米澤美玖×小川悦司 JAZZ LIFE誌アルバム『エキゾティック・グラヴィティ』 レコーディングを語る

sE Electronics社のマイクを使ってレコーディングされたアルバムの解説です。

米澤美玖×小川悦司



【プロフィール】

米澤美玖(ts,ss)

PROFILE ●Miku Yonezawa

2016年『Amusement』でインディーズ・デビュー。通算3作目の『Another World』は全曲オリジナルでAmazon日本のジャズ部門23日間ベストセラー1位、iTunes Store Jazzのトップ・アルバムを記録し、さらに2019年1月リリースのジャズ・バラッド・アルバム『Dawning Blue』は、Amazon同部門で60日を超えるベストセラー1位を記録する。自らのリーダー・ライヴでは国内のトップ・プレイヤーとの共演を重ねるほか、GLAYのTAKURO(g)のツアーにも参加し、話題を集めている。

WEB=http://yonezawamiku.com

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小川悦司(g,comp,arr,prod)

PROFILE ●Etsuji Ogawa

米澤美玖の6枚の作品すべてのプロデューサーであり、アレンジとギターもすべて担当。五十嵐はるみ(vo)、折重由美子、ジャズレディプロジェクトなどの作品にアレンジャーとして参加するほか、櫻井哲夫(b)のツアー用オケ制作、大高清美(org)、川口千里(ds)、梶原順(g)などのDVDにも楽曲提供している。また数多くの音楽系出版物に執筆と楽曲提供で関わり、その総発行部数は1,000万部を超える。

WEB=http://atozogawa.music.coocan....

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【アルバム紹介】

『エキゾティック・グラヴィティ』米澤美玖

キングレコード(King) KICJ-824 発売中

  • 収録曲●

1.テナー・ハンター

2.マジック・スウィール

3.ワイヴァーン

4.アンセスター

5.ザ・フライト・オブ・ザ・バンブル・ビー

6.バイオスフィア

7.リベルタンゴ

8.エキゾティック・グラヴィティ

9.フォーゲット・ザ・タイム

  • パーソネル● 米澤美玖(ts,ss/㈮)、青柳誠(kb)、安部潤(kb)、松本圭司(kb)、須藤満(b)、岡田治郎(b)、則竹裕之(ds)、波多江健(ds)、小川このん(perc)、小川悦司(g,syn,prog,arr)

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取材:布施雄一郎 撮影:桧川泰治(人物)

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「sE2300は音が太く中低域もきちんと録ってくれる。さらに芯がしっかりとして音痩せのしない音が魅力」 米澤美玖

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メジャー・デビュー作『エキゾティック・グラヴィティ』での骨太フュージョンで注目を集めているテナー・サックス奏者、米澤美玖。先月号での新作インタヴューに続き、今月は米澤本人に加え、プロデューサー小川悦司氏に登場してもらい、新作がどのように制作されたのか、その制作秘話と共に、今回のレコーディングで活躍したという最新マイク「sE2300」の魅力についてもじっくり語ってもらった。

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最初にサックス・ソロを録音後

ピアノ、ベース、ドラムを収録

——先月号でも新作『エキゾティック・グラヴィティ』についてお話を伺っていますが、改めて今一度、どんなイメージでアルバムを作っていったのか聞かせてください。

米澤:ひとことで言うと、「脳内妄想民族音楽フュージョン」です(笑)。随分と前から、次のソロ・アルバムは、エスニック・テイストをフュージョン・サウンドに混ぜたものをテナー・サックスで表現したいというヴィジョンを持っていたんです。ですから、カヴァー曲もありつつ、そういう異国情緒が漂う、かつ攻めのファンク/フュージョン作品にしたいと考えました。

——確かに多国籍な音楽要素によって、それが無国籍感をも生み出していますね。

米澤:そうなんです。ですから、たとえば「インド音楽×ジャズ」という分かりやすい感じではなく、いろいろなリズムや楽器を取り入れながら、私の「脳内妄想」(笑)を音にしたというイメージなんです。

——その妄想を、どのように作品化していったのでしょうか?

