プロデューサープリセットを解剖 - VOXBOX

Universal Audio「プリセット解剖(Presets Unpacked)」シリーズ記事へようこそ。ここではUADプラグインのプリセットとそのデザイナーに焦点を当てます。どのようにプリセットが作成されたのか、その効用はいかなるものか、またプロフェッショナル達が日々のワークフローの中でプリセットを使用する際の秘訣についてご紹介します。

今回は Chuck Zwicky のプリセットに迫ります。Zwicky はプラチナヒットのプロデューサー、エンジニア、マスタリングの第一人者として、Prince、Soul Asylum、Nine Inch Nails 等に携わったマンハッタンのオーディオ・グルであり、多数のUADプラグインのプリセット作成にも貢献しています - MXR Flanger/DoublerLexicon 224 Digital ReverbPure Plate Reverb、そして今回着目する Manley VOXBOX Channel Strip も Zwicky が初期段階より重要な仕事を果たしてくれました。

プラグイン:UAD Manley VOXBOX Channel Strip

プリセット:"Warm Male Vox"

作成者:Chuck Zwick

Manley VOXBOX はボーカル処理のために設計された、チューブベースのプリアンプ、ダイナミクス、EQ回路を備えたプロセッサーです。

- ご自身のセッションでプリセットを使用していますか?その場合、どのように使用しているのでしょう?

プリセット、それは誰かにギターリックを見せるようなものだと言えます。ちょっとした演習のようなもので、おそらくそのまま使ってもあなたの曲には合わないでしょうね。というわけで、私のプリセットはひとつの出発点だと考えて下さい。単に私のプリセットを呼び出すだけで済むとは思えませんので。

私の人生において、これまでプリセットを使ったことは一度もありません。シンセでも、マルチエフェクターでも、ハードウェアのリバーブでも、です。もちろん、ボーカル用として好きなエフェクトチェーンを用意してはいますが、そこにプリセット的なものはありません。プリセットを使ったとしても、最終的には素材や曲に合わせて調整する必要があるからです。

私の "Warm Male Vocal" のようなプリセットがあるとしましょう。それは Michael Jackson の歌声に良いのでしょうか、あるいは Barry White でしょうか?あきらかに、誰もが異なる音域や声色を持っています。ですからいくつかプリセットを試し、うまくマッチするものを見つけられれば、それがどう作用しているのかを学んでいきましょう。そして必要に応じ調整をしていきましょう。

エキスパートになるには反復しかありません。– Chuck Zwicky

- それは理解できるのですが、多くの人は「エキスパートに委ねたい」という思いもあって、何も無い状態で始めるよりも出発点としてあなたの設定に頼りたいのです。  

たしかに。しかし、求める結果について自分自身でビジョンを持って設定を調整していくのではなく、好みに合うものを探し延々とスクロールを続けてしまうというプリセットの潜在的な危険性については意識しておくべきでしょう。

エキスパートになるには反復しかありません。アウトボードコンソールでの作業にプリセットはありません。表現に何かが足りていないと感じたら、その改善のためどのEQノブを捻らなければいけないのか、すべてが本能的、直感的です。

もし、私の作った Manley VOXBOX のプリセットを扱うのなら、ご自身に問いかけてください -「どうして彼はこのノブをここに設定したのか?」とね。これがプリセットの本当の恩恵です。すごく勉強になると思いますよ。

- Manley VOXBOX Channel Strip の "Warm Male Vox" プリセットのゴールはどのようなものでしたか?

