Universal Audio : LUNA マニュアル | Studer® A800 Tape
マニュアル, 2021/05/14
該当製品
世界で最も人気のあるマルチチャンネルテープレコーダーの豊かなアナログサウンド
30年以上に渡り、私たちは Studer® A800 マルチチャンネルテープレコーダーのあたたかいアナログサウンド、ソリッドなローエンド、そして全体に及ぶ存在感に魅了されてきました。Metallica、Stevie Wonder、Tom Petty、A Tribe Called Quest、Jeff Buckley をはじめ、この伝説的な2インチのアナログテープマシンで収録された膨大な数のアルバムは、アナログテープならではの素晴らしい音楽性を示すものです。
UAD ハードウェア、Apollo インターフェイス、LUNA レコーディング・システムに対応する Studer A800 Multichannel Tape Recorder は、Studer から正式な認証を受け、UA の世界的に有名なDSPエンジニアチームと磁気テープレコーディングのエキスパートである Jay McKnight によってモデリングされた初の製品です。Allen Sides が Ocean Way Studios に所有していた名機 A800 のすべての回路パスを忠実にモデリングすることで、マルチトラックのアナログテープレコーディングを最も正確に再現します。
*Studer A800 Tape LUNA エクステンションは、有償オプションとなります。
主な特徴
- 入力、シンク、リプロ・パスを含む、Studer A800 の完全な電子信号パスを介したトラッキングとミキシングを提供。
- 本物のテープならではのあたたかさ、存在感、まとまり感、ローエンドのパンチを加える。
- 複数のテープサウンドを使用して、こだわりのアナログテクスチャーを得る。
- Studer A800 LUNA エクステンションを使用して、チャンネルごとにあたたかかみを加え、ミックスを仕上げる。
LUNA レコーディング・システム内で、Studer A800 を LUNA エクステンションとして使用すると、すべてのオーディオ/インストゥルメントトラックに対し磁気テープの個性を加えることができます。操作も直感的に行えるため、ミックスを進めていくと、磁気テープによるまとまりをすぐに感じることができるでしょう。単なるテーププラグインの域を超えた Studer LUNA エクステンションは、LUNA レコーディング・システムのミキサーに組み込まれており、Apollo インターフェイスのユーザーに、アナログのワークフローおよび本物のアナログサウンドを提供します。
画期的なテープマシン
1978年にリリースされた Studer A800 は、マイクロプロセッサで制御される初のテープマシンでした。時代を先取りしていた A800 は、今日でも世界中のスタジオで使用されています。しかし、巨大なスチールフレームとメーターブリッジ、強力なツインモーター、そして鋳造合金製のデッキプレートを備えるオリジナルの A800 ユニットは、900ポンドもの重量に達します ─ そういった面での煩わしさから解放されるこの Studer A800 Multichannel Tape Recorder には、愛すべき記録媒体の美しいトーンのすべてが備わっています。
テープの魔法を引き出す
実際の磁気テープと同様に、Studer A800 の入出力コントロールを調整して、クリーンなサウンドや心地よいハーモニックサチュレーションを得ることが可能です。IPSコントロールでは、多様な周波数特性、ヘッドバンプ、ディストーション特性を含むテープスピード(7.5、15、30IPS)を選択できます。テープタイプコントロールでは4種類の磁気テープを選択でき、個々の微妙なサウンドの違いを楽しめます。加えて、ノイズ、EQ、バイアスといった副次的なコントロールも用意されており、テープの質感をさらに豊かなものにできます。
Studer A800 Tape の入手方法
Studer A800 Tape LUNA エクステンションは別売です。デモや購入は、LUNA の[MANAGE]ページから行えます。Studer A800 Multichannel Tape Recorder には、UAD プラグイン(Mac / Windows)と LUNA エクステンション(Mac のみ)が含まれています。
Studer A800 Tape を使用する
Studer A800 Tape LUNA エクステンションは、任意のオーディオ/インストゥルメントトラックに使用できます。オーディオトラックでは再生時にのみ適用されます。インストゥルメントトラックでは、再生時以外に、入力モニターと録音可能設定時でも(ARMのオン/オフに関わらず)機能します。
Studer A800 Tape には、テープマシンのグローバルな設定と、トラックごとのサチュレーションに関する設定が用意されています。つまり、実際のレコーディングやミキシングにおける信号パスに近いものとなっています。
LUNA では、テープエミュレーションとして最大4台の「マシン」を使用できるように設計されています。各マシンのスロットでは個別の設定が行え、4つのマシンのいずれかを任意のトラックに適用することができます。グローバルなテープの特性は各マシンで決定し、テープを適用するトラックごとにサチュレーション量の設定を行うことができます。
