Universal Audio : ヒューマン・エレメント ~ ラップトップ・ポップに UAD で魂を与える SOHN

SOHN が UAD プラグインと Apollo x8p インターフェイスを使い、個性豊かなラップトップの交響曲へいかにして「人間的要素」を注入しているかについて学びましょう。

SOHN こと Toph Michael Taylor は、2枚の素晴らしいアルバム Tremors (2014年)と Rennen (2017年)において、甘く優美なネオソウル系ボイスで、エレクトロニカ・サウンドに荘厳なロマンチシズムを注ぎ込んでいます。現在、スペインはバルセロナ近郊に居を構えるイギリス人の彼は、Michael Jackson と Radiohead を聴いて育ち、後に Tom Waits や Paul Simon といったストーリーテリング系ソングライターのとりことなっていきました。しかし、彼のラップトップによる音楽制作への情熱と洞察力は、その存在を非常に特異なものにしています。

ここでは、Taylor が自身の Apollo x8p と UAD-2 Satellite を使い、鮮明かつ大きな存在感を放つ楽器のサウンドをプレートやデジタル・リバーブで包み込む方法と、自らのボーカルサウンドをエディットして未知の楽器のように扱う手法について、詳しく語ってくれました。

- 多くのプロデューサーにとって、リバーブは時に「アイシング」のような存在ですが、あなたのサウンドにおいてはとくに欠かせない要素であるように思えます。

まず、私はいつもバスでリバーブを掛けながらボーカルを録っています。これはとても重要なことで、あとからリバーブを掛けるのが好みではないんです。歌のニュアンスにリバーブが反応して欲しいんですよね。

長い間、この方法でレイテンシーなしに収録することは難しかったのですが、UAD と Apollo を使えばリバーブを最初からサウンドの一部として、リアルタイムでかけ録りすることができるんです。

- 有機的なプレートリバーブと、シネマティックなデジタルサウンドの質感がうまくブレンドされていますね。

今は Lexicon 480L Digital Reverb を多用しています(笑)。UAD プラグインの多くは本格的なスタジオで見慣れた伝説的機材を基にしていますが、私はそれらがどのように機能するのかをずっと理解していませんでした。UAD プラグインを使って名機のことを調べていくうちに、どんなことができる機材なのかが分かるようになったんです。

480L はすごくクールで大事な、どこか謎めいた箱のように見ていました - そこでエンジニアに尋ねてみると「これはリバーブだよ」って教えてくれたんです。480L は、単体で聴いてしまえば必ずしも最高の響きとは言えないのですが、ミックスで使うと驚くほど素晴らしいサウンドになりますね。

このことはとてもいい勉強になりました。単体で最高の鳴りをするリバーブではなく、ミックスにうまく溶け込んでくれるリバーブが素敵だな、って感じたんです。それから私は 480L をあらゆるものに使うようになりました。

- リバーブのタイプによって用途は異なりますか?

プレートはそれ自体が楽器のようなものですね。すべてのボーカルパートにプレートリバーブを使っていますよ。また、Lexicon のような他のリバーブは、例えばドラムにおける短いゲートリバーブ、あるいはすごく余韻の長いロングリバーブが欲しい場合など、特定の場面で使います。

ルームやホールを使ってしまうと、ミックスの音場を管理するのがとても難しくなります。ある時点で、すべてがどこにあるのか分からなくなってしまうんですよね。

- 空間を演出するために、他にどのような UAD プラグインをお使いですか?

Ocean Way Studios も大好きで、とくにドラムマシンに自然なアンビエンスを与えたい時に使います。EMT 140 Plate ReverberatorAKG BX 20 Spring Reverb も気に入っていますよ。基本的に、UAD のリバーブは全部使っていますね(笑)。

とはいえ、Lexicon 480L はいつも使っていて、私が作業をしていると、必ず誰かが肩越しに「そのリバーブは何だい?」って尋ねてくるんです。もし UAD プラグインを1つだけ買えるとなったら Lexicon 480L だね、と多くの人が言っていますよ。

UAD のチャンネルストリップは頭と心に響いてくるんです。気分を高めるために使っていますよ。

- 私は非常にドライなドラムミックスにおいてリバーブを使い、セカンドスネアやクールなパーカッションヒットを「ポップアウト」させるあなたの手法が好きです。

そのために、たくさんオートメーションを書いています。フィジカルコントローラーのノブをリアルタイムで回しながら、すべてのトラックを通して人間的な要素を加えていくんです。そうするとトラックの動きに大きな違いが出てくるんですよ。

例えばスプリングリバーブをスネアに70%送るところから始めて、それを途中で完全に消したり、30%に戻してから10%に下げるなど、すべて瞬間的に、感じるままやっています。これは古くからのスタジオでアウトボードを使って作業をする場合に行っていることだと思いますが - オートメーションを書くというよりも、音を聴き、リアルタイムに反応して、リバーブを増減する瞬間を見極めているんですよね。本当に楽しい作業のひとつです。

- 興味深いのは、スタジオでよくライブバンドと共演されていらっしゃる点です。ラップトップを駆使した制作の達人と言えるあなたの作品から考えると、ちょっと意外でした。

いつもフルバンドでレコーディングをしているわけではありませんが、SOHN として活動を始めた頃から私はライブバンドを迎え制作をしています。ラップトップ内で多くのことを行ってはいますが、1人でラップトップミュージックをやっていると何かが欠けてしまう可能性も含まれるということは認識しておくたいですね。

例えばラップトップを使った場合、楽曲全体を手早く構築し、「ドラムはそこで、ベース、シンセ、ボーカルも入った、完成!」と簡単に思い込むことができます。しかしグリッドに沿って行われるだけのプロセスでは、すごくスクエアなやり方になってしまうでしょうね。

とくにパソコンのキーボードでパートをトリガーしたり、コーラスセクションをまるごと複製して曲を作ったりなんかすると、人間的な要素を忘れがちです。

- プレイヤーの皆さんはどのようにして制作に参加するようになったのでしょうか?