ちょっぴりあたたかさと歪みをプッシュしてくれるようなプリセットが欲しかった。入力レベルが低めで、チューブプリアンプのゲインが+60dBのフルアップ状態になっているのを確認できるでしょう。

Chuck Zwicky による、微かなあたたかさと歪みを持った質感を得るための低入力/ハイゲイン設定

Manley VOXBOX の回路裏で何が起こっているのかを説明しましょう。ゲインスイッチはアンプまわりのネガティブフィードバック量を変化させることで、回路のゲインを調整します。これが「フィードバックコントロール」と呼ばれる所以です。アンプに適用されるネガティブフィードバックが増えるほど、歪みが抑えられます。

例えば20dBのネガティブフィードバックを加えるのであれば、ゲインを60dBから40dBくらいまで下げます。サウンドはよりリニアなものとなり、アンプがクリップするポイントに至るまで非常にクリーンなものとなるでしょう。

しかしネガティブフィードバックを減らせば次第に低次高調波、第2高調波、第3高調波が信号に現れます。言うまでもなく、ネガティブフィードバックが20dB以下であればゲインは20dBアップしますので、入力をアッテネートさせて少しあたたかかみのあるサウンドを得ることができます。よりクリーンなサウンドが欲しい場合はゲインを下げ、入力レベルを上げることでネガティブフィードバックを増やしましょう。

私が "Warm Male Vox" で行ったゲインステージの設定はある程度の低次歪み量に対して最適化されており、入力を過剰に突っ込めばすぐにクリップする状態になります。また、出力ノブが-6dBに調整されている点にも気付かれるかと思いますが、出力を少し下げている理由は、この音色を得るために上げたアンプのゲインを補正するためです。 

Warm Male Vox プリセットでは、微かなあたたかさと歪みを得ることを狙いました。- Chuck Zwicky

- ゲインストラクチャーを活用したバランス取りが基本ということでしょうか?

歪みのスイートスポットを探すのに適しているのです。入力を少し上げただけで、ヘビーな歪みが加わっていくのを聴くことができるでしょう。この付近にスイートスポットがあります。ここから適度なあたたかかさを引き起こす歪みになるよう入力を調整していきます。

この点でバイパスボタンはあなたの親友とも言うべき存在です。原音とエフェクトを通した音とのA/Bテストを通して、その違いを正確に確認する際に便利です。躊躇わず使って下さい。

- "Warm Male Vox" プリセットではコンプレッサーセクションのアタックとリリースが最速に設定されています。なぜでしょう?

Manley VOXBOX は、ゲインリダクション素子としてフォトカプラ(LEDの光に反応する固定抵抗)が用いられているため、コンプレッサーの速度の調整範囲が限られているのです。

VOXBOX の速いアタックとリリース設定が、Zwicky の言う「自然な」コンプレッションを実現する。

自然なダイナミクスを得るにはこの設定しかありません。LA-2A や LA-3A といった同じような技術を用いた多くのコンプレッサーはLEDではなくエレクトロルミネセンス(EL)パネルによって駆動するのですが、相当に遅く、私はそれ以上遅いコンプレッサーを好みません。

よって、最速の設定であってもゲインリダクションの要素としては自然な状態です。私にとってはこれが Manley VOXBOX のコンプレッサーで最も自然な音がする設定なのです。

- De-Esserが3Kに設定されていますが、同時にEQセクションで3Kをブーストしています。なぜでしょう?

ああ、EQセクションで3Kをちょっと上げているのはその帯域を上げた方が自然に聴こえますし、ボーカルがソフトな場合等にEQのトップバンドがより生きてくるようになります。ディエッサーを同じ帯域に設定したのは、音量が増した際に歯擦音で頭を悩ましたくないからです。基本的にディエッサーは必要に応じて特定の周波数を引っ掛けるためのリミッターですからね。

Zwicky によるEQとディエッサーの設定。濁りをカットしてふくよかさを整え、明瞭さを高めている。

また興味深いことに、70Hz周辺の非常に低い帯域をいくらか持ち上げ、200Hz近辺をへこましています。これによって濁ることなく少しばかり厚みを与えることができるので、男性の話し声、あるいは低域に特徴がある男声等に効果的と言えます。ロック歌手がオクターブ上を歌っているようなケースではあまり有効ではないかもしれませんが、例えばラジオアナウンサーの場合、このレンジでより多く発声を行うことでしょう。さらに200Hz近辺をカットし、スッキリさせたくなるかもしれませんね。ローエンドの特性を整える観点で言えば、プリアンプセクションのローエンドのロールオフを120Hzではなく80Hzにすることで、サブソニックの混入を防ぐことができます。

- James Rotondi


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