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Universal Audio : UA Bock 167 - 挑戦的デザインのマジック・マイクロフォン

世界的なマイクデザイナー David Bock 氏の厳格な仕様に基づき、UA のカスタムショップで手作りされるラージダイアフラム・チューブ・コンデンサーマイク UA Bock 167。Bock 氏のマイクをよく知る MORG のエンジニア門垣良則氏が、その設計思想を読み解きます。

ビンテージに求めるサウンドを再現しながら、モダンなサウンドにまで可変可能


UA Bock 167 はいわゆるクラシックな真空管マイクの代表的な名機 U67 を意識した真空管マイクです。多くのメーカーが U67 を強く意識したマイクを開発しており、近年 Neumann 社からも復刻品が発売されています。UA Bock 167 はそれよりも後発のマイクロフォンとなりますが、U67 の復刻ではなく、「多くの人がビンテージマイクに対してイメージするような現場で求められる質感」を持ちながら、モダンなサウンドまで可変できる唯一無二のマイクロフォンとなっています。

パッケージ
▲最新のコンピュータ製品のような洗練されたパッケージデザイン。 そのままキャリングケースとして使える
キャリングケースの内部

NOSのビンテージ真空管


真空管は厳選された EF732 というNOS(New Old Stock)のサブミニチュア管が使われています。Bock 氏が Soundelux 社時代に U67 を意識して作った U99 でも使用されていましたが、VF14 真空管に近い特性を持っているということで、20年近く前に Soundelux 社のフラッグシップマイクだった E47 でも採用されていました。

真空管
▲EF732 は長寿命管であるものの、交換メンテや保守パーツの不安があったが、UA のサポート体制なら問題ないだろう

ブラスフレームの K67 ダイヤフラム


ダイヤフラムに採用された K67 カプセルは、やはり Soundelux 社時代の初期 U99B でも採用されていました。UA Bock 167 は UA Bock 187 同様ブラスフレームを採用しており、Bock 氏がマイクロフォンのサウンドにおいて、高域の煌びやかさやエアー感に強いこだわりがあることがうかがえます。

ブラスフレーム
▲UA Bock 167 にはブラスフレームの K67 が採用されている。樹脂フレームになっているマイクがが多いが、比較的古い U67 や、U67 の真空管違いである 269 などにもブラスフレームの K67 が採用されていた

コンポーネントのサウンドを熟知した回路デザイン


David Bock 氏の回路デザインはあきらかに「コンポーネントの特性」を超えて「コンポーネントのサウンド」を意識したデザインになっています。それを支えるのは先述のダイヤフラムや真空管に加えて、トランスフォーマーやコンデンサ、抵抗などです。

トランスフォーマーはスウェーデンのメーカーである Lundahl 製を搭載しています。Lundahl は伝説的なコンソールとして名高い、Focusrite 社の Forte コンソールのチャンネルモジュール ISA 110 に採用されたメーカーであり、非常に明瞭なサウンドを持つ素晴らしいトランスを生産しています。UA Bock 167 に採用されている LL1530 や、ISA 110 に採用されている LL1538 は、最高品質を持ったトランスの代表格と言えます。

フィルムコンデンサには WIMA や Vishay など、音質に信頼のおける高級パーツが採用されています。金属皮膜抵抗もサウンド調整のために、一般的な高品位金属皮膜抵抗と Dale 製の金属皮膜抵抗が使い分けられています。

トランス
▲トランスは長年に渡り極めて評価の高い Lundahl 製。これだけシンプルな回路の中で信じられないほどサウンドの可変幅を持たせつつ、実用的なサウンドに仕上げていることは驚異的だ

トロイダルトランスを採用したリニア電源


UA Bock 167 は真空管マイクであるため外部電源が必要ですが、もちろんトロイダルトランスによるリニア電源となっています。

出荷国ごとに違う電圧にしなくてはならず、コストも高いリニア電源ですが、いわゆる「音像の大きさ」と形容される結果を得るために非常に重要な役割を担っているため、この電源方式にこだわるエンジニアは多いです。

ここにも Bock 氏の強いこだわりが窺えます。

電源
▲コストのかかるトロイダルトランスを採用。内部のコネクタにより100V、115V、230V仕様への切り替えに対応している

ビンテージからモダンなサウンドまで確実に"使える"魔法のマイク


コンポーネントを読み解いた全体的な設計思想としては、U67 のテイストを持ちつつ、Bock 氏が思う理想の質感として「エア感が捉えられて美しく力強いサウンド」を求めて基本設計を行ったのち、オリジナル U67 のニュアンスを求めるユーザー向けに調整機構をデザインしたように読み取れました。

