第2回:Tonalic を “どう使うか”
第1回では、Tonalic を「生成」ではなく、実在する演奏を制作の中で“使える形”に持ち込むツールとして捉えました。第2回はそこから一歩進めて、実際の制作の中で Tonalic をどうワークフローに組み込むか ── 特に Explore / Search / Patterns を使って「探す→選ぶ→曲に落とし込む」までの流れを整理していきます。基本的な操作方法はすでに多くのサイトで紹介されていますが、ここでは「制作の判断が速くなる」という観点で、ベータテストを通して見えてきた具体的な使いどころを紹介していきます。第1回はこちら
曲の「演者」を選べる、Tonalic のユニークなエントランス
Tonalic を起動するとまず表示される Explore ページは、Tonalic のライブラリを探し始める場所です。ここからミュージシャン別、楽器別、演奏スタイル別でブラウズでき、Play ボタンを押すとデモ曲が聴けます。ここは単なる音色やループのリスト表示ではなく、最初の判断を速くするための入口として設計されており、“誰が弾いているか”が最初から前に出てくるところが特徴です。


例えばドラムなら、Rolling Stone 誌が「歴代の偉大なドラマー100人」に挙げるケニー・アノロフや、ビヨンセのバックを長年支えたヴェンゼラ・ジョイが参加していたりします(画面①、②)。
こういう名前が並んでいると、「音を探す」というより、「この人のノリを曲に呼び込む」作業になってきます。
ギターも同様で、Goo Goo Dolls や Michael Jackson などの作品に関わってきたティム・ピアスのような歴史的セッションギタリストが普通に出てきたり、P!NK のツアーで弾いてきたジャスティン・デリコ、さらには Drake や The Weeknd のツアーを率いる エイドリアン・エックス のように、トップシーンの引き出しを持つプレイヤーが揃っています(画面③、④、⑤)。Foo Fighters のベーシストであるネイト・メンデルや、Jamiroquai の ポール・ターナーが入っているのも強いですね(画面⑥、⑦)。ギターのロブ・ハリス(画面⑧)も含め、Jamiroquai の現役メンバーが揃っている点も見逃せません。
そして個人的に面白いと思ったのがパーカッションの層で、例えばハンドパン/フレームドラムの第一人者として知られ、Dead Can Dance とも活動してきたダヴィッド・クッカーマン(画面⑨)のようなプレイヤーまで参加しています。こういうミュージシャンの層の厚さがあるから、Explore での探索がそのまま判断のスピードに繋がっていきます。









制作のカギを握る、サーチの精度
ミュージシャンの演奏が豊富に揃っているからこそ、次に重要になるのは「選び方」です。第1回を書き終えてからも現場で Tonalic を使い続けて強く感じたのは、サーチの大切さ。闇雲に試聴を重ねても、判断が前に進みにくい。偶然うまくいっても再現性がなく、アレンジとしての手応えも残りづらい。言い換えると、サーチが雑だと結果も偶然寄りになってしまうし、逆にサーチの精度が上がると、音楽の作り方そのものが変わります。Tonalic はそんなサーチ機能がとてもよくできているので、ここからは「探し方」を軸に、丁寧に見ていきましょう。
Search ページはコンテンツをシンプルにフィルタリング/ソートして、狙った選択に辿り着くための場所です。まず目に入るのがタグ検索ですが、僕のおすすめの絞り込み手順はこうです。

ステップ1:まずタグで土台(ギターならエレキ/アコギ、ベースなら4弦/5弦、ドラムならスティック/マレット/ブラシ)を決める。
ステップ2:次に「奏法(アーティキュレーションなど)」で方向性を詰めていく。
ここでワンポイントですが、ジャンルは最初から絞り込み過ぎない方が良い印象です。例えばダンスミュージックを作っていても、意外とカントリー系のギターがハマることは普通にあります。だからジャンルは「決め打ち」より、「広めに見ておく」くらいがちょうど良い。僕の場合は、まずタグで大枠の方向性を決めてから、次に検索オプションで音の粒度を詰めていくことが多いです。
次に、用意されている6つの検索オプションを見ていきます。ここをどう使いこなすかで「探すスピード」と「判断の精度」が劇的に変わってきます。それぞれの使いどころを左から順番に紹介していきます。

