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Universal Audio : UA Bock 251 - 伝説的マイクロフォンに求める最高のサウンド

世界的なマイクデザイナーである David Bock 氏の厳格な仕様に基づき作られた、チューブ・コンデンサーマイクのフラッグシップモデル UA Bock 251。251 の名を冠する本製品で Bock 氏が目指したものは何だったのか、エンジニア門垣良則氏(MORG)が紐解きます。

名機 251 のナンバーを持つ現代の”レジェンダリーサウンド”


UA Bock 251 は今や伝説と言えるほど希少かつ評価の高い、ELA M 251 を意識した真空管マイクです。

近年、多くのメーカーがビンテージの ELA M 251 を忠実に復刻したデザインのマイクを開発しており、UPTON や GAP といったメーカーから ELA M 251 を意識した製品が発売され、TELEFUNKEN USA からは復刻品が発売されています。

David Bock 氏はそれよりも前の Soundelux 時代から多くのマイクの研究や、製品開発を行っており、251 の名を冠するマイクも販売していました。筆者もそのフラッグシップモデルである Elux 251 を所有していたのですが、当時、そのあまりにナチュラルなサウンドに驚きました。

その後ざらつきのあるサウンドを求めて、ビンテージの U67 を買うために手放してしまいましたが、今も大変後悔しています。もっともその後悔があったから「ナチュラルな音で録ることができる」ことの凄さを思い知り、何年にも渡る機材研究の旅が始まりました。筆者にとってそんなエピソードを持つ Elux 251 の開発者である、Bock さんの最新作に胸が踊らないわけがありません。

ではサウンドインプレッションは後にとっておいて、各所をチェックしていきます。

キャリングケース
▲高級マイク特有の非常にしっかりしたキャリングケースが付属。 落ち着きがありつつ非常に洗練されたデザインで、ケーブル収納などの機能性も素晴らしい

NOSのビンテージ真空管


UA Bock 167 同様に厳選されたNOSビンテージ真空管が使われています。

ELA M 251 には様々な真空管が使われていますが、一般的に使用されるのはいわゆる 6072(12AY7)です。それに対し UA Bock 251 では ECC85 という真空管が使われています。いわゆる「忠実な復刻」という意味や、マーケットが求める偶像崇拝的なイメージを味方につける上では通常絶対に選択しない変更点と言えます。

ちなみに昔筆者が所有していた Elux 251 には 6072 が採用されていましたが、もう20年ほど前のお話です。

真空管
▲何と真空管は ECC85 という 12AT7 に似た真空管を使っている。これが本機の肝であり Bock 氏のサウンド哲学を強く感じる

ブラスフレームの CK12 ダイヤフラム


ダイヤフラムはもちろん CK12 カプセルです。Soundelux 社時代の Elux 251 もブラスカプセルでした。ブラスフレームのダイヤフラムは、C12 や ELA M 251 などの伝説的マイクロフォンのサウンドを決定づける要素のひとつであり、ビンテージのブラスカプセルは数十万円で取引されるほど貴重です。非常に重要なパーツであるため、UA Bock 251 ではドイツ製の物を採用しており、そのクオリティに妥協はありません。

ブラスフレーム
▲ブラスフレームの CK12。このダイヤフラムがサウンドに大きく影響を与えるため、ドイツ製の最高級のものが採用されている

コンポーネントのサウンドを熟知した回路デザインとサウンドへの誠実さ


Bock 氏の回路デザインはあきらかに「コンポーネントの特性」を超えた「コンポーネントのサウンド」を意識したデザインになっています。このことは UA Bock 167 の記事でも取り上げました。

UA Bock 251 でも Cinemag 社の大型トランスに大型のスチロールコンデンサ、SILMIK の電解コンデンサなど特徴的なコンポーネントが採用されています。これらのコンポーネントが CK12 の特徴と混ざり合った時に、通常であれば真空管は 6072 を採用します。というより、CK12 を採用するのと同じくらい 6072 を採用することは常識に近い選択となっており、購買層をプロのエンジニアと考えた場合に、カタログスペック上もっとも安心感を得ることができる選択になっています。

