Maruni Studio チーフ・エンジニア 中原正幸 インタビュー

2014年に20周年を迎え、現在も「音楽作りとは何か?」を追求するスタジオとして進化中。心地よい音楽作りを支える【経験値】【技術力】【アットホームな雰囲気】という3つの強みにも、磨きをかけ続けている。

- スタジオの環境を教えていただけますか?

マルニスタジオには、基本2つスタジオがあって、ここのSTUDIO-1では録りが多いですね。メインのブース以外にアンプが入る部屋が3つ と、仮歌を歌えるスペースがあります。バンドもの一発の収録が行えます。最近では、WHITE ASHがここでレコーディングからトラックダウンまでを行いま した。STUDIO-2にはブースがひとつあって、歌を録ったり、ギターアンプのリアンプ等が行えま す。ラージモニタにMUSIK Electric R901Kを置いており主にトラックダウンに使うことが多いですね。 それぞれのスタジオには、先代のMac Pro にPro Tools HDXとUAD-2 OCTO、そしてBlack Magic のビデオカードを入れています。

- こちらStudio-1でのバンドレコーディングはどの様に行っていますか?

リズムを録る時は、基本HAを揃えたいので、ここのSolid State LogicのDualityで録ります。このコンソールは4000E、4000G、9000Kとも少し違うキャラクターがあって面白いんですよ。ベースには、Shep/NeveのHAを、エレキギターにはNeve1073を使って、Shure SM57、Sennheiser MD421 を並べて立てて同じ大きさで混ぜていますね。響く部屋で録る場合は、アンプから70cm,50cmくらい離してコンデンサーマイクをルーム扱いで立てます。このコンデンサーマイクはフラムの大きなものであればなんでもいいんですが双指向にして録りますね。シチュエーションに合わせて足したり、違うパンに配置したり。ドラムがあるとどんなにタイトに録っても空間を持ってしまうので、パンで振られたギターだけがドライで張り付いていると不自然に聴こえることがある。それが気持ち良いかどうかは曲によって様々ではありますけど、都度、聴いて決めていますね。

- エレキギターを録る時に気をつけていることはありますか?

ギターアンプから出ている音を録る時、もっと上があった方がいいとなった場合、ついコンソール側にリクエストが来ることが多い。EQを触ってしまいがちだけれども、ここでやるよりギターアンプの方を触った方が1に対して2,000くらい変化量があるので、ギタリストとやる時はアンプから出ている音をキチンと録ることに専念した方がいいですね。アンプの音をしっかり作る。どんな音で録れているのかを確認して楽曲としてどうなのか、アーティストがどう思っているのかを確認しながら、アーティストを中心としたプロデュースが行われていくことが大事。もっと歪を・・・、と言われたら、ブースにリクエストを出すこと、それも音作りです。こちらで何をやってもストラトがレスポールの音になったりはしないですから。 

バンドの音量も楽器を個別に録ってこちらでバランスを取ることもできるけど、いいグルーブのサウンドの人達は皆、音色感、音量感がブースの中でちゃんとできている。彼らはこういうサウンドなんだなというのがリハーサルで出来ているんですね。俺たちはこうなんだという音をまず、ブースの中で整えるというのが大事。音楽大好きだけど、レコーディングのことは分からないという若いバンドには伝えるようにしていますね。

- ボーカルのレコーディングはいかがですか、エピソードなどはありますか?

志帆ちゃん(=Superfly)は、最初からケタ違いでした。歌い方は年々変わってきていますけど、基本の声量がすごい。「愛をこめて花束を」が、蔦谷好位置さんが始めてプロデュースした曲なんですが、彼も機材は詳しいので、事前にデモを聴いてあの声ならNeumann U47、Neve 1073、Urei 1176で録るのが良いだろうと話をしていたんです。ところが当日そのセッティングでやると歪んじゃうんですよ。ものすごく絞っても歪んでしまう。歌は素晴らしいすてきなテイクで何の問題ない。彼女はマイクとの距離を抑揚に合わせて調整しながら歌うんですけど、それでも歪んじゃう。後で調べて見たらマイクロフォンのフラムが負てしまっていた。そこで絶対に歪まないセットで録ろうということになってあの曲は、Shure SM57で録ったんですよ。録音した時の設定を見たら、ギターのマーシャルを爆音を鳴らした時の設定を同じでした(笑)・・・、もう二人で顔を見合わせてしまって。 

そういう意味では、広瀬香美さんもケタ違いですね。生きる伝説ですよ。YUKIさんもそうですけど売れる人の声は、ただひたすら気持ちがいい。そういうボーカリストは手も掛からないんですよ。録ったものをポンと置いたらそのままいてくれる。歌を聴かせる為に、オケとの色味とか、オケがうるさすぎないかとか微調整しますけど基本そのままいてくれる。 

- 歌を引き立たせるコツはありますか?

