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Universal Audio : Sphere マニュアル | Sphere を使ったアコースティックギターの収録

マニュアル, 2023/01/17

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アコースティック楽器に最適な Sphere の機能を理解する

Sphere マイクは、自然なアコースティックギターのサウンドや、ワイドなステレオ感を持つモダンなサウンドを得るためのさまざまな機能を備えます。第一に、トラッキング後でもマイクの種類や指向性を調整することができる点は重宝することでしょう。また、ここで紹介したテクニックのほとんどは、他のアコースティック楽器のトラッキングの際にも応用することができます。

指向性とオフアクシスの設定は、マイクが拾うルームサウンドの量をコントロールします。アコースティックギターにおいて、マイクをサウンドホールに近づけた場合は、低域が強調される可能性があります。マイクをネック側に向けたり、距離を取ることでこういった低域問題の解消に繋がりはしますが、その分、意図したトーンが得られない可能性も浮上します。Sphere では接効果の量を独立して調整できるため、マイクのポジショニングに高い柔軟性をもたらします。[PROXIMITY] コントロールは通常のEQとは違い、マイクの低域の指向性を変化させ、最良の効果を得られるよう物理的にモディファイされたカプセルが引き起こすような状態をシミュレートします。

マイクをセットアップする

Sphere では、トラッキング後であってもさまざまなパラメーターを調整可能ですが、適切なマイクのセットアップに代わるものはありません。アコースティック楽器は、複雑な音の拡散パターンを持っています。例えば、アコースティックギターのネックを狙って収録した音色は明るく、歯切れの良いサウンドとなります。サウンドホールを狙った場合は、より低域がふくよかになります。マイクをネックや弦に近づけることで、フレットや弦のサウンドをより強調することができます。

ヒント : 片方の耳をふさぎ、ギターが良く聴こえるポイントを探ってみましょう。好ましいポジションを見つけたら、そこにマイクをセットします。一人で作業するのであれば、ヘッドフォンでモニターをしながら演奏し、最適なポジションを探してみましょう。

ギター&ボーカルの収録

マイクを2本使った設定

弾き語りを収録する際は、オーバーダビングではなく、ギターとボーカルを同時に録ることが望ましい場合があります。通常、ボーカルとギターそれぞれにマイクを立てることになりますが、オフアクシスからの回り込みに注意する必要があります。回り込んできたサウンドは、一般的にオンアクシスのサウンドと位相がずれているため、2つのトラックをミックスすると、コムフィルター効果が生じます。これを防ごうといくらマイクポジションを調整したとしても、高域特性はちょっとした距離の差異にも敏感です。20 kHz の音の波長は 2 cm 未満であるため、数 mm の差異が高域特性に著しく影響を与える可能性があるのです。通常、その精度でマイクを調整することは非現実的でしょう。

EQ、コンプレッサー、またその他の処理がそれぞれのトラックに追加されると、これらの問題はさらに複雑になります。ギタートラックにEQを施すと、そこに含まれるわずかな歌声にもEQが適用されることになります(もちろん、逆もしかりです)。したがって、ボーカルとギターの両方に適したEQ設定を見つけ出すことが困難になる場合があります。コンプレッサーの場合は、小さいレベルの音声を持ち上げるため、ギタートラック内の歌声、またボーカルトラック内のギターの音量変化を引き起こし、位相問題を悪化させる可能性もあります。

こういった場合、カーディオイドマイクがよく用いられますが、干渉問題は依然として存在します(90度のオフアクシスでは音量は 6 dB しか下がりません)。別の手法として、90度のオフアクシス特性がほぼゼロのフィギュア8のリボンマイク、あるいはそのパターンを持つマルチパターンマイクを使用してみましょう。これによってボーカルマイクからの干渉を抑え、ギターマイクをセッティングすることができます。適切なポジションであれば、漏れ聴こえるサウンドはオフアクシスからのちょっとしたリバーブ成分程度になります。

2本のマイクでアコースティックギターとボーカルを収録する

フィギュア8のマイクは、近接効果をはじめとする特定の音質を持つ傾向があり、用途を選ぶ傾向があります。しかし、Sphere のオフアクシス補正はマイクタイプと指向性を独立して選択できるようになっているため、この潜在的な問題を解決します。例えば、47マイクをカーディオイドに設定しながらフィギュア8のアイソレーションを得るには、以下の手法を用います :

  1. マイクモデルを LD47、パターンをカーディオイド(Cardioid)に設定します。
  2. オフアクシス補正を有効にして、このセクションのパターンをフィギュア8(Figure-8)に設定します。

