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Universal Audio : マルチプレイヤーに聞く Sphere マイクモデルの使い分け

ボーカルトレーナーであり作・編曲家でもある奥村健介氏は、自宅の地下に構えるプライベートスタジオで Universal Audio のモデリング・マイク・システム Sphere L22 を愛用しています。ボーカル録音や様々な楽器における、マイクモデルの使い分け方を教えてもらいました。

録ってから色々変えられるのが Sphere を選んだ一番の理由


- 奥村さんはボーカルトレーナー/作・編曲家として活躍される一方、実はかなりのマルチプレイヤーだそうですね?

はい、メインは歌ですが、ギターも弾くし、ベースもキーボードも管楽器も何でもやります。舞台の劇伴の仕事が多いので、このスタジオで音源を作って音響さんにお渡しするのですが、生楽器の需要が結構あって。それが僕のアイデンティティでもあるので、大体はここで演奏して録ってミックスして、完成形まで持っていきます。予算がある時は、外のスタジオで弦楽器やドラムを録ったりもしますが、そういう時もマイクなどの機材は持参します。

- それでこのスタジオには機材が豊富に揃っているのですね。

はい。オーディオインターフェイスは Universal Audio Apollo 8、DAWは Studio One を使っています。マイクは以前は AKG C414 の古いモデル、その前は Blue Microphones Baby Bottle を使っていて、そこからのステップアップで Sphere L22 を選びました。僕の歌声は低域が出がちなので、スッキリした音質で高域がチリチリした感じのマイクが欲しくて C414 を選びましたが、思ったより高域のクセが強くて。なので Sphere L22 が発売されるのを知って、「これだ!」とすぐに飛びつきました。当時は漠然と新しいマイクが欲しかったのですが、“録ってから色々変えられる”というのが Sphere を選んだ一番の理由です。最初は主に歌とアコギの録音に使う予定でしたが、購入した後にステレオ録音でも結構使えるということに気がついて、アンビや弦楽器を録る時によくステレオで使っています。

Apollo 8
▲オーディオインターフェイスは Universal Audio Apollo 8(ラック上)

- 録ってから色々変えるのは、よりしっくりくるマイクモデルを求めてですか?

マイクモデルがEQ代わりというか、キャラクター作りのような形で使っています。声や楽器との相性や、楽曲との相性、楽器の編成によっても最適なマイクモデルは変わります。アコースティックな編成なのか、打ち込みベースなのか、いわゆるロックバンドなのかといった違いで変わったりしますね。録音前に決めるよりも、録音後にマイクモデルを変えてみるという使い方が楽しいです(笑)。

- 録音時はどのマイクモデルでモニターしているのですか?

昔、外のスタジオを使わせてもらった時に Sony C-800G をよく使っていたので、耳が慣れているという意味で、歌を録る時は LD-800(C-800G のモデリング)をよく使います。実際に実機と同じニュアンスで歌えます。C-800G は C414 とは違う高域のチリチリ感に特徴があるのですが、低域もしっかり出るし、単純に自分の好みなんです。そういった、求めている C-800G のキャラクターにしっかり応えられる Sphere はすごいと思います。

LD-800
▲Sphere マイクロフォンに付属するプラグイン、Sphere Mic Collection。マイクモデルの変更や、指向性、AXIS(角度)、PROXIMITY(近接効果)などの調整がここで行える。画像はマイクモデルに LD-800 を選択したところ

- 録音時に Sphere Mic Collection 以外のプラグインを何か挿しますか?

Universal Audio 1176 Classic Limiter をモニターに軽くかけたりはします。Unison には何も挿さず、素の状態で録るようにしています。

- アコギの場合はどのマイクモデルが合いますか?

ギタリストの清永アツヨシ氏と様々なマイキングを試したことがあったのですが、sE Electronics X1 をオンマイクで立てつつ、Sphere をステレオでオフマイクにすることがあって、そういう時は SD-451(AKG C451)が多いですね。質感を少し落ち着かせたい場合は、リボンマイクの RB-4038(Coles 4038)がしっくりくる時もあります。よく12フレットあたりからホールを狙うと言いますが、僕はピックのカチカチした音があまり好きではないので、ボディ側からホールを狙うようにしています。そうすると木の音がしっかり録れることが多く、それプラス、ギター全体の音をオフマイクで狙うとうまくいきます。

アコギ
▲アコギのマイキング。今回はオンマイク(音源から10cmほどの位置)に Sphere LX、オフマイク(音源から30cmほどの位置)に Sphere DLX を使用した。DLX はダイアフラムを90度横に向けることでステレオ録音が行える
guitar
▲オンマイク側には LD-47K(左)、オフマイク側には RB-4038(右)をアサインした

- では管楽器の場合は?

トランペットだと、高域の痛いところをマイクが拾ってしまうことが多く、そういう場合はリボンマイクを使います。最近追加された RB-121(Royer R-121)が結構しっくりきました。わりと落ち着いた音で録れます。トロンボーンだともう少しハッキリさせたいことが多いので、リボンマイクの RB-77DX Umber(RCA 77DX)にします。管楽器にはリボンマイクがしっくりきますね。コンデンサーマイクだとどうしても痛いところが目立ってしまい、2〜4kHzあたりがちょっと耳につくことがあるんです。楽器の個体の特性もあると思いますけど、金属の良くない鳴りが出てしまいますね。

トランペット
▲トランペットのマイキング。音源から20cmほど距離を取り、斜めからベルを狙う。マイク1本でも十分だが、アコギと同様、写真のようにステレオのオフマイクを加えてみてもいい
トランペット
▲トランペットには2種類のマイクモデルをミックスできるDUAL機能を活用。リボンマイク RB-4038 と チューブマイク LD-67 をセレクトし、MIX ノブでミックスバランスを調整する

- SNSには弦楽器を録音する様子も投稿されていました。

その時は Sphere でチェロを狙いました。バイオリン2本は Neumann TLM103、ビオラは X1 、アンビを C451 で録りました。

- 他にはどんな楽器を Sphere で録りますか?

