The Hit Studio チーフ・エンジニア 関根青磁 インタビュー

ウルフルズがレコーディングできるスタジオとして作られたアーティスト事務所"タイスケ"のプライベートスタジオ

The Hit Studioについて教えてください。

The Hit Studioはアーティスト事務所タイスケのウルフルズがレコーディングできるスタジオとして作られたプライベートスタジオです。タイスケはバンド魂のある会社なので、アナログ、ロックサウンドに拘ったアナログ機器が揃ったスタジオになっています。スタジオをより良くして行きたいということで誘われて、ここのチーフエンジニアに落ち着きました。僕は家で作業するのが苦手なので、SSLのコンソールがあるところでしっかり仕事できるというのは良いなと思ったんです。タイスケのアーティスト以外の僕の仕事もここで作業させて頂いていて、先日もm-floの5.1ミックスをここで落としたばかりです。事務所のアーティストがあってのことですが、その中でも自由にやらせて頂いています。

新しいスタジオと思えないほどヴィンテージ機材が充実していますね。

コンソールはSolid State Logic 4000G+の40ch仕様で、アウトボードのマイクプリはスタジオのNeve1081に自分のNeve1066とオリジナルNeve1272を載せたブレンドアヴィリルを合わせて23chのNeveのマイクプリを揃えています。他にはabbey road studioで実際に使用されていたコンプのEMI TG12413等のアウトボードもあります。現在調整している段階ですがアナログマルチSTUDER A820とCLASPも間もなく稼働する予定ですね。ヴィンテージに拘ったプライベートスタジオだからこそ、よりアナログライクなスタジオに向かっています。

Pro Toolsは、HDソフトウェアは11以降も入っていますが、僕は未だに10が好きで使っています。Pro Tools HDX 2+UAD-2 OCTOにHD I/Oが4台で48ch。ミックスの時はSSL4000G+コンソールのチャンネルストリップ40ch分をPro Toolsのプラグインみたいにハードウェアインサートで、I/Oの1,2、3、4・・・、と挟み込んで使用しています。バランスもコンソール側で取ってPro Toolsのフェーダーはフラットにしておきます。とはいえコンソールのコンピューターミックスだけでは流石にキビシイので、オートメーションだけはPro Toolsで行っています。プラグインを使いたい場合はハードウェアインサートの後に挿してプラグインとアウトボードの両方で音作りを行っていきます。作業後はハードウェアインサートや、AUXリターンの音もプロツールスに録って置くことでリコールも可能にしています。

コンソールと併用することでサウンド面以外のメリットはありますか?

Pro Tools では同時作業ができないのが一番問題です。アシスタントがオペレートしていると、エンジニアはプロツールスを操作することができません。2台のMac でひとつのプロジェクトを動かせるようになって、録音中にエンジニアがミックス画面を触っていても、アシスタントがパンチイン・アウトやエディットができると良いですね。ネットワークでのコントロールが発展すれば将来的に解決できるものと思いますが、まだ実用レベルではないという印象です。この併用環境ですとパンやフェーダーはもちろん、EQやリバーブ操作もできます。リアルタイムでどんどん進められないのはプロのレコーディング現場としては嫌ですね。

あと操作的にプラグインだとどうしても小さくいじってしまう感じがしています。アナログの方が直感的に触れて操作性に優れていますし、耳で決める方が僕には肌にあいます。つまみとかボタンを押す楽しさ、男のロマンみたいな(笑) 。この環境だと何Hzを上げて欲しいという細かいオーダーが来る時は、Pro Toolsの画面を見て対応することもできます。クライアントの要望と自分やりたいことをせめぎ合った結果がこのようなスタイルになりました。10年後も20年後もDAWのミックスはあると思いますが、アナログコンソールとDAWの併用は今しかできないと思うんですよ。こういうスタイルもあと10年やれるかどうかかもしれないので、続けるメリットはあると思いますね。

UAD Plug-inは、どのように使っていますか?

