Waldorf モジュラーシンセの魅力 Vol.1 : 大須賀淳

Waldorf モジュラーシンセの魅力をお伝えする連載インタビュー。今回はドキュメント映画「ナニワのシンセ界」でお馴染みの大須賀淳氏にお会いし、熱い思いを語って頂きました。

モジュラーシンセを使っていく中で、気に入ったモジュールに出会えれば最高ですね。

- 大須賀さんがシンセサイザーを使い始めたきっかけはどのようなことでしょうか? 

元々は小学生の頃ファミリーベーシックを使っていた時にその内蔵音源を使ったのが最初で、それから Roland SC-55 を使い始めました。

本格的なシンセに触れるようになったという意味では、当時よく聴いていた電気グルーヴから少なからず影響を受けました。それで彼らの使っていた TB-303 等に憧れもあり購入した303クローンのシンセがファーストシンセとなります。

ただ本家のようなサウンドには遠く、満足するに至らなかったのですが、その後 TB-303、TR-808、909 をエミュレートできるソフト音源(Propellerhead Rebirth)が登場することとなり、実機に肉薄するサウンドに衝撃を受けました。

そういった感じで90年代の終わりごろからソフトシンセを使い始め、しばらくはそれらを中心に使っていました。ですのでシンセの音作りはハードウェアシンセというよりは、どちらかというとソフトシンセで覚えたと言えます。

しかしながらソフトシンセの場合は優れた音色が多く様々なことができる反面、得られるサウンドのほとんどが予想範囲内だったために、もっと異質な要素を求める欲求が年々高まってきました。それと、時代的にもハードウェアのアナログシンセがじょじょに増えつつあるタイミングと重なったこともあり、思い切ってハードウェアのモジュラーシンセを取り入れて今日に至る、という感じです。  

- 普段使用されている機材はどのようなものを使われていますか? 

Doepfer の9Uラックに6U分の基本セットとステップシーケンサーを組み合せたセットを中心に、dotRed Audio の堅牢なケースに Pittsburgh Modular 等のメーカーのモジュールをマウントしたセットを使っています。

これに加えて Korg MS-20 等の単体でパッチングが行えるアナログシンセと、Moogerfooger のペダルエフェクターをモジュールの一部としてフィルターやオシレータ等の用途で使っています。  

- モジュラーシンセで音色作りを行う際の使用方法や、一番留意されていることはどんなものでしょうか?

音色作りにモジュラーシンセを使用する場合、主に2つのアプローチ方法があります。ソフトシンセを使ってすでにアレンジができた曲の使用音色を差し替えていく方法と、何もない状態から音を作りながら、面白いモノができたらそれを膨らませていく方法です。

前者の場合には元曲のイメージがあるので、そのイメージや質感を残しつつ、ハードウェアシンセならではの荒っぽさを出すことを意識して音色を作っています。この場合はセオリー通りにオシレーター、フィルター、アンプの順番でパラメーターを操作して音色を仕上げていくことが多いですが、先にVCAで減衰音、持続音などの設定をラフに作っておいてフレーズが再現できるようにしておき、フィルターやオシレーターを後から調整していくこともあります。

後者の場合はできる限り約束事は決めずに、ある意味場当たり的な感じで出てくるサウンドをどのように活かしていくかを楽しみつつ、その時々のアイディアを膨らませてサウンドをまとめていきます。

気に入った音色ができた時は、そのままエディットを進めていってしまうと後で再現できないこともあるのでバックアップとしてその都度録音しています。ひとまず録音しておくことで、後で改めてディレクションして良し悪しを見直すこともできるからです。

いずれのアプローチの場合でも、いい音色はハード、ソフトに限らず数多ありますので、モジュラーシンセはそれらとはある意味で相反する部分を意図的に表現できる手段として使います。

サウンド的にデタラメになり過ぎず、かつ、ちょっと聴き手の印象に残りやすい部分を作りたいという観点で、どれ位インパクトあるサウンドに仕上げられるかという部分に留意しています。

用途に合わせてカスタマイズできるキーボードとして使ってみるのもイイですね。

- それでは製品に関して伺いたいと思います。一連の製品を試奏されてみていかがでしたか?

それぞれの製品はいずれもハードウェアシンセの老舗メーカーらしい技術とノウハウが活かされた使い勝手の良さが各所で感じられました。

個々の製品については別途お話したいと思いますが、全体的にはCV/GATEの流れが内部接続されているので、単体の鍵盤楽器として使用する場合にも便利ですし、パッチングを行った場合にはモジュラーシンセとして制限を受けることなく機能しますので、シンセメーカーならではの融通が利く製品だなという印象です。

また、本製品はUSB接続で色々できるのですが、それが光学的に絶縁されている点に好感が持てました。

- コントローラキーボード kb37 はいかがでしたか?

