Universal Audio OX User File #001 : TK from 凛として時雨

"聴く耳" を持った音楽ファンの間で絶大な支持を集めるロック・バンド、凛として時雨。フロントマンであるTKさんは、Universal Audio のプレミアム・リアクティブ・ロード・ボックス/ギター・レコーディング・システム OX(オックス)をいち早く導入し、愛用の Fender Twin Reverb と組み合わせてフル活用しています。2018年11月リリースの『katharsis』のプロダクションでも活躍したと語るTKさん。導入に至る経緯と、使用感について話を伺ってみました。

ベルリンのハンザ・スタジオでレコーディングされたソロ作品


- 2018年11月にリリースされた『katharsis』ですが、東京だけでなくベルリンでもレコーディングされたそうですね。

ソロでは毎回、ベルリンに行っているんです。プロジェクトや日数にもよりますが、向こうでドラムやギター、ボーカルを録って、日本で上モノをダビングして。

- ベルリンにレコーディングに行かれるようになったきっかけは何だったのですか?

僕は写真を撮りによく海外に行くんですけど、あるとき前から気になっていたベルリンに立ち寄ってみたんです。そのときに滞在した宿にピアノが置いてあって、何の気なしに弾いてみたら1曲できてしまって…それでちゃんと録音しておきたいなと思い、急遽現地のスタジオを押さえたんです。僕は Avid Pro Tools は分からないので、とりあえず回しっぱなしにしてもらって。で、日本に帰ってそのファイルを聴いてみたら、何かいつもの録音と質感が違ったんです。よく言いますけど、やっぱり海外で録ると思考も変わるし音が違うんだなと思って。それからですね、ベルリンにレコーディングしに行くようになったのは。最初に行ったのは、凛として時雨の『es or s』(註:2015年発売のミニ・アルバム)のときです。

- ベルリンではお気に入りのスタジオがあるのですか?

窓のあるスタジオを探していたときに、たまたま見つけたのがあのハンザ・スタジオだったんです。David Bowie や BOØWY が使用していたという認識はあったのですが、元々IRリバーブで使用していたり偶然が重なって選んだんです。賭けではあったんですが、いざ録音してみたらすごく好きなドラム・サウンドでしたね。メインルームはけっこう広いんですが、ドラムブースは割と小さくて、大理石で囲まれている日本には無いような部屋なんです。音圧はあるのにグシャッとした音にならなくて、響き方がとても絶妙。僕の作品はミックスの中におけるドラムの支配率が高いので、それからはソロのドラムに関してもハンザ・スタジオで録るようになりました。

- ブースの壁が大理石というのが大きいんでしょうかね?

それもそうですし、空気や電圧、機材など、いろいろな要素の違いが合わさってあの音になるのではないかと思っています。凛として時雨の中野くん(註:ピエール中野氏)が叩いても、ソロでお願いしている BOBO が叩いても、キットが dw でも TAMA でも僕の好きな響きになるので、ドラムキットがどうと言うより、完全に "あの部屋の音" なんでしょうね。

- レコーディングはスタジオ常設の Pro Tools に?

いや、自分のノート・パソコンとオーディオ・インターフェースを持ち込んで、Steinberg Cubase Pro に録っています。SSL のHAをそのまま使って。ハンザ・スタジオの場合、D-Subを繋ぎ変えるだけなのでセッティングもそれほど時間がかからないんですよ。でも自分で Pro Tools を使えればなと思うことが多々あるので、そろそろ覚えようかなと思っています(笑)。

制作では UAD-2 Satellite Thunderbolt OCTO を活用


- 現在の制作環境についておしえていただけますか。

DAWは Steinberg Cubase Pro で、オーディオ・インターフェースは去年、Apogee Symphony I/O Mk II に入れ替えました。僕は元々 Apogee のA/Dコンバーターが好きで、それまでは AD-16 を RME のオーディオ・インターフェースに繋いで使っていたんですが、Symphony I/O Mk II が出てからはその濃密な低域と解像度が自分のミックスととてもマッチするので入れ替えました。モニター・コントローラーも、以前は Grace Design m920 をS/PDIF接続で使っていたんですが、m920 のヒューズが飛んでしまったときに Symphony I/O Mk II のD/Aコンバーターを試してみたら、低い重心の音が意外と心地良かったので、今はそのまま出しています。スピーカーは去年、Focal の Solo6 Be に入れ替えました。

- コンピューターは何をお使いですか?

