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Universal Audio : 青木征洋が弾く UAFX 1176 Studio Compressor

60年代以降、多くの名盤で使用されてきたオーディオリミッターの王者、Universal Audio 1176。そのパンチの効いた表現力豊かなトーンをもたらす、コンパクトなストンプボックス型のコンプレッサーが UAFX 1176 Studio Compressor です。ギタリストの青木征洋氏がその効果の程をチェックします。

より一層コンパクトでシンプルになった UAFX のコンプレッサー


UAFX 1176 Studio Compressor は先立って発売された UAFX Max Preamp & Dual Compressor の[FET 1176]にフォーカスし、小型化した、非常にコンパクトなペダルです。重量も軽くなり、より持ち運 びやすくなっています。

UAFX の廉価版/下位バージョンというよりは、品質はそのままに機能だけを絞ってシンプルで扱 いやすくしたものという印象で、スイッチをオンにした瞬間から 1176LN の非常に特徴的なコンプレッ ションを楽しむことができるようになっています。

UA によって厳選されたRev.Eの個体の再現

Universal Audio 製品となると、どのようなモデル、個体を再現したものなのかが気になるところで すが、UA が厳選した 1176 Rev.E の個体の音を再現しているとのことです。

しばらく弾いてみた感触としては、本当にわかりやすく強くかかるのが特徴で、普段レコーディング やミキシングの中で 1176 を触るのと何ら変わらない手触りを味わうことができると思います。

1176 に慣れていれば使い方には迷わない

1176 を使ったことがないギタリストにとっては、おそらくスレッショルドが存在しないことが面食らうポイン トで、もしかしたら直感的に操作できないかもしれません。このペダルは実機の 1176 同様、入力ゲインを 高めてコンプレッションの検出回路に信号をぶつけることでコンプレッションを発生させて音色を 作り、音量を出力ゲインで調整するというのが基本的な使い方です。

ATTACKとRELEASEは時計回りに回すと短くなり、反時計回りに回すと長くなります。1176 の特徴と して極端に速いアタックタイムが挙げられますので、ATTACKを左側に回し切っても、一般的なVCAなどのコンプレッサーと比べると非常に速い部類の設定になるでしょう。

アタック/リリース
▲ATTACKでアタックタイム、RELEASEでリリースタイムを調整する。右に回すほど短くなるのが特徴

RATIOは、文字通りレシオ(圧縮比)を選ぶというよりは、「音色を選ぶ」と表現した方がイメージに近いと思いま す。実機と同様に[4 : 1]、[8 : 1]、[12 : 1]、[20 : 1]の4種類があるのに加え、特徴的な音色が得られる定番 の全押し(ALL)、また本ペダルの特徴的な部分として、コンプレッションを行わず 1176 の回路のカラーだ けを加える[OFF]というモードが追加されています。

レシオ
▲RATIOを[ALL]にすると、最も強力なコンプレッションが得られる

入力の感度はエレキギターからの直接接続に最適化されているので、どこまで入力 を引っ張り上げてもコンプレッサーにヒットしないということはありません。使うギターやプレイスタ イルにもよりますが、いわゆる 1176 の定番セッティング(INPUT=10時、OUTPUT=2時くらい)でうまく動作するように作られています。

インプット/アウトプット
▲INPUTを10時方向、OUTPUTを2時方向にセットするのが 1176 の定番セッティングと言われている

またゲインリダクション量はLEDの色の変化で把握できるようになっていて、緑→オレン ジ→赤の順でコンプレッションが深くなっていきます。とにかく特徴的なかかり方をするコンプレッ サーなので、一番強くヒットさせても、緑の範疇で使っていたとしても、かなり露骨なコンプレッションを 感じることができます。コンプレッサーではなくディストーションの一種として使うのであれば、むしろ積極的に 赤を点灯させても面白いでしょう。

LED

3種類の接続モード

本ペダルには通常のSINGLEモードに加えて、2台の 1176 を直列接続した状態をシミュレートした モードが2つあります。1つはレッド・ツェッペリンのクランチを意識した[DUAL]モードで、もう1つはク リーンなサスティンを得ることができる[SUSTAIN]モードです。DUALとSUSTAINは本当に強く歪 むため、コンプレッサーとして捉えるよりは歪みエフェクトの一種として楽しんだ方がクリエイティブ な使い方ができそうです。SINGLE < DUAL < SUSTAINの順にコンプレッションは深くなっていき ます。

モード

パラレルコンプレッションも可能

これだけ強く速くかかるコンプレッサーだと、元々のアタック感、パンチが失われてしまうことが懸念 されますが、本ペダルにはPARALLELスイッチが付いており、Wet/Dryを50:50でブレンドできるように なっているため、潰れ過ぎを防ぐことができます。

パラレルスイッチをONにした状態でアウトプットを0にすると、信号が半分通過していることがわか ります。この状態で少しずつアウトプットを上げていくことで、原音に対して歪んだ信号を どの程度ブレンドするかを調節することができます。これは特にクリーンの音作りにおいて便利でしょう。

パラレル

まとめ

数あるコンプレッサーの中でも 1176 にフォーカスし、音質を犠牲にすることなく極限までシンプル に仕上げたこのペダルは、あらゆるギタリストのトランジェントを心地良く捕まえて揃えてくれる存 在と言えるでしょう。

写真:桧川泰治

青木征洋

作・編曲家、ギタリスト、エンジニア。代表作:ストリートファイターV、Bayonetta 3、Astral Chain、戦国BASARA3、FF15 Comrades、音ゲー楽曲(チュウニズム、GITADORA、太鼓の達人、Cytus II等)、G5 Project、G.O.D.。

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