白いボディカラーでインパクトがあり、ステージ映えしそうですね。モジュラーシンセのカラーリングで白色は少ないので印象に残ると思います。

見た目から堅牢性が感じられますので、デリケートなモジュラーシンセのモジュールをまとめたり、持ち運びしたりする際に安心感がありますね。

また電源部も安定性があるように感じました。モジュラーシンセでは多くのモジュールをつないだり、信号を分岐したりで音色を作っていくにつれ、結線も増えて電源供給が不安定になることもありますが、kb37 では本体上にマウントできるモジュールは限定されますので、必要以上に電源回りが不安定になることはないと思います。

実際に使ってみた時、最初にイイなと感じたのは、ヘッドフォンアウトとメインアウトが独立していることです。多くの製品では後々ボリュームをコントロールするためのミキサー等が必要になってきますので、それが最初から装備されている点はとてもありがたいです。

それと、鍵盤部はCV/GATEが出るだけでなく、ベロシティとアフタータッチがCVで出せますし、ピッチベンドやモジュレーションホイールなども装備しているので、コントローラとしても十分に活用できると思いました。

ソフト音源のコントロールを行う場合に強弱以外のパラメーターをベロシティに割り当てることもあるのですが、CVコントロールでベロシティを出したい場合だと他にインターフェイスを用意したり等、いささか面倒なことになります。kb37 はそういったプロセスが本体で行えるので、作業も効率よく進められて非常に便利だと思います。

ちなみに少し話は反れるかもしれませんが、マウントするモジュールは特に限定されないので、用途に合わせてフィルターを入れ替えたり等、使うモジュールをその都度エフェクターボードのような感覚でカスタマイズできるキーボードという活用も考えられますね。

- nw1 はいかがでしたか?

お家芸ともいえるウェーブテーブル音源(※1)を使用したシンセモジュールということで、モジュラーシンセの新しい潮流となるのではないかと思います。アナログとは相反するデジタル音源を多彩なCVでモジュレートできるという点で、大変興味深いですね。

本体のパラメーターである程度の音作りができるので最低限のパッチングでも十分なサウンドが出せますし、加えてモジュレーション入力が3系統もあるので、より複雑なサウンドデザインも可能です。それと、フロントパネルにあるUSB端子でコンピュータと接続し、エディタツールを使ってウェーブテーブルが編集できる点も見逃せないです。

このエディターに含まれている機能の中で個人的に特に面白かったのは、Text To Speech 機能です。

エディター上でテキスト入力した言葉を nw1 に送り込むとしゃべらせることができるのですが、kb37 でレガート演奏するとしゃべり声にピッチ変化が付けることができ、ダフトパンク風のボコーダー的な感じで使えます。この手のサウンドが出したい場合にはオススメの機能だと思います。

 

- モジュレーターモジュール mod1 はいかがでしたか?

mod1 は1つのモジュールで3つのモジュレーションソースが出せるということで、ユーザー目線の使い勝手やニーズに十分配慮された製品だと思います。

しかも、3つとも全部違う種類で使用できるのもユーザーには非常に嬉しいですね。実際に使用してみると、考え方によっては単体のモジュールを6つも7つも並べたのと同様の設定が行えるので、いかに本製品がモジュレーション機能を効率よくまとめているかを実感しました。

また、mod1 はEGが自己発振するのでオシレーター的に機能させることができるという点もユニークです。

モジュラーシンセを使い込んでいくと、モジュレーションソースはあればあるだけ欲しくなりますので非常に魅力的です。

単体としてのEGやLFOは他のメーカーさんでもありますが、それらが分かりやすくまとめられたモジュールで、かつユーザーインターフェイスが十分考えられた使いやすさという点で mod1 はオススメです。

- デュアルVCAモジュール dvca1 はいかがでしたか?

最初に仕様面で気に入ったのは、2基のCVインプットにリニアとエクスポネンシャルの両方があって、それらを同時に調整できる点です。CVを入れた時とオーディオ信号を入れた時の理想的なカーブは違うので、バランスを調整しながら使えるところに使い勝手への配慮を感じることができました。サウンド的にはオーディオインターフェイスからの出力とは異なる質感ですが、荒っぽ過ぎず、S/Nも気にならないハイファイなサウンドだな、という印象でした。

VCAは地味なモジュールですが、一般的によく知られるオーディオの音量変化に使用する以外に、モジュラーシンセにおいては信号の量を変更させるという用途もあります。dvca1 はVCAを2系統持っていると言えますので、前者の例では、最終的なシンセのオーディオ出力をステレオで出力できますし、後者の点では2系統のコントロールで使用できます。この両方の使い方に配慮された設計になっていながらも、分かりやすさと発展的な使い方ができる製品となっています。