Symphony I/O Mk II に入れ替えるタイミングで、黒い Mac Pro… "メーテル" みたいな(笑)、あれにしました。最初は持ち運びのことを考えて MacBook Pro を買ったんですけど、僕の作業ではメモリが16GBでは足りなかったんです。でも "メーテル" もコンパクトなので、外仕事のときの持ち出しがラクになりました。オーディオ・インターフェースも、以前は AD-16 と RME の2台を持ち運んでいたのが、Symphony I/O Mk II で1台になりましたしね。

- 歌録りのマイクはどのようなものを?

最近は Peluso の P-67 がメインです。もともと Neumann U67 の音がすごく好きで、自分でも持っていた方がいいかなと思っていた時期もあるんですが、メンテナンスが大変じゃないですか。スタジオの U67 もコンディションがバラバラですし。でも、喉の調子もあったりするので、歌に関しては自分のスタジオで録りたい。で、U67 のレプリカ系をいろいろ試してみた中で、一番声に合っていたのが Peluso だったんです。Neumann U87Ai を使って強いミッド感を録ったりすることもあるんですけど、最近は U67 を借りるか Peluso で録ってますね。

- UAD も愛用されているとのことですね。

黒い Mac Pro を導入したときに、PCIeカードの UAD-2 Quad から UAD-2 Satellite Thunderbolt OCTO に乗り換えました。プラグインで気に入っているのは、スネアには必ず使う 1176 Classic Limiter ですね。よく使うのはブルー・ラインのAなんですが、歪んでくるタイミングがどれも違うので、クジ引きのように選んで使ってます(笑)。1176 Classic Limiter 以外ですと、Brainworx bx_refinement Studer A800 Multichannel Tape Recorder も気に入ってますね。Brainworx bx_refinement は嫌味のない音で、Studer A800 Multichannel Tape Recorder は耳馴染みが良くなるのがいいんです。音に艶が出るんですけど、耳に痛くはない音というか。

Universal Audio UAD-2 Satellite Thunderbolt

- 曲作りとレコーディング、ミックスは完全にセパレートしている感じですか。

いえ、セパレートしてないです。作ってミックスしながら楽器を録っていくという同時作業だから時間がかかるんでしょうね。あまり無いことですけど、人の曲をミックスするときは作るのと、録るという作業がなくなるので、だいぶ思考回路が変わります。素材に対して、どういう音にするかということだけにフォーカスできますから。これが自分の曲ですと、ギターを弾いて、歌詞も書いて、歌も歌って、ミックスもして…。ミックスしながら、"もしかしたらこの部分はこの歌詞じゃない方がいいかもしれない" とか、"こういうヴァイオリンだったら自分のソロを変えた方がいいかな" とか、いろいろなアイディアが浮かんでくるので、曲が常に変化していくんです。なので作業としては、エレクトロニカの人に近いかもしれないですね。作曲が終わるのとミックスが終わるのが同時という。

- 音像に関しては、頭の中にしっかりとしたイメージがありますか?

僕の場合、こういう音にしたいという明確なイメージは無いんです。作業しながら、イメージに合わない音を削いでいく。時間はかかりますが音を聴けば、"この音ではないな" というのは分かりますから。

- セルフ・ミックスにはこだわりがある?

できることなら辞めたいです(笑)。年間何十曲もミックスしているプロの人と違って、何をやるにしてもすごく時間がかかりますし…。キックの音だけで1日費やしてしまったり。レコーディングに関しても、プロの人のように最終形をイメージしながら位相を揃えたりというのは、僕には難しいですし。不器用にマイクを立てる姿は、スタジオのアシスタントさんには見られたくない(笑)。でも、自分にしか作れない音があると思っていますし、自分でやった方が情熱や緻密さが伝わるんじゃないかと。もちろん、人にお願いした方がいいかなと思うこともあるので、そこは常に楽曲やプロジェクトごとに考えています。プロの人にお願いすることで、自分に出せない音も自分にしか出せない音も再確認することもできますしね。でも、人にお願いして、自分のイメージを超える音にならなかったらどうしようという不安は常にあります。

アッテネーター/マイク・シミュレーターとして活躍する OX


- ここからはギターのお話を伺いたいんですが、メイン・アンプの Fender Twin Reverb は現在何台お持ちですか?

同じ年代のを3台持ってます。ちょっと持ち過ぎかなとも思ってるんですけど(笑)、それぞれ音が違うんですよ。一番好きなのは '65 Reissue で、銀パネの Showman はスタジオにヘッドだけ置いてあります。ギターはテレキャスなんですけど、あんまりこだわりはないですね。普段ライブで使っているのとスタジオで使っているのは別のものなんですが、手に取ったもので制作を始めるので、よっぽど好みの音が出ない限りどれでもいいかなと思ってます。さっきも話した通り、イメージの音が明確に見えているというよりは、違うという感覚から導かれることの方が多いです。

- 9割方、アンプを鳴らしてレコーディングされている感じですか?