例えば、2台のマシンを追加して、一方をもう一方よりも激しくドライブさせるような設定を行う場合、ドラムやベース、ギターなどはドライブの効いたマシンに、ボーカルやコーラスはクリーンなマシンに割り当てることが可能です。さらに、別の特性を有する3台目、4台目のマシンを追加することも可能です。最大4台のマシンを設定できるため、幅広いテープサウンドを得ることができます。
Studer A800 の設定
Studer A800 LUNA エクステンションは、用意されたプリセットを使用するだけでなく、手動による調整も可能となっています。バイアス、テープスピード、テープタイプなどのコントロールは、セッションを通してのグローバル設定となります。トラック単位では個々のサチュレーションコントロールがあり、加えて HF Driver と Repro EQ の調整も行えます。UAD Studer A800 プラグインに保存したプリセットを、Studer A800 LUNA エクステンションで使用することも可能です。
テープデッキスロットにテープマシンを追加する
- ミキサービューまたはタイムラインビューのフォーカストラックで、オーディオ/インストゥルメントトラックの[TAPE]スロットをクリックすると、テープブラウザが開きます。
- 設定を行うテープスロット(A~D)をダブルクリックします。
- [MACHINES]リストから、テープマシンの種類(Oxide または Studer A800)を選択します。
テープマシンをスロットに追加すると、そのマシンを任意のオーディオ/インストゥルメントトラックに割り当てることができます。LUNA では、セッションにつき固有の設定を持つテープマシンを最大4台まで追加できます。
Studer A800 をトラックに割り当てる
- トラックの[TAPE]インサートをクリックします。画面左側にテープマシンセレクターが開きます。
- お好みのテープマシンを選択すると、トラック上にVUメーター、電源ボタン、“SATURATION” ノブが表示されます。ミキサービューでは、テープ列のラージビューを有効にすることで、Studer A800 LUNA エクステンションの追加設定が表示されます。
- “SATURATION” ノブを使って、トラックに適用されるテープサチュレーションの量を調整します。
- Studer A800 LUNA エクステンションが割り当てられている場合、HF DRIVER HF、BIAS、REPRO LF、および REPRO HF コントローラーが追加で表示され、トラック単位での細かな調整が可能です。加えて、テープブラウザの SETTINGS 画面では、ノイズや入出力レベルの設定など、マシンのグローバル設定にアクセスすることができます。
- 電源ボタンをクリックすると、当該トラックにおけるテープエミュレーションの有効/無効を切り替えることができます。
Studer A800 のグローバルな設定を行う
- トラックの[TAPE]インサートをクリックします。画面左側にテープマシンセレクターが開きます。
- 設定対象の A800 テープマシンをダブルクリックします。
- プリセットを選択するか、コントロールを手動で調整します。“OPEN” ボタンをクリックして、追加のマシンコントロールにアクセスすることも可能です。
調整は、対象のコントロールをクリック&ドラッグするか、コントロールをダブルクリックして値のリストから選択します。値を直接入力することが可能なコントロールも含まれています。
複数のトラックで調整を行う場合は、目的のトラックをいくつか選択してから、いずれかのトラックコントロールを操作します。この場合、トラックグループ(キーコマンド “command + G”)または選択グルーピング(LUNA メニュー[Mixing]>[Selection
Grouping]、またはキーコマンド “control + G”)を有効にする必要があります。
Studer A800 Tape のコントロールパラメーター
INPUT
“INPUT” はゲインコントロールのような役割を果たし、テープエミュレーション送る信号レベルを調整します。設定可能な範囲は、-12 dB 〜 +24 dB です。実際の磁気テープと同様に、入力レベルを下げるとクリーンなサウンドになり、上げるとハーモニックサチュレーションによる色付けが強くなります。また、入力レベルを上げると、プラグインからの出力レベルも大きくなります。“OUTPUT” を下げて手動で補正を行うこともできますが、“LINK” をオンにして自動的に補正することも可能です。
OUTPUT
“OUTPUT” はゲインコントロールのような役割を果たし、Studer A800 の出力ゲインを調整します。設定可能な範囲は -12 dB 〜 +24 dB です。入力レベルが高い場合は、この値を下げて補正することができます。
AUTO CAL
