英国で高い評価を受けているエレクトリック・ポップ・バンド Glass Animals のボーカリストであり、プロダクションとソングライティングを担う Dave Bayley は、そのプロセスについて非常に明解に語ります。しかしそれは2010年の Glass Animals 結成前に、彼が医学の学位取得のため勉強に励んでいたことを考えれば驚くことではありません。2014年のバンドのデビューアルバム Zaba は全世界で50万枚以上を売り上げ、シングル "Gooey" は、アメリカでプラチナディスク認定されました - 続くセカンド How to Be A Human Being では2016年のマーキュリー賞にノミネートされ、Bayley は "セルフ・プロデューシング・アーティスト・オブ・ザ・イヤー"、"アルバム・オブ・ザ・イヤー" と2つの MPG 賞を獲得したのです。
R&Bとヒップホップへの愛情、ギターと Ableton Live による巧みなタッチによって、Bayley は 6lack、DJ Dahi、Lianne La Havas、Flume をはじめ、多くの都会的なアーティストたちとの共同制作やコラボレーションを楽しんでいます。そして Adele や Rihanna のプロデュースで知られる Paul Epworth の傍で手法の一部を学んだ彼は、数年前に⾃⾝のスタジオを構え、UA ハードウエアと UAD プラグインの世界に飛び込みました - 今日、それらは Bayley の繊細なプロダクションにおける中核となっています。
- あなたの曲作りについて教えてください。ガチガチなギターロックでもなければ、多くのダンストラックのように無制約でもない、とても⾃由な印象を受けます。
多くの場合、Glass Animals の⾳楽は、僕がまだずっと若い頃にフリーマーケットで手に入れた安物のナイロン弦のスパニッシュギターから始まります。そのギターをまずは弾いてみるんですよ - 歌詞の断片やそれに合うメロディーが浮かんだりすることもありますし、時には良いものが見つかるまで適当にコードを弾いてみたりするんです。
それからギターとボーカルだけで曲の⼤まかなスケッチをします。とは⾔っても、ギターとボーカルだけで最初から最後まで曲を書いたことはめったにないですけどね。どこかで⾏き詰まった時にはやっているものを Abelton Live に突っ込んで、そこから発展させていきます。ギターとボーカルのコーラスパートぐらいしかなかったとしても、Abelton Live であればいろんなサウンドで実験ができますし、ヴァースのアイデアも出てきて、それが曲を向かうべき方へ導いてくれるんです。
- プロダクションにおいて、⽣演奏のドラムやパーカッションとサンプルをどのように組み合わせていらっしゃいますか?
ドラムサンプルを多⽤するんですが、そのほとんどは⾃作です。しかし他のミュージシャン、とくにバンドをプロデュースする際には⽣演奏のドラムが当然多くなります。僕が理想としているライブドラムサウンドの基準は、ドイツのバンド、Can の Jaki Liebezeit なんですよ。彼たちのドラムサウンドはとにかく素晴らしかったし、僕はそれを⽬指しているんです。
しかし Glass Animals ではパーカッションの素材はサンプルになることが多いですね。でもそのサンプルだってたいていは⾃分で録⾳したものですよ。スタジオにいる時は、いつもさまざまなマイクをスタンバイしています。ハンディー・レコーダーも持っていて、ボーカルのアイデアが浮かんだらすぐに録⾳できるようにしています。常に録音用としてセットしてある Neumann U67 も同様ですね。
スタジオ内で何か良いパーカッシブなノイズとして使えそうなものを見つけたら、すぐにそれを叩いてみます。あるいはもしパーカッシブなサウンドについてのアイデアが頭に浮かんだのなら、自宅のスタジオを走り回って、脳内のサウンドにマッチする調理鍋やら何やらを探すこともありますよ。個人的にはパーカッションを旋律楽器のようにも捉えていますから、パーカッションであれ、ドラムのビートであれ、それ自体がフックとなるものでないとダメなんです。もちろん、純粋に実用的なものが必要となる場合もあるんですけどね - それはともかく、僕はキャッチーなドラムビートが好きなんです。
- その興味深い考え方の中で、ギターの位置付けについてはいかがでしょう?⼀般的なトーンではないですよね。
すべてはギターから始まるので、制作が進むにつれ、いくつかはそのままであったり、作り直されたりするものも出てきます。オリジナルのパートは取っておきますけどね。"Youth" という曲が良い例です。ギターはラップトップのマイクで録られており、良くない状態だったものですから、コンピューターでギターに聴こえなくなるほどまでいじりまくったんです。そういったことはよくしますね - 多分レコーディングの時はいつもあれこれ急いでいるからですね!