3ピースの凛として時雨では、基本アンプにマイクを立てて録っています。Shure SM57 を使って、スピーカーから3〜4cm離して。やっぱり、弦を引っ掻いている感じや独特のザラつきは、アンプを鳴らさないと出ないですね。でも、いつもの音が録れるというだけで、アンプを鳴らした音が一番だとは決して思ってないんです。デモでは Kemper Profiling Amplifier を使うことが多いんですけど、僕のようなシングル・コイルのギターの場合、アンプを鳴らすよりも Kemper の方がコード感が分かりやすかったりする。また、これは Kemper に限らずデジタルのプロセッサーはどれもそうなんですが、僕の弾き方だとアタック部分が丸くなるというか、少し奥に引っ込むんです。ただ、それはアンプを弾いてる感覚に対しての話なので、その音の方が楽曲に合えば、アンプを鳴らさずに Kemper を使うこともありますね。でも、プロファイルに関しては、自分の Twin Reverb のも持っているんですけど、普段使わないアンプを選ぶことが多いですね。例えば、Marshall JCM800 とか。

- ストンプもお使いだと思うんですが、Kemper を使うときもそのまま通して?

空間系はそのまま使います。今だと DigiTech DigiDelay、Arion の安いフェイザー(註:SPH-1)、Eventide H9 の3つですね。DigiDelay と Arion のフェイザーはずっと愛用していて、H9 はソロのときのモジュレーターとして使っています。ちなみに歪み系で使っているのは、Vemuram Jan Ray と Barbarossa URANUS ですね。

- そしてTKさんは最近、Universal Audio OX も使用されているそうですね。

凛として時雨では普通にアンプを鳴らしているんですけど、ソロでは生楽器を使ったり小さい音量で歌ったりする中で、Twin Reverb の音圧を少し下げたいと思い、アッテネーターやサイレント・キャビネットを試していたんです。そんなときに発表になったのが OX で、すごく興味を持って。発表後、なかなか発売にならなかったんですけど(笑)、2018年の2月、凛として時雨のリハーサルのときにようやく試すことができて、これはおもしろいなと思ってレコーディングに導入しました。今回のソロでも Twin Reverb のスピーカー出力に繋いで使っています。

Universal Audio OX

- 数ヶ月使用されて、OX はいかがですか?

最初、少し音が硬く近すぎるかなと思ったんですが、片方をリボン・マイクにして、それに SM57 の音を足していくとかなり良い感じになることが分かって。一番すごいなと思ったのが、歪み系エフェクターの反応。歪み系エフェクターが、アンプを鳴らしているかのような反応をするんです。"最終段はデジタルなのに、こんなに反応してくれるんだ" と最初に使ったときは本当に驚きましたよ。この反応は、従来のデジタル・プロセッサーでは無かったと思います。OX によって、家でエフェクターの確認もできるようになりました。

- 音質的なクセは感じますか?

自分の Twin を普段のセッティングのままで使うと、3〜5kHzあたりにピークが出る印象があったんですけど、それは OX の SpeakerDrive やマイクのセレクトで微調整したりします。それ以外、音質的なクセやデジタルくささは感じませんが、弦のアタックやタッチ感は微妙に薄まるなという印象はあります。本当に微妙な違いですけどね。

- キャビネットとマイクのシミュレーションの種類は十分ですか?

Twin Reverb は年代によってけっこう違うので、キャビネットに関してはもう少しバリエーションがあってもいいかもしれませんね。でも、マイクの選択とマイキングによって、音色の幅がかなり広いんです。最初、これはあまり好きではないなと思ったキャビネットも、マイクを変えてEQで補正してみたらすごく良くなりました。一方、マイクに関しては 87 も 421 も 57 もあるので、普通のレコーディングに必要なものはほぼほぼ揃っているのではないかと思います。

- レーテンシーは気になりますか?

デジタルなので当然遅延はあります(註:アナログ出力 2.77 msec @ 44.1 kHz、デジタル出力 2.57 msec @ 44.1 kHz)。なので、リアルタイムではキャビネットを鳴らした音とブレンドして使えない。でも、DAW上でOXの音を少し手前に持っていけば問題ないですね。レーテンシー自体は昔からデジタルなもので慣れてるのでそんなに気にならないです。

- 今回のソロ・アルバムでは、どのように使用されましたか?

OX と Kemper とアンプの音をブレンドしたりしました。やっぱり弦を引っ掻いているようなニュアンスはアンプでしか録れないので、それはアンプでカバーし、デジタル特有の近い音をDAW上で加えていくというか。しっかり生感はあるんですけど、音が近いという。最近はそんな使い方が多いですね。

- 今後のアップデートに期待することというと?