既存のマイクを模することだけがゴールではありません。用途や状況に合わせ、問題を的確に解決する設定を目指しましょう。

マイクを1本使った設定

アコースティックギターをステレオ収録すると、豊かで広がりのあるサウンドを得ることができます。Sphere DLX または L22 マイクが1本あれば、フロント側をボーカルに、リア側をギターに使用すれば、2本のマイクを使用したセットアップに近づけることができます(下図参照)。

  1. DAW で、ステレオトラックに Sphere 180 プラグインをインサートします。
  2. 左チャンネルをボーカルに、右チャンネルをギターにアサインします。
  3. オフアクシス補正を有効にし、カーディオイドパターンを選択して、軸外からのブリードを抑えます。

従来のカーディオイドマイクでは、カプセルの物理的な制限により、リアサウンドの色付けが濃くなりますが、オフアクシス補正を使用することにより、これをほぼ回避することができます。

1本のマイクでアコースティックギターとボーカルを収録する

ギターのステレオ収録

マイクを1本使った設定

アコースティックギターをステレオ収録すると、豊かで広がりのあるサウンドを得ることができます。Sphere マイクの素晴らしい機能の1つは、マイク1本でステレオ収録に対応できる点にあります。Sphere 180 プラグインを使用し、マイクをギターに対して90度回転してセットすることで、ステレオ収録が可能になります。

Sphere マイクは、厳選された2つのカプセルが背中合わせでマウントされているため、セットアップの差異による位相問題は発生しません。これを生かし、広がりのあるステレオサウンドを得るためには、両出力をカーディオイド、あるいはスーパーカーディオイドに設定することを推奨します。

ギターの12フレット近辺にマイクを設置することから始めてみましょう。おおむね、ブリッジ側に寄ると低域、ネック側に寄ると高域が強調されます。その間でマイクを動かし、スイートスポットを探してみましょう。

ネック付近に1本のマイクを使用してアコースティックギターをステレオ収録する

マイクをサウンドホールの上、ギタリストの頭の高さにセットするのも良い方法です。左右のカプセルがサウンドホールからの音を均等に拾うため、よりバランスの取れたトーンが得られます。また、カプセルがギタリストの耳付近に置かれるため、より自然で親しみやすいサウンドを得られるでしょう。

マイクをサウンドホールの上、ギタリストの頭の高さに設置する

ポジションを決めた後でもチャンネル間のバランスがしっくりこない場合は、左右で異なるマイクモデルを選択してみましょう。ブリッジ側を低域の少ないスモールダイアフラム、ネック側は太い低域が特徴のリボンマイクを選ぶことで、問題を解消できる可能性があります。Sphere 180 プラグインを使用すれば、物理的な1本のマイクだけでもこのような設定が可能です。

マイクを2本使った設定

2本の Sphere マイクを使用すると、一般的なマイキングと同様のステレオテクニック(XY、スペースドペア、ORTF、ミッドサイド、Blumlein)を用いることが可能ですが、このシステムはさらなる柔軟性を提供します。下図は同じ XY ステレオでも、90度にクロスした構成と垂直に並べた構成を示しています。いずれもうまく機能するので、使いやすい方をお試しください。

Sphere プラグインではマイクモデルの指向性をいつでも(トラッキング後であっても)自由に変更できるため、カーディオイドからフィギュア8にするだけで、XY から Blumlein にすぐに切り替えられます。また、より狭いステレオイメージを得るためのサブカーディオイド、あるいは広いイメージのためのハイパーカーディオイドもルームサウンドを気にすることなく設定することができます。

Blumlein テクニックを使用してアコースティックギターをステレオ収録する

別の一般的なコースティックギターの収録テクニックとして、スペースドペアがあります。一方をブリッジ付近に、もう一方は12フレット付近にセットして始めてみましょう。

このテクニックは他の手法では得られない素晴らしい結果が得られますが、サウンドがマイクに届くまでの時間の差異により、コムフィルター効果が発生したり、モノラルミックスには適さないサウンドになる可能性も含んでいます。

スペースドペアテクニックを使用してアコースティックギターをステレオ収録する

この位相問題を解消するためには、マイク間の距離を、各マイクからギターまでの距離の少なくとも3倍に設定してみましょう。

ヒント:位相干渉の問題解消を確認するには、左右のチャンネルをモノラルサミングした状態で確認してみます。コムフィルターやその他の打ち消し、不要な効果等を確認しながら、マイクの位置を決めます。

ここで紹介したアコースティックギターのベストなステレオ収録テクニックはほんの一部でしかありません。より深く追求される場合は、市販のレコーディングガイドなどをご参照ください。

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