最終的には、私のライブバンドでベースシンセを演奏してくれているキーボードプレイヤーの Albin Janoska にベースを抜いた状態の曲データを送り、私の演奏を参考にして弾いてもらいました。4~5テイクほど録ってもらってから少し即興をお願いし、私がまとめます。そうすることで、私がやったままよりもずっと良い感じになって、多くの人間的要素が加わるんです。

一般的に、素晴らしい音楽というのは、4~5つの異なる個性が互いに語り合うことから生まれます。その会話の側面が、音楽を面白いものにするんです。今日のコンピュータミュージックの時代においては、そういったことが軽視されがちですけどね。

- ラップトップで制作を始める方へ、アドバイスをお願いします。

上達のための鍵は、習慣的にやっていることを避けるために、何らかの要素を取り入れることです。新しいインストゥルメントやプラグイン、生演奏など、未知の要素を作品に注入できるものなら何でも構いません。

陳腐にならないよう、使う機材をたまに変えたり、他のプレイヤーと一緒に作業をするなど、サプライズ的な要素を作業に取り入れることはとても健全なことですよ。

API 560 Graphic EQ で音を少し汚すだけで、驚くほど存在感のあるサウンドがすぐに得られます。

- "The Wheel" で聴くことのできる、ボーカルのスタッター処理はどうやったのですか?

"The Wheel" を書いた時のことは鮮明に覚えています。あれはすべて波形をカットして作りました。「dit, de-dit, de-dit」というリズミカルなメロディーが浮かんだためキーボードで演奏したかったのですが、適当な音色が見つからなかったので2つの音(G#と短3度上のB)を別々に歌い、あとでチョップしようと考えたんです。しかしいざレコーディングをしてみると、なんだか無意識的にG#からBに音程がスライドしてしまい、それが曲全体のイントロになったんですよね。その後それらを真ん中でチョップして他でも使えるよう2つのノートに分け、さらにその上で別の音程を歌うことによって、チョップしてコピペしたものとあわせて3声のハーモニーを作り、リズミカルに配置していくことでちょっとしたリフが生まれたんです。実に自由なやり方でしたね。

- 適当なシンセサウンドが見つからないなら、代わりにボーカルを使うということですか?

そう。良い楽器をあまり持っていなかったんです。例えば、頭の中で音のアイデアを思いついたはいいもののソフトシンセで狙った音が得られない場合、自分の声で代用し、パーツを重ね合わせてから、切り刻み、アレンジしていきます。すべては納得いくシンセサウンドが見つからなかったところや、イマイチと感じる部分を補うためです。

楽器からアイデアを得られないと思った時にはいつもそうしています。トラックのアイデアを思いついたら土台を作ってみて、あとでシンセやギターに置き換えることを考えたりもしますが、ほとんどの場合はボーカルバージョンを採用していますね。

- マスターバスと個々のトラックにはどういった処理を行っていらっしゃいますか?

Studer A800 Multichannel Tape Recorder をほぼすべてのトラックにインサートして、典型的なマルチトラックテープのマナーで使用しました。すべてのトラックでテープに落とし込んだサウンドをシミュレートするためです。マスターバスでは緩やかなマスタリングコンプのために API 2500 をたいてい使っています。ミックスをバウンスする場合には、通常 Ampex ATR-102 Mastering Tape Recorder を挿して、Precision Limiter を追加し、ピークに届かないよう気を配りながら、レベルを少し上げています。

- UAD のプリアンプやチャンネルストリップを通した録音は行っていらっしゃいますか?

UAD のチャンネルストリップは大好きです。多用するのは API Vision Channel Strip や UAD Neve 88RSSSL 4000 E Channel Strip で、Unison を使ったかけ録りもしていますよ。SSL はほとんどのボーカルトラックで、プリアンプを含めたチャンネルストリップの全セクションを使っています。私は UAD のチャンネルストリップが頭と心、両方に響いてくるように感じています。これらのプラグインを使う理由は、ただただ気持ち良くなれるからですね。「ああ、このサウンドを今すぐ SSL のチャンネルストリップに通してみたい」みたいにね。

- 最終ミックスを考えて、プリアンプの選択や調整を行っているのですか?

最終ミックスで意味をなすかどうかは分かりませんが、曲を作っている時点では先程言ったように感情的なつながりがあるので、感じるままにプラグインを挿し、作業を続けていきます。

あと、これは気持ちの問題ですが、プラグインのユーザーインターフェイスの見た目も演奏に影響しますよね。プラグインのフィール、サウンド、ルックスとクリエイティブな瞬間を共有できるのが気持ち良いんです。

- UAD プラグインの中で、あなたにとってなくてはならないものとは何でしょう?

頼りにしているものどれか1つ、と言われたら、API 560 Graphic Equalizer です。あらゆるものに使っていますよ。私がレコーディングするサウンドは、はじめは滑らかで丸みを帯びているので、ほんの少しエッジと中域感のある、ハイファイではないものにしたいなって思うことが結構あるんです。

そんな時には UAD API 560 を使い、低域をカットして中域を強調し、手早くサウンドキャラクターを変化させます。API 560 で少し汚すだけで、驚くほど存在感のあるサウンドになるんです。プラグインなしではもう生きていけないですね。プラグインが私と、私の音楽に多くのことを与えてくれています。もう、プラグインと結婚するつもりですよ!

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