マイクスタンドに設置できることが決め手になった
- ナカシマさんの楽曲制作において、モニタースピーカーはどれぐらい重要なツールなのでしょうか?
オーディオインターフェイスの次くらいに大事ですね。今は基本的に録音された音楽を作るのが仕事ですけど、それは僕がもともと映像ディレクターの仕事をしていて、次第に音楽制作がメインになっていったからなんです。正攻法で作曲を学んだのではなく、ポスプロの延長で必要に迫られて音楽を作り始めたので、僕にとっての音楽制作の起点は「ミックス」なんです。いかにセリフを邪魔しないように音楽を作るか、音楽が前に出る場面ではどう出すかっていうところからいつも発想しています。もちろんキャッチーなCM音楽を作る時はメロディから先に考えますが、それも全体のバランスを取りながら作っていくのでモニター環境はすごく重要ですね。ただ、モニタースピーカーは場所を取る機材なので、なるべく小型で、上の帯域から下の帯域まできちんと出るものを求めていました。
- 今まではどんなモニタースピーカーを使っていたのですか?
以前はとあるメーカーの同軸スピーカーをスタンドに設置していたんですが、部屋が狭い上に他の機材を置く場所も必要なので、もっと小さいスピーカーが欲しかったんです。それで IK Multimedia iLoud Micro Monitor を導入しました。iLoud Micro Monitor は底にネジ穴があるので、卓上型のマイクスタンドに取り付けて、高さを上げ下げできるようにしたら使いやすくなりました。設置の自由度と聴いた時の気持ち良さが決め手になりましたね。
- 意外なところが決め手になりましたね。サウンドの印象はどうでしたか?
周りでも評判が良かったし、楽器店で試聴した時、「これスゴイ! ちっちゃいのにすごく下まで出る!」と思って。サイズが小さいから外に持ち出せるのも嬉しいですね。あと、最近は iPhone や iPad のスピーカーのような、リスナーが聴く環境でチェックすることも重要なので、「ほどほどのレンジ感で聴けるモニタースピーカーで作曲した方がいいのかな?」という気持ちになっていたんです。それで、しばらく iLoud Micro Monitor だけで作業をしてみたんですが、さすがにナレーションの細かい歯擦音とか、ハイハットやシンバルの「バシーン!」っていう音とかは、サイズ的に十分にチェックできなくて。それで上位機種の iLoud MTM を借りてみたら、音の雰囲気は同じなのにレンジが上下に伸びていて、低音もバシッと定まるというか、打ち消し合わない感じがしたんです。試しにゲームにも使ってみたら、すごく迫力があるし、レンジが広いからメチャクチャ気持ち良かったです。サブウーファーもなしに興奮するサウンドが出てきたので、これがいいんじゃないかと。レイアウトも色々試したうえで導入を決めました。
- iLoud MTM もマイクスタンドに設置できますからね。
僕は土台がかなり重い卓上スタンドを使っているので、本体が動いてしまうこともないし、今のところ振動が気になることもありません。浮かした状態に近くなるのか、机に直置きした時やスピーカースタンドに置いた時よりも、いい感じに鳴ってくれています。
繊細過ぎないサウンドでモニターしたい
- iLoud MTM のサウンドの印象はいかがですか?
繊細過ぎない感じですね。高域成分が細かく見え過ぎると、それが気になって作業に支障をきたしたり、だんだん耳が疲れてきてしまうことがあるんです。緻密過ぎないことが僕には合っていました。全体的に元気のいい感じだと思います。
- オーケストラや複雑なアレンジの作品だと、繊細なサウンドチェックが必要になりませんか?
顕微鏡で見るように、細かくモニターをすることに疲れてしまったのかもしれません。ある程度そういう作業に慣れてくると、ある程度想像がつくというのもあります。モニターの出音は生々しければいいわけではなく、ボケてはいないけど繊細過ぎないサウンドであってほしいんです。以前、外のスタジオでとあるメーカーのスピーカーを聴いた時、ツイーターにすごくチリチリした印象を受けたんですけど、その場にいたエンジニアさんやミュージシャンの方々は誰も気にしていない様子で。プロの方々の聴き方と乖離し過ぎているんじゃないか……と思って、悩んだ時期もありました。制作の環境をスタジオに近づけるのではなく、自分が作りやすく、気持ち良い音で良いんじゃないかと考えるようになりました。そういった経験があったからこそ、iLoud MTM がいいというところに落ち着きました。
- セッティングの際、内蔵の ARC System でキャリブレーションはしましたか?
背面のフィルターは使いましたけど、ARC System は使いませんでした。一度試した時に、確かにフラットに調整されたんですけど何か違和感を感じて。この部屋のような、あまりにも音響的な調整がされていない環境でキャリブレーションをすると、違和感が出てしまうのかもしれません。それに、ゲームをやった時にカッコいいと思えたそのままの状態で、リファレンス曲を日常的に聴くことで耳を慣れさせていった方がいいと思って、そのままにしています。
- フィルターはどんな設定にしていますか?
ローが[−3dB]、ハイが[+2dB]で、キャリブレーション/プリセットは[DESK]、センスが[−10dBV]です。低音をスッキリさせていますね。音響設計をやっている友人に来てもらった時、「この天井高だとすっごい低音溜まるよ」って言われて、多分130Hzくらいが溜まって、ワンワンと響き過ぎちゃうんですよ。そのままだと低音が出過ぎちゃうので、フィルターでカットしました。曇りを取るためにハイはちょっと上げていますけど、耳に痛くなることはないですね。
- 他に iLoud MTM で作業をしていて何か気がついたことは?
クロスオーバーを感じることがないですね。以前、2ウェイ・バスレフ型のスピーカーを使っていた頃は、EQを調整している時にスピーカーのクロスオーバー的なものを感じることがありましたが、iLoud MTM では感じることがないですね。すごくいいことだと思います。
- 最終ミックスまで iLoud MTM で作業するのですか?
そうなることもあります。本当はエンジニアさんにミックスをお願いしたいんですけど、全部が全部そういうプロジェクトではないので、ある程度時間をいただいて自分でミックスまでやることはあります。そういう時は iLoud MTM と iLoud Micro Monitor の両方で確認しつつ、iPad や iPhone で聴いてみてチェックをするという感じです。
ナカシマヤスヒロ プロフィール
日本在住の作曲家。
ゲーム音楽や現代音楽に影響を受け、10代からコンピューターを使った作曲を始める。
大阪芸術大学映像学科在学中に映画・映像作品のための作曲法を独学。ドイツの映像制作会社との仕事をきっかけに、国内外問わず様々なCM映像やTVドラマの音楽制作の依頼を受けるように。
日本人離れした音作りの感性と、欧米人から「オリエンタル」と評される個性が共存した独特の作風に定評がある。
http://www.yasuhironakashima.com