Studer A800 LUNA エクステンションには、BIAS、HF RECORD EQ、SYNC、REPRO EQ の調整パラメーターが用意されています。ハードウェアのテープマシンでは、テープタイプやテープスピードを変更するたびに、これらのキャリブレーションコントロールを調整します。このエクステンションでは、“AUTO CAL” をオンにすることで、設定されたテープやスピードに合わせて、自動的にキャリブレーションが行われます。キャリブレーションされた値から個々のパラメーターを手動で調整ことも可能です。この機能がオフの場合、テープまたはテープスピードを変更しても、キャリブレーションパラメーターの値は自動で変化しません。
LINK
“INPUT” と “OUTPUT” コントロールをリンクし、いずれかを操作しても全体のレベルが極端に変わらないようにします。
NOISE
この設定は、Studer A800 LUNA エクステンション全体の設定となります。オンにすると、選択したテープとテープスピードの設定に準じ、ハムとヒスノイズが追加されます。
HF DRIVER : HF
HF(High Frequency)Driver EQ は、テープの録音回路に適用され、サチュレーションの特性に影響を与えます。バーチャルテープで記録される前の信号の高域成分に作用し、バイアス調整とシステムのフィルター効果によって失われた高域成分を補正します。他のEQが「ポストテープ」であるのに対し、このフィルターはテープの録音回路の前段にあることを覚えておいてください。
HF DRIVER : BIAS
録音信号のバイアス量を調整します。バイアスとは、録音ヘッドにおいてオーディオに適用される可聴範囲を超えたオシレーターと定義され、録音反応を調整することができます。理想的なバイアス設定は、最高の録音感度と低歪みを実現します。意図的にオーバーバイアスを掛けることは、「テープコンプレッション」としてよく使われる手法で、あたたかい飽和感のあるサウンドを生み出します。一方、アンダーバイアスは、オーディオが途切れ途切れになるような歪みやその他のノンリニアな反応を得るために使用されることがあり、極端に低い設定では、オーディオが完全にドロップアウトする場合もあります。
REPRO EQ : HF
このコントロールは、テープの周波数損失やヘッドの磨耗を補正します。システムの周波数特性をより正確に調整したり、高域を増減する場合に使用します。
REPRO EQ : LF
このコントロールは、テープの周波数損失やヘッドの磨耗を補正します。システムの周波数特性をより正確に調整したり、低域を増減する場合に使用します。
TAPE
テープフォーミュラ(テープの種類)を選択します。Studer A800 LUNA エクステンションでは、4種類の2インチ磁気テープがモデリングされています。各テープフォーミュラには、微妙な音質変化、歪み、テープの圧縮特性といった違いが含まれます。
IPS
IPS(Inches Per Second)コントロールは、テープスピードとそれに伴う「ヘッドバンプ」に影響します。ヘッドバンプとは、磁気テープで生じる低域成分の周波数シフトのことを指し、主な周波数が回転スピードに応じて変化します。15IPSは、低域のヘッドバンプとあたたかみのあるサウンドを特徴とし、ロックやアコースティックな音楽に向いているとされます。30IPSは、低いノイズフロア、高い忠実性、そしてフラットなレスポンスが特徴で、クラシックやジャズなどに向いているでしょう。7.5IPSは、周波数シフトが大きくなり、いわゆる「テープ感」が際立たってきます。
CAL
キャリブレーションレベルは、テープキャリブレーション/フラックスレベルを自動的に設定します。これは、ハードウェアの操作でも必要とされる設定と同等のもので、エクステンションの(ユニティー)ゲインを妨げることなく、基準となるテープ/フラックスレベルを設定します。
磁気テープが進化するにつれ出力レベルが増加し、相対的なノイズフロアは減少しました。通常、マシンはテープの出力レベルに合わせて調整されますが、ヘッドルームを残してより広いスイートスポットを得たり、電子機器のクリッピングを防ぐために、不十分なキャリブレーションに留める場合もあります。そのため、エクステンションでも、推奨レベルに合わせてキャリブレーションする/しないを選択することができます。
例えば、テープフォーミュラとして
“456” を選択し、キャリブレーションレベルを “+6(NABテープ標準より6dB高い)”
に設定している場合、基準磁束レベルは355nWb/m(1メートルあたりのナノウェーバー)であり、THDが3%に達するポイント(最大動作レベルと呼ばれます)よりも10dB低くなります。したがって、テープを456、CALを+6、AUTO
CAL
を有効にして、-12dBFSの1kHzテストトーンをエクステンションに送った場合、出力レベルは入力レベルと一致し、テープ上の磁束密度は355nWb/mとなります。
メーカーが推奨するテープフォーミュラごとのキャリブレーション設定は以下のとおりです。
- 250 : +3 キャリブレーション(251 nWb/m)
- 456 : +6 キャリブレーション(355 nWb/m)
- 900 : +9 キャリブレーション(502 nWb/m)
- GP9 : +9 キャリブレーション(502 nWb/m)
“NOISE” が有効なっている場合、ノイズフロアは、キャリブレーションレベルの設定から影響を受けます。
UAD Studer A800 LUNA エクステンションのプリセットには、一般的によく使用される、テープタイプ、テープスピード、CAL、EQ設定が用意されています。