Density(音数の密度)
演奏の音数(ノート数)の密度で並べ替えます。ギターでいえば、ロングトーン中心の伸びやかなソロが欲しいのか、細かいパッセージで手数の多いリフが欲しいのか、という探し方ができます。

Register(音域)
演奏されている音域で並べ替えます。ギターなら「ネックのどのあたりのポジションで弾いているか」、ベースやドラムなら「サウンドの重心をどこに置くか」を、フレーズを選ぶ前に決定できる感覚です。

Frequency Focus(周波数帯域のフォーカス)
どの帯域にエネルギーが集中しているかで並べ替えます。低域の太さが欲しいのか、中域の押し出しが欲しいのか、高域の抜けが欲しいのか。フレーズの形だけでなく、ミックスの帯域を意識したアレンジが可能になります。

Harmonic Context(ハーモニック・コンテクスト)
Tonalic のフレーズには、キーの中で長7度(M7)の音を使うものと、短7度(♭7)の音を使うものが混在しています。ブルージーなフレーズだと、Cメジャーのキーの中でB♭(=短7度 /♭7)を鳴らすようなアプローチがありますが、こういうブルーノート的な響きって曲によってはトゥーマッチになることが多いですよね。ここでは、フレーズに含まれる7thの種類を選んで「曲のコード進行に合わない」フレーズをあらかじめ非表示にできます。個人的に、アレンジの破綻を防いでくれる一番助かっているオプションです。

Grid(リズムのグリッド感)
感じられるリズムのグリッド感で並べ替えます。8分音符のどっしりとした前進感で走らせたいのか、16分音符を意識したファンキーなノリを作りたいか、など即座に絞り込めます。

Beat Accents(アクセントの位置)
演奏のアクセント感で並べ替えます。拍(1~4)やその裏(+)など、どこに重心が来る演奏を探したいかを指定できます。ギターのカッティングやドラムパターンを選ぶ際、このアクセント位置を検索条件でセレクトできるのは、アレンジの工程で非常に有利です。

アイデアをさらに発展させる、個々のフレーズ/パターンに備わる実用的な機能
Search ページで候補を絞り込んだら、個々の Tonalic(フレーズ/パターン)側にも便利なボタンが用意されています。

Search for Additions(追加の検索)
選んだ Tonalic の演奏に対して、「一緒に鳴らすとハマる」別フレーズを探してくれます。たとえばベースを選んだら、それに合うドラムパターンを出してくれる…という感じで、同じ楽器に限らず別の楽器も候補に入ってきます。セッション相手を呼ぶ感覚に近いですね。

Search for Alternatives(代替の検索)
選んだフレーズにニュアンスが近いものをリストアップしてくれます。たとえばクリーントーンのアルペジオを選んだら、同方向のフレーズがまとまって表示されます。「曲中で似た雰囲気のまま、フレーズのバリエーションを増やしたい」という時にとても助かっています。

Bookmark(ブックマーク)
その Tonalic をブックマークする。探索中に「これ良いけど今じゃない」みたいな候補を、とりあえず確保できる。

こうして「意味(タグ)」→「粒度(検索オプション)」→「展開の発展(Additions / Alternatives)」までがシームレスに揃っているため、Tonalic の Search ページは単なる検索窓ではなく、アレンジの判断を加速させるツールとして機能してくれるのです。
素材を曲に落とし込むために、完璧にデザインされたフロー
Search ページで候補を絞り込んだら、Tonalic をダブルクリックして Patterns ページに入ります。ここが、いわゆる「素材を探すフェーズ」から「曲に落とし込むフェーズ」へ切り替わるポイント。選んだ Tonalic をただ並べるだけでなく、曲の中でどう振る舞わせるかをここで具体的に決めていきます。