小川:レコーディングに入る前に、僕の自宅スタジオで2ヵ月ほどプリプロをやりました。まず、彼女に曲を書いてもらって、譜面とサックスを吹いたサンプルが出来上がったら、ここで打ち込みをしながら、「ここはこう変えよう」「このフレイズはユニゾンにしよう」とふたりでアレンジを詰めていくんです。そうやって、打ち込みで一度曲を完成させてから、じゃあこの曲を誰にプレイしてもらうかと、ゲストを考えていきました。ですから、生演奏に差し替える前の段階で、米澤のソロは、もう録り終えているんですよ。

——ソロを最初に録るのですか?

小川:そうなんです。最初にサックス・ソロと、あと僕が弾いた仮ギターを録っておいて、それを基に、キーボードの青柳誠さんと安部潤さん、松本圭司さんには、ピアノやオルガンを差し替えてもらって、必要があれば僕のギターの本テイクを録ります。そうやって周りが出来上がった状態で、ベース、ドラムを生に差し替えていくんです。ベースの須藤満さんと岡田治郎さんには、このスタジオに来てもらって、あと則竹裕之さんと、波多江健さんのドラムは、関口台スタジオと青葉台スタジオで録りました。その際、曲によってはクリックなしで録ったので、いわゆるヴァーチャル・セッションですよね。

——ベースやドラムを最後に録るのはどういう理由からなのでしょうか?

小川:どうソロがくるのか分からない状態でドラムを叩いても、暴れられませんよね。面白くないんです。ベースやキーボードにしても、米澤のソロが固まっているからこそ、じゃあ、こんな合いの手を入れようとか、こういうパターンで弾いてみよう、竿物はこれにしようといったアイディアがミュージシャン側からたくさん出てきます。しかも、セッションの一発録りではありませんから、さまざまなアイディアを試しやすいわけです。

——セッションですと、他のメンバーがOKだと「もう1回」とは言いづらいですよね。

小川:でも、ここで1対1で録っていれば、「今のはOKなんだけど、こんなアプローチでも録ってみたい」といったチャレンジが何の気兼ねもなくできるんです。

米澤:本当にミュージシャンシップに溢れたクリエイティヴな現場でしたね。そもそも私がサックスを録る段階で、打ち込みながらも、そのままリリースできるくらいのクオリティで曲が完成しているんです。ですから私は、何にも縛られずに自分のやりたいプレイができますし、いろんなチャレンジを試せるので、まるで夏休みの自由研究のように(笑)、時間をかけて、冷静に、自分のプレイを突き詰められるんです。しかもその後に、素晴らしい皆さんが、さらに音楽的に磨きをかけてくださるので、すごくよかったですね。

新しいマイクで録った

“米澤流音色”を感じてほしい

——サックスはどのように録ったのですか?

小川:これまでずっと、サックスの録音は、sE ElectronicsのsE2200aIIを使っていましたが、今回はその後継モデルのsE2300を使いました。sE2200aIIだと、中低域をちょっとだけEQで突かないと音が軽くなってしまっていましたが、マイクを新しいsE2300に変えたら、ほぼノーEQで大丈夫になりました。

——sE2300のサウンド・キャラクターは?

小川:実にクリアですね。生楽器の音をそのまま、不必要な味付なく録れるので、楽器からの距離とマイクの角度だけで、ある程度のサウンド・コントロールが可能なんです。ですからむしろ、サックスの音はそのまま録って、バックの音を合わせていくという制作イメージでした。一番重要なのは米澤のサックスです。しかし音楽ですからね、全体像として仕上げることが大事。そのために、核となるサックスの音をバックをどのようにくっつけて、背景を生み出していくか、そこを調整していきました。例えば、サックスがやや暗めな感じだったら、バックをより暗めにしていけば、相対的にサックスが明るく浮き出てきますよね。そういったコントラストを作っていくためにも、sE2300のクリアさは、とても扱いやすかったですね。今回、sE2300以外には、生ピアノのオフ・マイクにsE8を使いました。オンマイクはsE2300です。

——米澤さんのsE2300の印象は?

