1073と音楽の醍醐味

ZeeQ 松本靖雄インタビュー

電気グルーブ、TEI-TOWA、坂本龍一、BOOM BOOM SATELLITES、RIPSLYME、浜崎あゆみ、平井堅、ケミストリーを経て、現在はAKB48を始めとするアイドルグループまで、国内の一流アーティストを手がけてきた松本靖雄氏は、最もNeveを愛するエンジニアとしても知られています。伝説のヴィンテージNeve1073モジュールについて、そしてルパート・ニーヴ氏の新作Shelford Series がいかなる位置づけのツールになるのかを伺いました。

- ZeeQのMIX環境について教えてください。

未だ圧倒的にアウトボードがメインですね。基本的にアウトボード、アナログコンソールを使ってミキシングを行います。もちろんプラグインも使いますけど、コンピュータはそこにプラスαする程度でメインでは無いですね。

ミキシングに使っているコンソールはNeve VR-72です。これは元々スタジオファームにあったもので、内部の接点に金が使われている特注品で定価の倍近い非常に価値のある物です。未だに殆どガリも出ないです。ZeeQのコンソールになってからも11年ですから、もう20年近く使っていることになります。現在でも、一番好きなコンソールなんですよ。様々な新しいコンソールを触ってきましたけど、残念ながら今現存する物ではこれ以上の物はありません。…DAWも含め。

- Neve1073はいつ頃から使い始めましたか?

このNeve VR-72の前に一番好きだったのがNeve1073モジュールのコンソールで、私のキャリアと同じ28年前になります。

- いつ頃からNeveの機器を意識するようになったんでしょう?

中学2年生から宅録とかをやっていて高校3年の時にはもうこの仕事をしたいと思っていました。ソニーに入りたかった理由も、その時聴いていた音源をチェックしたらみんなソニーだったんで、おそらく何かソニーにあるんだろうなと思ったんですよ。何かがいいんであろうと(笑)

そしてソニーに入ったら圧倒的な存在感で目の前にNeveコンソールが立ちはだかってました。マイクとかの充実度もありましたけど、これなのかなとすぐに感じました。殆どのエンジニアがNeve1073を凄いと言っていていましたが、何も解らず入ってきた僕もそこに何かあるんだな、と直感的に思ったわけです。そして実際に使うようになって、やっぱり群を抜いていると迷い無く感じましたね。

- どういう視点からNeveに魅力を感じているんでしょうか。

音圧を入れていった時の音楽的ひずみ感というか、如何にゲインを受け入れてくれるのか。その時に機械がどう反応していくかというのは非常に重要なポイントなんですね。その中でNeveは圧倒的にそれに対して音楽的な音を出してくれる。例えばSSLだとすぐクリップして歪むのに対してNeveだとそれを持ちこたえて、より自然な、実際の生の楽器を弾いてる音に近い音を再現してくれる。一番自然なんですね。Neveの中でもマリンエアのトランスを持つ1073はもっともそういうものを強く持っているということなんです。

- その場で鳴っている音をレベルに合わせてキャプチャしていくこととは異なりますか。

出てくる音を想定して作って行くんです。EQ、COMPを使っていかにそこで鳴っている音を小さい音でも再現して行くかということなんですよね。結局のマイクのレンジはある程度決まっているし、実際にプレーヤーが弾いてる音というのはもっともっと倍音が伸びている。かつ体から振動で伝わってくる音もある。ドラムならもっと大きな音で感じている。収める過程でいかに再現するのか考え、大きくしても小さくしても同じような大きなダイナミックなイメージを残さなければいけない。

これはアナログアウトボードを使う理由にも通じることなんです。コンピュータの中だけでミックスをしても絶対に再現できない。これは未だに不可能です。どんなに良いプラグインを使っても、ビット、サンプル数が大きくなってもまだ再現できていないですよね。