トイパーカッションやカホン、シェイカーなどはわりと録ります。カホンは LD-67(Neumann U67)で背面のホールを斜めから狙い、打面を狙ったもう1本のマイクと混ぜてみたのですが、音像が近過ぎる感じがしたのでホールを狙うマイクだけにしました。それで十分にいけましたね。

カホン
▲カホンのマイキングは打面の反対にあるホールに向ける。全体の音像を拾うため、10cmほど離して斜めに狙うのがポイント

- 他にお気に入りのマイクモデルは?

とりあえず DN-57(Shure SM57)、あとはシンガーの憧れとして LD-87(Neumann U87)は使います。LD-49K(Neumann U49)は低域がちょっとスッキリしている感じがボーカリストに受けたりします。Neumann U67 も前に仕事で実機を使ったことがあって、そのモデリングの LD-67 を試してみたら「ああこれこれ!」って思いました。

Sphere LX はサイズ感が持ち運ぶのに丁度いい


- Sphere Mic Collection では距離感や角度などが調整できますが、こうした機能はどんな時に使いますか?

ステレオで録った時はLRの開き具合を調整したり、歌だとマイクとの距離感を調整したりします。あとリフレクションフィルターによる影響を IsoSphere で調整することもあります。僕は Alctron PF8pro と PF8 というリフレクションフィルターを持っていて、物によっては高域がかなりロールオフされてしまうのですが、舞台の稽古場で録音する時などは響きがすごい状態になるので、どうしても使う必要が出てきます。だけど IsoSphere を使ったら、そのクセも気にならなくなってビックリしました。

- リフレクションフィルターの効果が強力であればあるほど、IsoSphere を使う意味がありますね。

本当にそうですね。ちなみに、sE Electronics Reflextion Filter Pro を2つ、Sphere を囲うように左右に立てて、アコギの音を反射させてマイクに向けて集めるという録り方をしたことがあります。こうすると散っている音が集まって、結構いい音で録れました。その時はモノラルのマイクを立てなくても、Sphere のステレオ録音だけで十分でした。

- アコギ以外ではどんなパートをステレオで録りましたか?

パーカッションやクラベスなんかも録りました。クラベスは響きがないとすごく情けない音になるんです。そういう時も Sphere をステレオでオフマイクにすると響きが丁度よく録れました。カーペットを取っ払って、響きを吸い過ぎないようにしましたね。あと、バーバーショップ・ハーモニーという4人でやるアカペラを、ボーカリストの Tommy と2人で立ち位置を変えて重ねてみたのですが、それも良かったですね。1stと3rdを先に録って、立ち位置を変えて2ndと4thを歌う。マイクの位置を固定することで、4人で歌っているような響きが録れました。本来は4人が同じ空間で歌わないと響かない和音があったりするので、そういう感じを狙って立ち位置を変えてみたんですけど、そこそこいい結果が出ました。

タンバリン
▲タンバリンをステレオで録る際はマイクモデルに SD-451 をセレクトしている

- ところで、新しく発売された Sphere DLX は、性能的には Sphere L22 と同じですが見た目が刷新されました。

高級感が出ましたよね。L22 も高級ではありましたけど、DLX はよりシックな感じになって。あと付属品も、シールドがより丈夫になっている。前のシールドはヘナヘナでちょっと頼りなかったので...。長さも3mから7.5mに伸びたのがいいと思います。こういうプライベートスタジオだと、7.5mもあればコントロールルームからブースまでダイレクトにつなぐこともできますから。3mだとどうしても、キャノンの長いシールドをかましたりしないと届かなかったので。

- コンパクトサイズの Sphere LX も登場しました。

このサイズ感がいいですね! 持ち運ぶのに丁度いいと思いました。ステレオ録音には対応していないようですが、アコギや歌を外に録りにいく時には便利そうです。重量が軽いので、それほど頑丈なマイクスタンドがなくても安心して使えます。重いとどうしてもマイクがお辞儀してしまうので...。サウンドもチェックしてみましたが、DLX との違いは感じませんでした。

Sphere L22、Sphere DLX、Sphere LX
▲左から Sphere L22、Sphere DLX、Sphere LX

- Sphere はどんな人にオススメですか?

知り合いのボーカリストが「新しいマイクが欲しい」と言うので、Sphere で色々なマイクモデルを試してもらって、どのマイクにするかを検討したんですよ。結構悩んだのですが、結局「Sphere があればいいじゃん!」という結論に至って、購入したということがありました。なので、僕は結構友人に Sphere を勧めています。ギターで言えば Variax みたいなもので、いろんなモデルが試せますからね。同じ人でも曲によって合うマイクも違うだろうから、それをマイク1本立てた状態で色々選べるというのは本当に便利です。

奥村健介

写真:桧川泰治

奥村健介

ボーカルトレーナー、作詞作編曲家、楽器全般。ミュージカル「アラバスター」「りんご」音楽監督。NTVドラマ「東京タラレバ娘」作詞作編曲。theだいじょぶズ サウンドプロデュース。ドリフェス!、飯田里穂、逢田梨香子、吉武千颯、熊田茜音、堀内まり菜etc歌唱指導。

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