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MORLEY : 20/20 〜未来的ペダルの進化系〜

画期的スタイルのワウ・ペダルを次々に生み出し、ギター・エフェクト・シーンに旋風を巻き起こしたモーリー。 創業50周年を迎えたことを機に、同社のペダルの最新ヴァージョンや新機能を有するモデルが“20/20”シリーズとしてラインナップ。さらなる高音質化と使いやすさを追究した逸品の数々に迫る!!

先鋭的ペダル・メイクの深化


Overview of 20/20 Series

1969年、レイモンドとマーヴィンのルボウ兄弟によって設立されたTel-Ray Electronics社は、当初様々なメーカーの製品をOEMで製作していたが、レスリーのロータリー・スピーカーをシミュレートした機器を製作したことを機に、モーリーというブランドを立ち上げ(“レスリー=Less-lee”に対する“モーリー=More-lee”という言葉遊びらしい)、オリジナル製品を作る路線へとシフトしていく。'70年代にモーリーが発表したワウ・ペダルは、クロームに輝く大型の筐体がインパクト十分で、しかもワウに他のエフェクト機能を一体化させたモデルが多いという点でも他ブランドとは一線を画していた。

世界的にエフェクターの小型化が進んだ'80年代に入ると、モーリーのワウ・ペダルもよりコンパクトな筐体に変身して使いやすくなり、プロ・ギタリストの間でも愛用者が続々増えていった。そしてスティーヴ・ヴァイの意向を取り入れた、スイッチを踏み込む必要なくスムーズにワウのオン/オフを 切り換えられるスイッチレス・ワウ“Bad Horsie”の誕生により、モーリーの評価は決定的なものとなる。現在に至るまでマーク・トレモンティのようなシーンのトップを走る数々のギタリストたちが愛用。ペダル・ブランドとしての信頼感はもはや揺るぎないものがある。

そんなモーリーがこの2020年に新たにリリースしたのは、“20/20”と冠された最新ペダル・シリーズだ。前出の“Bad Horsie”を始めとして、既存モデルを再構築した上で甦ったモデルも多いが、その一方で“Wah Lock”という完全ニュー・モデルも登場。なお“Volume Plus”のみワウ機能のないヴォリューム・ペダルだ。全10機種、細かなスペックは様々だが、以下のような特徴が共通している。

①コンパクトな筐体に統一
 ※奥行177.8×横幅114.3×高さ69.9(mm)

最新の“20/20 Classic Switchelss Wah”(左)と、先行ヴァージョンの“Classic Wah”(右)を並べると、そのサイズの違いが分かるはずだ。

②暗い場所でも視認性の高い蓄光素材をペダル部分に使用

フット・ペダルに配されたモーリーのロゴには蓄光素材が使われている。暗いステージ上でも視認性は抜群だ。

③電池入れ替えが容易なバッテリー・ボックス
 ※全機種とも9V電池または9Vアダプター(300mAセンターマイナス)で駆動

筐体背面の電池ボックスは、従来のモデルよりも内部の電池にアクセスしやすい形状となっている。

上記のうちいくつかはこれまでに発表されているモデルですでに実装されていたが、この“20/20”シリーズで改めて「現在のモーリー製品の特徴」をアピールする意味も強いのだろう。また新開発のバッファー回路を活かした機種も多く、ペダルを多数接続した時の音質劣化などといったトラブルを防止している。小型化によって持ち運びが楽になり、音質も向上するなど、すべての面がブラッシュ・アップ。モーリーがこれからのギター・シーンに対して見据えているヴィジョンを具現化したようなシリーズだ。

モーリーはこれまでにA/Bセレクターなどのエフェクター周辺機器も多数発表してきたが、基本的にワウ/ヴォリューム・ペダルにこだわり続けている。その上で多機能なモデルをヴァラエティ豊かにラインナップするという方向性は、黎明期から変わっていない。ペダルをいかに便利に使うか、どんなシチュエーションで使うかと、ギタリストの多様なニーズを長年に渡って考慮した上ではじき出されたモーリーなりの“正解”が、“20/20”シリーズなのだと言える。「モーリーのワウはあなたの望むように使ってください」と同社スタッフは語っていたが、現にギター/ベースに留まらず、ピアニストやヴァイオリニストなどにもモーリーのワウを使っているプレイヤーが多数いる。モーリーはあらゆるミュージシャンの需要を満たす努力を惜しまないブランドなのだ。

KANAMIが“20/20”全10機種を徹底試奏!!

