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Universal Audio : リボンマイクとして使う Sphere モデリング・マイク

『ヤマノススメ』や『活撃刀剣乱舞』など、数多くのアニメソングや劇伴を手掛ける作・編曲家/ギタリストの yamazo 氏。プライベートスタジオで愛用している Universal Audio Sphere モデリング・マイク・システム について、導入の経緯や活用法を聞きました。

エンジニアの井野さんが使っているのを見て便利そうだなと


- yamazo さんは普段このスタジオで、作・編曲やレコーディングの作業をしているのですか?

yamazo:そうです。昨年の4月頃からここで作業しています。劇伴とかでも、予算の都合で外のスタジオを使えないことがあるので、このスタジオにミュージシャンを呼んで録音することも想定して作りました。歌もそうですし、ちょっとしたパーカッションやソロ楽器とかがここで録れたらいいなと。基本的には打ち込みにするよりも、楽器を録りたいので。

- そのためにマイクなども揃えているのですね。

yamazo:スタジオを作るにあたって、ちゃんとしたボーカルマイクが1つ欲しかったんです。Neumann U87 とかもそうですが、バリエーションが欲しいじゃないですか。そう考えた時、エンジニアの井野健太郎さんが Sphere L22 を使っているのを現場で見ていて、いろんな楽器を録るのに使えて便利そうだなと。

Townsend Labs Sphere L22
▲Neumann、Telefunken、AKG、Sony をはじめとする、伝説的なマイク38モデルのサウンドが得られる Sphere L22

- それで Sphere L22 に決めたのですか?

yamazo:一番大きかったのは、ボーカルマイクのチョイスについて力説している、海外のYouTube動画を見たことですね。そのYouTuberが「どのマイクにしようか悩んだり、マイクが合わなくて取り替えたり、そうやって時間をロスしていると歌うことに集中できないよね。それなら色々なマイクモデルを選べる Sphere L22 を使うほうが良くない?」みたいなことを力説していて、確かに言えているなと。クオリティに関しては全然疑っていなかったので、導入を決めました。

- どんなDAW環境で使用していますか?

yamazo:プリアンプ経由で Pro Tools のインターフェイスに接続して、Sphere の付属プラグイン(Sphere Mic Collection)を立ち上げます。AAX DSPだとレイテンシーもなく、リアルタイムでモニターしながら録れますね。今までは井野さんから Sphere L22 で録音したデータをもらって、こちらでプラグインを挿してマイクモデルを試していましたが、今後は自分の Sphere L22 で録る機会が増えると思うので、自分でマイクモデルを選んだセッションデータを井野さんに投げて、必要に応じて変更してもらうような使い方を想定しています。

▲Sphere Mic Collection。マイクモデルの変更や、指向性、AXIS(角度)、近接効果などの調整が録音後でも行える

- 主にどんなパートを Sphere L22 で録っていますか?

yamazo:何にでも使えるんじゃないかな。ソロバイオリンを録る時は、楽器の一番近くにメインのマイクとして Sphere L22 を置いて、オフマイクのような形で何かステレオペアのマイクを立てています。あとギターのリアンプでも使っています。最近のアップデートで、リボンマイクの RB-121(Royer R-121)が追加されたんですよ。リボンマイクってギターアンプによく使われますけど、音圧に強い構造じゃないから壊れないか心配で。値段も20万円くらいと結構高価ですよね。だから今回 RB-121 が入ったのがすごく嬉しくて。Universal Audio OX(リアクティブ・ロードボックス)にも R-121 のモデリングが入っているじゃないですか。だから第一印象は「OXと同じ音がする!」って思いました。

- 他にお気に入りのマイクモデルは?

yamazo:さっき RB-4038(Coles 4038)でバイオリンを録ってみたら、メチャクチャ音が良くて気に入りました。実機の Coles 4038 はすごくデリケートなリボンマイクだと聞きますが、そういう個人で管理するにはリスキーなマイクが簡単に試せるし、いろんな指向性を試せるのがいいですね。

マイクロフォン事典
▲知らないマイクモデルの構造や使い方は『音楽クリエイターのためのマイクロフォン事典』(著・林 憲一/DU BOOKS)を参考にしているという

- オプションのマイクコレクションを利用したことは?

yamazo:井野さんに Ocean Way Mirophone Collection を勧められたので、買ってみたらすごく良くて。今日のバイオリンのレコーディングでは、Neumann M50 をモデリングした OW-50 を使いました。M50 はデッカツリー(※LとRとセンターに計3つの無指向性マイクを使う録音法)とかでよく使われる無指向性のマイクで、井野さんもスタジオでデッカツリーよりさらに高い位置に Sphere L22 を立てていて、おそらく OW-50 を使っていたんじゃないかな。それを少し真似しつつ、Sphere DLXSphere LX と併せて Sphere を3本立ててみました。

Sphereでデッカツリー
▲Sphere L22(奥のL)、Sphere LX(手前)、Sphere DLX(奥のR)の3本でバイオリンを収録
バイオリンのレコーディング
▲マイクモデルは Sphere L22 と Sphere DLX に OW-50(左の2つ)、Sphere LX に RB-4038(金)をアサインした

- ボーカルを録る時のファーストチョイスは?

yamazo:普通に録音するなら、最初は LD-67(Neumann U67)か LD-87(Neumann U87)を選ぶと思います。Bill Putnam Mic Collection も少し試してみたら、ボーカルとかに向いてそうだなとすごく感じました。

The Bill Putnam Mic Collection
▲The Bill Putnam Mic Collection。Universal Audio の創業者が Frank Sinatra や Nat King Cole、Ray Charles、Elvis Presley などの録音に使用したのと同じモデルが利用できる

