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Universal Audio : Sphere マニュアル | オフアクシス補正

マニュアル, 2023/01/17

該当製品

指向性と周波数特性の概要

周波数に依存する指向特性は、各マイクに個性を与える要因の一つとなります。しかし、この特性は、ブリードの増加、ルームレスポンスによる色付け、フィードバックの影響を受けやすいといった問題もはらんでいます。オフアクシス補正は、軸上の周波数特性を維持したまま、これらすべての問題を低減するもので、サウンドには直接影響しません。

従来のほぼ全てのカーディオイドマイクの指向性は、周波数によって大きく変化します。典型的なラージダイヤフラムコンデンサーは、1〜2 kHz の範囲では単一指向性、150 Hz 以下では無指向性、高い周波数では双指向に近づく傾向があります。Sphere のオフアクシス補正機能では、DSP 補正を適用してマイクの指向特性を改善し、周波数スペクトル全体に渡ってより一貫したオフアクシス特性を得ることが可能です。

技術的な詳細を理解する

このセクションでは、オフアクシス補正の最適な使用方法を理解するのに役立つ、技術的な詳細を述べます。

マイクの極性周波数特性を理解する

下図は、125 Hz(青)、1 kHz(赤)、4 kHz(緑)でカーディオイドに設定した Neumann U87ai の公表されている指向性を示しています。パターンは、1 kHzにおいてのみカーディオイドであることにご注目ください。125 Hz では無指向性に近づき、4 kHz ではほぼハイパーカーディオイドとなっています。

U87ai のカーディオイド・パターン

下のグラフは、U87ai の真後ろ(180度オフアクシス、1/6オクターブの平滑化を伴うソースから 1 m の距離に設置したもの)とオフアクシス補正を有効にした Sphere マイク(同位置)の周波数特性を比較したものです。緑色の線は Neumann U87ai の周波数特性、青色の線は Sphere マイクの特性を示しています。

補正後の Sphere の指向特性は、はるかにフラットです。U87 は最大 16 dB も変化しているのに対し、Sphere は 6 dB 程度で、比較して全体的になめらかです。U87ai の180度オフアクシスのオーディオ出力は大きく色付けされたサウンドであるのに対し、Sphere は自然なルームアンビエンスで構成されたよりスムーズなサウンドを生成していることが見て取れます。

U87ai(カーディオイド180度オフアクシス)と Sphere オフアクシス補正の比較

指向性を変更した場合の周波数特性の変化

ほぼ全てのマルチパターンマイクの軸上周波数特性は、指向性を調整すると劇的に変化します。これは、マイクの位置とサウンドを調整した後、ブリードやフィードバックを減らすためにパターンを変更する場合に問題となることがあります。オフアクシス補正を使えば、軸上の周波数特性を変えることなく、指向性を調整することが可能になります。

下のグラフは、U87ai の3つのパターン設定における軸上周波数特性を示しています。低域と高域では、オムニとフィギュア8で最大 8 dB の差異があります。

U87ai 軸上の周波数特性測定結果

異なる指向性を適用してハイブリッドマイクを作る

通常フィギュア8である 4038 リボンマイクにカーディオイドパターンを適用したり、U87 をハイパーカーディオイドにするなど、オリジナルマイクではありえないパターンの実現も Sphere なら可能です。例えば、リボンの場合はマイク真後ろからのブリードに対処する場合などで有効となり、U87 のハイパーカーディオイドは不要な反響の低減に繋がるでしょう。この柔軟性によって、用途やシチュエーションに適した特性を簡単に得ることができます。

音響処理との連携

ハイパーカーディオイドマイクは、指向特性として「リアローブ」を持つため、マイク真後ろからのサウンドも拾ってしまいますが、これには部屋の反射音も含まれる場合があります。しかしこれは十分に小さいため、マイク後方に音響素材(リフレクションフィルターなど)を設置すれば、部屋全体を処理することなく、影響を最小限に抑えることができます。