信号の量を変更させるという用途にVCAを使うことはあまり知られていないかもしれませんが、例えばオシレーターの音程を揺らしてビブラートをかけたい場合、モジュールによってはモジュレーションの入力量が調整できないものがあります。その場合だと微妙にビブラートをかけたり、徐々にビブラートが強くなったりというようなコントロールができないので、モジュレーションの信号を一度VCAに入れて出力する量を調整した後に送り出す、というような接続を行ってビブラートのかかり方をコントロールするのです。一般的なシンセで例えると、モジュレーションデプスの調整のようなことだとイメージして頂けるとわかりやすいかと思います。

- 最後にコンプレッサーモジュール cmp1 はいかがでしたか?

なぜコンプなのかと思う人も多いかと思いますが、推測するにシンセメーカー Waldorf ならではの考え方からではないでしょうか。確かにセオリー的に考えると最初にエフェクターを入れるのであれば、ディレイとかリバーブなどの空間系エフェクターと考えがちですが、そこであえてコンプが選ばれたというのは、シンセシス自体がどれぐらい広がるかということを考えてのことだと思います。

それを踏まえて、cmp1 はもちろんアナログコンプとして使えるのですが、その他の用途にも色々と使えます。

例えば入ってきた信号のレベルを検知し、CVとして出力してくれるエンベロープフォロワーとしても使えますね。コンプレッサーは入力信号レベルに応じて出力信号の量を抑えるという働きをするので、音声信号の量を変化させるという点ではエンベロープやVCAの動きとある意味同じですから、cmp1 のパラメーターをバラすと色々なモジュールになるし、mod1 と dvca1 を組み合せてもコンプ的な使い方ができそうな気がします。

ユーロラックタイプのエフェクター製品は少ないのですが、エフェクターがビルトインできることで使い勝手が良くなるので、今後もエフェクター製品は出してほしいですね。

ギタリストに対抗できる楽器としてバンドのキーボーディストにオススメです。

- 本製品はどのような用途に向いていると思いますか?

バンドのキーボーディストに最適なモジュラーシンセだと思います。ギタリストに対抗できるサウンドが出せるシンセとしてソロ用などの楽器としてバンドの中で使っても映えるのではないでしょうか。

音楽制作の面でも、これだけあればMIDIキーボード、MIDI/CVインターフェイスとしても機能させられますので、パソコンと組み合せたレコーディング環境で使う際にも便利だと思います。

ちなみに他のユーロラック製品のモジュールと組み合わせて使ってみたところ、特に何の問題もなくモジュラーシンセの一つとして使えましたので、本製品をメインシステムにしてもユーロラックの魅力がそのまま体感できますね。

また、モジュラーシンセはシンセとしての使用方法に限定せず、オーディオの加工にも積極的に使ってみると良いですね。オーディオインターフェイスに余っているオーディオアウトがあれば、そこからの出力をモジュラーシンセに入力してみると、パソコン内のソフトシンセの出力もいつもと違う反応をしてくれるので面白いと思いますよ。

- 本製品の拡張面についてはどうでしょうか?

例えば Expressive E Touché 等 もつなげられますので、パフォーマンス的な面で面白いと思います。

モジュラーシンセでライブを行う場合はどうしてもノブ中心のパフォーマンスになり、演奏に使うコントローラーもリボンやテルミンタイプのものが多く、表現できる要素がちょっと少なく感じます。Touché はコンパクトなサイズですが、多様なコントロールを同時に行えるので、モジュラーシンセでライブを行う場合に最適だと思います。

重複になりますが、本製品はユーロラックのモジュラーシンセの一つとして使用する上での制約はないと思いますので、積極的に他メーカーさんのモジュールや機器等と組み合わせて独自のサウンドデザインを追及してみてはいかがでしょうか。

- これからモジュラーシンセを始める人へのメッセージをお願いします。

今日ではソフトでなんでもできてしまいますが、ハードウェアならではの操作感や面白さは捨てがたいものがあり、その最たるものがモジュラーシンセだと思います。

モジュラーシンセはいわばパーツの組み合せでいかようにも使えるものです。その自由度を楽しみながら、その過程で自分の気に入ったモジュールに出会えると最高だと思います。積極的にトライすることをオススメします。

インタビュー:内藤朗

大須賀淳

1975年生、福島県出身。映像作家、音楽家。スタジオねこやなぎ代表。

企業ビデオ等様々な映像・音楽コンテンツを制作すると同時に、書籍や雑誌での執筆、世界トップクラスのオンライン学習サイト「lynda.com」等での講師、製品デモ等も数多く務める。2014年、日本初のシンセサイザードキュメント映画「ナニワのシンセ界」を監督。近著は「ネット時代の動画活用講座」(玄光社)他。

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