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Townsend Labs : Sphere セッション - Alana Alexander & Nico Gomez

By Julian David | December 10, 2019

1本のマイク、2人の歌手、そして感情が織りなす世界 - この Sphere セッションで、Alana Alexander と Nico Gomez による Daniel Caesar の楽曲 "Best Part" のソウルフルなワンテイクによる解釈をお楽しみください。

このブログでは、Townsend Labs の製品エキスパート、プロデューサー、エンジニアである Julian David が、Sphere の特許取得済みの機能と Sphere 180 ステレオモードを最大限に活用し、いかにして2人の歌をレコーディング/ミックスしたかについて知ることができます。


セッションの構想

すべては3人がソーシャルメディアに投稿したホームスタジオのビデオから自然発生的に始まりました。歌手 Alana Alexander と Nico Gomez、そしてキーボード奏者の Christian Frentzen は長年一緒に活動をし、グルーヴィーでソウルフルな楽曲への愛情を共有しています。彼らの、Daniel Caesar & H.E.R. によるグラミーを受賞したヒット曲 "Best Part" のパフォーマンスを聴いた時、私たちはもっとエレガントに捉えられるべきと直感したのです。

「R&B/ソウルが大好きなのでこの曲を選びました。僕たちは、ストーリーを語るのに十分なスペースがある楽曲、そして音楽を作ることを愛しているんです。」- Nico Gomez

今回のセッションの主な目標は、非の打ちどころのない最高品質のレコーディングというよりも、2人の歌手の生の感情と相互作用を捉えることでした。

セットアップ

Julian David は、ドイツの Tresorfabrik スタジオでレコーディングを行いました。はじめからセッションは「カメラ1台のみでのワンテイク収録」と想定され、Alana と Nico のお互いが影響を与え合える刺激的なセットアップを行うために、2人が1本の Sphere L22 を挟んで歌うべきだと皆が考えました。向き合うことで、自由なコミュニケーションを図ったのです。

このような「ワンマイク」アプローチにおける重要なポイントのひとつは、パフォーマー自身が可能な限りベストなバランスを取るようにすることです。Sphere は従来のマイクをはるかに超える魔法をもたらしますが、依然として最も大事なものはパフォーマンスです。とくにこれがワンテイクのパフォーマンスとなると、Alana と Nico は自身のマイクテクニックに細心の注意を払い、曲全体に渡ってそれをキープするため、位置と音量を慎重に定める必要がありました。

愛すべきビンテージの Wurlitzer を奏でる Christian は、2人の歌手がはっきりと見えるよう後方にスタンバイ。Wurly はDIボックスを介して収録されました。

そして若干のスペースと自然なアンビエンスを加えるため、Julian は AEA N8 リボンマイクをルームマイクとしてセットしました。

テックノート

  • ボーカル : 1本の Sphere L22 マイク(2人のボーカリストを捉えるため、Sphere 180 モードに設定)
  • Wurlitzer : DI
  • ルームマイク : ステレオペアの AEA N8 リボンマイク
  • プリアンプ : api 512c(ボーカルおよび Wurlitzer 用)、Chandler Germanium(ルームマイク用)
  • コンバーター : DirectOut Andiamo
  • Avid Pro Tools を使い、24ビット / 96 kHz 設定で収録
  • UAD Capitol Chambers と軽いコンプレッションを追加

Sphere L22 で2人の歌手を収録する方法

Sphere L22 のデュアルダイヤフラムカプセルは、デュオ、あるいはボーカルや楽器のグループを両サイドから収録するのに適しており、これによって得られる2チャンネル分の信号に対して、異なる2つのワークフローと処理オプションを提供します:

  1. 入力信号を、各チャンネルに通常の Sphere プラグインを起動した2つのトラックに分割(マルチング)し、一方の Sphere プラグインを前向きのカーディオイドに設定、もう一方を逆向きに設定します。
  2. DAW上の単一トラックで Sphere 180 プラグインを起動し、入力信号をステレオキャプチャーとして扱います。

音響的にはどちらのアプローチもおおむね同じと言えるのですが、Sphere を使用する際に理解すべきさまざまなワークフローを示します。

最初のアプローチは、ミックスに最大の柔軟性と慣れ親しんだ従来のレイアウトをもたらします。それぞれの歌手に対応したフェーダーを調整することで、個別の処理が行えるからです。Sphere プラグインを使うと、2チャンネル分の録音がモノラル扱いとなります。指向性をカーディオイドに設定すれば、その歌手に合った最適なマイクモデルを選択し、近接効果の調整、その後のコンプレッションやイコライジングなど、追加の処理を手早く行っていけるでしょう。DAWのパンコントロールを使用し、音場やAUXセンド内での配置を自由に調整することも可能です。

一方の Sphere 180 プラグインを使用する2番目のアプローチでは、Sphere L22 マイクの周囲で発生したあらゆるものに関連する真のステレオ信号がもたらされます。背中合わせのカーディオイドパターンというように設定すれば、このセットアップで左右にハードパンされた2つ分の音声が聴こえてくるでしょう。もちろん、Off-Axis Correction™ のセクションで指向性を調整したり、左右のバランスを改善することによって、ステレオ感を狭めることもできます。なお、この場合においても左右のマイクモデルを個別に選択することが可能です。

