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Townsend Labs : U67 を知る

By Chris Townsend | February 6, 2019

Neumann U67 は、エバーグリーンなクラシックマイクの1つです。マルチパターンのチューブコンデンサーマイクである U67 は、伝説的マイク Neumann U47 の後継モデルとして1960年にリリースされました - もっとも、これらは数年間並行して存在していたのですが。本記事では世界で最も人気のあるビンテージマイク U67 にスポットライトを当て、その歴史、設計、そしてどのようなバージョンがあったのかについてご紹介していきます。

まずは Townsend Labs Sphere に含まれる2つの 67 モデルについて、動画で簡単にご説明します:

用途

U67 は汎用性を念頭に置いて設計されました。たしかに、適合しないソースを見つけるのは難しいかもしれません。そのきめ細かでなめらかなミッドレンジは、クローズマイクのボーカル、ピアノ(The Beatles の A Day in the Life のピアノパートに選ばれたと伝えられています)、ギターアンプ、アコースティックギター、ドラムのオーバーヘッド、管楽器に最適でしょう。

ロサンゼルスの Capitol Studios で行われた最近のビデオ撮影では、伝説のエンジニア Al Schmitt が、ビッグバンドのレコーディングでオムニ(無指向性)に設定された U67 をサックス奏者に使用しています。彼曰く、他の楽器からの被りもなんら悩みの種になることはなく、それさえも U67 では良し!となるそうです。一方で、ロンドン Assault & Battery 2 の Catherine Marks は、U67 がもたらすトップエンドの輝きがエレキギターの収録に最高だと絶対の信頼を置いています。

つまり、基本的に U67 が間違った選択となることはほとんどなく、多くの場合、最良の選択になるということがお分かりいただけるかと思います。

歴史

1950年代の終わり頃、いくつかの経緯から Neumann は U67 へと繋がる設計を始めます。おそらく最も影響が大きかったのは、マイクをソース近くに設置するレコーディングテクニックが50年代に非常に普及したことでしょう。この手法には大きな利点があるものの、マイクの設計に関してはいくつかのチャレンジが強いられました。そのため、Neumann は近接収録を念頭に置いて設計されたマイクロフォンの市場分析を行いました。そして、新しいマイクをより多用途なものにしたいと考えたのです。

この目標を達成するためには、オムニとカーディオイドに加え、フィギュア8(双指向性)パターンを提供可能なラージダイアフラムコンデンサーを開発することが必要不可欠でした。すでに Neumann は、3つの指向性切り替えが可能な KM56 スモールダイアフラムコンデンサーによって成功を収めていたのです。もちろん、Telefunken が 当時の Neumann のフラッグシップモデル U47 の重要な構成要素である VF14 チューブの生産を中止すると発表したことも、後継モデルの設計を始めるきっかけとなりました。

設計詳細

ハイパスフィルター

私たちがカーディオイドパターンのマイクロフォンによるクローズマイキングを好む理由の1つは、近接効果によってサウンドに太いボトムエンドが加わることです。しかし、ローエンドは簡単に暴れるものでもあります。Neumann が U67 で取り組んだ問題の1つがこれでした。このマイクロフォンの増幅回路は、機械的ノイズを抑え、低域成分が増幅回路を過負荷にしてしまう危険性を回避する目的で、恒久的に40ヘルツ未満の低周波数をロールオフする形で設計されました(フィルターは、マイクを開きワイヤーブリッジを外すことでバイパスすることができます)。そしてクローズマイク時にローエンドをさらに制御するため、マイク本体のスイッチを使ってローカットフィルターの周波数を 100 Hz に簡単に切り替えることも可能にしています - とはいうものの、オリジナル U67 のパンフレット内のグラフによれば、実際には 200 Hz くらいからロールオフが始まることが見て取れましたが。

パッドスイッチ

クローズマイク時におけるもう1つの問題は、マイクがソースから離れて設置される時よりもはるかに大きなレベルにさらされることです。そのため、低域だけでなく、周波数スペクトル全体にわたってマイクロフォンのアンプが過負荷となる危険性があります。結果、U67 では(取扱説明書で「トランスミッション・レシオ」と称されていた)増幅回路に入力されるサウンドレベルを変更するためのアッテネータースイッチが追加実装されました。これにより、全体的な振幅を14デシベル減少させることができます。Townsend Labs の測定によると、アッテネーションは実際には完全にリニアではありません。パッドを使うと、低域と高域のロールオフがわずかに増えるのです。よって、Sphere プラグインでは [フィルター] セクションでこの設定が行えるようにしました。

さらなる汎用性を得るためには、以前のマイクロフォンよりも改善されたS/N比を有することもまた重要です。そのため、いくつかの革新的な設計ソリューションが採り入れられました。鋭い "s" や "t" といった歯擦音は、マイクをボーカリスト近くに設置する際の1つのマイナス面ですが、これに関連する 6 kHz あたりの周波数帯も設計によって弱められています。

