Interview2

ギタリスト・作曲家_堤博明 インタビュー

映画、ドラマ、アニメなどの劇伴音楽にてギタリスト、作曲家として活躍されている堤博明氏にインタビューさせていただきました。

- どんなバックグラウンドをお持ちですか?

中学生の頃、所属してた野球部にギターブームが起きたんですよね。GLAY、LUNA SEA、L'Arc-en-Ciel、B`zとかを皆がコピーしていたのでその影響で僕もギターを始めて、それと併せて近所のギター教室に通い始めて鈴木よしひささんに師事しました。現在はポリパフォーマンスという独自の演奏スタイルを中心に活動をされている、ピアノやギター演奏、作編曲も天才的な方です。ギター演奏だけじゃなく様々な音楽ジャンル、編曲や音楽理論も基礎的なことから教わったので、僕にとっての育ての親みたいな方ですね。それまでは何か一つのことを根気強く続けることは苦手な方だったんですが、ギターだけはのめり込めたんですよ。練習とか全然苦じゃなかった。今から思うと近所の教室で彼に出会えたのはとても奇跡的なことだと感じています。

- ギターマガジン主催・誌上ギターコンテストの初代グランプリを受賞されていますね。

これは演奏一発に限ったコンテストではなくて、ギター・マガジンに付属していたCDに収録されていた課題曲のカラオケ対して多重録音をして応募するというものだったんです。ギター1本で弾き切っても良いし、ダビングをしてもよい。もちろんギタープレイ自体が審査されるんですが、どのように編曲を行っているかも審査ポイントになっていた様に感じます。あるものに対して何を加えてたら楽しくなるのかなと考えながら作って行くのは興味があったし、とても楽しい作業でした。当時から自分に向いてる、得意だなと思える作業だと思ってやっていましたね。17歳という将来はまだ何もわからない時期でしたが、グランプリを受賞することでプロとしてやって行こうという決意はより一層強くなりました。

- 実際にスタジオワークをされるようになったはキッカケはいかがでしたか?

学生時代に作曲家の横山克さんに出会ったことが大きかったですね。横山さんは当時から既に色々なお仕事をされていたのですが、知り合った時に「君、ギター弾けるの?」って聞かれて、それからずっとお手伝いをさせていただいています。

横山さんは作る曲も歌ものから劇伴まで幅広いですし、こだわりもある方なので、最初の頃はリテイクばかりでした。細かいところのボイシングもこうじゃないとか、ここの音色は柔らかくとか具体的に言っていただきましたね。それまでの自分というのは本当にギター小僧でしたから、インスト曲はギター音楽しか聴かない、ピアノ曲は好きじゃないとか、かなり大げさなタイプだったんですよ。自分の感覚とリクエストされることとのギャップを埋めていくことは大きな財産になりました。

その感覚のギャップということで最近でもよくあることは、「ラフな演奏でください」と言われて本当にラフに弾いて返したら、もっとラフにして欲しいというリテイクもらうことがあるんですね。ギタリストとして、これはカッコイイ!これは難易度高いぜっ!て変な気合やプライドを入れちゃったテイクよりも、これ納品して大丈夫かな、心配だな・・・っていうくらいラフなものほど本チャンまでいくんですよ。そうすると横山さんからはいつも以上に満足気な感じで、「あれ良かったよ」と言ってくださいます(笑)。かと思えば、アンサンブルが固まっている曲では、すごくキーボード的でギターにとっては演奏が非常に難しいフレーズを指定されることもある。作曲家目線とギタリスト目線の、曲に対して一番良いと思うフレーズ感覚の違いに気が付かせてもらえることは今でも勉強になります。横山さんには本当に自分の力を引き出していただきましたね。

- ギターの種類は指定されますか?