Julian は、2人のボーカリストの自然なダイナミクス、サウンド、ポジショニングを保持したかったため、今回のセッションでは2番目のアプローチを採用しました。

Alana と Nico のボーカルをミックス

前述の Sphere 180 テクニックを使った結果、DAW上では2人の歌手間で1本のフェーダーを共有することとなります。これは、EQ、コンプ、およびリバーブが双方に等しく適用されることも意味しています。

1本のマイクを使用した録音にもかかわらず、Sphere 180 プラグインでは各サイドで異なるマイクモデルを選択できます。Alana には、現行の Soyuz チューブコンデンサー LD-017T モデルが選択されました。一方の Nico は、LD-251 モデルとの相性が抜群でした。

最終的な Sphere 180 プラグインの設定

セッションの目標が純粋で新鮮なパフォーマンスを捉えることであったため、結果としてジュリアンはほとんど後処理を行いませんでした。Nico サイドへの小さなローミッドのディップと最低限のごくわずかなコンプレッションは別として、彼は Universal Audio の Capitol Chambers プラグインで多少のリバーブを加えただけです。今回のミックスは、フェーダーに乗ってダイナミクスを整え、すべての要素のバランスを取ることでした。Alana と Nico は非常にダイナミックな歌手であり、ソフトで繊細なだけでなく、ラウドな一面も覗かせます。ボリュームオートメーションはこれらのダイナミクスをコンプで一律にスカッシュしてしまうのではなく、より自然な表現が得られるソリューションです。また、Julian は UAD Neve 33609 によるパラレルコンプレッションバスも活用し、ソフトなディテールを引き出しました。

最後に、YouTube 配信用の音量(-14 dB LUFS)にミックスをまとめるため、ほんの少しだけミックスバスで処理を行いました。

アーティストからの視点

ここで、Sphere L22 を使った今回のレコーディングセッションをどう感じたか、アーティストに聞いてみましょう。

「マイク1本による、素晴らしいレコーディング体験ができました。もう1人と対面し、双方が感情的なレベルで影響し合うことができるんです。普段は1人でボーカルブースにいるので、少し慣れる必要がありましたが。ここでは、目の前にデュエットパートナーがいます。とくにラブソングの場合、感情を解き放つためには勇気が必要です。でもデュエットには最高だと思いますよ!」- Nico Gomez

1本のマイクを共有することが、歌手双方にとって素晴らしいことであると証明されました。

「Nico は私のお気に入りの歌手であり、私は彼とどんな仕事をするのも大好きなの。このスタイルでパフォーマンスすることはとても興味深く、楽しかったわ!」- Alana Alexander

アーティスト紹介

Alana Alexander(ボーカル)

ニューヨークはブロンクスで生まれ育ったこのソウルの歌姫である司教の娘は、才能あふれる芸術一家に囲まれた父親の教会から音楽教育を始めました。Alana は、ゴスペル、ソウル、ラテン、ジャズ、カリプソといった音楽的影響を受け、ユニークな音楽を表現しています。カーネギーホールのような象徴的な会場で世界的に有名なアーティストとの共演経験もある彼女は、ドイツでの数年間の活動後、現在はニューヨークに戻っています。

Nico Gomez(ボーカル)

ドイツに拠点を置くシンガーソングライターの Nico Gomez は、出生前から母親の胎内で初のツアーを行いました。アーティストの家系で受け継がれる音楽が、はじめから彼の中を流れていたのです。Nico は幼少期にドラムとピアノを始め、すぐにオリジナルソングを作曲、プロデュース、歌うようになります。ライブを愛し、その機会を逃すことはありません。彼はキャリアの中で、One Republic、Glasperlenspiel、Wincent Weiss、Max Herre、Mousse T. などと共演してきました。現在は、デビューアルバムに向け、シングルを続々リリースしているところです。ディテールとあふれんばかりの感情を大事にし、聴く者をパーソナルな音楽世界へと誘います。

Christian Frentzen(Wurlitzer)

Christian Frentzen は、ドイツ・ケルン在住のキーボード奏者、ピアニスト、オーディオエンジニアで、Marla Glen、Julia Neigel、Stefanie Heinzmann、RüdigerBaldauf といったアーティストのサイドメンバーとしてパフォーマンスを行っています。彼は現在、自身のジャズカルテットのデビューアルバムのリリースに向け取り組んでいます。また、キーボード奏者としての仕事とは別に、バンドのプロデュースや、'CFrentzen' という名義でビンテージのキーボードをサンプリングを行っています。

*モデリングされたすべての製品の名称はそれぞれの所有者の商標であり、Townsend Labs Inc. とは関連性がありません。これらの製品名および記述は、Sphere のサウンドモデル開発中に研究された特定の製品を示す目的としてのみ提供されています。

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