- ありふれたものでないギタートーンを模索する際によく使うトリックのようなものはありますか?
ワウペダルを好んでよく使いますし、そのコレクションもたくさんあります。しかし従来の使い⽅はあまりしていません。多くの場合はバンドパス・フィルターとして使い、すべてのパートにわずかなノッチを足して、それらをフィルタリングしていきます。すべてのギターにコーラスをかけるのも好きですね。少し輪郭をぼやかして、サウンドを広げるためです - そうすることでギターサウンドを一歩後ろに引かせ、存在感を薄められるんです。ギターを主役にすることって、めったにないんですよ。
- 最近スタジオでお使いの UA ギアを教えてください。
UA 6176 Vintage Channel Strip に、アウトボードの 1176 コンプレッサーが挙げられます。通常、ギターはアウトボードの Neve 1073 から 1176 を通ってコンピューターに入ります。6176 はベースに使いますよ。素晴らしいベースギターチャンネルです。
自宅には UAD Satellite OCTO がありますし、外のスタジオではいつも Apollo をリクエストしています。とても分かりやすく頼りになりますし、もちろん UAD プラグインが使えますから。
- 最近お気に入りの UAD プラグインは何でしょうか?
すべてのアンプシミュレーターを楽しんでいます。アンプサウンドのさまざまな可能性を試せることは本当にクールだと思いますね。例えばギターバンドと仕事をしている際はDIを介して直接プラグインし、コンピューター内のギターアンプであれこれいじりまわします。
今とくに気に入っているのは Fender ʼ55 Tweed Deluxe プラグインで、いつも使っています。⾯⽩いことに、Glass Animals でライブをする際は Fender ツイードを使うので、6台ぐらいを持ち回っているんですよね。UAD プラグインバージョンは実機と比較しても素晴らしいサウンドですよ。
- UAD のベースアンプはお使いですか?
ええ。ベースやサブシンセといったローエンドの素材は、Ampeg B-15 bass amp と Thermionic Culture Vulture の実機を通してリアンプするのが好きなんですが、今では両⽅を UAD プラグインでも持っていますので、ずっとラクですね!信号にあたたかさと重みを与えてくれますし、たとえソフトシンセであってもオーガニックなサウンドを維持しながら倍音成分を付加してくれます。ほとんどのデジタル・ディストーション・プラグインでこれを実現するのは難しいことなんですが、UAD バージョンはうまく機能してくれるんです。
- 頼りにしていらっしゃる UAD のチャンネルストリップは?
SSL 4000 E Channel Strip もいつも使っていますね - これはほとんどのチャンネルに適していると思います。EQがとても多才なので、ボーカルによく使います。特定の周波数を効果的にカット、あるいはプッシュできるんですが、⾳楽的で気持ち良いんですよね。ほとんどのデジタルEQではギターサウンドで 500 Hz 辺りを 15 dB 上げたりするとひどいことになるんでしょうけど、UAD の SSL Channel Strip はなぜか良いんですよ!
