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The EFFECTOR BOOK Vol.63 Builder's Voice : Vital Audio

良質なシールド・ケーブルや現場の要望を汲み取った機能を備えるパワー・サプライなど、ギタリストやベーシストがストレスのない演奏を行なうための土台を築くための的確なサポート。音楽制作の最前線からの要望に満点の回答を出し続けてきたスタッフがその矜持を語る。(The EFFECTOR BOOK Vol.63より転載)

みなさんのシステム構築の手助けがしたい


楽器用シールド・ケーブルの大手として知られるヴァイタル・オーディオ。近年はペダルボード周りの製品をトータルで提供するブランドとしても認知が進んでいる。大ヒット中のパワー・サプライ VA-08 Mk II をリリースして以降は、電源周りにおける攻めの商品開発が続いている印象だ。先日パワー・サプライのフラッグシップ・モデル VA-15 AC をリリースし、さらに勢いに乗る同ブランドで企画を担当する伊藤善浩氏、技術的な側面を担当していた秋本享大氏(現在は営業職)に、新製品の開発コンセプトや電源の重要性について話を伺った。

Vital Audioスタッフ
▲写真左が営業及び企画担当者である伊藤氏、右が開発当時製品のチェックを担当した秋本氏

エフェクターで使うだけでなく iPad で譜面を見るにもAC電源が必要


- 今年の1月にリリースされたパワー・サプライ VA-15 AC の反響はいかがですか?

伊藤善浩(以下YI):みなさんが求めていたモデルなのか、お陰様で非常に反響が大きいです。初動の段階でかなり話題に上りましたし、その後も実売に繋がっている印象ですね。

- DCアウトが充実している上、100VのACアウトレットを4つも備えていて、“全部入り”感が凄いですよね。開発の経緯を教えてください。

YI:これは私が企画を担当しまして、最初の段階では電源タップ単品を想定していたんです。手軽に使える良いタップがなかなかないので、あったら良いなと思っていまして。そして作るなら我々の特徴をしっかり出したいと考え、我々の特徴と言えばパワー・サプライということで、合体型になりました。最終的には、コンシューマーからプロ・ユースにまで対応できるパワー・サプライのフラッグシップ・モデルができたと感じています。

- 開発にあたって、市場のトレンドやユーザーの使用シーンはどのように考えていましたか?

YI:まずトレンドとして、ペダルボードの大型化、デジタル機器とアナログ機器の混在は、かなり以前から感じていたんです。それに加えて、ライヴの現場でもコンセント周りが非常に重要視されていることを改めて感じました。ギタリストやベーシストがエフェクターを使う上で電源を必要とするのは当然ですが、他の楽器の演奏者にも電源が重要になってきていると感じています。例えば、ヴァイオリンなどの弦楽器奏者が譜面を読むためにiPadを使うのは今では普通です。ドラマーがイヤモニのためのミキサーを動かしたり、電子パッドを使うといった事例も多く、アコースティック・ドラムを演奏していたとしても電源が必須になってきているんですよ。

- VA-15 AC の開発にあたって苦労した点はどこでしょうか?

秋本享大(以下RA):ACアウトレットを搭載した製品なので、安全基準をクリアした電化製品に付与されるPSEの認証に関しては、より基準が厳しいダイヤモンドPSEの取得が必要になります。結構分厚い冊子に書かれた条件をクリアしなければならず、認証を通すにも時間と費用がかかりますから、社内チェックはかなり入念に行ないました。あと、ノイズの検証もしっかりと行なっています。DC部分はもちろん、ACとDCの関係でACに差した時の影響がDC部分に出ないかを波形で確認するといった部分ですね。注目される製品だということはわかっていたので、より慎重に対応しました。

- ACのアウトレットを4口にした理由を教えてください。

YI:口が少ない小型版も考えたのですが、ライヴで専用電源のデジタル・エフェクターを使ったり、スイッチャーを導入したりすると、2口では足りない方もいますよね。現場で2口では足りないとなり、結局電源タップを追加で用意する事態に陥るのは避けたいと考えたんです。さらに、ギタリストの足下に電源の余裕があれば、例えばその側で弾く他のプレイヤーのちょっとした電源(譜面確認用のタブレットやイヤモニ用ミキサーなど)も確保できます。現場のテックさんからも多いに越したことはないと言われ、4口にしました。

- このモデルはDC部分にオン・オフのスイッチを搭載しています。その狙いは?

