SADAHARU YAGI - Apollo ユーザー インタビュー

Draco Rosa (ドラコ・ロサ)のアルバム「VIDA」を手掛け、レコーディグエンジニアとして第56回グラミー賞、そして第14回ラテン・グラミー受賞を受賞したSADAHARU YAGI 氏は、UAD/Apolloユーザーです。UADプラグイン、レコーディング、ミキシング、そしてグルーヴについてお話を伺いました。

- ドラコ・ロサとお仕事をするようになったのは、いつごろですか?

グラミーを獲ったチームと仕事をするようになったのは、2010年くらいです。その当時、ドラコのファンタム・ヴォックスというプロダクションがハリウッドの名門スタジオ、チェロキーと同じブロックにありました。その頃から、ドラコだけじゃなくドラコのプロデュースするプロジェクトや彼の仲間の音楽をどんどんやるようになって、リッキー・マーティンなどラテン系のロックやポップをガッツリ手がけている時期でした。ドラコやそのチームとは今でも繋がっていますが、この当時は僕自身がラテンのグルーヴを肌で学び取りながら、とてもいい環境で音楽制作を行っていました。現在そのプロダクションはハリウッドを離れ、ドラコの出身地であるプエルトリコに移っています。僕は、その後もL.A.を拠点に音楽活動をしていますが、この環境下で制作をするというのはいくつかの大きなメリットがあります。その中の一つに、L.A.ではどんなにレアな機材でもそれが制作に必要ならばすぐに手に入ることがあります。過去にジョアンナ・ニューサムを一緒に手がけた友人のノア・ジョージソンというプロデューサーがいるのですが、彼がよく言うのは、「L.A.の人間はL.A.のありがたみを分かっていない」と。フランスでレコーディングする場合、同じことを行おうとしてもL.A.クラスの機材が揃わない。L.A.ではどんな機材もレンタル会社に電話すれば2時間以内に手に入りますから。L.A.の外に出てみないとこのありがたみは分からないよと。

- 特に決めているスタジオはありますか?

よく知っていてやりやすいというスタジオは、4つ、5つあります。10年以上の知り合いがスタジオやっていて顔が効くようなところです。その中のひとつに、エリオット・スミスが作ったスタジオ、ニューモンキーがあります。そこにはUADのTrident A-Range Classic Console プラグインのモデリング元になった世界に8台しか残っていないトライデントのAレンジコンソールがあります。一般的にドラムを録る場合は、スタジオのルームを知っていると音が決まるまで時間が速いんです。速くて最高の音を録ることはトラッキングエンジニアとしてのプライドでもあります。待っている時間が一番ミュージシャンのテンションを下げますから、ミュージシャンのバイブスを殺さずレコーディングするということはとても重要です。知らないスタジオで録るとなるとルームの鳴りを把握するまで時間が必要ですが、どこのスタジオでセッションを行うかはクライアントが決めることです。知らない場所で録ることはそれはそれで自分のトレーニングになります。

- スタジオはどのように決められるのでしょう?

スタジオのルームがどう鳴っているのか。音楽のグルーヴにあっているのか。モータウンとか、70年代R&B、SOULとかのサウンドに使われるようなスタジオはスタジオの設計がそうなっています。そこで80年代の様なワイドなスタジアムロックサウンドを求めても合わない。どんなスタジオが必要なのかは録る音楽の種類によります。そういうことはプロデューサーやエンジニアが知っていて、特にロックもの、楽器ものは、ルームの響きとスタジオのギア、そしてどんなマイクプリを載せたコンソール入っているのかをかなりシビアに見ます。1073などに見られるヴィンテージNeveのサウンドが欲しければ、70年代の8038、8048、8068、8088などのコンソールが僕の音作りの基盤になります。今やNeve 8000 シリーズのコンソールがあるというのはハリウッドのスタジオのプライドでもあります。定期的にメンテナスしないとすぐ壊れるので、維持することも大変なものです。昔、色々経験を積まさせていただいたマッドドッグ・スタジオもNeve 8088コンソールを所有していて、31102に突っ込む感じの音作りでよくロックを録っていました。SSLやNeve VRシリーズとかも悪いわけではないんですが、同じ感じで芯の太いドライブ感は出ないなと。

- トラッキングでは、どのようなことが求められますか?

ミキシングエンジニアがプロジェクトファイルを開いた段階で、既に音楽が出来上がっている状態になるようにレコーディングします。トラッキングの段階で完璧に音を作ることがトラッキングエンジニアの腕でもあり、プライドでもあります。ミックスの段階で、その曲をどんなサウンドにするのか、どう仕上げるのかは、聴くまでもなく既に決まっている。ドラコ・ロサの時も同じです。それが行えないレコーディングエンジニアは経験が足りない、腕がないと評価され低く見られるでしょう。

プロデューサーやアーティストとのミーティングが終わって曲の方向性が決まった時点で、同じヴィジョンをシェアしている。それに沿って恐れずに音作りをコミットして、トラッキングを進めて行く。求める音がヴィンテージなテイストなら、音取りの段階で既にEQでハイエンドを大きく削ぎ落とし録音します。極力後で音作りせず、その場で作り上げます。その場でエンジニアによって作られる音がミュージシャンのインスピレーションになって、引き出せるグルーヴが違ってくる。それを基にさらに次を構築していくことができる。ぼんやりしたフォーカスではなくて、焦点が近くに合っている中で走っている感じです。特定の楽曲のイメージしてサウンドを持って行きたいとなれば、その曲をどこまで知っているかというが重要になります。確かこんな感じだったとか、誰それの楽曲だったらこんな雰囲気みたいな程度ではなく本当にその曲を理解しておけば音作りはできるし、ミュージシャンもガッツリ弾けます。ミュージシャン全員が、それぞれの周波数を持っていて、それがよい周波数であってもそれが逆位相であれば、科学反応は起きない。お互いが極力近い波形にあわせていくことで最高のパフォーマンスが発揮される。その周波数がシンクして倍増する感じに持って行けるかというのもエンジニアの重要なスキルです。

- レコーディングとミックスはどちらかに偏っていくものですか?

