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Universal Audio : UAFX 開発者インタビュー[トーア・モーゲンセン&ジェームス・サンチャゴ]

1958年に創業し、以降の音楽録音の標準となるスタジオ機器を数多く生み出したユニバーサル・オーディオ。1999年に創業者の子息ビル・パットナムJr.によって再始動してからも、主にプラグインやオーディオ・インターフェイスなど“スタジオ基準”のプロダクツをメインとしてきた同社だが、2021年に満を持してペダル・シーンへの参入を高らかに宣言した。改めて同社が考えるペダルの哲学を掘り下げてみよう。(THE EFFECTOR BOOK Vol.60から転載)

奇妙な“ジャンプ”ではなく、必然的な動きだったペダル参入


アナログ・スタジオ機器の名機を忠実にデジタル化した“UADプラグイン”や“Apollo”シリーズのオーディオ・インターフェイスなど、主に音楽制作ツールで知られるユニバーサル・オーディオ(以下UA)。その同社が、いわばライヴ・ツールとも言える“UAFX”シリーズに舵を切ることができた原動力となったのが、同社シニア・プロダクト・マネジャーのトーア・モーゲンセンとジェームス・サンチャゴの2人だ。数々の楽器メーカーで辣腕を振るったベテラン・ペダル開発者2人は、UAというレガシーの先にどのような未来図を思い描いているのだろうか。※上の写真がUAのペダル・プロジェクトを取り仕切るシニア・プロダクト・マネージャーの2人。TCエレクトロニック出身のトーア・モーゲンセン(左)と、Line 6などで辣腕を振るったジェームス・サンチャゴ(右)

私たちのフィロソフィは100%、量より質なのです


- UAは主にプロフェッショナル向けのレコーディング機器やプラグインを開発しているメーカーであるとの印象があります。それだけに、ギタリストが足下に置くような仕様を備えた“UAFX”シリーズを発表したことに驚きました。

トーア・モーゲンセン(以下TM):“UAFX”のヴィジョンは、我々が以前より行なってきたレコーディング機器やプラグインのビジネスと同じアプローチを採用し、それをギター・エフェクトに対応させようというものでした。つまりハードウェアのパフォーマンスが良いのは当たり前で、優れたアルゴリズムやペダル全体のサウンドに関しても、今買える最高のペダルを作ろうということになります。多くのギター・プレイヤーは古いクラシックな機器に強い親近感を持っています。その点、我々はニーヴのチャンネル・ストリップ、EMTのプレート・リヴァーブ、さらには1950年代または1960年代の真空管アンプなど、ヴィンテージ機器のエミュレーションにおいては業界最高の企業の1つであると信じています。それに加えて、UAには驚くほど多くのギタリストが在籍しているんです。創設者兼オーナーのビル・パットナムJr.も実はギタリストなんですよ。だからギター・ペダルのビジネスを始めるというのは、外から見ると奇妙な“ジャンプ”のように見えるかもしれませんが、実はUA内部ではある意味必然的な動きのようにも感じられました。

- 2021年にスタートした“UAFX”シリーズは、順調にラインナップを拡充しています。この展開は当初から計画していたものですか?

TM:確かに多くのことが初期段階で計画されていましたが、素晴らしいアイデアや機会が生じた場合でも変更できるよう、ロードマップには常に余裕を残しています。しかし、UAFXペダルのような新しいプラットフォームを開発するには、明らかに時間とコストがかかります。そのためプロダクト・マネージャーや企業の立場としては、そのプラットフォームを使用して多数の製品を構築できるようにしたいと考えています。

- 同シリーズのコントローラーは非常にシンプルで優れたものですが、このプラットフォームを今後も踏襲していくわけですね?

TM:絶対にそうしたいです!(笑) 私個人としては、ヴィンテージ機器が皆に長く愛されている大きな理由として、そのシンプルさ、使いやすさ、そしてすぐに素晴らしいトーンを得ることができることだと考えています。たくさんの機能を好む、または必要とするギタリストがいることも充分承知していますが、私たちのフィロソフィは100%、量より質なのです。例えばUAのアンプ・モデリング・ペダルが1つのペダルで1種類のアンプのみをモデリングしている理由もそのためです。ペダルは3種類、4種類、5種類といろいろなモデルに適合する必要がありますが、そのためにトーンに妥協することは意味がありません。DSPの処理能力を最後の一滴まで絞りきって特定のアンプをエミュレートするようにしたいと考えています。そして、同じことがユーザー・インターフェイスにも当てはまります。ペダルごとに1つのアンプまたはエフェクトのみをエミュレートすることで、ユーザーがそのペダルを弾いたときに「そう、これこれ」と感じられるようにしています。ビルの言葉を借りれば、私たちは「インスタント・クラシック」を作りたいのです。

- “UAFX Woodrow '55 Instrument Amplifier”などアンプをシミュレートした機種は、いずれも1950年代〜1970年代の名機を元にしています。マーシャルなど他の有名アンプや、現代的なハイ・ゲイン・モデルをリリースする計画はありますか?

