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Universal Audio UA Bock 187 :「プロフェッショナルのための」エントリークラス・コンデンサーマイク

Universal Audio から著名なマイクデザイナー David Bock 氏が手掛けたコンデンサーマイク UA Bock 187 が発売されました。Soundelux の U99B や iFet7 など、Bock 氏のマイクを長年愛用するレコーディングエンジニア門垣良則氏の目に、UA Bock 187 はどう映ったのでしょうか。

U87 を意識しながら Bock 氏が思う最高のサーキットとコンポーネントを配置


Universal Audio の新製品 UA Bock 187 は、Bock Audio の創設者でありマイクロフォン開発における天才的な設計者である David Bock 氏がデザインしたコンデンサーマイクです。

Bock Audio 以前、David Bock 氏は Soundelux 社でマイクロフォンの開発をしており、U99 や ELUX 251、E47 や iFet7 など、数々の名機を開発しました。それらは伝説的な定番ビンテージ・マイクロフォンのサウンドキャラクターを強く意識しながら、現代的に使いやすくデザインされたもので、ハリウッドを中心に人気を誇りました。かつて日本でも販売され、当時ハイエンドなモデルでは100万円近い価格で流通していたにも関わらず、サウンドに厳しいエンジニアやスタジオに導入されていました。近年になり、パーツの生産技術が向上したことなどから当時よりかなり手が届きやすい価格になったものの、ハイエンド・マイクロフォンの一角を担っています。しかし、Bock さんも高齢になり引退されるというタイミングで Universal Audio が Bock 氏のデザインしたマイクロフォンの製造と販売を引き継ぐという、我々ユーザーにとっては夢のような展開を迎えることで UA Bock 187 が生まれました。

まず最初に、その洗練されたパッケージデザインと非常に高品質な木製ケースに驚くことでしょう。 何倍もの価格の商品でも、こんなに素晴らしいパッケージはなかなかお目にかかれません。 そして実際に UA Bock 187 を手に取った時、そのパッケージデザインは製品への絶対的な自信とリスペクトを表すものであると確信します。

パッケージ
▲パッケージを開ける前から期待が膨らむ高級感と、高品質な木製ケースに驚く。マイク本体も洗練されたデザインで所有欲が満たされる

UA Bock 187 は小ぶりなマイクに見えますが、ずっしりと重量があります。理由はボディやグリルの材質や厚みはもちろんのこと、内蔵された大型トランスフォーマーにあります。 マイクという振動するものの近くに置かれるものは質量が高い方が余計な鳴りを発生させにくく、特に低域の締まりなどに良い影響を与えます。フィルムコンデンサなども厳選されたものが使われており、Bock 氏の設計が「コンポーネントの指定」までしっかり忠実に守られていることがよくわかります。これは電気的な図面から見た回路設計のみを採用し、売価に対してコンポーネントのグレードを下げるという、いわゆる大量生産品とは根本的に異なる製品であることを示しています。

トランス
▲Cinemag 製の大型トランスフォーマーが内蔵されている。フィルムコンデンサも WIMA、VISHAY など高級パーツが厳選されており設計の視点から見ても非の打ち所がない

ダイアフラムは近年人気のある、フレームがブラスタイプのラージダイアフラムを採用しています。このタイプのダイアフラムは、いわゆる AKG C12 などで使われた初期の CK12 カプセルなどに採用されているものです。このブラスタイプのダイアフラムは高域が煌びやかに伸びるため、非常に心地よいエアー感が得られます。

ビンテージのブラス CK12 カプセルは高額で取引されていますが、Telefunken ELA M251 や C12、 Peluso P12 などの C12 系はもちろん、REDD MICROPHONE や Manley Reference Gold などもブラスフレームを採用しています。対して、フレームが樹脂タイプのダイアフラムは高域が抑えられる傾向にあります。また、UA Bock 187 で意識されている Neumann U87 は、樹脂タイプのダイアフラムを採用しています。この点から、U87 を意識しながらも明確なサウンドデザインの上で、Bock 氏が思う最高のサーキットとコンポーネントを配置していることがよくわかります。

ダイアフラム
▲ブラス製のフレームを持つラージダイアフラムを採用。ブラス製のフレームは高域が煌びやかになり、近年人気が高い

背面にはローカット(120Hz)、PAD(−10dB)という基本的な機能に加えて、FatとNormalのモード切り替えスイッチが搭載されています。FatモードはNormalモードに比べて10〜400Hzの低域がブーストされます。これは Soundelux U99B に搭載されていた機能です。Fatモードは楽器類やベース、バスドラムのオフマイクなど、いわゆる Neumann U47 FET を求めるような場合に最適で、Normalモードはボーカル全般にオールマイティに使える印象です。

スイッチ
▲背面にはローカットとPADに加えて、MODE というマイクのキャラクターを切り替えるスイッチが搭載されている

サウンドや使い勝手を総括すると、UA Bock 187 は、U87 というワールドスタンダードなマイクを意識しながらも模倣せず、新たなワールドスタンダードを意識したデザインになっており、サウンドはスタンダードな U87 よりも現代的に使いやすい特性を備えたマイクと言えます。 メインのボーカルマイクとして非常に優秀でありつつ、Fatモードをうまく使うことで、楽器用の集音マイクとしてもマイクストックに個性を加えることができます。エントリークラスと言えるプライスですが、それはあくまで「プロフェッショナルモデル」へのエントリーを意味します。
個人的には、初期型はプレミアが付くほど評価が高い、RODE NT-2 や BLUE Baby Bottle の登場を思い出すほどのインパクトを持った製品と思いました。

UA Bock 187 は Soundelux 時代の U99B をソリッドステートにしたものという側面と、iFet7 の現代バージョンという側面を持った、プロフェッショナル用レコーディングマイクと言えます。

文:門垣良則
写真:桧川泰治

門垣良則

奈良出身。サウンドエンジニアであり広義、狭義ともにプロデューサー。師匠である森本(饗場)公三に出会いエンジニアという職業を知る。師事した後、独学及び仲間との切磋琢磨により技術を磨きMORGを結成。当時の仲間の殆どが現在音楽業界の一線にいるという関西では特異なシーンに身を置いていた。大阪のインディーズシーンを支えるHOOK UP RECORDSの立ち上げ、運営に関わる。大手出身ではないが機材話で盛り上がり、先輩格の著名エンジニアとの交流は多い。自身の運営するMORGのスタジオを持ち、日本有数の名機群を保有する。中でもビンテージNEVEやマイクのストック量は他の追随を一切許さない。しっかりとメンテナンスされた高級スタジオ数件分の機材を保有している。インディーズレーベルに叩き上げられた独自の製作スタイルを持ち、二現場体制での対応スタイルはじめマスタリングアウトボードを通しながらのミックススタイルをいち早く採用している。

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