U67 は1960年にリリースされ、大ヒットとなりました。素晴らしい成功を収めた米国のディストリビューターは、マイクの写真と「Ask anyone(みんなに訊いてみてください)」というフレーズだけで構成された、ロゴすらもない大胆な広告を作ったのです!テーパーボディと楔型のグリルを備えたこのマイクの象徴的なルックスは瞬く間に認知されたため、マーケティング担当者はこれほどまで自信を持ったメッセージングが行えました。

バリエーション

Neumann はまた、ドイツの放送市場向けに M269 というモデルをリリースしました。基本的にこれは EF86 管の代わりに AC701k 管を採用した U67 です。U67 はマイクの本体に選択可能な3つのパターンを備えていますが、M269 は電源にマルチパターンの選択スイッチがあり、興味深いことにマイク本体にも(電源側のそれとは異なる)専用のカーディオイドモードを提供するスイッチが備わっていたのです。

1990年代初頭には、1960年代の U67 のパーツのデッドストックが倉庫で発見されました。 Neumann は、これらのパーツから数百本のマイクロフォンを組み立て、U67 SLO Edition という超限定製品として販売することにしました。

しかし、ビンテージに関わらず、U67 のサウンドはユニットごとにかなり異なります。後述の「測定と比較」セクションを参照してください。これらの違いは主に製造公差とエイジングによるものですが、様々な工場のパーツや小規模な設計変更も関係しています。

2018年のリイシューモデル

2018年、Neumann は U67 のリイシューモデルを発表しました。これはビンテージと同一であると提示されましたが、識別可能な設計の違いがわずかにあります。注目すべきはカプセルで、ビンテージの U67 とは異なるテンションが、違ったサウンドキャラクターを生み出しています。


Sphere の 67 マイクモデル

Sphere システムには現在4種類の 67 マイクモデルがあり、Sphere L22 を購入すれば、LD-67(ビンテージ)と LD-67 NOS(1990年代の New Old Stock)が標準で付属します。別売の UAD Bill Putnam Microphone Collection には別の 67 が、そして同じく別売の UAD Ocean Way Microphone Collection には OW-269 が含まれます。

それぞれに、個性があります。いずれのモデルが最適かは、アプリケーションと個人の趣向によって決まります。私は最近、Sphere オーナーのみなさんがどのモデルを一番好んでいるかを知りたく思い、Facebook の Users&Fans グループ で簡単なアンケートを行いました:

勝者は明らかなように思えるかもしれませんが、コメントを見ると、それが少し複雑であることが分かります:

「LD-67 NOS は、オーバーヘッドに最高です。トップは完璧で、シズルを加えることなくシンバルを引き出してくれます。BP-67 はボーカルにおいて格別だと思いますね。」 - Matt Hepworth

「BP-67...ドラムのオーバーヘッドと男性テナーヴォーカルに。しかし、私はこれら全てが好きなんですよ。ただ、BP についてはなんだかとてもシルキーで、ずっと以前にメルボルンのスタジオで使用したマイクを思い出させてくれるんです。」 - David Pendragon

Sphere プラグインを試してみませんか?以下のリンク先ページには、ネイティブ版のインストーラーと Sphere L22 マイクを使って収録された主要DAWごとのセッションデータも用意されています。


測定と比較

カーディオイド

オタクの時間です!ラボでの測定で、67 のバリエーションの違いがいかなるものか、比較検証の様を見てみましょう。これは、カーディオイド、オンアクシスでの3本の 67 と 269 の周波数特性を比較した表です。

ご覧の通り、これらは全て異なっていますが、似たようなフレーバーを持っています。LD-67 用としてモデリングされた 67 は、6 kHz あたりからの強いロールオフが特徴的です。例えば、歯擦音の強いボーカリストや、ややエッジの効き過ぎたエレキギターには最適な選択肢となるでしょう。他の2つの 67 は、4〜5 kHz 付近に最高部があり、そこからシビラントフリーケンシー(歯擦音域)あたりが絶妙に落ちています。これら2つの比較では、Putnam collection 用にモデリングされた 67 の方がローエンドが強い傾向にあります。最後に、M269 は他の 67 をブレンドしたような感じですが、この中で最も強い低域特性を持っています。

カーディオイドモードに設定した4つのマイクのサウンドサンプルをお聴きください:

オムニ

次に、オムニパターンに設定した時のオンアクシスの特性を比較する表を示します。

オムニモードに設定した4つのマイクのサウンドサンプルをお聴きください:

フィギュア8

この周波数特性は、もしかすると 67 がフィギュア8モードで通常使用されない理由を説明しているのかもしれません。

マイクロフォンのオンアクシスの周波数特性は、そのサウンドキャラクターにおいて重要な要素ではありますが、ほんの一部分に過ぎません。全360度にわたる特性を見始めると、違いはさらに大きくなります。これは、全てのマイクロフォンに音がやってくる方向に応じた周波数特性が備わっているためです。こちらの記事 でその現象の詳細について知ることができます。

本記事に記載の全てのブランドと製品名はその権利帰属者の商標であり、Townsend Labs とは一切の協賛または協力関係にありません。

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