ですので、この場合は同コンポーネントで 6072 を採用した上で、他のコンポーネントを変更して CK12 と 6072 ありきの設計になっていくことが通常の開発の流れと思います。むしろこの流れに逆らうことは「ビンテージに忠実!同じ回路!」という部分に惹かれる顧客層を手放すことに直結するため、プロダクトの開発者としても販売するメーカーとしても非常にリスキーな行為だからです。

しかし断言します。

UA Bock 251 は ECC85 を採用したこのサーキットこそが完成形であり、Bock 氏は「伝説的マイクロフォンに求める最高のサウンド」をイメージ通りに、全く新しい製品として現代に誕生させることに成功しました。

Universal Audio という歴史ある会社がマーケットの評価を恐れずに、どこまでも「サウンド」を追求した UA Bock 251 をリリースできたことは、同社及び Bock 氏のサウンドへの誠実さを物語っており、筆者は尊敬の念を禁じえません。

コンポーネント
▲Chinemag 製の大型トランスや大型のスチロールコンデンサなど、全てのコンポーネントがサウンドに絶妙に影響を与えており、ECC85 と組み合わせて独特のマジカルな質感を作り出している

トロイダルトランスを採用したリニア電源


UA Bock 251 も UA Bock 167 同様にトロイダルトランスによるリニア電源となっています。

出荷国ごとに違う電圧にしなくてはならず、コストも高いリニア電源ですが、いわゆる「音像の大きさ」と形容される結果を得るために非常に重要な役割を担っているため、この電源方式にこだわるエンジニアは多いです。ここにも Bock 氏の強いこだわりが窺えます。

電源
▲コストのかかるトロイダルトランスを採用。なお内部のコネクタにより100V、115V、230V仕様への切り替えに対応している

伝説的なマイクロフォンから思い浮かべる”マジックサウンド”を現代にデザイン


Bock 氏の作るマイクロフォンは”既存の製品の模倣”ではなく、定番となった良い製品や伝説的な製品の持つ”サウンド”を得た上で、サウンドのバリエーションの選択を可能にするなどの、より発展させた用法を付与した製品が多くなっています。

その中で UA Bock 251 のデザインは選択肢をユーザーに委ねるのではなく、異なるコンポーネントでビンテージの極上の個体に求める”サウンド”をデザインし、最良の選択肢が必ずしもビンテージになるとは限らないということを我々に提示します。

当然ですが、ビンテージのマイクは半世紀以上の年月を経てメンテナンスがなされており、経年変化の影響を受けています。それらがサウンドに多大な影響を与えてマジカルなサウンドとなっているのは疑いようのない事実です。しかし多くの模倣品は忠実に復刻することにこだわるため、良くも悪くも”新品の音”となっており、もちろんその良さはあるものの、経年変化などに期待しながら使っていくということが少なくありません。

そこで Bock 氏はコンポーネントの忠実な再現ではなく、今すぐ使える形で、”ビンテージマイクに求めるマジカルでベストなサウンド”をデザインすることにしたのでしょう。

正直、オリジナルに忠実な製品はそれはそれで素晴らしいものの、非常に自然なサウンドであることが多く、ともすれば中低域のガッツのような部分に欠けるということが少なくないです。そういった場合にはビンテージの Neve を使ったり、1176 のブラックフェイスを使ったりと、別の要素で求める成分を補うこととなります。

わずかな差のように思えますが、ボーカルが発した声を電気信号、電気エネルギーに変換するという非常に重要な役割はマイクロフォンでしか成し得ないため、やはり録音時はもちろん、音源のクオリティそのものに大きく影響を与えます。

UA Bock 251 は我々にマイクロフォンや機材全般、そして録音されたサウンドの持つ魅力とは何かを問いかけます。

指向性
▲オムニ、カーディオイド、フィギュア8の切り替えスイッチを備える一方、UA Bock 187 や UA Bock 167 にあるような可変機構がない。それだけユーザーが求める圧倒的に良いと感じるサウンド、かつビンテージに求めるサウンドを的確にデザインしている