様々な曲調に対応するギターと民族楽器
ギターの選択はほとんど任されているので、方向性、ジャンル感を合わせて提示しています。 必要なものを揃えていったら増えてしまいました(笑)。劇伴一つのプログラムの中でのアコースティックギターも、鉄弦、ナイロン・・・、リッチ感が邪魔な時もあるのでチープな音がする鉄弦も使います。エレキもシングル、ハムバッカーなど色々種類がありますが、大まかには細い音、太い音で選んでいます。ギターはキャラクタがすごく強く、ダビングをしていくと飽和してしまうのでそこは気を付けていますね。どんなギターであっても結果良ければ全てよし、曲にあっていればよいという考えです。弦を替えないでいると角が取れたまるい音で録れるので自分の曲を録音する際はギターの弦替えも必要な時しかしないんですよ。

- 民族楽器も沢山ありますね。

民族楽器は、スパニッシュリュート、サズ(saz)、カンテレ(kantele)、日本の三線、マンドリン、マンドリンセロを演奏します。弦の数、チューニングが違うのでアドリブは難しいですけどね。常に練習はしていて、最近ではマンドリンのスタジオ仕事も受けるようになりました。バイオリン、チェロも自分で録音したりしますが、「弾けます」と言ったらすっごく怒られる技術力(笑)。劇伴で混沌としたものを表現をするとき奇跡のテイクを切り貼りして使っています。リュートは音色だけいただこうと、ギターチューニングに無理やり変えてしまいました。やはりその道を極めるとそれだけで時間がとても掛かるので、劇伴で必要とされるもの、曲作りに活かせるものという観点で頑張っています。時間はいくらでも欲しいですね。

- 最近のお仕事を教えていただけますか?

ずっとプレーヤー、アレンジをメインに行っていましたが、2013年頃から作曲家としての活動が増えてきました。最近は、アニメ「ヴァルキリードライブマーメイド」、「ランスアンドマスク」、「今際の国のアリス」、ドラマ「アドレナリンの夜」などの劇伴をやらせていだいています。ギターは自分の強みを出せる楽器ではあるけど、今はあえてギターを入れない曲を作ることも多いです。オーケストレーションとかピアノ音楽でカッコイイものを作りたいという思いが強いですね。その上でギタリストとしてギターを入れたらより個性的でカッコイイのかなと。

- 作曲家として活動するようになってから、ギタリストの経験は役に立つていますか?

やっぱり自分が弾けない曲は想像しづらいですし、自分が弾けるフレーズがあった方がアイディアも増えていくので自分はギターをとことん練習してきて良かったなと思うことが本当に多いです。人からは「作家と演奏家の間を曖昧でせめぎあってバランスとっている所が面白い」と言われているところもあるので、その可能性を広げるためにもドンドンよくばって色々と吸収していきたいです。

最近ひとつ試みたことがあって、「今際の国アリス」の曲で、QUEENのギター・オーケストレーションのアプローチが好きなので隠し味で入れてみたんです。ストリングスカルテットをアレンジして録音したあと、その録音されたカルテットのニュアンスをそっくりそのままエレキギターでなぞったんですね。1st、2ndバイオリンの順で同じように、チェロには腰があるレスポール選んだりしながら4本のギター替えて録音しました。薄く重ねたんですけどより立体的になって聴きざわりが新しいものになっていうまく行きましたね。

- 作曲に使っているシステムについて伺います。Apolloは、いつからお使いになられていますか?

Apollo Twinを去年から使い始めました。作曲家の間でもApolloを使ってる方は多かったですし、エンジニアの方々もミキシングにUADのプラグインを積極的に使っていました。作曲、エンジニアリング、両方の視点から見ても魅力的という意見をよく聞いていたので、そのあたりが導入への決め手となりましたね。外にApollo Twinとラップトップを持ち出して、次の日の仕込みをすることもありますし、スタジオでのチェックの空き時間等にどうしても別セッションのギターを録音しなきゃいけないという場合でもその場で録音できてしまうんですよ。

- こちらのスタジオのメインにもApollo 8 QUADを据えていますね。

Apollo8とApolloTwin
Apollo Twin のコンセプトが気に入っていたのでApollo 8 QUADが出た時にすぐ導入しました。Apollo 8をキッカケにメインコンピュータも黒いMac Proに変えたんですよ。これを機会に全部サンダーボルトに変えてやろうと(笑)。作家を始めてから音源も増えていたのでちょうどよかったですし、ストレスのない環境になりました。 持っていたApollo Twin はサンダーボルトでデイジーチェーンしてDSPパワーの追加+モニターコントローラーとして繋いでいますね。もちろん、外での作業の時はすぐに持ち出せます。

- UADプラグインのアンプシミュレータやペダルエフェクトは活用されていますか?