TM:残念ながら、現在我々がどのようなペダルの開発に取り組んでいるのかをコメントすることはできません(笑)。とはいえ、開発者として、またギタリストとして絶対に手に入れたくなるようなとてもクールで素晴らしいサウンドのアンプが世の中にはたくさんあり、UAFXの今後の製品化に係る選択肢であることは間違いないでしょう!

- ペダル単体だけではなく、“UAFX Control”アプリと連動したカスタマイズといった仕組みが導入されています。このアプリを開発するにあたってどんなコンセプトを立てましたか?

TM:ペダル本体は意識してとてもシンプルな操作性を追求しています。でも、当然ペダルの“内部”をより深く掘り下げて、特定の用途にピッタリくるようにカスタマイズしたいユーザーもたくさんいらっしゃいますよね。そういったギタリストに追加オプションを提供したいと考えました。しかしその反面、アプリを使わなくてもペダルを100%使えることも追求しています。その結果、特定の機能というものが絞られて、よりクールなものを深く調整できるようにしました。さらにいうと、“UAFX Control”もまだ発展途上と考えており、より多くのオプションや優れた機能をより技術に精通したユーザー向けに提供できるよう、アプリに新機能を追加することに常に取り組んでいます。

- “UAFX Control”アプリに関して、ユーザーからは(TCエレクトロニックの“TonePrint”のような)エフェクト・プログラムの更新や載せ替えといった機能も期待されているのでは?

TM:TCで16年間働いていた、“TonePrint”テクノロジーの「発明者」として一言いわせていただくと、ユーザーがエフェクトをさらにカスタマイズできるようにする方法については確かにたくさんのアイデアがあります。でもどこまでユーザーが触れるようにするかは、バランスが重要です。例えばジェームスが微調整して作り上げている、各ペダルの核となるトーンを作成するための完全なアルゴリズムやすべてのパラメータにユーザーが直接アクセスできるようにした場合はどうでしょう。却って、素晴らしい結果は得られないかもしれません。したがって重要なのは、ユーザーが望むサウンドと機能を実現するための充分なオプションを提供することであり、アプリ自体を混乱させて使いにくくするものを追加することではありません。

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▲黎明期のユニバーサル・オーディオ

特定の使用方法やサウンドにもう少し重点を置いた


- “UAFX Max Preamp & Dual Compressor”など新たに追加された3モデルは、機能面で少しシンプルになり、価格も抑えられています。これには、どのような理由、目論見があるのでしょうか?

TM:最初の3つのペダルは、これまでに世の中に存在した最もクラシックなディレイ、リヴァーブ、そしてモジュレーション・デヴァイスの最高のサウンド・ヴァージョンを提供するというエフェクトの“ワークステーション”として設計されました。エフェクトのベスト・ヒット曲集のようなものです。その点、今回の新しいペダル、特に“UAFX Galaxy '74 Tape Echo & Reverb”と“UAFX Del-Verb Ambience Companion”は、特定の使用方法やサウンドにもう少し重点を置いています。シンプルに見たままのサウンドが出てくるのを好むタイプのギタリストにも応えるように、意図的に設計しました。片や“Max”は、オプションが豊富でユーザーが探しているほぼすべてのタイプのコンプレッション・サウンドをカヴァーできる非常に拡張性の高いコンプレッション・ペダルです。最初のシリーズと 2 番目のシリーズの中間に位置するといってもいいかもしれませんね。

- “Max Preamp〜”の開発にあたっては、改めて“LA-2A”や“1176”などの実機を検証したことと思います。最終的にどの年代のどの個体が雛形となったのでしょうか?。

ジェームス・サンチャゴ(以下JS):“LA-2A”と“1176”については、UA社内にある“610レコーディング・スタジオ”に所有している様々なヴィンテージ・ハードウェアをベースにしています。“LA-2A”について開発チームは、かなり初期のモデルを使用しました。“1176”の場合は、最も価値あるヴァージョンとして定評あるヴィンテージのRev. Eモデルを採用しています。“1176”は長年にわたって改良が加えられながらも、誰もが求める新鮮なキャラクターを今でも維持しています。