Patterns ページには、ミュージシャンのアイデアに沿った複数のパターンが並びます。Main だけでなく、Variation や Drop といった“同じセクション内の変化”も用意されているため、同じ Tonalic を繰り返し使ってもただの退屈な反復になりません。さらに Transitions(Fill / Build など)や Endings もあるので、楽曲全体のストーリーを組み立てやすい設計になっています。
1. Main で楽曲の土台を作る
2. Variation で同じ景色のまま少しニュアンスを変える
3. Drop でセクションに変化を作る
4. Transitions で次のセクションへドラマチックに繋ぐ
5. Endings で綺麗に終わり方を決める
この一連の流れが画面上で最初から視覚化されているため、Search での判断がそのまま曲作りに直結します。ただ探して終わりにさせないワークフローです。
パターンごとに用意された柔軟な UI、パラメーターでアレンジを追求
画面下部には、簡易的なサウンド / 演奏感のパラメーターもまとまっています。
Drive や Ambience、Effect といった「音作り側」のつまみと、Swing / Timing / Nudge / Speed といった「演奏感側」の調整が同じエリアに配置されているため、選んだパターンをその場で楽曲に馴染ませやすいのが特徴です。
しかも、ここは選んだ楽器(ミュージシャン)によって UI の構成が柔軟に変わります。
例えばドラムの場合は、Drive / Ambience / Effect に加えて「Cymbals」が用意されており、シンバル成分の音量をここで直接調整できます。

右側の演奏パラメーターもギター等の弦楽器とは少し違っており、「Shift」(ピッチシフト)はドラムセット全体のピッチ(チューニング)を動かすためのものになっています。要するに「キットの鳴りの重心」を一瞬で変えられるようなイメージです。Patterns ページは、フレーズの選定と微調整をワンストップで回せる、実戦的な設計だと感じています。

Search で候補を絞り、Additions / Alternatives で「増やす / 差し替える」を回し、最後に Patterns で楽曲の流れに落とし込む──。
ここまで徹底された導線が揃っていると、Tonalic は単なる音源プラグインではなく、「制作の判断を強烈に前に進めるためのシステム」であることがよく分かります。
次回予告
次回は、DAW との ARA 統合や、Tonalic Studio の Refine Page を使ったノート単位の詰め方まで踏み込んでいきます。作曲家として、デモ制作や本番のトラックメイクの中で、既存のバーチャル音源やループ素材と、Tonalic をどう使い分けているのか。そして、音を一音ずつ打ち込む作業から、実在する優れた演奏をどうディレクションしていくかへ。Tonalic が制作現場にもたらす変化を、筆者なりの視点で整理していきます。
阿瀬さとし
作曲家/ギタリスト/マニピュレーター/ミキシング・エンジニア。2006年、アコトロニカ・ユニットCojok(コジョ)を結成し、マニピュレーター&ギターを担当。アコースティックとエレクトロニカを融合した「アコトロニカ」という独自の音楽性と完成度の高いサウンドにより、2010年、レコードプロデューサー佐久間正英が代表を務めたサーキュラートーン・レコーズよりデビュー。その後、音響ハウスで開催されたサウンド&レコーディング・マガジン企画「Premium Studio Live Cojok+徳澤青弦カルテット with 屋敷豪太、根岸孝旨、権藤知彦」に出演。エンジニア・飯尾芳史氏によるリアルタイム・ミックスでライブを公開収録し、その模様は『QUANT』としてOTOTOYより配信リリースされた。そこから頭角を現し、数多くのCM曲や劇伴などの作編曲およびギター演奏を手がける。2020年はポカリスエットCM「ポカリNEO合唱 ドキュメンタリー完全版」篇、毎日新聞社テレビCM『事実へまっすぐ』篇(東京2020オリンピックオフィシャルパートナー)の音楽を担当。2023年3月には初著書『GarageBandで遊ぼう!~iPhone/iPad無料アプリで音楽する』をリットーミュージックより出版。2025年11月は高崎市で開催されたBOØWYフェス「拝啓ボウイ様」にて、じぐろ京介 with SPECIAL MEMBERSとしてマニピュレーターで参加。氷室京介のバンドでサポートを務めていた香川誠、西山史晃、友森昭一、田中一光らと共演。