個性豊かな“20/20”シリーズの魅力をより理解してもらえるよう、ヤング・ギターの公式サイトおよびYouTube公式チャンネルでは、ここで紹介する全10機種のデモンストレーション動画を公開している。映像内では、モーリーのスイッチレス・ワウを普段から愛用しているBAND-MAIDのKANAMIが各モデルを使って弾き倒した上で、それぞれの機能的ポイントを分かりやすく解説してくれているので、ぜひチェックを!!


20/20 Bad Horsie Wah MTBH2

20/20 Bad Horsie Wah MTBH2

新生したモーリーの代名詞

一般的なワウのようにポットをギアやベルトで回すのではなく、独自のオプティカル・センサーでコントロールするため、ポットの劣化によるノイズとは無縁。さらにフット・ペダル部分にスプリングが仕込まれ、踏んだ瞬間にオンに、足を離した瞬間にオフになる。これらの画期的な仕様を採用した“Bad Horsie”こそ、モーリーの代名詞的なモデルだ。その最新ヴァージョンに当たる“20/20 Bad Horsie Wah”は、名機として名高い“Bad Horsie 2”の機能を完全継承し、ノーマルとCONTOURの2モードを搭載している。

ノーマル・モードでは、フット・ペダルを目一杯踏み込むと超高域の手前辺りを思い切りよくプッシュし、強烈なワウ効果を生み出すが、同時にギターの実音のニュアンスを損なわないため、フレーズは常に明確に聴き取れる。この暴れさせながらも明瞭なサウンドというのが“Bad Horsie”らしさであり、引いてはモーリー製ワウ伝統のトーンと言える。

さらにスイッチでCONTOURモードをオンにすると、本来1.8kHz付近まで効く周波数帯を400Hz付近まで下げられる。特にダウン・チューニングする場合など、低音を重視したサウンドで弾くシチュエーションには最適だろう。LEVELとCONTOURの2つのノブを使って、弾く機材や環境に合わせて音色を緻密に整えられるという機能もユーザー・フレンドリーだ。

CONTOUR WAHスイッチを踏むと周波数帯が変化すると同時に、CONTOURノブとLEVELノブが機能する。ノーマル状態のワウよりもさらに緻密な音作りができる。

20/20 Wah Lock MTG3

20/20 Wah Lock MTG3

3モードのワウを使い分け

“20/20 Wah Lock”は3つのモードを搭載した、モーリーの最新型ワウ・ペダルだ。通常のモードはモーリー標準のスイッチレス・ワウ。本機はLOUDノブを上げることによって最大20dBのブーストが可能なため、フット・ペダルを踏み込むとサウンドが突き出るような感覚を覚える。この時点で「このペダルは使い勝手が良い」と実感したが、本機が本領発揮するのはここから。

グラフ

ワウを逆さに読んだ“うわぁ”という名前を冠したWHOAモードは、オンにするとワウの効く周波数帯が1段階低くなる。ダウン・チューニングしたギターや多弦モデル、さらにはベースの音域にもマッチするだろう。このWHOAモード時にLOUDノブで目一杯ブーストした時の超重低音には思わずのけぞってしまう。

最もユニークなのがWAH LOCKモードだ。スイッチを踏んでこのモードを選択するとフット・ペダルが効かなくなり、その代わりにNOTCHノブで設定した周波数を反映したワウ・サウンドがオンになる。従来スイッチレス・ワウで半止めワウ・サウンドを使いたい時はペダルをずっと足で押さえておく必要があったが、これなら足を離してもOKなのだ。WHOAモード時にもWAH LOCKを組み合わせられるので、本機ならではのヘヴィな半止めサウンドを活用してみるのも良いだろう。

WHOAモードは筐体左下のスイッチを踏むことでオンになる。その上はブースト効果を設定するLOUDノブ。WAH LOCKモードではNOTCHノブで深さを設定し、その下のスイッチを踏んでオンにすると、フット・ペダルを踏まなくてもワウ効果がかかるようになる。

20/20 Classic Switchless Wah MTCSW
20/20 Lead Wah MTLW

MTLW/MTCGW

“スタンダード”の進化系

“20/20 Classic Switchless Wah”は、かつて'70〜'80年代にモーリーが生産していたワウ・ペダルのサウンドを再現したモデルだ。元々同社には“Classic Wah”というモデルが存在していたが、基本的にはこのペダルのサウンドを受け継ぎつつ、スイッチレス仕様にヴァージョン・アップしたと考えれば良いだろう。

フット・ペダルを踏んでオンにしてみると、他の機種よりもさらに明確に、高域の尖り具合と噛み付くような迫力が強いという印象を受けた。そのテイストはまさに“クラシック”で、ファンキーにカッティングした時の“チャカポコ”とした音の変化が、昔ながらのワウといった趣だ。しかしながら効きがエグすぎることはなく、ワウ初心者にも扱いやすいサウンドに調整されているのが好印象。また半止めした時の押し出し感は少々まろやかな質感で、様々な場面で多用したくなる。