- “Max Preamp〜”には、一般的なコンプレッサーが備えているスレッショルドの項目がありません。その理由を教えてください。

JS:“LA-2A”にはスレッショルドがありますが、オリジナルの“1176”にはスレッショルドがなく、入力レベルに依存します。一貫性を求めたので、“1176” のワークフローを使いながらも、“LA-2A”のサウンドを使用できるよう、ルーティングに小さな変更を加えたんです。トグル・スイッチを操作するだけで、両方のユニットで同じ設定をすぐに試聴できるため、“LA-2A”の使いやすさがさらに向上しました。

- “OPTO LA-2A”モードと“FET 1176”モードの違い、これらを使用する上でそれぞれにより適したシチュエーションを教えてください。

JS:“1176”はパンチの効いた速いアタックで知られています。クリーン・ギターやアコースティック・ギターのトランジェントをうまく処理します。おそらく多くのレコーディング・エンジニアがスネア・サウンドにも使用しているのはそのためでしょう。また“LA-2A” は、全体的に温かみのあるサウンドを持ち、トランジェントを扱う際に真空管回路特有の影響で処理速度が遅くなります。速くてきれいなリズム・パートをたくさん演奏する場合は、“1176”の方が向いているかもしれません。ただし、レガート・サウンドのような、よりソフトなヴォーカルを求めるなら、“LA-2A”がグッド・チョイスです。

- “1176”は「“RATIO”スイッチの複数押し」といった裏ワザもあったと聞いています。“Max Preamp〜”にもそのような機能はありますか?

JS:そのとおりです。“Max”にも「全部押し」を再現した“ALL RATIO”モードを用意してますよ。

- “OPTO LA-2A”モードに“RELEASE”パラメータを加えた理由を教えてください。

JS:オリジナルの“LA-2A”は非常に特徴的なリリース・カーヴを持っていました。しかし、1980年代から1990年代にかけて、特にハーマン社が所有していた時期に部品供給業者はフォトレジスターに微妙な変更を加えたんです。それぞれ個体差があり、モデルによって異なるリリース・タイムを持っていました。今回のペダルでは、異なるフォトレジスターのヴァリエーションを実現するために、パラメータを持たせたのです。

- “DYNA”モードはギター・プレイヤーを意識した機能であることが窺われますが、ベースや鍵盤、ヴォーカルに使うことは可能でしょうか?

JS:“DYNA”モードは自在に使えるでしょう。このモードのベースにしたのは、クラシックな赤い9Vタイプの“Dyna Comp”です。もしよりグランジで、ローファイなサウンドがほしいならば、まさにこれです!

- アタックやリリースの具合をLEDで視認できるのは非常に良いアイデアだと思いました。これは設計当初から考えていた仕様でしょうか?

JS:そうです。コンプレッサーを調整するときには、圧縮に入る直前の状態を確認するのが好きなので。ライトが緑色から黄色に変わるタイミングが、圧縮される瞬間の約1dB手前になります。でも、時々はすぐに赤色に点灯するような設定もしますね。遅いリリース・タイムの際は、赤色に点灯したままでサステイン状態が持続していることを知らせてくれます。

- “COMP 1”&“COMP 2”のシリーズ接続は非常にユニークな機能だと感じました。この設定で得られるサウンドはどのようなシチュエーションで最も効果を発揮すると考えていますか?

JS:自分の場合は“COMP 1”を少しだけブーストした、非常に軽いコンプレッション設定にします。スライド・プレイやアンビエントのコード・サウンドを得るためにノートを強調したい時には、“COMP 2”を追加してさらにコンプレッションを加えます。実は1970年代に多くのプレイヤーが、スタジオにある“1176”ユニットの実機を使って同じことをやるのが流行っていましたね。その中でも有名なのは、リトル・フィートのローウェル・ジョージです。

- “PREAMP”コントローラーは“610”プリアンプの“GAIN”部分のみを抽出したものですか?