僕は、レコーディング、ミックス両方あります。録音してくれというのは本当によくあります。Nashville や、New YorkからL.Aのミュージシャンを使ってレコーディングをしたいとなってトラッキングだけを任されることもたくさんあります。その逆に、データだけまとめて送られてきてミックスをほしいということもあります。L.A.は、音楽制作の中心なので半分の仕事はL.A.の外から来る。L.Aのトップで仕事している人は皆そうだと思います。

- ミックスはどのように行っていますか?

伝統的なやり方ではミックスを後からいじる場合のリコールに時間と手間を掛けれない場合もあるので、Pro Tools内部をメインにして行うことも多々有ります。Apollo 8 QuadをI/Oにしたホームスタジオで作業することも多いです。その一方、未だ一ヶ月半、三ヶ月と掛けてスタジオでミックスするというプロジェクトも珍しくはありません。そういうものは、最初の3週間だけプロデューサーが来てその後はエンジニアに任せて帰ってしまうということもあります。自分でトラッキングしたものをミックスする場合はファイルの内容を分かっているし音も決まっているので、リバーブ量を変えたり、音を立たせるEQやコンプ掛けたりして、全体像を整えて磨く程度です。ミックスだけを受ける場合にトラッキングされたものがアーティスト、プロデューサーの好みじゃないとか、深みが足りないとなれば、そこにあるもの全部無視してミックスを行います。コンセプトが浅いままレコーディングされた音源を任された場合は、積極的に遊びの要素を取り入れて全く違うアプローチでミックスすることもありますね。

- UADプラグインは、以前から使っていましたか?

UAD-2はどこのスタジオにもあるので、行った先でよく使っていました。昔から使っていたのは、LA-2A Legacy プラグイン。LA-2Aの見た目のプラグインはいろんなメーカ-から出てましたけど、その頃からUADはデジタル感があまりない印象がありました。LA-2Aのシルバーフェイスの実機をヴォーカルによく使っていますが、再モデリングされたLA-2A Classic Leveler Collection は、アタック感が改善されてよりスムースで実機に近い印象です。 LA-2Aは、丸みのある温かい透明感を持ったコンプであると思いますが、歌などで突然入力レベルが上がった時に独特の色が付きます。LA-2A Legacyプラグインではそれをあまり感じたことはありませんが、LA-2A Classic Leveler Collectionではその細かい変化までよくモデリングされて作られていると思います。シルバー以外のラインナップも全部素晴らしいと思いますし、年代と機種の味を分けて出してくるあたり、Universal Audioはプロだと思いましたね。とことんまで追求してやろうとしている姿勢がわかります。

ドラムのルームやピアノに実機のFairchild 670をよく使っています。これは透明なコンプではなく、英語でグレイニー、ざらついた音と言われます。普段は積極的にアウトボードを使ってコミットしながらトラッキングをして行きますが、ドラムサウンドを70年代クラシックロックか、90年代ポップロックに持って行くのかアーティスト自身がまだ見えてない場合だと、実機のFairchild670を咬まして録ると色が強く付くので、後戻りできないリスクがあります。ドライで録っておいたものを、後でやはりFairchild 670の音が必要だとなった時に、以前は違う方法で色付けを考えてFairchild 670に似たような音色を作る必要があった。この時にUADプラグインのような精密なプラグインがあると、Fairchild 670の実機がない環境でミックスする場合であっても同等の質感のサウンドを得ることができる。せめぎ合うところでのこちらの負担を軽くしてくれます。

- 良いグルーヴを録音する為のポイントはありますか?

プロデューサー/エンジニアがドラムを理解しているかが重要です。ドラムの音を悪くしては何もできません。ドラムの音が悪いままで、グルーブが良いなんてことはありえません。どれくらいドラムのチューニングをわかっているのか。マイクや、EQ変える以前の段階でグルーヴを大きく左右する問題です。グルーヴに関しては、ミュージシャン側の意識も非常に高いです。プロデューサーがOKを出しても、プレーヤー自身は納得がいかず、グルーヴが自身の100%ではないからもう一テイク頼むと耳打ちしてきて、僕もランチを15分を繰り上げて録ってあげるみたいなことはよくあります。サイモン・フィリップスのようなトップ・ドラマーでさえ、違いが分からないくらいのわずかなグル-ヴ感に対して首を捻って16小節をもう一度演奏させてくれ、と言ってきます。僕の環境には演奏後に恥ずかしげもなくタイミングをエディットしておいてくれと頼んでくるミュージシャンは滅多にいません。ミュージシャンには、ミュージシャンのプライドがあります。

本物のライブパフォーマンス、そしてそのグルーヴをダイナミックにをキャプチャーできる人は、アメリカでも減ってきているんじゃないでしょうか。有り難いことにそれがしっかりできることで重宝されているところもあると思っています。最近では、日本のアーティストがアメリカに来て活躍している姿を見ることもありますから、高いミュージシャンシップを持って、クオリティを上げて行きたいという日本のアーティストがいれば、ぜひ一緒に仕事してみたいですね。

interviewer : Ryuji Seto

photo : Kristina Sado

SADAHARU YAGI

http://www.sadasound.com/

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