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Universal Audio : プロのリバーブ活用術

RAC、Eric "ET" Thorngren、Kevin Killen、Tucker Martine が、リバーブによるテクスチャーの作り方、そしてよくある問題への回避策について語ります。

「リバーブは、キミの親友とも言うべき存在になり得るだろう...もしかすると、いじめっ子みたいに感じることもあるかもしれないけどね。」と、著名プロデューサー/エンジニア/ミキサーである Kevin Killen は笑います。「ちょっぴりうまく付き合える時もあれば、そうでないこともある。」大半の方は同じような経験があるでしょう。私たちは皆、楽器やトラックに魔法をかけるリバーブが大好きですが、適切なバランスについて悩んでしまうこともよくあります。

そこで今回はポップミュージック界から4人のトップミキサーを招き、リバーブの素晴らしさや変遷について話し合います。それぞれのアーティストがリバーブに関する独自の見解を持ち、そしてお気に入りのUAリバーブプラグインについて語ってくれました。お互いの話が微妙に「エコー」することに驚いてはいけません。良いアイディアというものは反響するものですから。

パネリスト

André Allen Anjos

"RAC" こと Anjos は、Lana Del Rey、Yeah Yeah Yeahs、Bob Marley、Phoenix、U2、Kings of Leon をはじめ、多くのアーティストのオフィシャルリミックスを手掛けています。200曲以上のリミックスをこなし、中でも Odesza ft. Zyra "Say My Name (RAC Mix)" は、2016年のグラミー最優秀リミックス・レコーディング賞にノミネートされました。

Eric "ET" Thorngren

80年代初期の伝説的な Sugar Hill の作品から Eurythmics、Public Image Ltd 等に至るまで、Thorngren のクレジットは数知れず。おそらく、Talking Heads の Stop Making Sense での仕事が広く知られているでしょう。また、ベストセラーのレゲエアルバム、Bob Marley & the Wailers の Legend におけるミックスも Thorngren の華麗な経歴のひとつとなっています。

Kevin Killen

グラミーを5度獲得したエンジニア。シングル "Sledgehammer"、"Don’t Give Up"、"Big Time"、"Red Rain" をフィーチャーする Peter Gabriel の1986年のアルバム So のミックスとレコーディングを担当。最近では、Sugarland のマルチプラチナアルバム Love on the Inside のミックス、そして David Bowie のアルバム Blackstar の収録を行いました。

Tucker Martine

プロデューサーとして、My Morning Jacket、Modest Mouse、The Decemberists をはじめとする多くの作品に携わる。また、Beth Orton、Neko Case、Mudhoney、Bill Frisell、Sufjan Stevens の制作も手掛けています。

1.リバーブの面白く効果的な使い方を示す一例として、どんな作品が参考になりますか?

Killen:Blue Nile の初期のレコード、例えば1984年の A Walk Across the Rooftops や、Talk Talk の1988年の Spirit of Eden で聴ける手法が本当に好きだった。また、オープンで大胆なリバーブとディレイで彩られた Harold Budd / Brian Eno with Daniel Lanois のアンビエントアルバム The Pearl も非常に魅力的でしたね。

Anjos:個人的に、リバーブと時間ベースのエフェクトの使用と言えば、Brian Eno と Daniel Lanois がプロデュースした U2 の The Joshua Tree の中の "Where the Streets Have No Name" のような曲が本当に傑出していると思います。最近の作品なら、M83 の Before the Dawn Heals Us で同じようなリバーブのアイデアを感じ取ることができますね。

他の観点から言えば、Phil Collins の No Jacket Required もオススメです。非常にタイトなリバーブを使い、全く次元の違うポップサウンドを創り出しています。あと、Paul Simon の Graceland で私好みのリバーブ使いがなされています。

Martine:私にとって最初に思い浮かぶのは、Lee Hazlewood と Nancy Sinatra のトラック "Some Velvet Morning" ですね。まるで異次元からメッセージを送っているように感じましたよ。彼の声にどんなリバーブが掛かっていたのかについて研究しましたが、それを言葉で表現するのは至極難しい。ある人はそれを古いオイルタンクを通したんだと言っていましたが・・・UAのみんな、それを見つけてプラグインにしてくれないかい?(笑)

Thorngren:リバーブで最初に「やられた」と感じたアルバムは、The Beach Boys の Surfer GirlPet Sounds かな。例えば "In My Room"(Surfer Girl 収録)のギターとドラムに注目してくれれば、何が言いたのかが分かってもらえると思います - そのリバーブの美しさは本当に素晴らしい。ほとんどは現在の East West スタジオ、かつての Bill Putnam(UAの創業者)の Western Recorders スタジオで収録されたものです。このスタジオは3つの素晴らしいリバーブチェンバーを所有しているんですよ。

2. ご自身の仕事の中で、とくに存在感のあるリバーブを堪能できるのはどの作品でしょう?

