預言者ノストラダムスがダンスミュージックの台頭を予見できていたなら、おそらくジューク、トラップ、サザンヒップホップ、インテリジェントハウス、ソアリングするリードシンセ、そして Flosstradamus(a.k.a. Curt Cameruci)によるオープンで力強いサウンドを定義するEDMがフロアをロックすると想像したことでしょう。
Flosstradamus は2012年に Major Lazer "Original Don" のリミックスによってトラップ・ミュージックの人気を押し上げた後、2015年のフルアルバム Hdynation Radio をはじめ、Dillon Francis、Post Malone、Young Thug、Matt&Kim など、多くの作品においてプロダクションおよびリミックス・クレジットを積み上げてきました。Flosstradamus は世界的なDJとして知られていますが、Cameruci の豊かな想像力は、各地のダンスフロアを沸かすことと同様に、UAD プラグインと Apollo 8p インターフェイスによって Ableton Live から折衷的なサウンドを生み出しています。
- あなたのミックスは常に開放的なサウンドステージが特徴的ですが、ドラムとベースによる激しさも同居しています。音場を広く保ちながらパンチも維持するにはどうすればよいのでしょう?
エレクトロニックミュージックでは、自分自身でサウンドステージを構築していく必要があります。マイクを立てることもないからルームサウンドなんて存在しませんよね - つまり、「人工」で環境を作り上げる必要があるんです。実際、私も奥行きや広がりを得るために、昔ながらのレコーディング・トリックを多用していますよ。
例えばステレオトラックの信号を左右のトラックに分割します。そして UAD Precision De-Esser、あるいは SPL Transient Designer プラグインを使い、それぞれのトランジェントを別個に調整していきます。
これによってミックスに奥行きや広がりが生み出され、リスナーにコントラストを感じてもらうことができます。仮にモノラルで再生しても、あながちその効果が見えなくなってしまうわけではありませんが、別々に処理されたステレオトラックにおいてはミックスがきちんと伝わるでしょうね。
- 特定のリバーブを頼りにされていらっしゃいますか?
多くのリバーブプラグインには依然としてある種のデジタルっぽさを感じます。しかし UAD の Lexicon リバーブは何かとても自然に聴こえるんです。UAD Lexicon 224 と、お気に入りの Lexicon 480L Digital Reverb は最高ですよ。これまで使ったことのあるリバーブの中で、これら2つは最もリアルに感じられます。私は絶えず旅をしているので、イン・ザ・ボックスの仕事には最適ですね、いつも愛用しています。
UAD Oxford Inflator は常に私にとってのチートコードです。
- ミキシングにパンチの効いたアプローチでリバーブを機能させる秘訣はありますか?
そうですね - とくにリードシンセではリバーブをいつもプリントしています。もちろん、レコーディング中にはドライにしていますが、リバーブを思い通りに決められたら Ableton に再レコーディングするため、その段階でもうセンドすることはありません。リバーブがプリントされた実際のオーディオトラックができ上がるんです。
こうするとオーディオファイル自体に多くのドープな処理を行うことができますよ。例えば、ある時にはカットをするでしょう - 基本的にはハードなゲート処理、ほとんどの場合はリバーブのセクション全体をカットしたりします。本当にクールな効果を生み出しますよ。もちろん「不自然」ではありますが、リスナーの注意を引きつけられるんです。
- "2 MUCH" にはそれを感じられる部分が含まれていますか?
ええ。リバーブをカットする瞬間があります。ソースのサウンドとリバーブがオーディオトラックに一緒にプリントされるようになったために、多くのことが可能になりました。
- 他にお気に入りのトリックはありますか?
ひとつはリバーブをさらにでっかくしたい場合、あるいは何か異なるキャラクターが欲しい場合に、すでにあるリバーブに別のリバーブを加えてオートメートすることです。
ちょうど今取り掛かっている曲があって、そこではリバーブを本当に細かく切り刻んでいます。カットしてからオートメーションを使い、フェードインさせるんです。するとリバーブは次のサウンドにフェードインしていきますよね - 多くの人がリバースさせたリバーブをボーカルに使うトリック、リバース・リバーブに近い効果です。しかしエフェクトのないトラックへリバーブサウンドをフェードインさせていくことで、シンセが頭からヒットする感覚を持ち合わせるんですよ。
これはリバースではなく、フェードイン前のリバーブテールから得られたものです。とても不自然で奇妙なリバースっぽい働きをするんですが、ユニークで、リスナーの注意を引くものとなってくれますよ。
Oxford Dynamic EQ は新しく、現代的なツールですし、私も現代的な音楽を作っているわけです - モダンなツールを使わない手はないでしょう?