- 1073のHA(マイクプリ)とEQについてそれぞれ伺ってよいですか。

松本氏所有のヴィンテージ1073
1073のHAは通すだけで歪感があって5dBですごく音が変わるんですけど、それぞれの5dBの中の世界感があるんです。それぞれが非常に音楽的なんです。ギリギリの所と言いますか、そこで音を作ってくれるというか、音に主張がある。ゲインを揃えるだけじゃなくて、音も全く変わるんですよ。

トリムとかないのでこのギリギリ感が欲しいなと思った時は、マイクの距離を離すとか、マイクを変えるとかね。極端な話プレーヤーに少しだけ弱くただいていただくとかね(笑)。そこがまた人間らしくて音を作って行くというのが良いんですよね。そうするとそのレンジの世界感で取れる。非常に面白いですよ。本当に奥が深い、この5dBの中の世界が。他の機械でそんなふうに感じるものはないですからね。

EQに関しては、1.6kHzが全部の音の中心なんです。このポイントがホントに真ん中なんですよ。体が一番興奮する音。1073は、そこの音が素晴らしいんです。他の機械にはない音なんですよ。そのエッジ感、音の強さというか、本当に凄い音なんです。高音も低音もちろん良いですよ。1073は低音が出るとかよく言いますけど、僕は圧倒的に、この1.6kHzの世界が他に無く、最高に好きですね。

- お持ちの1073にもヴィンテージ機械の個体差はありますか?

個体差はあります。それも熟知してますからどの1073を何の楽器を通すのかというのも決まっています。もう何十年も一緒にやってますからね。VR-72コンソールにしてもどこに返すかで音が違うんですけど、必ず同じ音がするコンピュータとは違っていてそれがまた面白いんです。その日の天気、時間、湿度、そして私の気持ち…全てに反応するアナログ機材たち、愛するペットの様です。

音楽にはマニュアルがないですよね。音楽には答えがない。その場で感じたものを表現するということですから、どうしても測定とかで数字を出して、っていうことをしがちだと思うんですけど、データにしたいとか、そういうことでは無いと思うんですよね。その時によっても音が違うというふうに感じています。それも含めてすべてどう反応していくか、そこら辺が”音楽”を作ることの醍醐味ですよね。

- 1073を使うことにおいてジャンルのよる向き不向きを感じることはありますか?

その概念はないですね。とにかく素晴らしい機械ですので、何にも対応できる。ジャズなんかにもほんとに素晴らしいし、もちろんAKB48にも使っていますけどジャンルは関係ない。良いものは良いということです。

- 新しいHAなどで興味があるものはありますか?

ヘッドアンプに関しては、これに勝るものはないですからね・・・、良いものもあると思うんですけど、比べてしまうのとマイナスの要素が見えてしまいます。1073は、高級感がある。音が輝いていると言いますかね。耳で聴くというか感じるものが全く違う。逆に何故なのか僕が聞きたいくらいですね。25、30年前の機械が何故まだこんなに良いのかという。僕が使い初めてからも20年以上経ちますけど未だに圧倒的なんですよ。もう越えるものが出てきても良さそうですけど(笑)。

- 録音の際に使うアウトボードを教えていただけますか。

1176、1178、Neve33609、あとMANLEY・・・、脱線しますが今一番欲しいのはMANLEY VARIABLE-MUなんですよ。ソニーのスタジオにあるものをずっと使っていて、ここのスタジオのトータルコンプにも欲しいと思ってましてね。ギターサウンドに最高なんですよ。今は、Prismのコンプがメインですけど、選択肢として次に欲しいものですね。

- 今回、SHELFORD 5051 / 5052 を試していただきましたがいかがでしたか。

良いか悪いかというところでいうより、欲しいか欲しくないかで答えた方が良いでしょう?結論から言うと”欲しい”ですね。まず見た目がいい(笑)。大事なポイントです。HAの音は1073と同じ方向で非常に音楽的で申し分ないです。通しだけでも色がある。そういったところも1073に通ずるものがありますね。

- 松本さんの1073とシビアに比較しての印象はいかがですか?