Anjos:Chelsea Lankes をフィーチャーした "Can not Forget You" という最近の RAC として出したシングルでは、UAD EMT 140 Classic Plate Reverberator プラグインを多用しました。それと同じアイディアを最近手掛けた New Orderの "Restless" のリミックスでも使っています。軽くオーバードライブさせたギターを EMT140 に突っ込むと、子供の頃の懐かしい記憶が蘇ってくるんです - 文字通り時間旅行のようなものですね。

Thorngren:Robert Palmer の "Addicted to Love" でのリバーブは、自分の仕事の中で最も壮大なリバーブ狂想曲だと思います。80年代でしたね。当時のレコードは非常に「ドラマチック」になり始めていました。私が「カトゥーン・ドラム」と呼ぶビッグサウンドです。Tony Thompson のドラムに対していろんな事をしましたね・・・2つのゲートリバーブ、さらにハーモナイズされたゲートリバーブ、ピッチを下げてね。そしてキックにはスラップディレイを掛けました。多くの人がこぞってそのドラムをサンプリングしましたよ!

Martine:My Morning Jacket の最新作、The Waterfall ですかね。Jim と私はリバーブにかなりの時間を費やしましたから。時々、彼のガレージにあった実機の EMT 140 プレートリバーブを使いましたが、私の所有している個体よりも若干調子が良くなかったのために、私のものを使うこともありました。一方、オートメーションが必要な時や、リードボーカルに実機の EMT 140 を使ってコーラスに僅かに違う印象を与えたい時などには UAD の EMT 140 プラグインを多用しましたよ。

もちろん、My Morning Jacket のボーカリスト Jim James のリバーブに対する感覚を損ねることはありません。最近、私はリバーブからの戻りをコンプレッサーに通す実験も楽しんでいますよ。このやり方によって、新しい種の空間を作り出すことができるのです。

Killen:面白いことに The Pearl を聴いてから1~2年後、エンジニアを担当することになった U2 の The Unforgettable Fire で Brian Eno と Daniel Lanois の2人と仕事をすることになったのですが、彼らはこのアルバムでも同じロングリバーブのテクニックを使っていましたよ。それまでの U2 は長めのリバーブをそれほど使わず、いくばくかのディケイの短いリバーブを使っていました。そして素材の多くは自然なアンビエンスを含んだ上で収録されていましたね。Brian と Daniel がリバーブとハーモナイザーの両方を駆使して特定の楽器の背後に空気感を拡張し、ムードを生み出していったことを見て本当に驚きました。あと、Peter Gabriel の So と Shawn Colvin のデビューアルバム Steady On は必聴ものですね。両方ともとても強いリバーブが特徴的ですが、方向性は全く異なります。

3. 収録の際、どのタイミングでリバーブや他の時間ベースのエフェクトを使い出しますか?

Anjos:私は一度に全てをやってしまうことがベストだと固く信じています。ミキシングは作曲の一工程であり、エフェクトは作曲ツールのひとつとして扱われるべきだと考えていますから。

とは言いつつも、やはり楽曲全体に空間を作るためリバーブを使いますよ。たいてい、同じリバーブに様々な要素を入れることができますからね。これが最終ミックスの段階である種「音の接着剤」となって、オーバーダブを繰り返したレコードやコンピューターのみで収録したバンドサウンドにスタジオ収録したような雰囲気を与えてくれるのです。

Killen:曲に存在感を与えるための雰囲気創りには時間を費やします。その源となるリバーブははじめから使いますよ。思えば十分なエフェクターもオートメーションもない24トラックスタジオで仕事を始めた当時、マルチトラックテープへエフェクト込みで録っていくことは必然でした。よって、ミックスはすでにしっかりとキャラクターを含んだサウンドを前に臨めるということになります。私はキャリアを通じてこの手法を続けていて、デジタルオーディオ環境となった現在でもそれは変わっていません。

Thorngren:私は録音素材にクリックやグリッヂ、その他の余計なものが混ざっていないことを確認した後でリバーブやディレイを使いたいですね。録りの際、シンガーから要望があればもちろん応じますが、これはあくまでもモニター用としてであり、この時点で掛け録りをするということはありません。そこで本当に特別なサウンドを捉える必要が生じた場合は別ですけどね。全てのリバーブはAUXリターンにセットアップして調整を行っていくのですが、通常はミキシングに移るまでドライのままですね。