歌が楽曲のメインで、言語を喋っている。それを聴いてほしくて作っているので、他は伴奏なんです。この歌、凄く良いなとなったときは、自然なこの歌を見ていたい。これを壊さないサウンドを作りましょうと始めたら、オケのサウンドがどうなったかなんてもうどうでもよい。オーディオを作っている訳じゃないし、オーディオ的に満足してもらうものを作っている訳じゃないということです。 

以前、蔦谷さんと仕事をしていた時、200Hz以下を全部カットしたこともあります。渾身のいい音がしているんだけど、下が出過ぎだから切ってくれって言うんです。そんな切り方は、普通はやっちゃいけないことなんですよ。気が狂ったのかと(笑)。でも彼には見えているものがあったんですね。歌に対してオケがある。そこが出発点で終点なんです。 

理想のパフォーマンスを得られない場合はどうしていますか?

ダメって訳じゃないけど、違う魅力を持ったボーカリストはたくさんいます。そのまま置いて成立しない時ですよね。そのときは、理想的なボーカリストに近づけるように処理をしていきます。それを知っていると色々とアイディアは湧いてくる。小さい時に大きくしてあげるプラグインはあるし、歯擦音がキツすぎる場合は、ディエッサーを強めに掛けてあげればよい。自然に聴かす為にすごく理論的なこともやっていますけど、理想のイメージが大事です。こんな風に聴こえたのは初めてと言われることもありますよ。

メインプラグインがUAD-2とのことですが、最初の印象はいかがでしたか?

僕は、未だメインで使うコンプは1176か1178です。世界中のありとあらゆる1176を知っているので、最初にUADの1176のプラグインを聴いた時は本当に感動しました。潰したらこうなる。レシオボタンを全押ししたらこうなるというのをちゃんと再現している。プラグインでもちゃんとやれば出来るんだと思いましたね。それまでも見た目が1176のプラグインはたくさんありましたけど、どれも1176の音はしていない。ただのレベラーだなあ、なんてことばかりだったんですよ。UAD-2プラグインはとにかく忠実度が全然違う。これは凄いと思いましたよ。 

最初は、UAD-2 Firewire Satellite を導入しました。当時、仕事一緒にしていた作編曲家さんのスタジオにUAD-2もApolloも置いてあるところがあって、ミックスの前日になると”新しいUADプラグイン入れておいたんで!”って連絡くれるんですよ(笑)。そこでミックス終わらせてから、すぐ自分のスタジオに戻って”あのプラグインいいぞ、ウチにも買ってくれ”って、ドンドン傾倒する様になって行きましたね(笑)。

- 特に好きなUADプラグインはありますか?

AMS RMX16のデジタルリバーブ。本当に似ている。(注:UADプラグインのAMS RMX16は、実機と全く同じデジタルアルゴリズムを搭載、Universal AudioがAD/DAコンバータの特性をエミュレートを行った)実機を使い倒している人は、皆同じ感想を持っていると思いますよ。知らない人にとっては”こんなリバーブなんだ”って程度かもしれないけど、80年代のサウンドというのは、AMS RMX16のノンリニアリバーブの時代と言っても間違じゃない。AMS RMX16のアンビエンスとノンリニアは皆使っていた。これは日本だけじゃなく世界中がそうだったんです。あのリバーブの音を聴いたことがない人はいませんよ。絶対に何処かで聴いたことがある。定番リバーブといえばLexiconというイメージがあると思いますけど、AMS RMX16にリモコンがあれば、Lexiconと並べてコンソールの上に置かれていましたよ。それくらいの定番リバーブなんです。

MXR Flanger/Doubler。全般的にプラグインは、モジュレーション系って弱いんですよ。ギタリストが持ってくるものに比べて掛かりが弱過ぎる。だから後輩のエンジニアにも、後でどうできるものではないのでギタリストが持って来たFlangerやPhaserは、録ってておいた方がよいと話しているほどです。MXR Flanger/Doublerは実機も持っていました。スタジオ機器メーカーのモジュレーションでこれに勝てたものはないですね。歌にコーラスを掛けたい時とかに実機と同じ様に掛かるのですごく使っています。今、プラグインで換えの効かないようなものを実機で買おうかと思っているくらいなので、UADプラグインにはもっとたくさんモジュレーションプラグインがでてくれると嬉しいですね。 

EQプラグイン全般に関してですが、UADプラグインを使うようになってからアナログ時代のようにブーストEQをするようになりましたね。極端な話、Pro Toolsというのは、カットEQで音を作って行かなければいけないシステムだったんですよ。アナログ時代もカットEQだけでミックスを作っていく人がいましたけど、そうやって作ったミックスは、消極的でつまらない。ガッツがないな、好きじゃないなって。それに対して、この人の音は歪んでいてキタナイ。キタナイけどなんかくる。いい曲だな、何か残るな・・・、何十年も経って、実はあの音が良かったんだなってことはいっぱいあるんです。そういうミックスは、曲の良さを伝えたわけだからすごい。そういうのが好きなんですよね。