続いて“20/20 Lead Wah”は、特にサウンド調整用のコントロール類が一切付いていないという点で“20/20 Classic〜”と近いが、こちらはリード・プレイに最適化されているという特徴を持っている。これを読んだ方の多くはリード用とは具体的にどういうことだろう?と思うだろうし、筆者も実際に手に取るまでは分からなかったのだが、フット・ペダルを目一杯踏み込んだ際に納得。ワウの効く周波数帯が他のモデルに比べてやや高めに設定されているのかもしれないが、従来のワウとは押し出し感とクリアさが違う。「ここぞ!」というフレーズで踏み込むと、原音の輪郭を整えたワウ・サウンドがグイッと前に出て、リスナーに印象付けることができるのだ。もちろんリフやバッキングに使うのもありだし、クリーンでカッティングした時に感じるモーリーらしいキレの良さも絶品だが、ことハイ・ゲインでリード・フレーズを弾く時の楽しさは格別だ。

ペダルを戻し気味にした状態でも倍音の抜け方が非常に心地好く、音がこもってフレーズがアンサンブルに埋もれてしまうリスクは皆無。歪みやブーストといった機能のないシンプルな設計だが、むしろ他のエフェクトを組み合わせなくとも、この1台があればリード・ワウ・サウンドを完成させられるという安心感がある。

スイッチレスのフット・ペダルを踏み込んだ瞬間にワウがオンになり、インジケーターが点灯する。オン/オフの状態を目で確認できるため、「オンにしたと思ったら上手くスイッチを踏めていなかった」というワウにありがちなトラブルとは無縁だ。

20/20 Power Fuzz Wah MTPFW
20/20 Distortion Wah MTPDW

20/20 Wah Boost MTMK2

ワウと歪みの完全融合

ここでは歪みペダルとしての機能を搭載したモデルを3機種紹介しよう。まず“20/20 Distortion Wah”は、その名の通りにディストーションが内蔵されたモデルだ。モーリーには元々“PDW-Ⅱ”という人気機種があったが、ここに採用されていた歪み回路を再設計してゲインを高め、さらにトーン回路も見直されている。

フット・ペダルを踏み込むと通常のスイッチレス・ワウとして機能し、 DISTORTIONスイッチを踏むと歪みがオンになる。ワウと歪みを同時にかけることもできるし、ペダルを踏まなければディストーション単体で、スイッチをオンにしなければワウ単体で使えるため、ペダルボードの省スペースにも役立つわけだ。ディストーションの歪みの質は、オーヴァードライヴ的なナチュラルさと適度なミドルの押し出し感を持っており、TONEノブとDIST DRIVEノブの操作で倍音の抜けを良くしたり、広域をばっさりカットしたりと、幅広い音作りに対応している。この機能を組み合わせることで、本来ワウ単体では出し得ないサウンドを生み出すことができるわけだ。またDIST LEVELの増幅量も大きく、ブースター的にアンプの歪みを引き出す使い方もおすすめ。

これに対してワウとファズを一体化したのが“20/20 Power Fuzz Wah”。やはりファズ部分を単独で使うことができ、しかもヴィンテージ/モダンの2モードを使い分けられるという、ファズだけ取っても十分な多機能ぶりだ。前者は音がけばけばしく尖った王道ファズで、後者は'70年代以降のモデルのようにディストーションに近い歪み。歪みの深さを調整するINTENSITYを低めにすると昔ながらのブースターのような使い方も可能で、WAH LEVELノブで歪みとワウの音量調節をできるというのも便利だ。通常ワウとファズを同時に使う際は、インピーダンスの関係などで本来の歪みが得られないなどの問題が発生することも多いが、本機を使えばその2つを悩むことなく同時使用できるわけだ。

“20/20 Wah Boost”はよりシンプルな設計のモデルで、ワウをオンにすると同時にブーストがかかるようになっている。BOOSTツマミで最大20dBのクリーン・ブーストが可能だ。ブーストをマックス状態でかけるワウ・サウンドは図太く強烈の一言。アンプの歪みをクランチ程度にセッティングした状態でも、このペダルを踏み込むだけで一気にリード用ハイ・ゲインに切り替えることもできる。逆にBOOSTを低めに設定しておいて、オンにした時にオフ時より音量が下がるよう設定すれば、オーヴァードライヴ状態で弾くバッキングからすかさずカッティング向きのクリーン気味なワウ・サウンドに切り換える…という使い方も効果的だろう。