Sphere のオフアクシス補正では、特定の部屋や用途に最適なパターンを設定することができます。

近接効果により、指向性マイクの指向性はソースとの距離によって変化します。これを補正するには、オフアクシス補正の ON DIST コントロールと OFF DIST コントロールを設定します。

  • ON DIST コントロールでは、マイクとソースの距離を設定します。
  • 他の楽器からのブリードや床、天井、壁からの反射といった不要なソースとマイクの距離を設定するには、OFF DIST コントロールを操作してください。

軸外にの距離が一定であることは考えにくいので、平均的な距離、またはおおよその距離を設定すると効果的です。例えば、壁までの距離が 2 m、床までの距離が 1 m であれば、1.5 m に設定するのがよいでしょう。最後は耳で聞いて微調整してください。

リフレクションフィルターをお持ちの方、またはこれから購入される方は、Sphere の IsoSphere 機能により、リフレクションフィルターの好ましくない影響を最小限に抑えながら、優れたアイソレーションを得ることができます。詳しくは IsoSphere に関する記述をご覧ください。

近接効果を理解する

すべての指向性マイクは、およそ 1 kHz 以下の周波数において、ソースとの距離によって変化する指向特性を持っています。これは近接効果の影響で、例えば典型的なラージデュアルダイアフラムのカーディオイドコンデンサー(U87 や 414 など)の場合、その低域において、マイクの近くではフィギュア8になり、離れるにつれオムニになっていくという傾向があります。そしてその間の距離でのみ、マイクの特性はカーディオイドの特性となります。通常、この距離は 0.5 ~ 1.0 m ほどで、カプセルの設計によって異なります。

典型的なスモールシングルダイアフラムのカーディオイドコンデンサーの場合、マイクの近く(10 cm 未満)ではフィギュア8、遠距離(4 m 以上)ではカーディオイド、中距離(1 〜 4 m)ではハイパーカーディオイドとなる傾向があります。ただし、これもマイクカプセルの設計に依存します。

したがって、キックドラムのマイクのにじみを抑えたいのに、カーディオイドマイクが低域でオムニになってしまうなど、マイクの設置距離によっては、求める指向性を得られない場合があります。

Sphere のオフアクシス補正には距離に関するコントロールが備わり、設置したマイクはそのままで求める指向性に近づけることができます。ON DIST コントロールは、軸上の周波数特性を、選択された距離におけるモデルマイクの周波数特性と一致させるように設定します。OFF DIST コントロールは、オフアクシス補正の指向性コントロールが最も正確となる距離を設定します。

オフアクシス補正を設定する

Sphere プラグインの オフアクシス補正(OFF-AXIS CORRECTION)セクションには、4つのコントロールと “IN” ボタンが備わります。“IN” ボタンを押すと、このセクションのパターンコントロールはマイクモデルのパターンを上書きしますが、マイクモデルのパターンコントロールは、軸上の周波数特性に引き続き影響を与えます。

オフアクシス補正のコントロール

[ON / OFF DIST] と [MODE] を理解する

ON DIST と OFF DIST コントロールでは、音源までの軸上と軸外の距離をそれぞれ設定します。例えば、キックドラムから 2 m の距離にある2本のルームマイクが、キックから離れた方向を向いているとします。この時、キックドラムのサウンドがルームマイクに漏れるのを防ぐために、指向性をカーディオイドに設定するとしましょう。しかし、従来のカーディオイドマイクでは、とくに低域での回り込みが多く、パターンがオムニまたはフィギュア8になることがあります。

オフアクシス補正を有効にし、パターンコントロールをカーディオイドに設定すると、より正確なポーラーパターンを作成することができます。この場合、OFF DIST は約 2 m に設定します。そして、マイクの前方に届くサウンドのほとんどは、壁、天井、床に反射して遠くまで伸びているので、ON DIST はより大きな値に設定します。