- しかし、まだ伝統的なリバースサウンドもお使いですよね?
何かが起きようとしているという緊張感とエネルギーを生み出しますから。とくにスネアのヒットなどに対しては、これほど良いものはありません。そういったものには使うでしょうね。
しかし非リバースのリバーブを使い、それをカットしてフェードを加える、また特定のオートメーションを与えることで、何かクールな動きが得られるんですよ。サイドチェインのコンプレッション効果のように、そうやってほんの一瞬を抜き去ることでリードのアタックが実際発生するタイミングでリバーブが引き離され、リードはドライの状態になります - その後やや不自然な形でリバーブが追いかけてくるんです。
- あなたは UAD Oxford Inflator の大ファンとのことですが、私にもその理由が分かります!
もはや魔法ですよね。私は自分のサウンドを手早く簡単に良くしてくれるプラグインの大ファンなんです。誰もが望んでいるもの - チートコードだと思いますよ!UAD Oxford Inflator は常に私にとってのチートコードであり、これまでリリースしたすべての楽曲で使ってきました。「最高の」EDMサウンドを得るには、極めて効果的です。
私は現在、サミングのためにハードウェアの Dangerous Music D-BOX を使っています。これはミックスをあたたかくするのに大きな差を生むと考えているからで、実際、Apollo 8p の8つの出力を D-BOX に送っています。UAD Oxford Inflator はこれらの出力すべてに使われているため、Apollo からのシグナルチェーンにおいて最後の重要なパートのひとつとなっています。
より明確に言えば、Apollo から4組のステレオペアを出力しているので、もう少し幅を得るができるんです。ときどき、キックやベース素材のローエンドのために、Apollo から3組のステレオペアとふたつのモノ出力を行うこともあります。いずれにせよ UAD Oxford Inflator は、信号が Apollo から D-BOX に出る前の最終段で使っています。ただただサウンドを良くしてくれる、究極のチートコードですね。
- マスターバスでは普段どんなものをお使いですか?
UAD Oxford Limiter は実際マスターバスに最適で、UAD プラットフォームに対応する以前からダンスミュージックやEDMにおける代表的なリミッターだった点は興味深いですね。
数多のドラムンベースのプロデューサーや私の周りの人たちが Oxford Limiter を使っていて - まさに「唯一無二」でした。私が思うに「Inflator 風の」持ち味があって、Inflator が行うことと同様にサウンドを強化する働きをし、ディテールを浮かび上がらせてくれます。通常はとてもスローなアタックでいき、すべてのキックが通れるようリリースを適切に設定していきます。それからエンハンスメントスライダーを調整すれば、あらゆる情報と詳細が見えてくるんです。ピークもカットされ、ラウドになりますよ。
- ソースの微調整にはどんなEQをお使いですか?
最近は Oxford Dynamic EQ を使っています。調整あるいはブーストが必要な周波数スペクトルが存在する場合にその帯域をうまく収められるので。このEQはトランジェントを検出して反応するので、臨機に強化を行ってくれますよね。
また、Oxford Dynamic EQ は、これまで使用した中で最もクリーンなEQです。トランスペアレントなサウンドが特徴で、非常に早く、素晴らしい結果を得ることができるので、もう狂ったように使っていますよ。
- とても現代的なツールです。1970年代に欲しかったというロックエンジニアもいるでしょうね。
EDMの素晴らしい点は、ルールブックがないところにあります。私ももちろん、ロックエンジニアの仕事から多くのことを学びました。しかし多くの場合において、このジャンルにそういったアイデアを持ち込んだところで必ずしもうまくいくことはないと気付かされます。これらのトリックは本当に素晴らしいものです、ミックスで「行うべき」スタンダードなトリックなのです。一方で、EDM、ヒップホップ、およびトラップミュージックのクールな点は、ルールがないこと、つまり、独自のやり方を通せるというところにあるんですよね。
Oxford Dynamic EQ は間違いなく新しい、現代的なツールですし、私も現代的な音楽を作っているわけです - モダンなツールを使わない手はないでしょう?
エキサイティングな新しいテクノロジーに出会った瞬間は、いつでも皆チャレンジを強いられますよね?かつてはスタジオでバンド全体をフェーダーで調整し、気持ちや個性を付加していくのがどれだけクールで素晴らしいことだったかを私たちは知っています。けれども2019年においては机上のコンピューターひとつで非常に「簡単」かつ「迅速」に多くのことが実現可能となっています - それらは音楽制作において、私が本当に好きなふたつの言葉なんです!
- James Rotondi