AXISを微妙に調整すると、人数多めで録っている感じが出せる


- 録音後に指向性やAXISなどの調整が行えるのも特徴です。

yamazo:そのことも、今日演奏してくれたバイオリニストの岩嵜(壮志)くんと話していたんです。バイオリンを重ね録りした後で、AXISや距離を変えると音に滲みが出て、普通に重ねた時とは違う、バイオリニストが2人いるような感じが出せていいよねって。

岩嵜:ストリングスを録る予算がないプロジェクトとかだと、よく僕に宅録の依頼が来るんですよ。そんな時は、1本のマイクで1stバイオリンを4本、2ndバイオリンを4本とか重ねて納品するんですが、本来は1stの奏者が2人いて、ストリングス・セクション全体を狙ってマイクを立てるから、録り方が全然違うじゃないですか。だけど Sphere L22 で録れば、後からマイクモデルを変えたり、AXISを変えたりして、宅録でも1本1本を微妙に違う感じに調整できる。実際にそうやって再生してみたら2人で弾いている感じがものすごく出せて、すごいなと思いました。かなり革新的!

yamazo:だから、あまり教えたくない(笑)。

岩嵜:それこそ2ndバイオリンだけ微妙にマイクを変えたり、ビオラのセクションだけマイクを変えてAXISとかを微妙に調整したり、さらに奏法を微妙に変えていけば、大人数のストリングス・セクションを録ったようなデータを作ることもできると思います。1人で重ね録りすると位相の感じにちょっと嫌味が出てしまうから、1人で弾いていることがわかってしまうんですけど、それが完全に解消される。実際、出音もメチャメチャいい。

yamazo:単純にマイクのモデリングがすごくいいしね。

岩嵜:そもそもマイク自体の音質がすごくいいですね。素の音が素直だし、あまりハイがでしゃばらない感じで、重ね録りにもすごく向いている。これは欲しいですね。

yamazo:素の音とモデリングとで、すごく変わる部分と変わらない部分があるんですよ。結局、マイク自体の元々の良さがあるから成り立つんでしょうね。Sphere L22 は元々 Townsend Labs の製品でしたが、Universal Audio から発売されるようになったことも、クオリティに対する信頼感につながっています。

岩嵜壮志
▲バイオリニスト/作・編曲家の岩嵜壮志氏

手元にないマイクを Sphere に任せることが多い


- リアンプの時の使い方を詳しく教えてください。

SM57 みたいなダイナミックマイクをスピーカーのド真ん中に立てて、そのちょっと横にリボンマイクかコンデンサーマイクを立てるようなイメージで、Sphere L22 を立てています。ダイナミックマイクは手元にある実機を使い、手元にない R-121 役とかを Sphere L22 に任せる形が多いです。

Sphereでギター録音
▲ダイナミックマイク(Shure KSM8、Senheiser e906)をスピーカーのセンターに立てて、その横に Sphere L22 をセット

- Sphere 1本だけでも、それと似たようなことができますよね?

DUAL のことですね。例えばMIC 1を DN-57(Shure SM57)、MIC 2を RB-121 にすると、2本のマイクを立ててアンプを録ったような感じで調整できます。ミックス具合も調整できるし、パターンが視覚的に見えるのがすごくいい。これは天才の所業ですね(笑)。めちゃくちゃ便利です。

DUAL
▲DUAL をオンにすると、2種類のマイクモデルをミックスすることができる

- ステレオ録音も1本で可能です。

以前、バイオリンのオフマイクとしてステレオ録音をしてみたのですが、その時はピンとこなくて。近距離で使うとまた違うかもしれないので、今度アコギとかで試してみたいです。1本でのステレオ録音もできますが、今日のレコーディングで Sphere を2本立ててみたら、さらにクオリティが上がるのを実感できました。

- 発売されたばかりの Sphere DLX や Sphere LX も試してもらいましたが、いかがでしたか?

Sphere LX は選べるマイクモデルが標準で20種類ですけど、Ocean Way Microphone Collection とかを買えば、Sphere DLX / L22 同様に38種類が全部使えるようになりますよね。実際、音を聴いた感じや、ダイアフラムの大きさも Sphere DLX と変わらないので、Sphere LX は選択肢としてすごくいいのかなと。重量が軽いのもいいですよね。マイクが重たいと、ブームを斜めに伸ばした時に少しずつ垂れてきてしまうので。

- 一方の Sphere DLX は Sphere L22 とほぼ同じスペックです。

見た目は Sphere DLX の方がかっこいいですよね。マットな仕様のグリルだったり、UA のエンブレムにも高級感がある。あとケーブルが、Sphere LX と Sphere L22 はどちらも3mですが、Sphere DLX は7.5mと長くなったのがいいですね。

Sphere DLX/LX
▲左が Sphere DLX、右が Sphere LX

写真:桧川泰治

yamazo

ギタリスト/作・編曲家
専門学校卒業後、女性Vo.の二人組ユニットを結成し活動開始。
2009年解散後に作家活動に専念。
王道Jpopからロック、R&Bなどの楽曲も手がけ幅広くこなし、現在は劇伴のシーンに活動の場をうつしている。

岩嵜壮志

バイオリニスト/作・編曲家
6歳よりヴァイオリンを始める。
音楽大学に在学中、ウィーンへの留学をきっかけにアニメ・ゲームなどの音楽に目醒め、作家を志すようになる。
帰国後、ヴァイオリン演奏で多数の楽曲に参加し、持ち前のコンテンツ中毒を活かした楽曲制作を行う。

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