Martine:奥行きや広がりが足りないと感じ、それをマイキングや信号経路の調整等で改善できない場合にリバーブやディレイを使い始めます。たとえそれが最終的なセッティングでなくても、もしリバーブやディレイが必要になると思ったらすぐ用意するようにしています。曲にとって何が必要で、何が不要なのかを知ることにも繋がるしね。

4. よく使うリバーブについて、その理由とともに教えてください。

Killen:EMT 140 プレートリバーブが大好き。EMT とともにキャリアを積んできたと言ってもいいほどです。どう作用するのかについても精通していますよ。3つの異なるレスポンスが得られる UAD EMT 140 Classic Plate Reverberator プラグインは、まさに使えるツールですよね。

また、初のフルデジタルリバーブである AMS RMX16 も Sony DRE-2000 と一緒にずっと使ってきました。RMX16 は非常に個性的なプリセットを内蔵していて、その「ノンリニア」なサウンドはドラムに最適で、私が多用するデフォルトになっているんです。

あと、Lexicon 224XL Digital Reverb も大好きですね。Windmill Lane Studios で働くためにダブリンにやってきた時におおいに活躍してくれました。これまた趣深い質感があり、アイリッシュバンド Clannad と仕事をする際、ボーカルのサウンドやノートのデュレーションを伸ばしたり、一体感や調和が欲しい場面で役立ちました。

Anjos:UAD EMT 140 Classic Plate Reverberator です。本当に何を送っても良い感じになりますよ。ステレオの広がり幅もちょうど良い。あの個性溢れる特徴的な質感がミックスをしっかり「接着」してくれるので重宝しています。

Martine:8割がた UAD EMT 140 Classic Plate Reverberator プラグインか、自分で所有している実機を使っています。プラグインではプレート「C」をまず最初に使います。私にとって魅力的な、この種のブロンズならではのダークさが得られるので。トラック同士をなじませるのにも良いですね。

もし 140 で濃すぎる場合には UAD EMT 250 Classic Electronic Reverb を試してみます。よりブライトでほどよいスペース感、そしてクールなモジュレーションを持っているところがポイントです。最近は Mavis Staples の新譜のミキシングで UAD Ocean Way Studios プラグインをドラムに多用しましたよ。ミキシングで別のルームマイクオプションが欲しくなった時に完璧なツールと言えるでしょうね。また、UAD AKG BX 20 Spring Reverb は、トラックに何か長く金属質で霞みがかった感じのするルーム感が欲しい場合に素晴らしいですよ。

Thorngren:間違いなく EMT 250 ですね。リバーブは長さがとても重要ですが、私の場合は短めに設定するのが好きなんです。UAD EMT 140 も実機同様に素晴らしい働きをしてくれるものですが、ディケイタイムを短くしようとすると若干ブライトな感じになります。一方 EMT 250 は極端に短い設定をしても肉厚で、まるでビューイックのラジエーターのようにホットですよ!

5. お気に入りのUADリバーブプラグインは?お気に入りの設定についても教えてください。

Thorngren:いつも使っているのは UAD EMT 250 と UAD Lexicon 224 Digital Reverb です。これらは私がレコーディングを始めて以来ずっと使い続けてきたハードウェアで、いまだに素晴らしいですね。ミックスの際はいつもこれらを立ち上げています。それぞれが別の役割を果たしてくれますよ。

例えば 224 ではリバーブを短くしていくと「ステレオライザー」として機能し、音像を広げるような印象になります。というわけで、短め、中くらい、長めといった設定をいくつか目的別に用意しています。

EMT 250 では0.8秒の長さと20ミリ秒のプリディレイの設定から始め、ハイエンドのロールオフとローエンドを仕上げます。

Killen:私は UAD EMT 140 と UAD AMS RMX16 です。Peter Gabriel との仕事の際、Yamaha CP-70 にもう少しスペースが欲しい、といった場合に RMX16 もしくはプレートを使いましたよ。

最新のミックスにおける UAD EMT 140 ではプレート「B」を選び、設定として、リバーブタイムを2.5秒、プリディレイを30〜90ミリ秒前後、インプットフィルターを250Hzとしました。あとはソース素材にあわせてリターン側にEQを少し足すか足さないか、という感じです。トップとボトムは少しロールオフします。プレート「B」が好みなんだと分かりました。

Anjos:先ほども言った通り、UAD EMT 140 です。他のお気に入りは、UAD EP-34 Tape Echo プラグインですね。これにはフィードバックコントロールにスイートスポットがあって、そこにハマるとリバーブのような空間感覚を生み出してくれるんですよ。説明するのは難しいですが・・・曲全体にちょうど良い具合にバイブを加えられます。これを重ねるだけで、全てがクールになってくれる感じですよ。

