煌めくようなボーカルから超低音のベースサウンド、アグレッシブなシンセやなめらかなギタートーンに至るまで - 率直に言って、Universal Audio 4-710d の素晴らしい多用途性をもってすれば、おおかたのことに対応できます。特にこの4チャンネルのアーキテクチャや、ソリッドステートの明瞭さから真空管をフルドライブした時の飽和感までを提供する抜け目ないプリアンプサウンド、そして内蔵された 1176 スタイルのコンプレッションによって、4-710d はドラマーのハートをがっちり掴み、メジャーリリースされた作品の中で詳細かつ個性に豊んだサウンドを得ることを担いました。
今回は3名の著名プロデューサー/エンジニア/ミュージシャンをお招きし、どのように 4-710d を活用しているかについてお聞きました。そして読み進めていただくと分かる通り、柔軟で使いやすいこのプリアンプ/コンプレッサーで、シンプルかつ効果的に素晴らしいドラムサウンドを仕上げるための秘訣についても語ってくれました。
パネリスト
Anton Fig
The Late Show with David Letterman への長年の出演でも有名な、世界的ドラマーのひとり。その他、Bob Dylan、Madonna、Ace Frehley をはじめ、数多のレコーディングやセッションに携わる。最近では Joe Bonamassa のツアーに参加。
Jacknife Lee
革新的な制作スタイルで知られるプロデューサー界の反逆児。Snow Patrol、Bloc Party、The Cars、U2、R.E.M.、The Killers など、数多のアルバムでその異彩を放つ。
Chris Dugan
グラミー受賞エンジニア。Green Day の American Idiot から 21st Century Breakdown といったアルバムを手掛ける、いまや生ける伝説とも呼べる人物。
- なぜ Universal Audio 4-710d はドラムレコーディングにおいて有用なのでしょうか?
Chris Dugan(以下CD):ドラムサウンドにアグレッシブに取り組んでいるのであれば、創造的で洗練された 4-710d プリアンプがうまく導いてくれることでしょう。ブレンド機能の可能性は、ここにある4つのプリアンプを8つ、あるいはそれ以上のものに感じさせてくれます。チューブとソリッドステートの組み合わせによって多彩なフレーバーが得られるので、用途は非常に広いです。
Jacknife Lee(以下JL):4-710d の使いやすさとカラーは、まさに私が探し求めていたそのものです。音が良く、隠れたメニューもない、そしてフロントパネルにジャックも付いているので、楽器を挿せばすぐに演奏が始められる - これ以上何か説明が必要かい?
Anton Fig(以下AF):私にとって、自分のスタジオで 4-710d を使うということは、ドラムトラックを誰かに委ねられた時に、彼らがあとで好きなように色付けできる余地を含んだパンチーでクリーンなマルチマイクのサウンドにしてみたり、逆にあらかじめ様々なキャラを刻み込んでちょっぴりエッジを効かせたものにトライしてみたり、といった選択肢を得られることに繋がっています。あらゆる選択肢を与えてくれるんですよ。
- ドラムマイクを1台の 4-710d に送る良い方法を教えてください
JL:私が 4-710d をドラムに使う場合は、できるだけマイクが少なくなるようにしています - ルームマイクには AKG 414、キックには Shure Beta 52A、タムには Sennheiser 421、そしてスネアのトップには Shure SM57、もしくは時々 SM7 を使います。スネアの下にマイクを立てることはほとんどありませんね。オーバーヘッドには、Cascade の Fat Head や VIN-Jet をはじめとする様々なリボンマイクを使っています。しかしいつもはこれらのマイクをステレオペアとしてミックスするので、全てのマイクの複合体みたいな状態になります。
とは言うものの、例えばタムのように曲中で重要な要素があるのであれば、それを個別にマイキングしますよ。通常、4-710d はチューブ寄りの設定で使います。私は、マイクプリがトランジェントをどれだけ早く拾うかという「スピード」に関する考えには、あまり関心がありません。それよりもドラムの音色に影響を与えてくれるものが欲しいのです。そしてもし欠けている周波数や品質があると感じたら、それを加える方法を見つけるでしょうね。
私はドラムルームのあちこちで様々なマイクを使っていて、それら全て - 特にオーバーヘッドとルームマイクは 4-710d を通ります。キックに関しては、Universal Audio Solo/610 に通すこともあります。そこからハードウェアの 1176、Distressor、または Fatso に向かいます。
歪みとは最高のものです。様々な倍音を加え、サウンドをなじませ、適度にコンプレッションを加え、気持ち良くさせてくれるのですから。 – Jacknife Lee
AF: 私は、オーバーヘッドと共に各ドラムピースごとにマイクをセットするという従来の方法に則った1つのキットをホームスタジオに用意しておくことを好むのですが、ちょっと違った方法 - 例えばクラシックな Glyn Johns セットアップのように、キック、スネア、フロアタム、オーバーヘッドだけにして、広がりとコンプレッション感のあるサウンドを得るようにすることも楽しいでしょうね。そして 4-710d は、そのようなセットアップにもちゃんと応えてくれますよ。
マイクに関しては、キックドラムの外側に Telefunken、スネアに Shure SM57、オーバーヘッドには Earthworks のスモールダイアフラムをペアで使い、通常はそこで少しだけ低域をロールオフさせています。4-710d の 1176 スタイルコンプレッションもまた、ルームマイクにかけてドラムミックス全体に溶け込ませるようなスカッシュサウンドを得るのにも良いですね。
CD:私が現在使っているレシピの一つは、キックの内側と外側それぞれに1本ずつと、スネアトップに1本、そしてモノラルのオーバーヘッドを立てて 4-710d に通し、トランジスターサウンドとクランチーなチューブサウンドをブレンドすることです。キックの内側のマイクは非常に透明感のあるソリッドステートスタイル側に設定し、完全にクリアーなサウンドにします。一方でキックの外側のマイクは 4-710d のチューブ側でかなり激しく突っ込みます。スネアトップもほぼ同じ様な設定ですが、ゲインはほんのわずかにします。モノラルオーバーヘッドもまたチューブ側を使い、ゲインを可能な限り上げて汚します。リボンマイクにはとても良いですよ。
1176 スタイルのコンプレッションに関しては、オーバーヘッドでは "Fast" 側に設定することで、リボンマイクで狙ったタムが持つ個性と全てのディテールを引き出すことができました。外側のキックマイクについても "Fast" 設定に。いつも良いというわけではありませんが、非常にオープンで響きの深いキックではうまくいきました。また、スネアとオーバーヘッドのレベルとゲインの上げ下げを試して、いくつかクールな組み合わせを得ることもできましたよ。4-710d はサウンドをかなり汚せるのでとても楽しいんです - これが気に入っている理由の一つですね。
- 例えば、収録済みのドラムサウンドをプラグインで処理する際や普段のオーディオチェーンの中において、4-710d をどのように活用していますか?