YI:先ほど使用シーンについてお話ししましたが、VA-15 AC をステージではなく、DTM環境で使う方がいる可能性も考慮したんです。卓上に置いて、PCやオーディオ・インターフェイスの電源をとり、モニターに向かってギターを弾くなどのパターンですね。その際、エフェクターを使わない時にもずっとDCに通電している必要はありませんよね。電気が勿体ないですし、余計な負荷も避けたい。それでスイッチを付けたんです。エフェクターが必要になったら、スイッチを入れれば良いわけですから。ただし、よくある電化製品のスイッチ付きの電源タップは、スイッチ1つで全部がバツッと切れますよね。それだとライヴ現場で万が一のときに怖いので、あくまでもACには影響しない仕様にしました。

本当に好きなペダルだけを置けるボード一体型パワー・サプライ


- 開発段階ということですが、プロトタイプのエフェクト・ボード一体型のパワー・サプライ VAPB-45M(※2024年10月25日発売)も見せていただきました。こちらもだいぶ攻めた製品ですね。

YI:ありがとうございます。限られた空間の中で、音を変えるためのものではないパワー・サプライにスペースを取られるのがイヤだ、という声を多く聞いていまして。我々としてはシステム全体の利便性を上げることをコンセプトとしていますので、パワー・サプライを入れたエフェクト・ボードを作れないか、ペダルボードに自分の好きなモデルだけを置ける状況を作れないか、という思いから企画した製品です。

- 非常に個性的なモデルです。しかし開発にあたって難しいところもありますよね?

YI:踏みつけるものですから、強度はもちろん、中に入っているパワー・サプライのパーツが耐えられるか、ペダル固定用の面ファスナーの粘着剤は大丈夫かなど、気にすべき点は多々あります。パワー・サプライは長時間駆動させるとどうしても熱を持ちますから。今、開発チーム、検品チームがしっかりと検証してくれていて、商品化に向けた準備を進めています。

RA:まさに今頑張っています。この製品に関しては、AC部分はないので、DCに関して表記通りの供給ができるか、電圧降下しないかといった性能チェック、耐久性、発熱のテストなどを進めています。

- いつ頃発表できそうでしょうか?

YI:まだまだ開発中なのでなんとも言えないところでして。続報をお待ちいただけると嬉しいです。

- そして大ヒット・モデルの VA-08 Mk II、よりコンパクトな VA-05 Mk II、これらもいまだに人気が高いモデルですよね。

YI:ありがとうございます。フル・アイソレート、可変ポート付き、大容量のデジタル・エフェクターにも余裕で対応できることなどに加え、手に取りやすい価格と高機能のギャップを評価していただいていると思います。

- これらのモデルは小型ペダルボード向けというコンセプトですか?

YI:特に VA-05 Mk II はそうですね。先ほどペダルボードの大型化の話をしましたよね。最近では1枚を大型化するだけではなく、サブのボードを加える形の拡張も増えています。メインのボードには VA-08 Mk II を使い、拡張用のボードには“VA-05 Mk II”を使うといった棲み分けもされているようですね。

- 最後に今後の展開を教えてください。

YI:ペダルボード周りの製品をトータルで提供するサウンド・システム構築の支援こそ、ヴァイタル・オーディオの使命だと考えています。その意味で、電源周りの製品を強化しつつ、将来的にはスイッチャーの新製品も視野に入れ、プレイヤーがより良いシステムを構築するための新しい提案をしていきたいですね。

Power Base VA-15 AC


ペダルボードに必要な電源機能が全部入り!のフラッグシップ

VA-15AC

VA-15 AC は、約2年の開発期間を経てリリースされたヴァイタル・オーディオのパワー・サプライ史上最強のモデル。同ブランドが Power Carrier シリーズで培ってきた技術を注ぎ込んだDC部分に加え、100VのACアウトレットを備えているのが特徴だ。これにより、最新のマルチ・エフェクターから電源ケーブル直付けタイプのヴィンテージ・ペダルまで、これまでは電源タップを引いて使っていたような機器を、通常のペダルと同じように運用できるわけだ。DC部分の11ポートはフル・アイソレートされており、デジタル/アナログ併用時の電源経路からのノイズ混入を最小限に抑制。試奏では、ギター・アンプの実機とデジタル/アナログのペダル群をこれ1台で快適に使用できた。