Martine:私が初めて恋に落ちたリバーブ、それは所有している実機の EMT 140 プレートです。皆さんもUADプラグインバージョンで釘付けになったことでしょう。これはボーカルリバーブに求めるものをシンプルに手にすることができます。ボーカルパート以外でも使いますが、シンガーにはまずこれですね。私は通常、プレート「C」から始めます。そのダークな質感が気に入っているのと、歌手のアーティキュレーションの細部が埋もれてしまう可能性が低いためです。

少しプリディレイを加えることで、ソース素材のトランジェントがぼやけないようにすることもよくあります。もし UAD EMT 140 で少し濃過ぎるなと感じた場合、あるいはピッチがあまりに特殊だと感じた場合、いつも次に UAD EMT 250 を試しています。

6. リバーブを使う際にありがちな失敗例とその対処法を教えていただけますか?

Killen:よくある問題として、スタジオでミックスにかけたリバーブ量が外では想像していた感じにならないということでしょうか。ミックスを外に持ち出しスタジオ以外のところで聴いてみたら、リバーブの中に沈み込んでいたり、あるいはその逆だったりする場合があります。これはおそらく実際のリスニング環境でも当てはまることでしょう。

私にとってのリバーブとは、リスナーを音楽の中、そして音楽が伝えようとしているストーリーの文脈の中で生み出される世界へと連れ出してくれるためのツールです。ただ、ストーリーに適したリバーブをいつもうまく見つけ出せるとは限りません。しかし頼りにできる素晴らしいリバーブを見つけられたなら、変わらずそれを使い続けることになるでしょうね。なぜならその持ち味がどのような楽器に最適なのかを知っているわけですから。

Martine:その必要性を理解する前にリバーブに手を出すことに注意しましょう。リバーブは、調和しないトラックやタイミングの甘さの問題を曖昧にしてしまいます。

また、早い段階で楽器やボーカルにリバーブを加える場合、一度それを外して確認を取ることをオススメしますよ。それがトラックをより魅力的に仕上げることに繋がりますから。慣れでかけてしまっているのではないということの再確認ですね。

Thorngren:私の感覚では、デジタルリバーブは実際の部屋の響きやライブプレートとは異なり、特定のもの対して良い働きをするように思えます。ドラムとボーカルを同じデジタルリバーブに送ることは望ましくありません。なぜならプレートやルームリバーブと同じような反応を示さないからです。昔は全てをひとつのライブチェンバーやプレートに送ればそれがある種の接着剤的役割を果たし一体感を得ることができましたが、デジタルリバーブでは同じようにいきません。ですから私は、ドラム用に2~3台、ボーカル用に数台、ギターとピアノ用にはそこそこの数を、さらにはホーン用としても何台かのリバーブを用意していますよ。

Anjos:私が最も耳にする一般的な間違いは、入力信号をフィルタリングしていないことです。ローエンドがブーミーなボーカル信号では、素晴らしいリバーブ効果を得ることはできないでしょう。素材にもよりますが、私はたいてい、500~600Hzより下をバッサリ切ってしまいます。ローエンドから離された、風通しの良いリバーブが好みなんです。

あと見過ごされがちなものは、プリディレイタイムです。プリディレイを正しく、BPMの倍数(ミリ秒単位)に設定することで、ミックスが広がり、ソースとリバーブ間のオーバーラップが軽減され、両方の要素が呼吸できるようなスペースを持てるようになりますよ。

7. アルバム制作の際、リバーブを加えなかった仕事はありますか?

Killen:私はリバーブの大ファンですが、アーティストから「自分のレコードにはリバーブは一切要らないからね」と言われることもあります。もちろん、そのリクエストは無視しますよ(笑)。正確に言えば、ほんの僅かなリバーブを足すようにしています。本当に全てがドライなサウンドは不自然で1次元的なものになりますからね。もし「リバーブなし」で行くのであれば、少なくとも収録の際に周りの自然なアンビエンスを取り入れ、ある程度の奥行き感を得ておくようにしましょう。

Thorngren:ライブ盤の仕事もたくさんしましたが、例えばギターソロの後ろで鳴っているバンドの音等を下げる時にリバーブを追加することもありますよ。時として、レベルをいじるよりも有効な手段となりますね。

Martine:可能な限り少ないリバーブでミックスを試みたこともありましたが、ある時点で「チームリバーブ」に戻ってからは後戻りすることはありませんでした。確かに、トラック、あるいはトラックの一部でリバーブを使わなかったものもありますが、レコード全体でリバーブがないなんてことは稀です。歌声や楽器にリバーブが合わない場合には、少しスラップディレイを使ったりもしますよ。

Anjos:ご存知の通り、私はリバーブなしの曲をリリースしたことはことはありません。たとえそれがごく僅かであっても、リバーブはいつも使っていますよ。

- James Rotondi

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