その上で、ユーザー目線で製品開発をする Bock 氏ならではの可変機構であるハイ・フリケンシー・コントロールとFatスイッチにより、ビンテージからモダンまで、U67 に求めるニュアンスを確実な選択肢として提供してくれます。

ハイを1段階カットして、Fatスイッチをオンにすると、ビンテージの U67 に求めるスモーキーな質感が感じられたことに驚きました。MORG が所有するビンテージの U67 に最も近いと感じました。

逆にハイを最大にした状態にすると、むしろ C12 に求めるようなシルキーな高域を得ることができます。コンポーネントの選択から読み取れる根本的な部分のサウンドは、むしろ C12 寄りのサウンドなので意外性は無いのですが、ハイを最大にしてFatスイッチをオフにした状態はほぼ誰が聴いても「U67 の音ではない」サウンドです。どちらかと言えば C12 に近く、Fatスイッチと組み合わせて使うことで C12 系に類するモダンなマイクのサウンドを得ることができます。

ハイを最大にしたモードは、バックボーカルやアコースティックギターの収録に非常に好印象で、普段 C12A や C414EB などのビンテージ CK12 カプセルを搭載したマイクに求めるサウンドを得ることができました。

ハイをフラット表記のポジションにした状態もどちらかと言えばモダンで、明るいサウンドの67系マイクという印象。いわゆる「ミッドの押し出し感」と形容されるような挙動が欲しい場合は、Fatスイッチをオンにする使い方で間違いないと思います。

つまり、ハイ・フリケンシー・コントロールは左2つのポジションがビンテージを含む U67 に求めるサウンドイメージ、右2つはモダンな67系のサウンドイメージとは明らかにキャラクターが異なるが、非常に使える C12 に近いサウンドイメージとなってます。

Fatスイッチは、周波数の変化はもちろん、ダイヤフラムの厚みが変わるかのようなマイクのレスポンスの変化を伴なうので、ぜひ実際にご自身の声でチェックして頂きたいです。

スイッチ
▲ビンテージ U67 に近いポジションは、ハイ・フリケンシー・スイッチを左から2つ目にし、Fatスイッチをオンにした状態。 便利な調整機構という安易なものではなく、各設定は求める「サウンド」を意識して設定されている

まとめ


ボーカルやアコースティックギターなどに色々な使い方をしてみた結果、多くの人がビンテージに求める、少しザラついたりミドルが分厚く感じるような質感の部分は、NOSのサブミニチュア管が担っているようでした。真空管の実装方法も非常に考えられており、妥協が見当たりません。選別作業や選別漏れによる廃棄など、コスト面のリスクを承知でNOSを採用していることに Bock 氏への強いリスペクトを感じました。

UA Bock 167 は、多くのユーザーがビンテージないし高級な真空管マイクに求めるサウンドを満たした上で、モダンなサウンドやユーザーの好みにも対応できる設計とすることで、人によっては好みが合わない「ビンテージマイクの質感や個体差の要素」を選択できるようにした非常に実用性の高いマイクになっています。

アナログ回路でのサウンドの可変域の広さは他に比較する製品がなく、クラシカルなアナログハードウェアから UAD-2 やモデリングマイクまでを製品ラインナップに持つ Universal Audio においても、新たに加わったプロフェッショナル用マイクロフォンの代表として、非常に魅力的なポジションを確立したと言えるでしょう。

ビンテージに強い興味を持ち、幅広いソースにも対応したいというユーザーやスタジオにとって、今までにないほど実用的なマイクになっています。高騰し続けるビンテージ機材に求めるサウンドの本質について、正面から問いかけているような素晴らしい製品です。

写真:桧川泰治

門垣良則

奈良出身。サウンドエンジニアであり広義、狭義ともにプロデューサー。師匠である森本(饗場)公三に出会いエンジニアという職業を知る。師事した後、独学及び仲間との切磋琢磨により技術を磨きMORGを結成。当時の仲間の殆どが現在音楽業界の一線にいるという関西では特異なシーンに身を置いていた。大阪のインディーズシーンを支えるHOOK UP RECORDSの立ち上げ、運営に関わる。大手出身ではないが機材話で盛り上がり、先輩格の著名エンジニアとの交流は多い。自身の運営するMORGのスタジオを持ち、日本有数の名機群を保有する。中でもビンテージNEVEやマイクのストック量は他の追随を一切許さない。しっかりとメンテナンスされた高級スタジオ数件分の機材を保有している。インディーズレーベルに叩き上げられた独自の製作スタイルを持ち、二現場体制での対応スタイルはじめマスタリングアウトボードを通しながらのミックススタイルをいち早く採用している。近年はEVERTONE PROJECTを立ち上げてEVERTONE PICKUPやEVERTONE GUITARを開発している。

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