キャビネットのバリエーションをもう少し増やしてほしいのと、キャビネットも年代によってスピーカーなどが変わったりするのでそこがもう少し追い込めると良いかもしれませんね。ヘッドは自分の好きなものを使う前提ですから、それに対してマッチングするキャビネットが同種類でもいくつかあると嬉しいです。Twin Reverb ひとつでも結構違うので。

あとは iPad が縦に置きづらいので横向きでも使えるようにしてほしいですね。スタンドを買えば済む話なんですけど(笑)。

それからまだ機能していないUSB経由でPC上でのキャビネットの操作、バックアップなど取れると尚良いですね。

- 総じてOXには満足されていますか?

そうですね。キャビネットはもちろん、マイクのシミュレーションにはとても感心しています。これだけの種類のマイクをよくここまで再現しましたね。実際に録ってみると、"確かにこういう音だよね" と感じます。それとルーム・マイクも優秀ですね。イヤモニで弾いていると、本当に音の広がり方がスタジオで演奏しているような独特な響きに似てるんです。

自分が持っている好きなアンプの音をスタジオ以外の環境でも自由に扱いたい方はOXをぜひチェックしてみるといいと思います。全てが「アンプの音が鳴らせない」ことへの代替案として考えるのではなくて、これは新しい「音」として捉えるのが良いですね。デジタルなものもアナログなものもそれぞれに良さがありますが、どちらかだけでは出せなかったサウンドなので新たなインスピレーションも生まれて来ると思いますし、改めてアンプの音と違った角度から向き合える製品でもあると思います。

- 今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

テキスト:ICON

TK(Toru Kitajima)

凛として時雨のフロントマンでボーカル&ギターであり、同バンドにおいては全作曲、作詞、エンジニアを担当し鋭く独創的な視点で自らの音楽を表現している。
ソロプロジェクトである「TK from 凛として時雨」では、ピアノ、ヴァイオリンを入れたバンドスタイルから、単身でのアコースティックまで幅広い表現の形態をとっている。
その他にも、SMAP、安藤裕子、Aimer などアーティストへの楽曲提供なども行うなど幅広く活躍している。
今春公開のアニメーション映画「スパイダーマン:スパイダーバース」日本語吹替版の主題歌に起用が決まっている。

オフィシャル・サイト

リリース情報

TK from 凛として時雨 シングル「P.S. RED I」
2019.3.6 out
・初回生産限定盤[CD+DVD] AICL-3663~4 3,400円(tax out)
※トールサイズ・デジパック仕様/DVD:スタジオライブ+ドキュメンタリー+インタビュー映像収録
・通常盤[CD] AICL-3665 1,400円(tax out)
【Disc1 (CD)】
 1. P.S. RED I / 2. moving on / 3. P.S. RED I (Instrumental)
【Disc2 (DVD)】
 TK from Ling tosite sigure Studio Live Session & Documentary at LANDMARK STUDIO
 1. Fantastic Magic / 2. Signal / 3. film A moment / 4. katharsis

ライブ情報

2019.02.07|女王蜂主催対バン企画 「蜜蜂ナイト 4 ~:re~」

2019年2月7日(木)
新木場 Studio Coast
時間:OPEN 18:00 / START 19:00
TICKET:4,800 円 (税込/別途要ドリンク代)
INFO : DISK GARAGE(050-5533-0888)

2019.02.09−03.09|TK from 凛として時雨 katharsis Tour 2019

2019年2月9日(土)
福岡 DRUM LOGOS
OPEN 17:15/START 18:00
TICKET:全立見 ¥5,000(税込/D代別)
INFO:キョードー西日本 0570-09-2424

2019年2月16日(土)
宮城 仙台Rensa
OPEN 17:15/START 18:00
TICKET:全立見 ¥5,000(税込/D代別)
INFO:ノースロードミュージック 022-256-1000

2019年2月23日(土)
愛知 DIAMOND HALL
OPEN 17:00/START 18:00
TICKET:全立見 ¥5,000(税込/D代別)
INFO:JAIL HOUSE 052-936-6041

2019年3月3日(日)
大阪 なんばHatch
OPEN 17:00/START 18:00
TICKET:1F立見 ¥5,000(税込/D代別) 2F着席指定席 ¥5,800(税込/D代別)
INFO:清水音泉 06-6357-3666

2019年3月9日(土)
東京 TOKYO DOME CITY HALL
OPEN 17:00/START 18:00
TICKET:アリーナ立見 ¥5,000(税込) バルコニー指定席 ¥5,000(税込) バルコニー着席指定席 ¥5,800(税込)
INFO:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999

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