Waldorf モジュラーシンセの魅力 Vol.2 : 百々政幸

Waldorf モジュラーシンセの魅力をお伝えする連載インタビュー。第2回は故冨田勲氏の「イーハトーヴ交響曲」や「Dr.コッペリウス」などでのオペレーターとして有名な百々政幸氏にご登場いただきます。様々なシンセサイザーと40年以上に渡って関わられてきた氏ならではのモジュラーシンセへの想いやシンセ観についてお伺いしました。

音の構造を知ることは全ての音作りに繋がってくるので、とても重要なことだと思います。

- Waldorf のユーロラック製品を試奏された印象はいかがでしたか?

MIDIもCVもUSBも全て装備しており、単体のモジュールでなくても kb37 にマウントした状態で各コントロール系が独立して使用できるなど、1台で複数のパッチングが行えるというところに面白さを感じました。デジタルシンセが登場した頃(1990年代初期頃)だとデジタルシンセのCV入力を使ってアナログシンセのようなモジュレーションをかけるのは非常に難しかったのですが、この製品ではそれが普通にパッチングで行える点が良いですね。音色キャラクターは同社の名機 MicroWave のような質感があるので、まさにデジタルとアナログ双方の良い部分を合わせ持った今時のモジュラーシンセに仕上がっていると思います。

また、自分の演奏活動に関係していることもありますが、過激な音がイイ感じに出せるのでEDM系サウンドには文句なしで最適だと思います。オケ中に入れてもしっかりとした存在感があり、音を際立たせるためにあれこれしなくても良い点が気に入りました。

その他には内蔵波形の倍音構成の面白さを活かした環境音的なサウンドや、オシレーターの音の太さを活かして従来のシンセ的な波形を使ったシンセリードやベースにも向いていると思います。一風変わったところで nw1 にはコンピューター用エディターがありますので、それを使用した波形の入れ替えによる音色作成や、"Text To Speech" 機能を使っての言葉の発声なども簡単に行えるなど、モジュラーシンセらしくないことができる点も魅力的です。

- 個々のモジュールで気に入った部分などはありましたか?

ハイパスフィルターにレゾナンスがかけられる vcf1 がとても気に入りました。フィルターモジュールも数多ありますが、ハイパスフィルターにレゾナンスがかけられるモデルは非常に少ないのです。人の声的な音色を作成する際、声のフォルマントをシミュレートするにはハイパスフィルターにレゾナンスをかけたサウンドが一番似ているので、このモジュールは非常に重宝します。フィルターカットオフのキレが非常に良く、個人的に好きなサウンドでした。

ちなみに vcf1 の内蔵のドライブには強烈な個性があり、この製品のサウンドの全てを決めているといっても良いでしょう。あと dvca1 のアウトプットを同時に使用するとステレオ出力できる仕様も面白いと思いました。

- ご試奏頂いた時には実際どのように使用されたのでしょうか?

まずは製品を知ることが重要ですので、セオリー通りマニュアルに沿って一通りの機能をチェックすることから始めました。

具体的には最初に nw1 のプリセット波形を鳴らしてみることから始め、エンベロープの設定を色々変えてみたり、フィルターのクセを調べたり・・・という順番です。プリセット波形は金属的なサウンドが豊富に揃っていて非常に面白味があり、この波形だけで音のキャラクターが変えられるのが良いですね。これがこの製品の最大の特徴だと思います。

エンベロープはカーブに独特のクセがあり、その変化がとても印象的でした。個人的な感想ですが、エンベロープはステップ数がもう少し多いとさらに面白味が増すのではないでしょうか。

一通り試した後には自由にパッチングを行って、音色を実際に作成してみたり、パフォーマンス的な使い方を試してみたりしました。本製品の仕様でも十分面白いことはできるのですが、欲を言えばジャンクションボックス的な機能が各所に装備されていたら、さらに使い方の幅が広がるのではないかと思いました。

また、モジュラーシンセならではの拡張性的な部分を試す上で、普段使っている自分の SYSTEM-100M のモジュールとの組み合せも色々と試しました。例えば、SYSTEM-100M のオシレータ出力を nw1 に入力し、本体だけでは設定不可能な電圧入力によって nw1 のサウンドをさらに金属的でヒステリックなサウンドにしてみたり、SYSTEM-100M のエンベロープだけを組み合せて複雑な時間的変化を作り出してみたりしました。

このようにモジュラーシンセでは足りない要素を他社製モジュールを使用して補うことで音作りの幅を格段に広げることができます。モジュラーシンセならではの醍醐味はまさにこれだと思います。

- モジュラーシンセでの音色作りのコツは何かありますか?