[Specifications]
●ACアウトレット:3Pタイプ×4(合計最大8A) ●DCアウトレット:1〜4(9V/最大300mA)、5~9(9V/最大500mA)、A&B(可変ポート:9V=500mA/12V=375mA /18V=250mA) ●サイズ:250mm(W)× 68mm(D)×45mm(H) ●重量:610g ●付属品:ACケーブル×1、DCケーブル×11

▲9V / 12V / 18Vから選べる可変ポートを2口搭載。アダプター自体があまりない12Vも選べるのはポイントが高い
▲アウトレット・ポートの向きに注目! この方向であれば、複数のアダプターを接続した時に隣のアダプターと干渉しない
▲プロ・ユースなアースライン付き3芯プラグに対応したアウトレット・ポート。変換プラグが必要ないのは地味に嬉しい
AC Input
▲インプット用のACケーブルは付属しているが、よりこだわりたい人は好みのケーブルを使ってさらなるグレードアップも可能だ

Power Carrier VA-05 Mk II / Power Carrier VA-08 Mk II


フル・アイソレーション仕様だからデジタル&アナログの混在もOK

VA-05 MKII
▲Power Carrier VA-05 Mk II

VA-05 Mk II は非常にコンパクトでありながら、フル・アイソレートされた5ポートを装備した人気モデル。評価が高かった前機種 VA-05 ADJ の基本スペックはそのままに、各ポートにトランスを追加してアイソレーションを強化。保護回路も見直され、過負荷時や発熱時の本体保護がさらに強化された。小型ペダルボードの省スパースに適している他、近年はサブ・ボード用の電源として、また大型ボードの追加電源としても需要が高まっている。

[Specifications]
●総電流容量:2000mA ●DCアウトレット:9V(最大300mA)×3、可変ポート(9V=500mA/12V=375mA /18V=250mA)×2 ●サイズ:111.5mm(W)× 60mm(D)×21.3mm(H) ●重量:134g ●付属品:DCケーブル×5、ACアダプター(12V/2000mA)

▲5ポートのうち2ポートは、9V 500mA / 12V 375mA / 18V 250mAの切り替えができる可変タイプだ
VA-08MKII
▲Power Carrier VA-08 Mk II

VA-08 Mk II は発売以来のロング・セラーとなっている、ヴァイタル・オーディオ Power Carrier シリーズの看板モデル。9V 500mA(最大)の6ポート、9V/12V/18Vの電圧可変で800mA(最大)の2ポートを備え、総電流容量は2000mA。高電圧・大容量を必要とするペダルにも余裕で対応する。パワフルなのにコンパクト、フル・アイソレートでノイズに強く、価格も抑えられており、人気が高いのも納得の逸品だ。

[Specifications]
●総電流容量:2000mA ●DCアウトレット:9V(最大500mA)×6、可変ポート(最大800mA:9V / 12V / 18V)×2 ●サイズ:140mm(W)× 70mm(D)×30mm(H) ●重量:238g ●付属品:DCケーブル×8、 Yケーブル(ヴォルテージ昇圧用)×1、Yケーブル(分配用)×1、ACアダプター(12V/2000mA)

▲昇圧用Yケーブルと分配用Yケーブルが付属しているので、2つのポートをリンクしてより高い電圧を供給したり、同じ電圧を分配したりできる

Power Base VAPB-45M


エフェクト・ボード一体型パワー・サプライ

VAPB-45M

今回、取材中に特別に公開してもらった VAPB-45M のプロトタイプ。エフェクト・ボードの内部にパワー・サプライが組み込まれているという斬新な製品だ。ボードに「1つでも多く、好きなペダルを乗せたい」というペダル愛好家の要望に応え、究極の省スペース化を図っている。2口の可変ポートを含む計8ポートを搭載し、そのうちの1つは9V 3000mA。大容量を必要とするデジタル・ペダルやシミュレーターも安心して使える。パワー・サプライは強く踏まれることが比較的少ない上部に仕込まれ、大きな衝撃を可能な限り回避。安全性、耐久性、耐熱性などを測る各種テストを実行中とのことで、こちらも発売が待ち遠しいところ。ただし、完成まではもうしばらくかかりそうな様子。刮目して待つべし!(※2024年10月25日発売開始)

▲9V / 12V / 18Vを切り替えられる可変ポート。9V〜18V対応の歪み系ペダルに、中間の12Vを供給するのも面白いかもしれない
▲可変ポート2口と9Vポート5口はアイソレートされている。Power Carrier シリーズの技術が使われているようだ

取材、文:井戸沼尚也 Naoya Idonuma

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