打ち込みものはもちろん、バンドものでもコンソールの40chでは足りないことも多い。コンソールの足りないトラックにUADのSSL Channel Stripが登場する。SSL Channel Strip とBuss Compressorはとりあえず各トラックに挿しておいて、音をいじりたいと思った時にすぐ触れるよう入れておく。だからSSL Channel Stripはミックスが終わった時に挿してあるだけで実際は触っていなかったということもよくあります。UADはアナログエミューレーション系のプラグインとしてズバ抜けていると思いますね。本物とは違うけどとても良い掛かり方をしている。いくらアウトボードが好きでも同じ機材を6台用意できるかというと、そういう訳にはいかないですからね。Fairchild670が同時に何台も使える時代が来るとは思いませんでしたし。昔からアナログエミュレーション系のプラグインはありますけど、操作性、デザインが良ければそれはそういうものとして使っていて、あえてエミュレーションしているツールと思っては使っていなかった。時間内にやらなければ行けないという中で、コントロールがしやすく、操作性の優れいてるものを選んで使っていましたね。

よく使うUADプラグインはありますか

API 550、560、1176のRev. E、Rev. A 、AE・・・、LEGACYは使わないかな。同じく再モデリングのLA-2A Collectionも使いますね。日本ではLA-2A Silverの実機が出回っていますが、それ以外のものは使ったことがなかったので、違いを楽しんでいます。再モデリング系のUADプラグインはファーストチョイスですね。中には、プラグインになって良かったなという古い機材もあります。AMS RMX16は素晴らしいですね。そもそもコンディションの良い実機がなかなかないですし。MXR Flanger/Dublerの実機も掛かりはよいのですが、挟んだだけで音がペラペラになってしまう(笑)。プラグインではそういうことがないので良いですね。

その他、興味の有るUADプラグインはありますか?

Eventide 910 は以前買おうと思っていたものです。僕がこの業界に入ってきた頃にはなかなか実機をみかけなかったもので、当時はEventide H3000の中にある910モードで代用していました。歌の修正や和声を入れたりする時にも使っていたものですが、それを今ではいろんなプラグインでできることですね。一瞬鍵盤が付いているから戸惑いましたけど(笑)。

プロジェクトのサンプリングレートはどうしていますか?

サンプリングレートは全部32bitフロート/96kHzでやっています。ハイレゾ配信をやっていることもありますし、こういうものはその時のハイスペックにしておかないとダメだと思います。昔アナログのハーフインチマスターが主流の時代にDATマスターにしていたアーティストの音源がスカスカで大変だと聞いています。当時のCDのリリースを考えたらDATはちょうどよい器の箱だったと思いますが、今のハイレゾ時代のリマスタリングでは、アナログマスターと並べた時の落差が大変ということが起きています。僕はハーフで落としていたので良かったと思っている側ですけど、やはり最低限のことはしておくべきだなと思っています。

音楽制作は免許制ではないので線を引いて行かないと、しっかりとした仕事としてのセオリーや考え方を伝えて行くことが難しい。ひとつのあり方として音楽はみんなが楽しくやるものでよいと思うし、インディーズのスタジオ一発録の音楽もいい。才能のある人もたくさんいる。ただ一方メジャーでは何十年も掛けて出来上がった一流の音楽制作のスタイルがある。僕はそのスタイルが楽しいと思ってこの業界に飛び込こみましたし、世界中に残っているこのスタイルはひとつの形としてこれからも有り続けるべきだと思います。

これから取り組んで行きたいことはありますか?

このThe Hit Studioを一流のスタジオにして行きたいと思っています。アマチュアでもライブはできるけど、東京ドームとなるとそうは行かない。一握りではあるけど今もそれが出来るアーティストがいて、僕はその一握りのアーティストと仕事することを選んでいる。売れるものをちゃんとしたクオリティーのある製品にしてパッケージにする。それを本気でやるから楽しいし、それを特等席で行えるのがエンジニアの仕事。アナログ機材に拘って制作するアーティストは増えているので、古き良きスタイルを守れる人が守って行くというスタンスで、常に環境変化に切磋琢磨しながらよい意味で原点回帰して、もっとアナログに寄っていきたいですね。そしてこのスタジオからヒット曲が生まれることを願っています。

ページトップへ