実際、サウンドに何か⾜りないと感じた時は SSL E Channel Strip です。ランダムに周波数を2つ選んでQを回し、ブーストさせ、何かを得られるまで周波数を微調整します。たいていこれでうまくいきますし、ちょっぴりエッジも効いてきます。そして忘れてはいけないのが SSL Buss Compressor - 僕のミックスバスでのスタンダードな「接着剤」としていつも働いてくれていますよ。
UAD Moog Multimode Filter XL プラグインもよく使います。とくにタムやローリングドラムが入るトラックではね。Moog Filter で処理されたタムが満載の "Life Itself" という曲を聴いてみてください。ハイエンドをフィルタリングしながら、求めている荒々しい質感をキープするのにはうってつけですよ - それこそがこのプラグインのユニークさだと思いますね。タムがまさに食いついてくるような感じになるんです。
- Glass Animals のミックスにおいて、いくつかの部分では少しリバーブが使われているようですが、新しいアルバムはかなりクリーンでドライなサウンドスケープとなっていますね。
そうですね、どれもドライな⾳になっていく傾向にあります。90年代のヒップホップを聴いて育った影響だと思うんですが、例えば Dr. Dre のドラムサウンドは本当にドライですよ。The Neptunes のドラムもね。
僕は、ドラムは頬を打つようなものであるべき、という考えでいます。ですから、とくに最新のアルバムではキックとスネアは概して⾮常にドライですよ。最初のレコードはリバーブが多く - 多すぎるくらいでしたので、新しいアルバムでは意図的にドライにしました。ルームサウンドとリバーブがゼロになるよう部屋の周りにバッフルを置いて、すべてがドライに録⾳されるよう計らいましたよ。何回かは、コンピューターで少しリバーブをかけたり、ミキサーから戻ってきた時にかけたり、あるいはミキサー自身が少しリバーブを加えたりもしました。それも気に⼊ってはいますが、基本路線としてはドライでパンチーなものが欲しかったんです。
- ボーカルサウンドの面で、あなたの理想や基準となるものはいったい何でしょうか?
Glass Animals で理想とするボーカルサウンドは Voodoo 時代の DʼAngelo で、チェーンをたくさんコピーしています。そのサウンドを得るためのマイクもいくつか⾒つけました。僕が使っている AKG C12 はとくに素晴らしく、最初のアルバムで多用しましたね。レイヤーに適しているからでしょう、幾重ものボーカル、おそらく1人で12トラックものトラックであったとしても、分厚く良いサウンドを得ることができるんです。
- いくつものボーカルをトラッキングする上でのコツはありますか?
はい。いくつか違うマイクを同時に使⽤して、ボーカルサウンドにさまざまな倍音を加えるようなことはよくします。他には、僕たちが "Crack Choir(クラック・クワイア)" と呼んでいるワザがあります - 僕が声やボーカルキャラクターをわずかに変えて同じパートを歌うことですけどね。"Gooey" という曲のコーラスが良い例です。主旋律のバックで、僕が変わった声を出してたくさん重ねているんです - ⼤男みたいに低⾳で歌ってみたり、⼩さな⼦供のように⾼く歌おうとしたり。単体ではとても奇妙に聴こえますが、それらを重ねることによって、多くの多様な⼈たちが幅広い周波数帯でラウドに歌っているように聴こえてくるんですよね。
- あなたはセルフプロデュースにおいて⼤きな成功を収められましたが、他のアーティストとのコラボレーションやプロデュースからはどのようなことを学ばれましたか?
他の⼈の仕事振り、とくに曲作りにおいて学ぶことは大好きです。誰かのクリエイティブな決定を下すための手伝いをし、望む⾳があるのであればそれを得られるよう努めることも大好きですよ。皆がいつも最初から求めるサウンドをしっかり描けているとは限らないので、その冒険の⼿助けをするのが本当に楽しいんです。また、プロデュースをする上でのコライト的要素も好きですね -「関係性」とでも⾔いますか、正直なところ最初は恐かったんですが、今ではその良さを理解できます。
- 共同作業のどの部分に恐さを感じますか?
誰かと同じ部屋の中で感情的なものを創造しなければなりません。悲しみ、怒り、興奮、その他何でも、感情そのものにならないとね。普通はよほど居⼼地の良い⼈のそばでないと、そこまでの感情表現はできないものですよね。しかしレコーディングをする上では、早く仲良くなって、たとえそれが難しくても、相手に⼼地良く感じてもらえるようにする必要があります。
結局のところ、楽しめるようにするだけです。それが大事だと思うんです - ただ楽しんでください。そしてもし部屋にいる皆それぞれが楽しめたのなら、最終的に何か良い結果を手にできていますよ。
- James Rotondi