JS:これは“610”プリアンプのストリップの特性のうち、高音域と低音域のキャラクターを調整できるようにしています。つまりチューブ・コンソールならではのハーモニック・オーヴァードライヴを付加します。アプリを使えば、高音域と低音域の周波数特性をお好みに合わせて調整可能です。自分はときどき“610”の艶のある感じを加えつつ、高音域を3dB強調したサウンドにするのが好きですね。

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▲同社が所有するヴィンテージ・スタジオ機器の数々

回路に隠された“魔法”をその音色を注意深く聴くことで探す


- 近年は様々なメーカーが「伝説的なテープ・エコー・マシンの復刻」に取り組んでいます。市場でライバルとなる製品が既に多数存在する中、“Galaxy '74 Tape Echo & Reverb”はどのようなゴールを目指して開発しましたか?

TM:自分もジェームスもオリジナルのローランド“RE-201 Space Echo”の大ファンで、でも正直に言ってそのオリジナル・ユニットの演奏感を完全に再現しているペダルは存在していないと思ってるんですよ。これは全体的なトーンについても当てはまります。“Space Echo”のサウンドが、ドライなギター・サウンドとどのように完璧にバランスがとられているかだけではなく、オリジナル・ユニットが自己発振するときの振る舞いやディレイ・タイムが変化するときの状態、さらにスプリング・リヴァーブのキャラクターなど、既に発売されている製品と比べても特筆すべき仕上がりになっていると自負しています。この製品の目標は、完璧な“Space Echo”の演奏体験を小さいペダルという形式とより使いやすいインターフェイスで提供するということでした。したがって、このペダルは基本的にオリジナルの“Space Echo”が行なうすべての機能をカヴァーしながらも、いくつかの利点も追加しています。例えば、さらに長いディレイ・タイム、タップ・テンポやスプリング・ リヴァーブの“DWELL”コントローラーなど。「スプラッター」なサウンドを実現するには最高ですよ(笑)。

- オリジナルよりも長いディレイ・タイムの実装は注目のポイントです。これに関してはどんなイメージで音色を調整したのでしょうか?

JS:オリジナルより長いディレイ・タイムを実装したのは単純な理由です。プレイヤーに約1秒のディレイ・タイムを与えたとすると、よりアンビエントでスペーシーなサウンドを実現できます。我々の誰もがそれを望んでいましたし、クールでしょう。音色に関しては、ヘッドの間隔をさらに広げるような検討をしました。今までも“EP-3”などのユニットを改造して、ヘッド間を3倍の距離にして長いディレイ・タイムを稼いでいるプレイヤーも存在しましたからね。例えばブライアン・メイは、1970年代に実際にやっていたと思います。オリジナルのハードウェアでは実現できないことを“Galaxy”なら実現できるわけです。

- オリジナル機は12パターンのヘッド・セレクトが可能でした。“Galaxy '74〜”では7パターンとなっています。その選考理由を教えてください。

TM:“Galaxy”には実際にはオリジナル・ユニットと同じ数のパターンがあるんです。唯一の違いは、ディレイとリヴァーブを意図的に分離したことですね。オリジナルでは4種類の「ディレイのみ」モード、7種類の「ディレイ+リヴァーブ」モード、1種類の「リヴァーブのみ」モードで合計12種類です。これに対して、“Galaxy”では7種類のテープ・ヘッドのモード(すべての可能な組み合わせ)があり、それらにリヴァーブを追加できるようにすることで合計15種類になります。つまり、7種類の「ディレイのみ」のモードと 7種類の「ディレイ+リヴァーブ」モード、さらに1種類の「リヴァーブのみ」モードで計15種類。これは、オプションの設定方法がオリジナルと少し異なるだけです 。私の意見では、この方がより直感的です。

- “TAPE AGE”や“DWELL”といった、テープ・エコーならではの効果に関して、どのような部分にこだわってチューニングしていきましたか?

JS:“TAPE AGE”はテープの劣化状態を再現していて、ワウ&フラッターのようなものに加えてテープの酸化物が摩耗することで生じる周波数特性の変化にもこだわりました。“DWELL”はリヴァーブ・タンクをどれだけ強くヒットさせるかの設定で、フェンダーが出していたスタンドアローンのヴィンテージ・リヴァーブ・ユニットを調節するのに似ています。

- “ALT”スイッチにより、少ないコントローラーで多彩なパラメータを調整できるのは良いアイデアですね。これはペダルのサイズという制約から生まれたものですか?