この距離は、最初の反射の経路長を計算することで推定できますが、通常、正確に計算する必要はありません。コントロールをおおよその距離に設定し、耳で確認しながら調整してください。ソースが比較的大きい場合、距離の値は、ソースまでの平均距離に相当すると考えられます。

例えば、ギターキャビネットのグリルにマイクを取り付けた場合、あるサウンドはコーンの中心から、あるサウンドは端から拾われます。平均距離はその中間点に相当します。測定する必要はなく、推定して耳で判断してください。通常、ON DIST が適切に設定されている場合、オフアクシス補正を有効または無効にすると、軸上のソースに対して最小限の変化しか生じません。軸外のサウンドが最も低減されるようになるまで、OFF DIST を調整しましょう。

不確実な場合、

  • ON DIST : 20cm
  • OFF DIST : 1m

から始めると良いでしょう。

“AUTO” ボタンは、約 1 kHz 以下のオフアクシス補正を実質的に無効化し、オリジナルマイクと同等のレスポンスを実現します。AUTO モードは複数のソースが異なる距離にある場合や動的なソースに対して有用ですが、通常は無効にし、最適な値を手動で設定します。

ルームアンビエンスをより多く取り込む

ミックスに奥行き感を持たせるため、意図的にルームアンビエンスを多く収録することが望ましい場合があります。例えば、バックボーカルのルームサウンドを大きくすることで音像の奥側に配置し、リードボーカルを比較的ドライにして聴き取りやすくする手法はよく知られています。

伝統的なマイクでルームアンビエンスを捕らえる

従来、バックボーカルのルームサウンドを得るには、ソースから離れた場所にオムニマイクを設置するのが一般的でした。これはこれで良いのですが、場合によってはさらにアンビエンスが必要なこともあります。マイクをもっと後ろに移動させることは有効かもしれません。しかし、レコーディングスペースは狭いことが多いので、稼働領域は制限されます。また、残響過多になる可能性もあり、好ましくない結果につながる可能性もあります。

あるいは、クローズドマイクをルームマイクとブレンドすることもできます。この手法も有効ですが、各マイクの到達時間が異なると、位相の打ち消し合いによるコムフィルターが発生する可能性があり、音響的に優れた環境と複数のマイクが必要となってきます。

3つ目の方法は、サブカーディオイドマイクを音源の真横に向けて使用するもので、リアマイキングと呼ばれます。この手法はルームピックアップを強調し、1本のマイクを使用するために位相の打ち消しがありません。欠点としては、ほとんどの指向性マイクのリアピックアップがかなり着色されているため、ダイレクトサウンドが録音に適していない可能性があるということです(カーディオイドマイクはリアの色付けが最も多い傾向にあります)。

Sphere でルームアンビエンスを捕らえる

オフアクシス補正は、軸外の色付けを大幅に抑えた特性を生成し、このようなリアマイキングテクニックに活用することができます。マイクを物理的に反転させる必要はありません。トラッキング中またはトラッキング後に Sphere プラグインの “REV” ボタンを有効にすると、指向性を180度回転することが可能です。その後、パターンコントロールを調整して、ルームサウンドとダイレクトサウンドのバランスを取りましょう。

オフアクシス補正の用途を理解する

Sphere のオフアクシス補正には、多くの用途があります。カーディオイドパターンを使用すると、多くの場合、リバーブサウンドをダイレクトサウンドから分離できるため、ルームマイクにこの技術を適用すると大きなメリットが得られます。また、ルームマイクでオフアクシス補正を使用すると、より正確なオムニパターンを生成でき、オープンでエアリーなサウンドを得ることができます。

また、純粋なリバーブ信号を聴くことで、音響の悪さを診断できる場合もあります。マイクを180度の軸外でスネアから 2 m ほど離して設置し、スネアを叩いてフラッターエコーやその他のアーチファクトを確認します。結果を聴きながら、最適な場所を探し出してみましょう。

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