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Image-Line Software : VLOT が憧れた FL Studio でのヒップホップ制作

国内の数多くのラッパーに楽曲を提供しているDL/音楽プロデューサーの VLOT 氏は、ヒップホップのビートメイクには FL Studio が欠かせないと言います。その真意を確かめるべく、彼がセッションの場として使用しているスタジオ、Crystal Sound を訪ねました。

海外のプロデューサーは基本的に FL ユーザーが多い


- まずは簡単な自己紹介をお願いします。

VLOT という名前でDJとプロデュースをメインに活動しています。ジャンル的にはヒップホップが中心で、KOHH や JP THE WAVY、LEX、MIYACHI、YOUNG COCO、Only U、YENTOWN の PETZ といったアーティストとの楽曲制作に携わっています。あと Bleecker Chrome というグループがあるんですが、そのメインプロデュースをしています。

- 音楽プロデューサーとしての活動はいつ頃から?

プロデュースは7年前ぐらいからです。先にDJからスタートして、そのエディットなどの延長で曲を作り始めました。基本はずっとヒップホップがベースですが、Skrillex が出てきた辺りですごく影響を受けて、そういうサウンドも作っていました。DJパフォーマンスをして、自分の曲をプロデュースするという Skrillex のスタイルからは大きな影響を受けています。

- 当時から FL Studio(以下 FL)を使っていたのですか?

最初は Ableton(Live)を使っていました。海外のヒップホップのプロデューサーは基本的に FL ユーザーが多いので、FL で解説されたチュートリアルを見ながら Ableton に置き換えて作業していましたが、3年前ぐらいに FL に乗り変えました。Ableton と FL は概念がかなり違うので当初は苦労したのですが、YouTube で FL の使い方をよく見ていたおかげで、何となくの流れや使用するツールへの理解はあり、半年ぐらいで慣れました。

- 楽曲制作の流れを教えてください。

基本的にテンプレートから作業に入ります。Internet Money というプロデューサー集団が作ったドラムキットに入っている FL のテンプレートが、トラップを作るのに最適な仕様になっているんです。そこからビートを組んでいくわけですが、ループメーカーと呼ばれる方々が自分の周りにたくさんいるので、彼らが作ったメロディを使うこともあるし、自分でイチからメロディを作る場合もあります。メロディというのは、基本的なコードとそれに沿ったベースライン、上ネタのリードなりクラックに、リードに対するカウンターメロディといった、大体5つぐらいのパートで構成されています。

- そのメロディは打ち込みで作るのですか?

はい。MIDIキーボードは使わずに、ドラムはステップシーケンサー、フレーズやコードはピアノロールで打ち込んでいきます。自分の場合は1パターン内ですべての音を完結させて、それをピッカーで分割して色々な展開を作っていきます。サウンドごとにパターンを作る人もいたりと、多分色々な使い方がありますが、ループを作るにあたって FL はすごく優れたDAWだと思います。

FL Studio
▲FL Studio のチャンネルラック。ここでステップシーケンサーやピアノロールを利用してパターンを組む。VLOT 氏の場合、楽曲で使用するすべてのサウンドを1つのパターン内で作成している
FL Studio
▲作成したパターンをピッカーでサウンドごとに分割し、右側のクリップトラックに配置して楽曲を構築していく

- よく使う音源やエフェクトは?

FL 内蔵のものではピアノ系の FL Keys ですね。あとはサードパーティのものが多いです。Analog Lab や Keyscape、SERUM、Omnisphere、ARCADE あたりをよく使います。エフェクトでは FL 内蔵の Gross Beat の使用頻度が高いですね。これでリズムを作ったり、バースやフックのメロディを作ったり、必要な場合はオーディオ化してさらにイジるなどして、あまり一定にならないようにします。他には Fruity Parametric EQ 2 をトリートメント的に使ったり、シンセサイザーを Vintage Chorus でさらに空間っぽくしたり、シンセにパワーが欲しい時には Fruity WaveShaper を使います。そして一番大きいのが Soft Clipper です。これがアメリカのヒップホップっぽさを出す一番のポイントかな。マスターに挿して、歪ませながらサウンドを成り立たせることができるんですよ。Soft Clipper をかけた時の割れる感じこそ、最近の海外のヒップホップの感じなんですね。Ableton を使っていた時はこの感じが出せなくて、すごく頭を悩ませていました。Soft Clipper の歪みはすごく重要だと思います。

FL Keys
▲内蔵のピアノ音源 FL Keys
エフェクト
▲VLOT 氏がよく使う FL の内蔵エフェクト。①Gross Beat、②Fruity Parametric EQ 2、③Fruity Delay 3、④Vintage Chorus、⑤Fruity WaveShaper、⑥Fruity SoftClipper

ヒップホップというジャンルは FL のサウンドありきだとすごく思う


- ビートメイクにはサンプルを使用するのですか?