TM:そうです。ペダルにたくさんのノブが載っているのはよくありません。結局は煩雑になり、そもそも大きなサイズのペダルになってしまうでしょう。いくつかのクールなパラメータにアクセスしたいプレイヤーならば“ALT”スイッチでそれを可能にでき、逆に必要ないプレイヤーならば気にしなくていいわけです。

- 往年のメカニカル・エコーの再現を狙ったモデルに関しては、テープ・エコー部の精度に注目が集まりがちです。しかし、“Galaxy '74〜”はリヴァーブ・セクションの完成度も高いと感じました。

JS:“UAFX Dream '65 Reverb Amplifier”ペダルの開発中に思い付いた新しいテクニックを採用しました。“Dream”では真空管回路によるスプリング・タンクを再現しましたし、“UAFX Golden Reverberator”ペダルではタンクだけではなくその前後の回路も再現しました。我々は回路に隠された“魔法”をその音色を注意深く聴くことで探すわけです。

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▲UAの機器がラックを埋める同社のスタジオ

ディレイ&リヴァーブの「ベスト盤」をユーザーに届けたかった


- “UAFX Del-Verb Ambience Companion”は、“UAFX Golden Reverberator”と“UAFX Starlight Echo Station”をミックスしたモデルだと感じました。この機種はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

JS:“Del-Verb”ペダルのプロトタイプは、私自身で1年ほど前に作りました。我々の開発チームのほとんどが、“Golden”ペダルと“Starlight”ペダルの美味しいところを組み合わせた「即戦力」のディレイ&リヴァーブ・ペダルというアイデアをとても気に入ってくれましたね。

TM:ジェームスの言うとおり、マーケットにある最高のディレイ・ペダルとリヴァーブ・ペダルを1台にまとめることで、小さなペダルボードしか持っていないプレイヤーや1種類のディレイ&リヴァーブ・サウンドがあれば充分というプレイヤーに最適です。

- 2つのモデルをミックスするうえで、各モデルの機能の取捨選択はどのように行ないましたか?

TM:基本的にはディレイ&リヴァーブの「ベスト盤」をユーザーに届けたかったんです。とはいえ、内容はもちろんプレイヤーの好みやスタイルといったことに大きく依存することは理解していました。なので、任意の2つのエフェクトをユーザーが組み合わせられるようにしたわけです。ブルースやカントリー、サーフ・ミュージックのプレイヤーならば、きっと「テープ+スプリング」の組み合わせを選択するでしょうし、エディ・ヴァン・ヘイレンのファンなら「テープ+プレート」、ジ・エッジの信者ならば「Memoryman + Lexicon 224」というようにね。とはいえ、どんな組み合わせだっていいんです。もちろん“Golden”ペダルや“Starlight”ペダル単体に比べてコントローラーが限られているので、正直苦労しました。ペダルを常にシンプルにという基本的な考えからすると、このペダルには“ALT”機能は載せたくありませんでした。最終的には、我々のお気に入りのリヴァーブの多くにはノブが1つしかないのに対して、ディレイにはそのサウンドを得るために重要なコントローラーを多数持っているものがあります。特に「Memoryman」はそれが顕著です。そのため、ディレイのための5つのコントローラーとリヴァーブのための1つのコントローラーを採用しました。ただこれだとリヴァーブの調整に制限があるため、“UAFX”アプリ内に“VOICING”という新機能を追加しています。これは各アルゴリズムに対して、すべての隠しパラメータを調整する代替方法です。ユーザーは“Del-Verb”が持つ6種類のアルゴリズムに対して、異なる“VOICING”を付加できます。例えば多くのモジュレーションを伴う「Large Hall Reverb」から、暗い響きの「Echoplex」といったものまで代替ヴォイスを選べます。これはとてもシンプルで単純な方法でペダルをカスタマイズできる、とてもクールな方法だと自負してます。

JS:“UAFX”アプリを使うことで、必要なすべてのクラシック・リヴァーブの設定を可能にしています。プレイヤーはディレイに関しては各パラメータを微調整する傾向がありますが、クラシックなアンプのリヴァーブを考えれば、ノブは1つだけです。つまり、お気に入りの“SPRING TANK”、“224”、もしくは“PLATE”を設定しておいて、それを呼び出してミックスするのはとても容易です。

TM:先に述べたようにペダルのノブ数が限られている以上、「妥協」ともいえるかもしれませんが、このリヴァーブのシンプルさは逆に強みでもあり、心配し過ぎるほどではないと思っています。お気に入りのオールドのチューブ・アンプを弾くのと同じ感覚で、好みのこのペダルのリヴァーブ量を上げてみてください。あるリヴァーブ・アルゴリズムでもっと違う何かがほしいとなったら、ジェームスがたくさんの代替ヴォイシングを用意してくれてますので、“UAFX”アプリを使って簡単に試聴したり入れ替えたりできます。

- “Del-Verb〜”のルーティングは、ディレイ→リヴァーブのみですか?