私の場合はどちらかというと音作りを行う際、偶然性を優先して作ることは少なく、頭の中でイメージした音をシンセサイザーでどのように再現するかを考え、そのイメージに合うように作っていきます。その際にポイントとなるのは、エンベロープによる時間的変化の設定と、エンベロープをどのようにルーティングさせるかという点です。

また、私はアナログシンセ全盛のプリセット無し世代ということもあり、何もないところから作る方が慣れていますので、音色作りを始める時は必ず各パラメーターのツマミをデフォルト位置に戻してから進めます。そうすることで音色の初期状態が正確に把握でき、目的の音色にするにはどこを変化させれば良いかがわかりやすくなるからです。特にモジュラーシンセの場合はパッチングもありますので、信号の流れを整理する上でもこれは非常に有効です。

- 百々さんが実際の活動の中で本製品を使用されるとしたら、どのようなケースで使用されますか?

モジュラーシンセという性質上、レコーディングにおいても細部までパラメータの調整を十分に行えますので、色々な要素を持った音色のバリエーションが作れます。そういった点でモジュラーシンセはレコーディングでも面白い使い方はできますが、リアルタイムでパラメータが操作できることと、それによって変化するサウンドが非常に魅力的だと思います。というわけで、実際に自分が使うとしたら、製品の長所であるリアルタイム性を十二分に活かしてライブで使いたいと思います。きっとパフォーマンスとしても非常に面白いものになるのではないでしょうか。

聴いて気になった音には疑問と興味を持ってほしいと思います。

- 最近ではどのような活動をされていますか?

活動内容は多岐に渡っていますが、仕事としては作曲、録音制作サポート、バックステージサポートなどを行っています。

あとは趣味的に所属している5つのバンドの活動です。バンドにおいては、各バンドに合わせてシンセサイザーやシーケンサーなどのオペレートを担当しています。

- 各活動における機材選びや音色作りはどうされていますか?

自分の活動においては、アナログシンセを始めとする昔の機材を中心に使用しています。それと、元々FM音源が個人的に好きだということもありますが、最近はFM音源を使う頻度が増えてきています。その理由は今日のMIDIコントローラが機能と性能が共に充実してきたので、ライブの現場でも DX7 や FB-01 などをリアルタイムでコントロールしやすくなったからです。

仕事においては基本的に頭の中にある音が出せるシンセを適宜選んで使っていますので、SYSTEM-100M のようなモジュラーシンセも、比較的新しいシンセ音源も区別なくどちらも使います。目的とする音色作りに適したシンセであれば使う主義ですので、ソフトでもハードでも生音のサンプリングでも分け隔てなく、作りたい音によって「どれを使うかな?」という感じで選んでいます。私は中学生頃から機材を集め始めて一つも手放していないので、探せばいくらでも出てきますからそれができるのです(笑)。

付け加えさせて頂くと、鳴っているものは全てシンセサイズに利用できると思っていますので、エフェクターやミキサーなどもモジュラーシンセのパッチングにおけるルーティングの中で使うこともあります。

これは自分の中で楽器自体への興味から、「機材をどのように使うか」、「何をどのようにつなげるか」という点に興味の対象が変化しているのだと思っています。

- モジュラーシンセサイザーとは百々さんにとってどのようなものでしょうか?

ハードウェアのシンセサイザーは機能がある程度限定されているにも関わらず、今日ではその機能の全てを知り尽くさなくてもプリセットされた音色で十分イイ音を出すことができます。

しかしながら、自分が欲しい音色はプリセットだけで得ることができないのも事実です。

欲しい音色を得るためには、「何ができて、何ができないか」がわかるまでそのシンセを使い倒し、そのシンセで不可能なことをどう解決していくか(=欲しい音色を得るか)が重要だと思います。自分にとってモジュラーシンセサイザーは、そのできないことを解決するためのツールとしての役割を強く感じています。

- 最後にシンセシストを目指す方々に向けてメッセージをお願いします。

昔はアルバム1枚の中に少なくとも1つは「この音はどうやって作っているのだろう?」と感じる音色がありましたが、最近ではそういった印象に残る音が少なくなっているように思います。

もちろん、それだけのインパクトを持つ音色を作り出すためには、日頃からの音への向き合い方が重要になるでしょう。

音楽を聴いたらそれで終わりにするのではなく、「この音はどうやって作っているのだろう?」と興味を持つことから始めて、更には音楽に限らず身の回りで鳴っている音にも興味を持ち、「音の構造」を探求すると良いでしょう。

これはリアルな楽器のシミュレートを行う場合に大変有効であると同時に、音色を解析することで別の音色を作る際に応用することもできます。まずは「音マニア」になって、色々な音に興味を持って探求してください。

インタビュー:内藤朗

百々政幸

シンセ漬け人生約40年。幼少期より電子楽器に親しみ、80年代後期よりシンセサイザープログラマー/電子音楽士としてアンダーグラウンド、オーバーグラウンドの境無く数々のプロジェクトにて活動。

近年は、ことぶき電気部隊にて冨田勲×初音ミク作品はじめ数々のR3システムを使用したプロジェクトや、藤井麻輝氏率いる minus(-) のミニアルバムにも参加。

電子音ユニット COHERENCE
テクノポップユニット VIDEOrODEO
爆音トランスユニット Loco-Apes メンバー
その他、即興ユニット HUB、ヤマジカズヒデ率いる pharmacy に所属。

他の経歴はこちらより参照下さい。

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