をコントロールできるMac/PC用エディター及びライブラリアン・アプリで、TONEX ONE を購入すると付属してくる。主な機能は TONEX ONE 本体内の20種類のプリセットの入れ替えや編集だが、PC内蔵の200種類の Tone Model との入れ替えもでき、さらに ToneNET に接続すれば何と25,000種以上の Tone Model が無償で使い放題となる。もちろん TONEX ONE 本体の設定も、LEDの色の設定等を含めてすべてコントロール可能だ。特に、本体だけでは難しいアンプ類の細やかな設定ができるので、こだわり派のギタリストはじっくりと音を作り込んでみよう。
そして TONEX SE は、スタンドアローンのアプリ及びAU/AAX/VSTプラグインとしても使用可能で、TONEX ONE を接続しなくてもDAWソフト上で同じサウンドを使用可能。さらに人気のプラグイン・アンプである AmpliTube 5 SE も付属しており、“TONEX ONE”のサウンドを AmpliTube 5 SE の中に組み込んでさらに高機能化して使用することもできる。
さて、今回膨大な量のプリセットの中から、気になるものをいくつか弾いてみた。まず試したのは「JMP ANGEL」(アイバニーズ TS808 +マーシャル JMP 100W +エングル 412キャビ)。初期設定ではバッキングにちょうど良い歪みだが、GAINを上げるとシングルコイル・ピックアップのギターでもロング・サステインが得られ、エングルのキャビのワイドなレンジ感でどの帯域も伸び伸びと鳴る。マイクは恐らくダイナミックだけでなく、コンデンサーを併用してミックスしているイメージだ。
次はCLEAN分類の「DUMBY」(ダンブル Overdrive Special)。ブリッジ・ピックアップを使っても極めてウォームなトーンで、程良いリヴァーブがマッチしている。クリーンにもかかわらず粘りとコンプ感がたっぷりで、そのままリードを弾きたくなる。ネック・ピックアップでは、太すぎずバランスの良いナチュラルなトーンだ。
歪み系ペダルの「OCD 13」(フルトーン OCD )は低音の太さが凄まじいが、BASSノブなどですぐに整えられてサステインも素晴らしく、シングルコイルのギターでもリードが問題なく弾ける。ギター本体のヴォリュームでクリーンまで歪みを落とせるレスポンスも魅力だ。そしてファズの名器「HUGE MUFF」(エレクトロ・ハーモニックス BIG MUFF)は太さや歪みの質が完璧なだけでなく、あの爆発的な低域も思い切り出せる。3バンドEQが使えるのでオリジナル以上の使いやすさだ。
①ハードウェア・バー
TONEX ONE や TONEX Pedal の接続状態が表示され、ライブラリーの復元やファームウェアのアップデートなどが行なえる。
②アクティヴ・スロット
TONEX ONE 本体のデュアル・モードとストンプ・モードに保存されている3つのプリセットが表示されている。茶色に変わっている部分が現在セレクト中のプリセット。
③ペダル・ライブラリー
TONEX ONE 本体に現在取り込まれている20種類のプリセットを表示。
④LEDカラー
プリセット名の横の3つの丸のアイコンをクリックすると、マイクロ・ノブのLEDの色を変更することができる。
⑤コンピューター・ライブラリー
PCに取り込まれているプリセットを表示。ここからドラッグ&ドロップで TONEX ONE 本体にプリセットをコピーできる。
beatcloud でも入手可能な IK 製サウンド・コレクション
TONEX Metal Gems Signature Collection
ToneNET 上の Tone Model は無料だが、使用目的に合ったサウンドを購入することもできる。この Metal Gems Signature Collection には Diezel Herbert、Bogner Uberschall、Soldano SLO-100、Peavey 5150 Block Letter の4機種、歪みペダル併用も合わせて各アンプ20~30種類のサウンドが含まれている。
Diezel Herbert の30種のサウンドは、歪みペダルの併用は無いが、マーシャル、メサブギーなど多彩なキャビネットを組み合わせてこの機種特有の様々なサウンドを導き出している。
Bogner Uberschall はアンプ直の他、数種類の歪みペダル併用のサウンドがあり、計25種類のヴァリエーションがある。高密度で力強い音ながらも、上品な特性を見事に再現。
Soldano SLO-100 は、プレイに呼応して次々と現れる荒々しいピークやエッジが特徴だ。
Peavy 5150 Block Letter は、たとえシングルコイルのギターでもあのサウンドになる。個人的にはオレンジ製キャビとの組み合わせによる無駄の無いストレートな響きが新鮮に感じた。
TONEX ODS Legends Signature Collection/TONEX MESA/Boogie Reference
ODS Legends Signature Collection は、ダンブル Overdrive Special の年式/モデル違いの5機種で18種類のサウンドを収録。さらに歪みペダルの名器2機種のサウンドも入っている。ダンブル特有の粘りと、他のアンプでは出せない独特の歪みと倍音も再現していて素晴らしい。
MESA/Boogie Reference には、誰もが手にしたいメサブギーの5機種のアンプを収録しており、もはや同社の歴史的サウンドを使いたい放題だ。スタック系は重低音も音圧も好きなだけ出せるし、コンボの魅力も再発見できる。
ユーザーが所有するアンプ、キャビネット、エフェクターをキャプチャー可能
TONEX SE には自作 Tone Model の作成が可能な「Modeler」機能も実装されており、手持ちのアンプ&キャビ、歪みペダル&ペダル+アンプなどのサウンドを自分でキャプチャーして TONEX シリーズで活用することができる。長年愛用しているアンプやペダルをこれ以上酷使せず、完璧なサウンドのまま未来に残すことができるわけだ。
やり方は簡単で、TONEX アプリ内の表示に従って機材を接続。あとは TONEX アプリが接続した機材に様々な信号を出力し、そのサウンドを取り込んで数分~数十分(3段階のクオリティで異なる)の処理でキャプチャーしてくれる。できたサウンドはそのまますぐに他のプリセットと同等に扱え、ToneNET にアップロードもできる。
解説:安保 亮 Akira Ambo、ヤング・ギター編集部