米澤:前回使用したsE2200aIIも大好きでしたが、sE2300はさらに音が太いというか、中低域をきちんと録ってくれるので、テナーの太い音が好きな私としては、芯がしっかりとして音痩せのしない、よりよい音で録れたなって思っています。とても気に入りました。

——「バイオスフィア」では、ソプラノ・サックスもプレイされていますね。。

米澤:ソプラノは、長く愛用しているキャノンボールのテナー「T5-HS"Hotspur"」と同じシリーズの、カーヴド・ソプラノ・サックス「SC5-HS"Hotspur"」を使いました。曲はできた段階で、これはソプラノの音色で吹いてみたいなって思って。

——ソプラノとなると、テナーとは録り方が違ってきますよね。

小川:今回はカーヴドだったので、録り方自体はほぼテナーと同じで、ベルから出てくる音と、楽器全体の鳴りをバランスよく録れるように、だいたい60cmくらい離した位置にマイクを立てました。あまり近づけると、身体が動いてベルの位置が変わると、音色が変わってしまうので。

米澤:そういったレコーディングのしやすさもあって、今回はカーヴド・ソプラノを使ったんです。高い音から低い音まで、音色が変わらずに、音域だけがテナーよりも高くなる感じで。楽器の癖もなく、演奏しやすかったですね。

——では最後に、プレイヤー、プロデューサー双方の視点で、新作の聴きどころを教えてください。

米澤:特殊奏法もいろいろと混ぜていて、たとえば「リベルタンゴ」ではスラップ・タンギングを入れたりしていますが、普通、バンドの中だと音量的に負けてしまうようなこういう音も、レコーディングだとしっかりと聴かせられるので、そういった仕掛けもたくさん入っています。あとカーヴド・ソプラノも聴きどころかなって思います。そのうえで、芯となる“米澤流音色”を感じてほしいですし、それが新しいマイクのおかげでとてもいい音で録れたので、ぜひたくさんの方に聴いていただきたいですね。

小川:プロデューサーの立場から言わせていただきますと、70年代や80年代にフュージョンが一番元気だった頃のような音楽って、最近は少なくなってきています。ですから、ジャズやフュージョン・ファンって、昔の作品を聴く方が多いですが、僕としては新しい作品も聴いてほしいですし、骨太で攻めた、しかもキャッチーなフュージョンをやっているプレイヤーがいるんですよっていうことを知ってほしくて……。それで僕は、楽しく聴けて、よく聴くとすごいことをやってるぞっていう、そういう彼女のアルバムを作りたかったですし、それを実現できた作品だと思っています。■

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米澤美玖の新作『エキゾティック・グラヴィティ』のレコーディングでは、前作同様に「sE Electronics」のマイクを中心に録音された。米澤のキャノンボール製テナー&カーヴド・ソプラノ・サックスは、すべて「sE2300」で収録。インタヴュー中でも語っているように“芯がしっかりとして音痩せのしないところ”が好印象とのこと。その他、生ピアノのオンマイクは「sE2300」、オフ・マイクに「sE8」、さらにドラムのオーヴァー・ヘッドには「VR1」を、パーカッションには「sE8」を使用した。


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【製品紹介】

sE Electronics

2000年に英国で創業したブランド“sE Electronics”のマイクは、自社工場において、熟練職人たちによる完全手作業で生産されており、そのクオリティはもちろん、使いやすさ、そして現代の音楽や用途にマッチしたサウンドで、欧米を中心に高く評価されている。また、マイク本体のみならず、歌や管楽器の録音に適した「Reflexion Filter Pro」やスタンドなど、アクセサリー製品も充実している。


《sE2300》

価格:¥43,000+税

  • テナー&ソプラノ・サックス、ピアノ(オンマイク)で使用
  • ピアノ(オフ・マイク)、パーカッションで使用
  • ドラム(オーヴァー・ヘッド)で使用

 グラミー・アーティストを含む数多くのレコーディングで使用された実績を持つベストセラー・スタジオ・コンデンサー・マイクsE2200aIIをより多用途性を高めた後継機種。双指向/単一指向/無指向を切り替えて使えるマルチパターン・タイプで、80/160Hzの2種類から選択できるハイパス・フィルターも搭載。ショック・マウントと金属製ポップフィルターも付属。


《sE8》

価格:¥26,000+税

 同社最新の高性能スモール・ダイアフラム・コンデンサー・マイク。クラス最高峰のダイナミック・レンジとSPLへの対応力を誇り、ドラムのオーヴァー・ヘッドやハイ・ハットにも最適な1本。

《VR1》
価格:¥36,000+税

 ギター・キャビネットや今回使用したドラムのオーヴァー・ヘッドなど、トラディショナルなサウンドをさまざまな環境で気軽にセットアップが可能なパッシヴ・タイプのリボン・マイク

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