20/20 Distortion Wahは、DISTORTIONスイッチを踏むと歪み機能がオンになり、ワウと組み合わせられる。歪み量を設定するDIST LEVEL、歪みの質を決めるDIST DRIVE、音色を調整するTONEと、単体のディストーション・ペダルと同等のコントロールを搭載。
20/20 Wah Boostは、歪み機能搭載モデルとしては最もシンプルで、ペダル以外のコントロールはブースト量調節ツマミのみ。

20/20 Volume Plus MTMV2
20/20 Power Wah Volume MTPWOV

20/20 Power Wah MTPWO

MTPWOV、MTMV2、MTPWO

非スイッチレス・ワウのペダル群

“20/20 Power Wah”はスイッチレス・タイプではなく、オン/オフ・スイッチを踏むことでワウ機能を作動させるモデルで、モーリーが'70年代に生み出した同名機種の最新ヴァージョン。強力なバイト感がありつつ、決して暴れすぎず使いやすいモーリーらしいワウ・サウンドを主体とし、さらに最大で20dBブースト可能なWAH BOOSTノブを搭載しており、パンチ力のあるワウ効果を得られる。

さて、本機を試奏してみて、モーリーが何故スイッチレスだけでなく、オン/オフの都度スイッチを踏むタイプのモデルを生産し続けているのか、その答えの一端が見えた気がした。例えば、一般的なワウで半止めサウンドにするには、フット・ペダルを押し込んでから任意のポジションに戻して半止め状態を設定するわけだが、フレーズの途中で半止めにしたい場合は、極めて素早くペダルを動かして位置を決めなければいけないため、非常にコツの要る作業となる。しかし本機の場合、あらかじめペダル・ポジションを固定してからスイッチでワウをオンにできるから、瞬時に望み通りの半止めサウンドに切り替えられるわけだ。本機のようなモデルは、こういったイコライザー的な使い方においても簡便さを追究したからこその仕様なのではないか…と感じた次第。

さて続く“20/20 Power Wah Volume”は、サウンドの性格に関しては“Power Wah”と同系統だが、さらにヴォリューム・ペダルの機能をプラスしていることがポイント。ワウとヴォリュームはスイッチの一踏みで切り替えできる。ヴォリューム・ペダルはフレーズごとの音量調節、歪み具合の調節、ギターを持ち替える際の消音などに役立つが、とかくワウと一緒に使うとなるとスペースを大きく消費してしまうもの。その点このペダルがあれば、2つの機能を簡単にコントロールできるわけだ。

“20/20 Volume Plus”は今回紹介したペダルの中で唯一ワウ機能のない、純粋なヴォリューム・ペダルだ。モーリーならではのオプティカル回路を用いている…つまり回路にポットを用いていないため、一般的なヴォリューム・ペダルのような音質劣化やノイズの心配とは無縁。実際に試奏してみて、ギター本来の音を損なわず音量変化する、その高音質ぶりには脱帽させられた。またMINIMUM VOLUMEノブで最小時の音量を設定しておくこともできる。ペダルを上げ切った状態でも音が完全に消えない状態に設定できるので、バッキングとソロで音量を変えるようなシチュエーションで重宝するだろう。

20/20 Power Wahは、WAHスイッチを踏むことでワウ機能がオンになる。さらにWAH BOOSTノブを操作することでブースト量を決定。
20/20 Volume Plusは、MINIMUM VOLUMEノブでペダルを上げきった状態での音量(=最小の音量)を設定。MIN VOL ON/OFFスイッチをオンにするとこの設定が反映される。

モーリーの誇る歴代の名機たち

初期のモーリー製ワウ・ペダルは大きな土台とクローム・メッキの筐体が特徴で、ルックスの面でも他ブランドと差別化が図られていた。写真は“Power Wah Fuzz”。
ロータリー・スピーカーのシミュレーター・ユニットとワウが合体した“Rotating Wah”。モーリーの多機能へのこだわりを象徴するようなモデルだ。
モーリー製ワウの金字塔とも言えるスイッチレス・ワウ“Bad Horsie”。後に機能を追加した2代目も登場。
ジョージ・リンチのシグネチュア・モデル“Dragon 2”。これ以外にも多数のアーティスト・モデルをラインナップ。
エフェクターのさらなる小型化という市場の流れを察知し、超コンパクト・サイズの"Maverick"も発売された。


解説:安保 亮、Akira Ambo
撮影:竹澤 宏、Hiroshi Takezawa

※ヤング・ギター2020年10月号の掲載記事より転載

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