Shelford 5051/5052
比較するとキックはやっぱり1073の方が良いです。ピアノはほぼ同じクオリティー。歌は1073より良かったですね。中域のあたりの鼻につく感じが通すだけで抜けてくるHAが良いと感じているんですが5052にはそれがある。若干、歪に対して弱いですが倍音も伸びていますし歌のHAはこちらに変えたいと思ったくらいですね。 SILKの音の違いも分かりましたよ、SILK REDの方がNeve 1073にすごく近づきます。

5051 / 5052のEQは1073とは全く別の感覚あります。1073のEQは回すとぐうっとキレイに持ち上がるんですがそれと比べるとカーブのピークが強い。現代の音楽には対応必要な要素ですから、それには便利だろうと思います。先ほども1073の1.6kHz の話をしましたが、この機械が特徴的に良かったのが3kHzでしたね。一番良い色を感じました。この3kHzを上げてあげればほぼ僕の1073と同じになります。だからカバーできる範囲と考えるといいですよ。否定的な意見を言っているとか、そういうことではなく、ほぼ同水準での話ですよ。

特に5051は、コンプがよかった。素晴らしいですね。ここだけ欲しいくらい、今日にでも(笑)。コンプは非常に難しいんですけど、このコンプは”コンプ掛けてますという表現”と”自然に音圧を稼ぐ”ことの両方ができる。アタックとリリースの関係のカーヴの掛かり方がすごくよい。わざとらしい音を作ってもとても音楽的で潜らない。いいですよね、この伸び方。文句なしです。音圧だけ持ち上がる凄くいい音です。他のメーカーと比べてもこの機器としての主張として十分にあるし、他に無いってところもいいですね。

Neve1073のヴィンテージもいい物だと2chで200万円とかしますから、5051 / 5052の2モジュールで50万というのは良い価格なんじゃないとか思いますよ。ヴィンテージの機器はメンテナンス代もとにかく高いですからね(笑)

- 最後に機器との付き合い方にアドバイスがあれば教えてください。

あまり理屈じゃなくて、単純にいいところ取りをすればいいんです。例えば、あまり音は好きじゃないけどコンピュータにも利便性はあります。パッと見て分かる。オーディオが波形で見えたりね。パッチしなくてもトラック上で数字を割り振るだけでよいですし、そう言う意味で便利です。再現性が求められているところもあるでしょうしね。また、再現性よりもとにかくいい音が出るものが必要なところもあるのでそれぞれの機械の特徴を理解して両方うまく使えばよいと思います。

ある時突然1073よりもいい音の機械がでたら全部差し替えたらいいんです。それがなかなか出てこないから1073を使っているだけですから。

interviewee

松本 靖雄:

1988年、現ソニーミュージックスタジオ入社。レコーディングエンジニアのアシスタントとしてキャリアをスタートし、若干21歳にしてメインエンジニアとしてデビュー。以降、ソニーミュージックスタジオ内でNo.1の仕事依頼を受ける。26歳でフリーランスとなりソニーミュージックアーティスツと当時のレコーディングエンジニアとしては異例のプロデューサー、アーティスト契約を結ぶ。この頃から年間200曲以上もの曲に携わり、REMIXなども手がけていく。1998年に単身渡英し、SOUND PRODUCERやCo-PRODUCERとしてもいくつかの作品に参加。2000年、ZeeQ Co.,LTD.設立。

スタジオデザイン、インテリアコーディネート、音響調整も自身で行った専用スタジオ、ZeeQ STUDIOを構え、マスタリングエンジニアとしても開眼。現在も尚、年間200曲以上もの楽曲をSOUND PRODUCER、Co-PRODUCER、MIX ENGINEER、RECORDING ENGINEER、MASTERING ENGINEER等、音に関する様々なポジションで参加。常に、サウンド面のあらゆる可能性と深遠かつ広大なサウンドスペースへの探究をし続けている。そして日本で初めて、サウンドクリエーターというポジション(ジャンル)を確立する。

ZeeQ Co.,LTD
http://www.zeeq.jp

inteviewer & photo : Ryuji Seto