はい。ヒップホップはサンプル選びが重要なので、ドラムのサンプルパックをひたすらダウンロードしています。僕の場合、好きなプロデューサーや周りのプロデューサーが出しているドラムキットを使っていて、そこから抜粋した自分用のドラムキットみたいなものも頻繁に使います。作ったドラムパターンをMIDIで書き出しておくこともありますね。ハイハットのパターンなど、いいのが出来たらとりあえず書き出しておいて、いろんなパターンをストックしてあります。それを元にメロディに合わせて音数を足し引きするなどして、ベーシックなパターンを変えていきます。FL はパターンのストックもやりやすいですね。すぐにブラウザに反映されるし、見やすいし、管理もしやすい。1画面で完結できるのが便利だと思います。ソフトの起動がすごく早くて、作業のスピード感も素晴らしいです。

ブラウザ
▲左側にオーディオサンプルなどの管理をするためのブラウザがある。ここからドラッグしてチャンネルラックにアサインする

- イメージに合うサンプルが見つからない場合は?

Channel Sampler でサンプルをイジることもあります。BOOST ノブを上げて歪ませたり、Time ノブで若干タイミングをズラしてグルーヴを作ったり。

- サンプラーで歪ませるというのが斬新ですね。

歪みながら収まる感じというか、FL はそういう歪ませ方が得意ですね。瞬時に処理できるし、一括で調整できるところが強い。他のDAWでは綺麗な感じは出せるんですけど、こういう歪ませ方は FL じゃないと難しかったですね。ヒップホップというジャンルに関しては、FL のサウンドありきなんだとすごく思います。あと FL はハイハットの音がすごく独特だと思います。若干リバーブっぽい感じになるというか、若干余韻が残りますよね。これが Ableton ではどうしても出来なくて、すごく憧れた音なんです。アウトロの音の残り方も独特で、ビートが終わるタイミングでちょっとディレイぽくなる。これが FL の音なんです。

BOOST
▲サンプルのエディットを行う Channel Sampler。BOOST ノブを上げることで歪ませることも可能

- まさにヒップホップに最適なDAWですね。

サウンドメーカーやビートメーカーに特化したDAWという感じですね。ヒップホップを作る方には強くオススメできます。海外と日本ではDAWのスタート地点が違っていて。日本ではDJの文化的に Mac ユーザーが多いけど、FL が2018年まで Mac に対応していなかったこともあって、Ableton で始めるのが主流になったと思うんです。逆にアメリカは Windows で始めるプロデューサーがすごく多いので、FL も自然に使われるようになったんだと思います。

- 音作りの方向性においても、海外との違いを感じることはありますか?

「音の鳴り」が結構違うと思います。日本は綺麗な方向にどんどん行っているのかな。海外では荒々しい部分とか、それすらサウンドに近い感じで表現するやり方があって、ビートの荒々しさがその曲の雰囲気になります。日本では、まだそういう感じでは判断されていないのかもしれません。

- コライトで曲を作り上げることもありますか?

セッションで生まれる部分はすごく大きいですね。「いいものを作るには、いろんなアイディアやエッセンスを入れた方がいい」という考えがヒップホップにはあるから、プロデューサーが何人も集まって、どんどん人が増えていく。今日もこの後にセッションがあるんですが、自分はラッパーと一緒に曲作りをすることが多くて、そこに向けて日々作業をしている感じです。もちろんメールでやり取りをしたり、ストックを送ってラップを入れてもらうこともあるんですが、一緒に作る方が互いの好みや曲の方向性がハッキリします。最近はループメーカーやメロディメーカーの存在が、効率化を図るにあたってすごく大きいですね。ラッパーとのセッションでは、メロディを作るのに時間がかかり過ぎるとテンションが下がっていってしまうので、なるべく瞬時にループを用意できた方がいいんです。

スタジオ
▲ラッパーとのセッションなどによく使用している東京・大田区のスタジオ Crystal Sound

- スタジオでのセッションからループのやり取りまで、様々なコラボ方法があるんですね。

自分も海外のプロデューサーにループを送ったりするので、完結した楽曲からループだけを抽出してストックしておきます。それがまた新しい曲になるかもしれないし、そういうきっかけをとりあえずたくさん置いておく。ループメーカーも自分だけにループを送ってくるわけではなく、いろんなアーティストに送っているので、どこでどう被るかもわからないし、どう使われるかもわからない。そういう意味では、本当にたくさんのループが日々生み出されていると思います。そういう時代だったり環境が、今のヒップホップなのかなって思います。

- 最近は 360 Reality Audio のお仕事もされているそうですね。

そうですね。でも作品として作るというよりはデモンストレーション音源が中心で、まだアーティストの曲では実現できていないんです。ループミュージックは曲展開がすごくあるわけではないので、360 の技術とどうクロスオーバーさせていくかはこれからですね。それこそ聴く側の状況が整ってくるかが重要で、ストリーミングも iPhone ありきで流行っていったのかなと思うので、デバイスが普及していくことが大事。でも 360 はさらに音の表現方法がかなり広がるなっていうのは感じていて、また違う音作りの仕方を考えるようになっていくんだろうなと思います。

VLOT

写真:桧川泰治

EVENT INFORMATION [360 Reality Audio x HIPHOP]

VLOT 氏がデモンストレーションビートを制作している、360 Reality Audio のインスタレーションイベントが2024年4月5日(金) - 4月9日(火)の期間、開催される。
時間:12:00-20:00 ※20分毎、入れ替え制
場所:PORTRATION(東京・渋谷区)
詳しくは公式サイトまで

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