歪みというのは大事な要素で、いわばおふくろの味みたいなもの。スタジオが違うと使っている機材が違う。入力に対してどう歪むのかというところが違う。そのスタジオで使っていたギアを持っていると何処の家の味みたいなものを作れるわけです。 TridentでやるとTridentの歪みがある。歪みというのは、機材を特徴つけているもので、良し悪しは全部そこなんですよ。音がそのものが太くなったりするわけないじゃないですか。どこがどう歪んでいるのかの帯域バランスのことで、実機と似ているかどうかはその部分なんです。UADプラグインは、そこをわかって作っているところがすごい。聴けばすぐ分かりますよ。

- クラシックロックをベースとしたサウンドは印象的ですね。

基本的に求めている音は昔から変わらない。子供の頃から聴いていた音でもあるし、標榜している音でもある。求められている音もそれ。デジタル歪ありきなのに70年代の自然な歪み、ナローな感じ・・・、すなわち忠実度が低い音を好まれることが多い。ジョージ・マッセンバーグがエンジニアを行ったリトル・フィートとか、もう完璧ですからね。ドナルド・フェイゲン、ピーターカブリエル・・・、でも、それでいいなら70年代で音楽は完成じゃん、もう作らなくていいじゃんとなる。だから、ここ数年は、新しいマイク、新しい機材を使うようにしています。当時の機材はレトロだから使っていたわけではなく、その時の最先端の機材で最先端な音楽をやろうよ、として使われていたもの。今、あの音の時代の音が好きだったら2016年の、今の機材であの音作ればいいじゃないか、ということです。だから外に出してアウトボードでやればすぐにできてしまうことをわざわざプラグインでやる。だからUAD-2がメインプラグインなんです。 

僕はミックスでプラグインを本当にたくさん挿します。物事が滞りなく進まないというのは好きじゃないんですけど、終盤になるとPro Tools のDSPもギリギリになってしまう。だからUADプラグインが依存しないで自分のDSPで動くという考え方も助かりましたね。これも調子に乗って使っているとDSPが無くなっちゃうんですけど(笑)。今度、マルニスタジオも黒いMacProに新しくする予定なので、その時にUAD-2 Satellite TB OCTOをもう一枚拡張したいと思っています。 

- 最後にプロのダーツプレーヤーでもありますが、音楽の扱いにも影響はありますか。

ありますね。やっぱりレコーディングエンジニアにとって大事なことは、音楽に対する知識、音響工学、技術、電気に詳しいとか、引き出しをたくさん持ってる、プラグインをたくさん持っている、そんなこともあるかもしれませんが、一番は人間としての総合力です。
ミックスのひとつひとつの処理をちゃんとやりたいと思うからこそ自分の中でご法度ができてしまうんですが、自分の中でのご法度を自分で崩して行かなければその先にはいけない。たどり着きたい頂点は一緒だけど、登山道はたくさんあるはずだから違う道で登ってみる。ひとつの手法が出来上がったら、壊す。自分の好きな音は決まっているので壊しても壊れなかったところが残るんですよ。その周りに作って、また壊す。そうするとまた壊れないところが残っていく・・・、それが自分の音、その人の音にも繋がります。音楽しかしていない、ミックスしかしていないとなると、毎回同じ手法を繰り返すただのルーティーンにはまってしまう。 

僕は、CHARさんがカッコよくて、小学性の頃に音楽に目覚めたんですよ。以来、ギターを始めて、音楽の世界に入ってエンジニアになった。スタジオで音楽を作り、家に帰って好きな音楽のCDを聴き、休日になるとレコード屋に行ってジャケ買いしたりしながら山の様にCDを買い。たまに友達と飲みに行っても最近どんなCD買った?という話題をして盛り上がる(笑)。ずっと音楽ばかりやってきた。でも、それだけやっていたら気付けなかったことというのはいっぱいあるんです。僕にとっては、ダーツがその助けになってくれました。 

面白い人がやるミックスは面白い。魅力がある人がやるミックスには魅力がある。見えない板の裏を磨いておきなさいよ、神は細部に宿るとか言いますよね。こんな美味しいものがあるんだとか、こんな変なヤツがいるんだとか。魅力のあるミックスというのは、今が楽しいじゃないかと心掛けられるミックスなんです。冷たい人間がやるミックスは、必ずどこか手が届いていないんですよ。マルニスタジオのラウンジにはダーツボードがあるのでミックスに行き詰まるとそこでダーツをするんです。物理学者が考えて考えて、もういいやってシャワー浴びたら答えが降りてくるみたいな話ありますよね。脳に別の刺激を与えることでミックスがすごく楽しくなるんですよ。 

interviewer & photo : Ryuji Seto

Matuni Studio

http://www.maruni-studio.net/rec/

Superfly

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