JS:そのとおりです。これはクラシックな信号パスであり、リピートされるディレイ・サウンドがリヴァーブのディレイに溶け込む感じです。

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▲同社のスタッフ。カリフォルニアの本社のほか、コロラド、アムステルダムなどに160人以上の人員を抱える

レガシー・サウンドを確実に保存していつでも利用できるようにする


- ウェブ上で公開されているデモンストレーション動画では、イヴェット・ヤングやマディソン・カニンガムなど、新しい世代の女性プレイヤーをフィーチュアしているのが印象的でした。彼女たちに注目した理由を教えてください。

JS:なぜならイヴェットにしても、マディソンにしても、エフェクトの使い方もとてもクリエイティヴな素晴らしいミュージシャンだからです。私はもちろん彼女たちのファンですし、私たちがこのペダルで実現しようとしたことを彼女たちは完全に理解してくれています。彼女たちはクラシックなサウンドを新しくてフレッシュな方法でプレイしてくれていますよね。

- 御社のようなレガシー機器をメインに扱っているメーカー/ブランドにとって、新しい世代への継承やアピールをどのように進めていくべきだと考えていますか?

JS:私たちにできることは、そういったサウンドを確実に保存していつでも利用できるようにすることです。テープ・マシン、チューブ、バケツリレー・チップなど、古い技術はすべて入手することも修復することも難しくなってきています。今となっては実際にそういった技術を使うのは、もう過去のことといえるでしょう。でも次世代のプレイヤーにはそれらのサウンドを使って、可能性を拡張し続けてほしいですね。音楽の好みが変化していくことで、機材に求められることも変わっていくはずです。この辺りは注視し続けたいと思っています。

- “UAFX”シリーズを始め、今後もギター・プレイヤー向けの製品開発は積極的に行なっていくつもりですか?

JS:もちろんです。私たちのプロジェクトは、まだ始まったばかりで、これらから実現したいアイデアは山ほどありますから。

- 日本のペダル・ファンにメッセージをいただけますでしょうか。

JS:いつものサポートに感謝します。いつか必ず日本に行って、クールなギター・ショップをすべて訪問したいですね。

TM:ジェームスと同じく、日本にいる“UAFXファン”の皆さんのサポートと情熱、そしてみなさんがクリエイトするギター・トーンに感謝しています。実は日本は私のお気に入りの国の1つなんです。実際に家族と一緒に1ヶ月間の旅行を計画しているので、10月にあなたの美しい国を訪れることを楽しみにしています。

UAFXの可能性を広げるモバイル・アプリケーション


フット・スイッチの役割変更や音色変更・微調整が可能な専用アプリケーションをチェック!

インタビュー本文でも触れられている専用のモバイル・アプリ“UAFX Control”について簡単に紹介しておこう。

“UAFX Control”はiOS/Androidで駆動するモバイル・アプリで、Bluetooth経由で各ペダルの様々な機能を変更・調整できる(最初の登録はPC経由でモデルの認識が必要)。下の画像が新たにリリースされた3モデルのアプリ画面だが、例えば“UAFX Max Preamp & Dual Compressor”なら2つのコンプ・チャンネルのシリーズ/パラレル/エクスクルーシヴ(交互にオン&オフ)といった経路切り替え、プリアンプ部のEQ変更などが可能となる。“UAFX Galaxy '74 Tape Echo & Reverb”は、トレイルのオン/オフ、フット・スイッチの挙動(ディレイとリヴァーブ個別オン&オフか、まとめてオン&オフとタップか)などを選択可能だ。“UAFX Del-Verb Ambience Companion”はエコー部分とリヴァーブ部分のヴォイシングを選択可能。モジュレーションなども多彩で、さらに音色を深掘りすることができる。

本体単体でも充分魅力的なペダルだが、“UAFX”を味わい尽くすなら、ぜひとも活用したいアプリだ。

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▲左から“UAFX Max Preamp & Dual Compressor”、“UAFX Galaxy '74 Tape Echo & Reverb”、“UAFX Del-Verb Ambience Companion”のアプリ画面。フット・スイッチの機能変更などは実用性の高い機能だ。

取材・文:山本彦太郎

THE EFFECTOR BOOK Vol.60から転載

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