MARSHALL “PLEXI” SUPER LEAD 1959 GUITAR AMP PLUG-IN
ハードウェアのアンプシミュレータをスタジオに持ち歩いて使ってきているんですが、最近ではこのスタジオで録るものを納品することも多いので使う機会が増えていますね。UADのアンプシミュレータは視覚的にもわかりやすいですし、音の不自然さが無いんですよ。最近買ったプラグインではベースアンプシミュレータのAmpeg SVT Bass Amplifier Plug-In Bundle。細かいところですけど 、空気感、アンプが鳴っている感は相当迫るものがありました。バンド・サウンドでMarshallサウンドが必要な場合は、Marshall® Plexi Super Lead 1959 を選びますね、それだけで音の世界が出来上がる。Marshall特有の4弦のズクズク感がヤバイんですよ(笑)。アンプシミュレータなのに実際のアンプを鳴らした時のレスポンスが返ってくるという感動がありました。劇伴は時間に追われることが多いのでハードウェア、プラグインとしても動いて、かつDAWプロジェクトとしてリコールできるのはUAD/Apolloの強みだと思います。

- 特に気に入って使っているUADプラグインはありますか?

Neve 88RSをUnisonに挿して使っています。その他だとMoog® Multimode Filter、UAD Maag EQ4、Marshall Plexi Super Lead 1959、Empirical Labs FATSO、あとはOcean way Studios Pluginとかですね。Ocean way Studios Pluginは弦セクション、ドラムにはすぐ立ち上げます。ドライな音色のドラムキット音源と組み合わせると臨場感が格段に違ってくるのでかなり重宝していますね。

- 生楽器の録音はどのように行っていますか?

R6に収められたアウトボード
DAWは、Pro Tools 12で打ち込みから録音まで行っています。基本のセットは、Universal Audio 610 Soloマイクプリ、Chandler LTD Germanium マイクプリのどちらかを選択して、Empirical Labs Distressor を経由してRupert Neve Designs のR6ラックで音作りしたの後にApolloに入れています。Rupert Neve Designs のR6ラック(VPR500ラック)では511をラインアンプをとして受けて、551インタダクタEQと542テープエミュレータを通してApolloに繋いでいます。R6のセクションでは音色をコントロールしています。ゲインで音色の表情を変化させる、SILKを2段で掛けられる、テープのON/OFF、551の8K,16の切り替えとか・・・音もすごく好きですし、能率の良いシステムに収まっていてとても快適に録音して行けるんですよ。

Apolloを中心に環境を整えたことで楽器の録音も幅が広がったし、その幅が広がったことが作曲をする上でのインスピレーションに繋がりました。その曲に対してまた色々なアイディアを録音していく・・・、という相乗効果を感じます。DAWでの打ち込み、録音、ミックス等、どの作業もストレスなく互いにリンクしながら進めていくことが出来るシステムになりましたね。

- 最後にこれから行っていきたいことを教えていただけますか?

今は、作れない曲のジャンルを無くして行きたいです。出来ることがひとつでも多い状態で何か新しい組み合わせに取り組む。そして生まれた曲でたくさんの方に感動してもらえたら、音楽人生が今より何倍も楽しくなるかなって思っています。

interviewee

堤博明

1985年東京都出身。14歳からギターを始める。国立音楽大学音楽文化デザイン学科卒。
20歳の頃からスタジオワークを開始しキャリアを積む。
近年は映像音楽作編曲・演奏を中心に活動中。



inteviewer & photo : Ryuji Seto