CD:Green Day のリハーサルでは、文字通り全てを 4-710d に通します。そこでまず私が行うのは、4-710d のadatオプティカル出力を Apollo Twin に接続することでした - リハーサルスタジオですぐに機能してくれる、素晴らしいポータブルセットアップですよ。あとはマイクを動かすだけ。本当にシームレスでした。
私はまた、4-710d の全て(1~4)のチャンネルにインサートが備わっていることを、自分のプロジェクトスタジオをより良くしたがっている友人に勧めています。コンプレッサーやEQを追加するなど、多くの利点がありますから。すぐに自分の Apollo Twin に繋いで、マイク6本の収録もできますしね。
ドラムサウンドのエフェクトに関しては、いつも UAD Chandler Limited Zener Limiter をドラムバスに使っています。また、より一層のあたたかさやヴァイブを与えるために、たいていは UAD Studer A800 Multichannel Tape Rcorder や Oxide Tape Recorder プラグインも追加します。音にスパイスを効かせてくれるものが大好きなんですよ!個々のドラムチャンネルに関しては、SSL E Series Channel Strip に通します。パンチと明瞭さの観点で、これが一番手っ取り早いですね。
ブレンド機能の可能性は、ここにある4つのプリアンプを8つ、あるいはそれ以上のものに感じさせてくれます。チューブとソリッドステートの組み合わせによって多彩なフレーバーを得られるのです。 – Chris Dugan
AF:Universal Audio LA-610 MkII も手にいれて良かったと思います。これは 4-710d とともに使うのに最適なユニットですよ。特に、モノラルのマイクを通してめちゃくちゃコンプレッションされたものに仕上げたい場合にはね。録音済みのドラムサウンド用としては、UAD EMT 140 Plate Reverberator と EMT 250 Electronic Reverb、そして Neve 88RS Channel Strip がとても気に入っています。実に素晴らしい。
JL:私のスタジオでは 4-710d が常に稼働しています。ライブルームと接続されていますが、キーボードやアナログドラムマシンにも使いますよ。ちょうど今は Sequential Circuits Prophet 5 をステレオで繋ぎ、Arturia DrumBrute は Knas Ekdahl Moisturizer を介し 4-710d に送っています。Universal Audio Solo/610 がスタジオ内のほぼ全ての楽器の入り口のようなものになっていることにプラスして、ですね。コンピューターに入る前のほとんどの信号がUAデバイスを通っています。
- あなた方を魅了する 4-710d の質感や音色はどんなものでしょうか?
JL:私は 4-710d の歪みをひとつの音色として、特にドラムマシンやベースによく使います。あの歪みは素敵だし、正直なところ歪みが大好きなんです。クリーンなマイクプリも持ってはいますが、私は透明感のあるプリアンプは好みではありません。プリアンプの透明性について語る人がいますが - それが透明であるとすれば、果たしてそのポイントはどこにあるんだろうか?
私は、楽器の個性を活かすことに重点を置いています。それは単独では存在しません - プレイヤーからリスナー、そしてその間のすべてにおいて、直列で存在し得るものです。レコーディングされた全ての要素を何かしらの形で含んでおきたい、そうでなければ意味を見出せません。歪みとは最高のものです。様々な倍音を加え、サウンドをなじませ、適度にコンプレッションを加え、気持ち良くさせてくれるのですから。
CD:表現するのが難しいですね。ソリッドステート側は超透明で、おそらく API というよりも SSL のサウンドに近い感じでしょう。チューブ側は、間違いなく個性的です。私はいつも本当に汚せるチューブプリアンプを探していました。そして 4-710d はそれができるから好きなんです。ソリッドステート側に振り切れば完璧にクリーンなサウンドが得られ、逆にチューブ側にすればしっかりダーティーにできる。あるいはそれらを混ぜ合わせることもできるんですから。最高にクールですね。
AF:私はうまくいくまでコントロールをあれこれ試しているところですが、より「レトロ」なサウンドが欲しい場合にはブレンドノブを少しチューブ寄りにすると良いと思います。4-710d は、プリアンプのチューブ側でゲインを上げ、大きくコンプレッションをかけることによって個性的な質感を得ることも可能ですし、ピュアなサウンドが欲しいのならソリッドステート側を使って、適度なコンプレッションをかけて透明度を高めたりもできます。 そんなことが本当に全て可能なのです。
- James Rotondi