サウンドインプレッション


今回は主にボーカルでテストしました。極上の CK12 カプセルが持つスムースなハイエンドと声が吸い込まれるような心地よさを持ちながら、非常に上品でありながらも絶妙な加減で主張するミッドからローの太さに唸ってしまいました。

外観のカラーリングはビンテージマイクと全く違うポップで鮮やかなグリーンであるにもかかわらず、出力されるサウンドはまさにビンテージに求めるサウンドそのものなのです。

これは筆者がその昔に Soundelux 時代の U99 を初めて使った際にも感じた「一聴して良い音」と感じるサウンドと同質のものであり、最新の製品かつ Universal Audio から発売された UA Bock 251 も、紛れもなく天才 David Bock 氏の作品であることを知らしめることになりました。

サウンドの定義は好みなどに配慮するとキリがないですし、主観でなんとでも言える部分があります。しかしながら少なくとも多くのビンテージ機材を実際に所有し、四半世紀使い続けている筆者の感覚では、まさにビンテージ 251 に求めるサウンドだと感じ、Bock 氏の明確な意図を感じ取ることができました。

新品に近いビンテージ 251 のサウンドを記憶しているならば、”本来はこんな音ではない”と言う方もいるかもしれません。ですが、実際に数百万円もの超高額で取引されているビンテージの個体とそのサウンドを感じられるデザインを現代に新品(注:真空管はNOS)で作ったことは、”本来の音”を作ることより難しく、勇気のいることです。

その上でオリジナルの新品状態に忠実かどうかに関わらず、UA Bock 251 の”サウンド”自体の評価について訪ねた時には、おそらく決定的にネガティブな反応を示すユーザーはいないだろうと思います。UA Bock 251 はそれほどに普遍的な「いい音と感じるサウンド」を徹底してデザインしたマイクロフォンであり、その音を聴けば全ての先入観は吹き飛びます。

UA Bock 251 はビッグアーティストのヒットソングで聴くような、”伝説的な秘蔵のマイク”に求めるサウンドをユーザーに提供します。これはひとつの完成された選択肢であり、ハードウェアもソフトウェアも作り、長い歴史を持つ Universal Audio だからこそできた我々への挑戦です。

1990年代にこの製品があったなら、ビンテージマイクの立ち位置や回路の模倣と、本質的なサウンドに対する考え方そのものに大きな影響を与えたことでしょう。Soundelux 時代から現在まで一貫した信念を持って製品開発を行ってきた BOCK 氏の偉大さに改めて敬服すると同時に、製品の開発と販売においてこれほどにサウンドを第一とした製品をリリースできる Universal Audio 社の製品や開発者、そしてユーザーへの誠実さに心を打たれました。

この製品ほど、先入観にとらわれずに一度実際に試してほしいと感じる製品は未だかつてありません。是非多くの方に”サウンド”の本質に触れてみていただきたいと強く思いました。

門垣良則

奈良出身。サウンドエンジニアであり広義、狭義ともにプロデューサー。師匠である森本(饗場)公三に出会いエンジニアという職業を知る。師事した後、独学及び仲間との切磋琢磨により技術を磨きMORGを結成。当時の仲間の殆どが現在音楽業界の一線にいるという関西では特異なシーンに身を置いていた。大阪のインディーズシーンを支えるHOOK UP RECORDSの立ち上げ、運営に関わる。大手出身ではないが機材話で盛り上がり、先輩格の著名エンジニアとの交流は多い。自身の運営するMORGのスタジオを持ち、日本有数の名機群を保有する。中でもビンテージNEVEやマイクのストック量は他の追随を一切許さない。しっかりとメンテナンスされた高級スタジオ数件分の機材を保有している。インディーズレーベルに叩き上げられた独自の製作スタイルを持ち、二現場体制での対応スタイルはじめマスタリングアウトボードを通しながらのミックススタイルをいち早く採用している。近年はEVERTONE PROJECTを立ち上げてEVERTONE PICKUPやEVERTONE GUITARを開発している。

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